東北の課題「後継ぎ不足による廃業」とは?
東北地方では、黒字でありながら後継ぎが見つからず廃業に追い込まれる企業が増加しています。特に観光業や小規模経営の店舗では、家族経営が多いため後継者不在が経営の存続に直結するケースが目立ちます。
2023年の東北地方における休廃業・解散件数は3654件にのぼり、そのうちの半数が黒字経営にも関わらず、後継者がいないという理由で廃業しました。こうした課題を解決するため、各地で後継者マッチングや地域おこし協力隊を活用した後継ぎ支援の取り組みが進んでいます。
今回は、東北地方の現状とともに、後継ぎ不足を解消するための取り組みや成功事例を紹介します。
黒字でも廃業の危機?ペンション経営者の悩み
八幡平温泉郷は、東北でも人気の観光地ですが、後継ぎ不足によってペンションの数が減少しています。宿泊施設が減少することで、観光客の滞在時間が短縮し、地域経済にも影響を与えています。こうした状況の中、長年黒字経営を続けてきた安井さん夫妻のペンションも、後継ぎ問題に直面しています。
安井さん夫妻のペンションの特徴
- 自慢の料理と手作りの木工細工が観光客に人気
- 長年、安定した黒字経営を維持
- 多くの常連客を抱え、地域の人々にも親しまれている
しかし、昨年12月に妻が脳の難病を発症し、料理を作ることが困難になりました。そのため、宿泊客の受け入れを1日1組に限定せざるを得なくなり、常連客からも「今後どうなるのか」と心配する声が増えています。
直面する課題
- 人手不足により、夫一人での運営が困難
- 後継者が見つからなければ、廃業の可能性が高まる
- 地域全体への影響(観光客の減少、宿泊施設の不足、地域経済の停滞)
黒字経営であっても、後継ぎがいないと事業の継続は困難です。特に家族経営の宿泊施設では、一人でも欠けると経営が難しくなるため、早めの事業承継計画が求められます。
後継者不足を解決する方法
- 第三者承継の推進:親族以外の経営者に引き継ぐ制度を活用
- 地域おこし協力隊の活用:移住者向けにペンション経営の支援制度を設ける
- 段階的な引き継ぎプラン:現経営者が一定期間サポートしながら後継者にノウハウを伝える
- クラウドファンディング:改修費や人件費の確保に向けた資金調達の仕組みを活用
- 地域の協力体制の強化:観光協会や自治体と連携し、後継者確保を支援
後継者が見つからない場合、ペンションは廃業せざるを得なくなりますが、以下のような方法で存続の可能性を探ることもできます。
廃業を回避するための選択肢
- 事業の縮小:宿泊業を続けながらカフェやワークショップを併設し、経営負担を軽減
- 事業の売却:ペンション施設と運営権を観光業に興味のある企業や個人に譲渡
- 法人化して委託運営:宿泊施設運営を専門とする企業に管理を委託し、事業を継続
安井さん夫妻のペンションのように、黒字経営でも後継者がいないと廃業の危機に陥るケースは少なくありません。特に、宿泊施設は地域経済にも密接に関わるため、一つの廃業が観光業全体に影響を与える可能性があります。今後、第三者承継のマッチング強化や地域おこし協力隊の活用が、後継ぎ不足の解決策として注目されます。
後継ぎを第三者に!広がる新しい承継の形
近年では、親族ではなく全くの第三者が企業や店舗を引き継ぐ事例が増加しています。これに伴い、全国各地で後継ぎマッチングイベントが開催され、事業を譲りたいオーナーと引き継ぎたい人を結びつける取り組みが進められています。こうした動きは、後継ぎ不足に悩む地方の事業者にとって重要な解決策となっています。
第三者承継のメリット
- 経営者を探す選択肢が広がる:親族が継がない場合でも、経営を続けられる可能性が高まる。
- 新たなアイデアの導入:異業種の経験を持つ後継者が、新しい発想で事業を発展させることができる。
- 地域の活性化につながる:地方に移住する新規経営者が増え、地域経済の活性化が期待できる。
地域おこし協力隊が後継ぎになる新たな流れ
- 瀬川和三さん(元金融業界の営業担当)が地域おこし協力隊として移住
- ペンション経営に興味があり、安井さんのペンションを引き継ぐことに関心を持つ
- しかし、これまで金融業界しか経験がなく、実際の運営に不安を抱えている
- 安井さん夫妻も瀬川さんを好意的に見ているが、経験のなさが懸念点
ペンション経営は、宿泊施設の管理や接客、食事の提供など多岐にわたる業務を伴うため、事業を継ぐには一定のスキルと経験が求められます。瀬川さんのように、異業種からの転職を希望するケースでは、段階的な引き継ぎや研修制度の導入がカギとなります。
第三者承継を成功させるためのポイント
- オーナーが事業のノウハウをしっかり継承する期間を設ける
- 新しい経営者がスムーズに運営を引き継げるよう、実践的な研修を実施
- 地域のサポートを活用し、資金や経営のアドバイスを受けられる環境を整備
- 顧客や従業員と後継者の間で信頼関係を築くための引き継ぎプログラムを用意
事業承継では、単に経営を引き継ぐだけでなく、技術やノウハウをしっかり継承できるかどうかが成功の鍵となります。新たな経営者が事業を存続・発展させるためには、地域や既存の従業員のサポートが不可欠です。こうした取り組みを通じて、地域の経済を支える中小企業の存続を促進することが期待されています。
回転寿司の後継者は常連客!意外な成功事例
宮城県塩釜市では、後継ぎ不足を解消するユニークな成功事例が生まれました。一般的に、後継者は親族や従業員から選ばれることが多いですが、このケースでは常連客が後継者となり、経営を引き継ぐという新しい形が実現しました。
経営者交代の背景
- 60代の社長が後継者を探していたが、適任者が見つからなかった
- 長年の常連客・立花陽三さんが相談相手に
- 立花さんはもともと経営者で、「楽しそうだから」と後継ぎを決意
- 経営のノウハウを活かし、新しい店舗運営に挑戦
立花さんが導入した経営改革
- 回転寿司の「回らないカウンター席」への変更:通常の回転寿司とは異なるスタイルを導入し、職人が直接提供する形に
- メニューの改良:地元の新鮮な魚を活かしたオリジナルメニューを考案
- 店舗のリブランディング:新たな経営方針のもと、店のコンセプトを明確化
このように、身近な常連客が後継者になるケースは今後の事業承継の新しい可能性として注目されています。特に、店舗の特徴や顧客のニーズをよく理解している常連客が経営を引き継ぐことで、スムーズな運営の継続や、新たな発展が期待できる点が大きなメリットです。
成功のポイント
- 店の雰囲気や経営状況をすでに理解している常連客が後継者となる
- 新しい視点を持ち込むことで、店舗の魅力をさらに向上させる
- 経営者自身が「楽しさ」を感じながら運営に取り組むことができる
後継者不足に悩む飲食業界では、このようなユニークな事業承継の形が今後増えていくかもしれません。従来の方法にとらわれず、幅広い視点で後継者を見つけることが重要になってきています。
宮崎県高原町:地域おこし協力隊×事業承継の成功例
宮崎県高原町では、地域おこし協力隊の制度を活用した後継ぎ支援の取り組みが進んでいます。移住者が安心して事業を引き継げる環境を整え、地域の事業存続を支える仕組みが確立されています。
関島さんのケース:移住×事業承継の新しい形
- 関島さん(千葉県出身)は、雑誌で地元のパン屋の後継ぎ募集を知る
- 町役場に相談すると、地域おこし協力隊の制度を活用できると提案された
- 移住者には住居手当や給与が支給されるため、初期の経済的負担が軽減
- 未経験でも、元の経営者がパン作りや仕入れをサポートし、事業を引き継ぐことが可能に
- ただし、過疎地域でのパン屋経営が難しいと考え、カフェとしてリニューアル
なぜパン屋ではなくカフェを選んだのか?
関島さんは、パン作りのノウハウを学ぶことはできたものの、過疎化が進む地域ではパンの売れ行きが不安定であることを懸念しました。そこで、より地域の人々が集まりやすい場としてカフェに業態変更することを決断。パン屋の設備を活かしながら、地元の特産品を使ったメニューを提供することで、新たな顧客層を獲得しました。
夫婦での事業経営へ
- 夫も仕事を辞めてカフェ経営に参加
- 役割分担をしながら、効率的な店舗運営を実現
- 地域住民との交流を深め、地元の人々に愛されるカフェへ
地域おこし協力隊×事業承継の成功ポイント
- 移住者への経済的支援(住居手当・給与)を活用できる
- 元の経営者から技術や経営ノウハウを学ぶ時間が確保される
- 事業内容を柔軟に変更し、地域ニーズに合わせた経営が可能
- 家族で支え合いながら長期的な経営を視野に入れることができる
この事例は、地域おこし協力隊の制度を活用することで、未経験者でもスムーズに事業承継を進められることを示しています。今後、同様の制度を活用した事業承継が他の地域にも広がることが期待されています。
後継ぎの成功ポイント:「すべてを残そうとしないこと」
宮崎県高原町では、地域の課題を解決しながら事業を引き継ぐ新しい形の事業承継が進められています。その一例が、70年続いた町唯一の本屋をリニューアルして誕生したカフェです。
本屋からカフェへ:新オーナーの挑戦
- 経営を引き継いだのは、障害者支援施設を運営する石崎友貴さん
- 「地域に子どもたちの遊び場が少ない」という課題を解決したいと考えた
- 単なるカフェではなく、地域の交流拠点としての役割も担うことを決意
新たなカフェが生まれるまで
- 長年親しまれてきた本屋が高齢による廃業を決定
- 町の人々にとって重要な場所だったため、存続を望む声が多かった
- そこで、従来の本屋の形にこだわらず「カフェ+文具コーナー+交流スペース」という新しい形に変えることを決断
地域のニーズを活かしたリニューアルの工夫
- 無料の交流スペースを設置し、子どもや住民が気軽に集まれる場を提供
- 本屋の名残として文具コーナーを残し、地元の子どもたちのニーズに対応
- カフェとして運営することで、来店者数を安定させ、持続可能な経営モデルに
「すべてを残そうとしないこと」が後継ぎ成功のカギ
この事業承継が成功した最大のポイントは、「すべてを昔のまま残そうとせず、新しい形に変える」ことでした。事業の歴史や価値を尊重しながらも、時代に合わせた経営の工夫を取り入れることで、より地域に必要とされる形へと進化させました。
後継ぎ成功のポイント
- 時代や地域の変化に合わせて事業の形を柔軟に変える
- 単なる引き継ぎではなく、新たな価値を加えて発展させる
- 事業の歴史を大切にしつつ、利用者のニーズに応じた工夫を施す
この取り組みは、単なる事業承継ではなく、地域の課題解決と事業の存続を両立する新しいモデルとして注目されています。今後、同様の事例が全国各地で増えていくことが期待されます。
地域おこし協力隊の活用で後継ぎ不足を解消
近年、地方の事業承継問題を解決するために、地域おこし協力隊の制度を活用した後継ぎ支援が注目されています。地域おこし協力隊は、地方に移住し、農業や観光業などの地域活性化に貢献するための制度ですが、宮崎県高原町ではこれを「事業承継」に特化した形で導入し、成果を上げています。
高原町が採用した独自の仕組み
- 後継ぎ支援を「直接雇用」ではなく「委託型」とすることで、自由な活動時間を確保
- 移住者が事業を引き継ぎながら、開業準備や技術の継承をスムーズに行える仕組みを整備
- 自治体が主体となって事業承継を支援し、資金面での負担を軽減
地域おこし協力隊×後継ぎのメリット
- 移住者への経済的支援があるため、初期コストの負担が軽減
- 元経営者から技術や経営ノウハウを学びながら事業を引き継げる
- 地域に密着した活動ができ、住民とのつながりを築きやすい
- 事業のリニューアルや新しい業態への転換がしやすい
実際の成功事例:パン屋からカフェへ
宮崎県高原町では、パン屋の事業承継を希望する移住者が地域おこし協力隊の制度を活用し、後継ぎとしての道を歩みました。しかし、過疎地域でのパン屋経営が難しいと判断し、カフェにリニューアルすることで事業を発展させました。
- 町役場の支援により、住居手当や給与が支給され、移住のハードルが下がった
- 未経験でも、元の経営者からパン作りや仕入れを学ぶ機会が提供された
- 地域住民のニーズに応じた新しい形態(カフェ)に転換し、成功を収めた
自治体の積極的な関与が後継ぎ確保を促進
宮崎県高原町の取り組みは、自治体が積極的に事業承継に関与し、後継ぎの確保を支援する新しいモデルとして注目されています。
- 地方移住者に対する支援制度を拡充することで、事業承継希望者の参入を促進
- 「すべてを残そうとしない」柔軟な事業承継が可能に
- 地域の課題解決と経済活性化を同時に実現する仕組み
このように、地域おこし協力隊の制度を後継ぎ支援と結びつけることで、地方の事業承継問題の解決に貢献する成功モデルが誕生しています。今後、他の自治体でも同様の取り組みが広がることが期待されます。
まとめ
「後継ぎなし廃業」は、地域経済に大きな影響を与えますが、第三者承継や地域おこし協力隊を活用することで、新たな後継ぎの形が生まれています。
今後もこうした取り組みが広がることで、後継ぎ不足による廃業を減らし、地域経済を支える新たなモデルが確立されることが期待されます。
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