玄関開けたらトイレ!?急増するシン・狭小住宅の今
2025年4月12日(土)に放送されたNHK総合『所さん!事件ですよ』では、「玄関開けたらトイレ!?シン・狭小住宅事情」と題して、東京を中心に急増する狭小住宅のリアルな現状が紹介されました。家の広さよりも立地や築年数を重視する人たちの姿、さらに不動産価格の高騰で変わりゆく住宅の価値観に迫ります。
都心で急増中!「玄関開けたらトイレ」狭小住宅の実態
番組では、東京・門前仲町にある1人暮らし用のワンルームを訪れたディレクターが案内された物件の様子から紹介されました。玄関を開けたらすぐ目の前にトイレという間取りに驚かされます。トイレの隣にはシャワーと小さな浴槽があり、その奥にあるのがわずか1.8畳の住居スペースです。ベッドを置くだけでいっぱいになってしまいそうな空間ですが、今このような住宅が若者の間で注目を集めています。
都内に1万室以上の狭小アパートを供給してきた不動産会社のモデルルームも登場しました。部屋の広さは7畳ほどで、ロフト付き。リビングスペースを確保するためにロフトを寝室代わりに使い、1階部分は作業机や収納スペースとして有効活用されています。限られた面積の中でも“使える空間”を最大限に活かす工夫が随所に見られ、暮らしのスタイルに合わせた自由な使い方が可能です。
このような物件は、次のような特徴がありました。
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家賃が7万円前後で、都心に近い立地
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駅から徒歩5〜8分と通勤・通学に便利
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築年数が浅く、水回りが比較的きれい
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バストイレ別の設計が多い
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ロフトを活用した空間の工夫がされている
28歳の溝さんは、駅から徒歩5分の6.5畳の部屋に3年前から住んでおり、家賃は6万5000円。部屋には洗濯機を設置せず、コインランドリーを利用する生活を選んでいます。洗濯時間を有効に使うために、夜中に誰もいないコインランドリーで静かに過ごす時間を、自分の落ち着けるひとときとして楽しんでいる様子が紹介されました。
また、41歳の豊島さんは、駅徒歩6分、7.3畳の部屋を自ら徹底的にカスタマイズして暮らしています。家賃は6万3000円。壁面には有孔ボードを使って収納を作り、本棚やデスクをコンパクトに配置。家具の高さや奥行きを工夫することで、狭さを感じさせない空間を実現しています。自分だけの「秘密基地」感覚で楽しむ暮らしがそこにはありました。
こうした狭小住宅は、単に「狭い」だけでなく、自由に空間を使いこなす楽しさや、暮らしに無駄を削ぎ落とす新しい価値観を提供しているといえます。特に、都心で働く若者にとっては、「駅近」「新しさ」「自分らしさ」がそろった選択肢として、狭小住宅が一つのスタイルとして根づきはじめていることが伝わってきました。
不動産価格高騰で変わる住宅の選択肢
今、東京を中心とした都市部では、不動産価格の上昇が続いています。特に新築マンションの価格は一部で1億円を超えるケースもあり、多くの人にとって“夢のマイホーム”がどんどん手の届かない存在になっています。こうした状況の中で、住宅の選び方が大きく変わってきているのが現実です。
番組では、「住宅すごろくの変化」という表現を使って、住まいをめぐる流れが変化していることを伝えていました。従来なら、「賃貸アパート→分譲マンション→一戸建て」という順番が一般的でしたが、今ではマンションを飛ばして戸建てを選ぶ人も増えているのです。これは、戸建ての方が価格を抑えられる場合があるためです。
たとえば、都心部のマンションが1億円を超える一方で、コンパクトな新築戸建ては5000万円前後で購入可能なケースもあります。この差は非常に大きく、特に子育て世帯にとっては現実的な選択肢となっています。
また、狭小住宅の注目は「住むため」だけではありません。不動産投資の面でも大きな関心を集めています。
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狭小アパートは投資対象として人気が高い
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オーナーの9割がサラリーマンや公務員
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自宅は賃貸だが、物件を所有して家賃収入を得ているケースも多い
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築浅・駅近といった条件がそろいやすいため、入居率が高く、空室リスクが少ない
このように、将来の資産形成を考えたうえで狭小住宅に投資する人が増えています。自己居住よりも利回りを重視し、複数の物件を持つことで安定した収入を目指すケースも紹介されました。
一方で、国の住宅政策としては「最低居住面積水準」という基準を定めており、単身世帯では25平米未満の住まいを減らしていこうとする方針があります。しかし実際には、生活費のうち住居費の割合が非常に大きくなっていることから、多くの人が狭小住宅を選ばざるを得ない状況です。
つまり、今の住宅選びは、広さよりも「立地」「築年数」「コストパフォーマンス」を重視した選択へと変化しているのです。住まいに対する価値観そのものが時代とともに変わってきており、狭小住宅の存在はその象徴といえるでしょう。
コンパクト戸建てに注目集まる!マンションとの価格差とは?
番組では、東京・渋谷にあるコンパクト戸建てのショールームを取材していました。ここには15坪前後の敷地に建てられる3階建ての戸建て住宅を検討する子育て世帯が多く訪れていて、今注目を集めている住宅スタイルのひとつです。中でも大きな理由となっているのが新築マンションとの価格差です。
たとえば、品川駅から電車で19分、駅から徒歩8分の立地にある敷地14.5坪の3階建て住宅は、販売価格が4680万円と紹介されました。同じエリアで同程度の広さを持つ新築マンションは平均1億1181万円。その差は約4000万円にもなります。
この価格差は、家選びの現実的な基準に大きな影響を与えており、特に子育て中のファミリー層にとっては無視できない要素となっています。
番組では、夫婦と子ども2人の4人家族が、これまで住んでいた51平米のマンションから、99平米のコンパクト戸建てへと引っ越す様子も紹介されました。広さが約2倍になり、収納スペースも増えることで、生活全体にゆとりが生まれています。引っ越し当日は大型の冷蔵庫や家電をクレーン車で搬入するシーンも映され、都心部の住宅ならではの工夫が必要であることが伝わってきました。
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敷地は15坪前後が主流
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間取りは3階建てで、リビングは2階に配置することが多い
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1階に玄関と水まわり、3階に寝室を設ける構造が一般的
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建物面積は90〜100平米前後が多く、収納も確保されている
さらに、出演していた加藤夏希さんも、自身が暮らしている18坪の2階建て住宅について触れ、都内で自分の家を持つことの良さを紹介していました。冬場の底冷えや、戸建てならではのゴミ出しの大変さといった課題はあるものの、それ以上に落ち着ける住まいを持てたことの安心感があると語られていました。
こうしたコンパクト戸建ては、家の広さよりも「価格」と「立地」のバランスを重視した選択肢であり、特に子育て世帯や共働き夫婦にとっては、非常に現実的で魅力的な住まいとなっています。住宅選びの価値観が多様化する中で、「狭いけれど機能的な家」「無理なくローンを返せる家」を求める動きが、今後さらに加速していきそうです。
急成長する狭小住宅の裏にある土地仕入れの現場
狭小住宅やコンパクト戸建ての需要が高まる一方で、それを支える土地の仕入れ現場では激しい競争が繰り広げられています。番組では、ある住宅メーカーの仕入れ担当者の動きに密着。担当者は毎日、最低でも20件の不動産会社を訪問するという厳しいノルマを課されており、少しの空き地も見逃さず情報を収集しています。
ある日、東京都武蔵野市で見つけたのは12坪の狭小地。一見して狭すぎて活用が難しそうに見える土地でも、仕入れ担当者はすぐに本社へ連絡を入れます。
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本社ではその場で区割り案を作成
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担当スタッフがその日のうちに買取価格を算出
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不動産業者に即日提示して、交渉をスピーディーに進める
このように、土地仕入れは時間との勝負。他社に先を越されないために、情報収集から価格提示までの工程が驚くほど速く、社内の連携も緊密に取られているのが印象的でした。
さらに、仕入れた土地をどう活用するかも重要です。たとえば、12坪の土地に1棟だけ建てるより、2棟・3棟と細かく分けて複数建てたほうが、建築コストや人件費、建具・設備などの仕入れコストを抑えられるというメリットがあります。
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複数棟建てることで全体のコストを抑えやすい
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建材や設備をまとめて発注することで価格が下がる
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同じ設計で複数戸作ることで施工スピードもアップ
この方法は販売価格の引き下げにもつながるため、購入希望者にとっても手が届きやすくなるという利点があります。
しかし、こうした小規模分譲が進むことで、都市の過密化や災害時の避難リスクが高まるという課題も見えてきます。細分化された住宅地では、建物同士の間隔が狭くなり、万が一火災などが起きたときに避難経路が確保しづらいという問題があるのです。
都市として持続可能な住宅環境を築いていくには、土地の効率的な活用と同時に、防災・安全面を考慮した都市計画が必要です。狭小住宅の供給が増える今だからこそ、目先の効率だけでなく、将来を見据えたバランスの取れたまちづくりが求められているといえます。
昭和の風呂なしアパートが再評価?銭湯付き物件に若者が殺到
番組の最後に取り上げられたのは、東京・高円寺にある昭和の風情を残す風呂なしアパートです。見た目こそ古く、一見すると不便に思われがちなこの物件ですが、実際には入居希望者が絶えない人気物件となっていることが紹介されました。
住んでいるのは、26歳の米田さん。IT企業に勤める会社員で、6畳の一室を生活拠点としています。部屋には風呂がないだけでなく、洗濯機置き場もありません。その代わりに、1階には共用の居間や台所、トイレがあり、洗濯機も屋外に設置された共用設備を利用しています。
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家賃は6万3000円と、周辺の風呂なし物件に比べてやや高めの設定
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それでも満室が続いているのは、銭湯付きという付加価値があるから
このアパートでは、都内の銭湯で利用できる入浴券が毎月、日数分配布されます。つまり、風呂がないというデメリットを、毎日好きな銭湯に通えるという楽しみに転換しているのです。都内には個性的な銭湯が多く、日替わりで違う場所に通えることも魅力のひとつです。
さらに、建物には会員制のコミュニティスペースも併設されています。住人たちが自由に過ごせる共用の場があり、ふとしたときに人と会話ができる、そんな程よい距離感のコミュニティが形成されている点も特徴です。
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「近すぎず、でもさみしくない」人との距離感
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プライベートと交流が両立できる環境
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都会の中で孤独を感じにくい住まい
若い世代を中心に、「広くて設備が整っている家」よりも、体験やつながりを重視する暮らしに価値を感じる人が増えていることがうかがえます。
一方で、都市政策の観点から見た課題も提示されました。専門家の野澤千絵さんは、こうした古い建物を安全に使い続けるためには、収益を蓄えながら段階的に耐震性の向上などの改修を行っていく必要があると指摘。建物の魅力や価値を維持しながら、将来の災害リスクに備える姿勢が求められていることも語られました。
このように、かつては「古くて不便」と思われていた風呂なしアパートが、新たな住まいの形として再評価され、若者たちのライフスタイルに寄り添った空間へと変わりつつある様子が印象的でした。
まとめ
都内の住宅事情はこれまでとは大きく変わり、狭さや不便さを受け入れつつ、立地や暮らしやすさを追求する住まい方が広がっています。今回の放送を通して、多様なライフスタイルに対応した住環境のあり方を考えるきっかけとなりました。
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