浅草アンダーグラウンド|地上とは別世界!“日本最古”の地下商店街で見つけた人のぬくもり
2025年4月25日放送の「ドキュメント72時間」は、東京・浅草の“地下の異世界”ともいえる浅草地下商店街が舞台でした。観光地としてにぎわう地上の浅草とは対照的に、この地下街には昭和の空気と不思議な静けさが流れています。69年前に造られたというこの場所にカメラが3日間密着し、そこで働く人や立ち寄る人たちのリアルな日常を記録していました。地上の華やかさとは異なる、静かだけれど温かな地下の世界には、今も変わらず人の営みとつながりが息づいていました。
地上のにぎわいをよそに広がる“もうひとつの浅草”
浅草の地下街は、銀座線の改札とつながっており、50メートルほどの細長い通路に約20軒の店が並んでいます。商店街の入口は目立たず、観光客の多くが気づかないまま通り過ぎてしまいます。しかし階段を下りて一歩足を踏み入れると、まるでタイムスリップしたような光景が広がります。暗めの照明、無機質なコンクリート壁、どこか懐かしさを感じさせる看板やポスター。現代の東京にあって、この地下街だけは時間がゆっくりと流れているように見えました。
撮影初日は4月3日(水)。朝、60年近く営業している焼きそば屋が静かに店を開けていました。アニメ演出家の男性が出勤前に腹ごしらえとして訪れており、日常の一部としてこの場所を使っていることがわかります。
そのすぐ近くには、86歳の占い師の女性が営む店があります。午後2時から6時までのわずか4時間だけ営業し、静かな空間で依頼者を迎えています。さらに、電気と“気”を送るという電気気功の店もあり、若い人たちが興味深そうに施術を受けていました。立ち食いそば店では、浅草で62年間暮らしてきたという男性が、「この地下街には番地がないんだ」と教えてくれました。
また、87歳の印刷店の店主は、昔の地下街の白黒写真を見せてくれました。時代の変化とともに、店の顔ぶれは変わってきましたが、この地下の空間そのものはほとんど姿を変えずに存在し続けているのです。1年半前に開業したタイ料理店の店主は、床に走るひびから水が湧き出すため、1時間に1度は床を掃除していると話していました。こうした地道な作業も、この地下で店を続ける日常の一部なのです。
夜になると、終電前にかけて人がまた静かに集まってきます。ある男性は仕事帰りに理容店に行こうとしたものの定休日で、代わりに焼きそば店へ向かいました。さらに、中古レコード店に集まっていた男性たちは、職場の仲間と立ち食いそばを食べたあと、ふらりと立ち寄ってレコードを眺めていました。深夜0時15分、銀座線の終電が出ると、地下街のすべてのシャッターが一斉に閉じられました。
朝5時、再び始まる地下の一日
4月4日(木)、撮影2日目。朝5時にシャッターが開き、再び地下街が目覚めました。そば屋では仕込みが始まり、6時の開店と同時に人が集まり始めます。夜勤明けのIT関係の男性は、昼夜逆転の生活に悩みを抱えつつ、ここでの食事を日常の一部として過ごしていました。
午前9時半を過ぎると、理容店の前に人が並び始めます。10時をまわる頃、「ミスター借金」とプリントされたTシャツ姿の男性が現れ、自らの焼きそば店を開店。去年オープンしたばかりのこの店は、地下ならではの格安な賃料が出店の決め手となったそうです。過去に大きな借金を背負った経験を、あえてオープンにしていく姿勢は、どこか前向きな印象を与えます。
通路の奥では、ミュージシャンの男性がジャケット写真の撮影をしていました。“パラドックスの世界に住んでいる”という設定で活動している彼にとって、レトロなこの地下街はぴったりのロケーションだったようです。
また、20年前に脱サラして中古DVDなどを販売する男性が、老舗焼きそば店で店主と話し込む姿も見られました。立ち食いそば屋の店員さんは、早朝から立ち続けて働き、閉店後に券売機の売上を丁寧に数えていました。
夜には、62歳の芸人さんが後輩を連れて新しい焼きそば店にやってきました。彼は、かつてドリフターズの志村けんさんの弟子として活動していたという経歴を持っており、その場にたまたま通りがかった別の芸人たちとも合流。自然と会話が弾み、笑い声が響いていました。
地下街に根付く家族の絆と週末のにぎわい
4月5日(金)、撮影3日目。老舗の焼きそば店には、店員の娘さんが春休みで遊びに来ていました。母親は21歳から19年間この店で働いており、夫である駅員さんとはこの地下街で出会ったというエピソードも明かされました。
新しい焼きそば店には、「若いうちの苦労」という名前のユニークなメニューがありました。前日に訪れた芸人さんが注文すると、実際にモップで床掃除を行う内容でした。芸人さんは、「お金を払って働くってすばらしいですね」と、真面目に掃除をこなしながら話していました。
夜になると、金曜日ということもあり、地下街は仕事帰りの人や呑兵衛たちでにぎやかになってきます。ある男性は不動産関連の仕事をしながら、金曜の夜だけ自分の飲食店を地下街で開いているとのことでした。さらに、海外から来た友人と焼き鳥を楽しむ男性もいて、翌日から一緒にスキーに出かけるという予定を立てていました。
桜が咲く土曜、地下にもやわらかな春の光
4月6日(土)、撮影最終日。通常は定休日の老舗焼きそば店が、満開の桜にあわせて特別営業を決めました。外は春のにぎわいに包まれており、その空気が地下街にも届いているようでした。
昭和の香りが残る浅草の地下街は、決して派手な場所ではありません。でもそこには、人と人とのつながり、日々の営み、そして静かに流れる時間が確かに存在していました。地上の変化に追いつこうとしないこの空間こそが、現代においても多くの人の心を惹きつけてやまない理由なのかもしれません。
浅草アンダーグラウンドの3日間には、時代を超えて生き続ける人間の温かさが、静かに刻まれていました。
コメント