ヒスイ探しの海岸で出会う人々の物語
新潟県糸魚川市にある親不知海岸。ここは、美しい日本海を背景にしながら、宝石の原石「ヒスイ」を拾える場所として知られています。2025年5月30日放送のNHK『ドキュメント72時間』では、そんなヒスイ海岸で過ごす人々の姿を、春の一週間にわたって丁寧に記録。石を探すというシンプルな行為に込められた、さまざまな人の想いや人生の背景が描かれました。
ヒスイ海岸とは?自然が生んだ宝探しスポット
新潟県糸魚川市にあるヒスイ海岸は、姫川の河口周辺に広がる美しい玉砂利の海岸で、自然が作り出した「宝探し」が体験できる場所として全国的に知られています。上流にある小滝川ヒスイ峡から流れ出たヒスイの原石が、川の流れに乗って日本海へと流れ込み、長い年月を経て波に揉まれ、丸みを帯びた状態でこの海岸にたどり着きます。そうして運ばれてきたヒスイが、波打ち際に混じる形で浜辺に打ち上げられるのです。
この海岸の最大の魅力は、なんといっても「自分の手で本物の宝石を見つけることができる」という体験です。ただ景色を楽しむだけでなく、実際にしゃがんで石を探しながら歩く中で、宝石と出会う可能性があるというワクワク感が、多くの人々を惹きつけています。子どもからお年寄りまで、誰もが夢中になれるアクティビティとして、何度も足を運ぶ人も少なくありません。
・海岸には大小さまざまな丸石が敷き詰められ、じっくりと目を凝らして探すスタイルが基本
・ヒスイの原石は一見して普通の石と見分けがつきにくく、知識や直感、経験が求められる
・ヒスイは緑色だけでなく、白・黒・青・紫など意外な色合いのものも多く存在する
・天候や前日の波の高さによって石の配置が大きく変わるため、毎回違う風景と出会える
・晴れた日の午前中は太陽光により石がよく見えやすい時間帯で、探しやすいとされている
ヒスイ海岸にやって来る人たちの目的もさまざまで、観光で立ち寄る人や家族連れはもちろんのこと、定期的に訪れて自分の「マイヒスイ」を探すことを趣味にしている人や、昔から石に興味を持っていた人、さらには日常のリフレッシュや心の癒しを求めて訪れる人もいます。ただのレジャーではなく、自然との静かな対話の時間として、深く感動する体験ができる場所なのです。
このように、ヒスイ海岸は「拾えたらラッキー」という偶然性と、「探すこと自体が楽しい」という発見の喜びを両方味わえる、まさに自然がくれた贈り物のような場所です。何度訪れても飽きることなく、毎回違う景色、違う出会いがあることも、多くの人の心をつかんで離さない理由のひとつです。
ヒスイ探しに魅せられた人たちの春の記録
番組では、5月7日から10日までの4日間にわたり、新潟県糸魚川市の親不知海岸でヒスイを探す人々の姿が記録されました。初日の7日、浜辺には朝早くから多くの人が集まり、波打ち際で石を拾っている様子が映し出されました。中には、ヒスイがどれかわからないまま、「見た目がきれいだから」と感じるままに拾い集めている人もいました。石との偶然の出会いを大切にする人たちの素朴な姿が印象的です。
・何年に拾ったかを記録して、自宅に飾っているという男性も登場し、長年の趣味として続ける深さが感じられました
・海岸近くの施設では、拾った石の鑑別やヒスイの販売が行われており、体験と学びが両立した環境が整っています
・波間に腰まで浸かってヒスイを探す男性の姿もあり、自作の道具を持参して海中の石に挑んでいました。価値あるヒスイを本気で探す姿には緊張感がありました
ヒスイの中には、市場でも高値で取引される質の高いものも存在するため、経験者にとっては特別なロマンがあります。遠方の栃木から訪れた男性は、過去に拾ったヒスイをお守りとして持参し、それが新たなヒスイを呼び寄せるというジンクスを信じて探していました。このように、探す人それぞれに“信じる理由”があることが浮き彫りになります。
・職場の同僚3人組は、ヒスイは見つからなかったものの、海岸で過ごすことで仲間との新たな時間を見つけたようすでした
翌8日には、書道家でもある高校の書道教師が再び海岸に現れました。仕事で新潟に来た際にヒスイを拾ったことがきっかけで、この趣味を始めたとのこと。繊細な感性を持つ書道家ならではの、石との静かな向き合い方が伝わってきます。続いて登場したのは、自作のヒスイアクセサリーを披露する女性。彼女は、かつて夫と時計店を営んでいましたが、夫が早くに亡くなり、その悲しみを癒したのがヒスイ探しだったそうです。人生の悲しみと向き合うなかで、石を探すという行為が癒しとなっていく様子が丁寧に映し出されました。
・旅行中の夫婦の姿も登場し、妻の誕生日を祝う旅先として親不知を訪れたとのこと。2人で静かに波打ち際を歩く姿は、特別な記念日を自然の中で過ごす心の豊かさを感じさせました
9日には、前日取材された書道の先生が再び海岸を訪れ、連日通うほどの情熱を見せていました。午後には、地元に戻ってきた若者とその母親の姿がありました。彼はかつて東京でアニメーターとして働いていましたが、過酷な労働で体調を崩し、帰郷。しばらく外に出られない時期を過ごしていましたが、ヒスイ探しを通して再び外に出られるようになったそうです。石を探すという行動が、心を立て直す大切なきっかけになっていることが印象的でした。
・10日には、定年退職したばかりという夫婦に出会いました。10日間の旅の途中で立ち寄ったこの海岸にて、「どこにでもある石の中に宝石がある」ことにロマンを感じていると話していました
・また、ヒスイを集めるのが趣味という女性は、自宅で石を並べてビールを飲むのが楽しみと語り、ヒスイが生活の楽しみの一部になっている様子が伝わってきました
こうして番組を通じて描かれたのは、ヒスイを探すというシンプルな行為の裏にある、人生の物語と心のつながりでした。ヒスイを見つけることだけが目的ではなく、その過程の中で出会い、自分と向き合い、心を癒す時間が、人それぞれのペースで流れていたのです。親不知海岸は、宝探し以上の価値をもたらしてくれる、特別な場所であることを感じさせる4日間の記録でした。
ヒスイ探しの基本と注意点
ヒスイを探すには、ただ色が緑だからといって簡単に見つかるわけではありません。見た目や重さ、光の反射などから判断する必要があります。ヒスイに似ている石も多く、初めての人にとっては難しい作業です。
・ヒスイは緑だけでなく、白、黒、青、紫など複数の色が存在する
・重くて、表面が滑らかであることが特徴のひとつ
・太陽の光にかざすと、透けるような光沢があるものもある
石を拾ったあと、本物かどうかを確かめたい場合は、糸魚川市にある「フォッサマグナミュージアム」で鑑定を受けることができます。学芸員が一つ一つ丁寧に見てくれ、ヒスイかどうかを教えてくれます。
なお、採取にはルールがあります。
・持ち帰りは手のひらサイズ以下の石に限られる
・大きな石を見つけた場合は、ミュージアムへの寄贈が推奨されている
・安全のため、マリンシューズや帽子、水分補給用の飲み物の用意が必要
ルールを守りながら、自然に感謝して楽しむ姿勢が大切です。
石を拾うということ、それぞれの人生が交差する海岸
今回の放送では、ただ石を拾うだけの行為に見えるヒスイ探しが、人それぞれの人生や背景と深くつながっていることが丁寧に描かれていました。ある人にとっては趣味であり、ある人にとっては癒しであり、またある人にとっては再出発のきっかけでもあります。海と空と石に囲まれた親不知海岸には、そんな人々の想いが静かに交差していました。
番組を見逃した方も、ぜひこの親不知海岸を訪れて、自分だけのヒスイと出会ってみてはいかがでしょうか。
※番組内容は2025年5月30日放送時点のものです。再放送や見逃し配信の情報は公式サイトをご確認ください。
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