都会でも続く病院閉鎖…命を守る医療の未来はどうなるのか
「病院がたくさんある都会なら、医療は安心」——そう思っている方も多いかもしれません。しかし、いま都市部で病院の閉鎖や休止が相次いでいるという事実が注目を集めています。2025年6月2日放送の『クローズアップ現代』では、なぜ多くの患者がいる都会の病院が経営難に陥っているのか、その背景と未来への課題を深く掘り下げる予定です。
NHK【病院ラジオ(19)】サンドウィッチマンが見た子どもたちの本音|東京都立小児総合医療センター|2025年4月29日放送
都会に病院があっても安心とは限らない
都会には大きな病院が多く、交通アクセスも良いため、医療が受けやすいというイメージを持つ人は多いです。しかし実際には、病院の閉鎖や診療休止が続出しているという深刻な事態が起きています。そこにはいくつもの現実的な課題が隠れています。
まず、人件費の高騰が経営に大きな影響を与えています。
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都会で働く医師や看護師は、生活コストが高いため高い給料を求めます。
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特に優秀な人材は他の病院との取り合いになり、高額な待遇を用意しなければ確保できません。
加えて、人材の確保そのものが難しいという問題もあります。
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求人を出しても応募が少なく、慢性的な人手不足が起きています。
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夜勤や長時間労働を避けたい若い世代が増えたことで、現場の負担は一層重くなっています。
そして、施設の老朽化も避けられない課題です。
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都会の病院の多くは、すでに数十年経過している建物が多く、水漏れや老朽配管の修理が日常的に発生しています。
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医療機器の買い替えや建物の耐震化にも莫大な費用がかかり、それだけでも経営を圧迫します。
さらに深刻なのは、必要とされる医療ほど利益が出ない仕組みです。
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救急医療や高齢者の長期治療、慢性疾患への対応は、非常に重要であるにも関わらず、診療報酬が低く設定されていることが多いです。
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つまり、地域に必要な医療に力を入れるほど病院が赤字になるという矛盾に直面しているのです。
また、患者数が多い都市部でも、受け入れに限界があるという声もあります。
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救急車の受け入れを断らざるを得ないケースや、入院ベッドが足りずに受診を断る病院もあります。
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これは単にベッド数の問題ではなく、看護師や医師が足りないため安全な診療体制を維持できないからです。
このように、都会という立地であっても、医療を支えるための環境が崩れてきているのが現状です。
必要な医療を届けようとする真面目な病院ほど経営が苦しくなり、閉鎖や診療縮小を余儀なくされる——。そんな逆転現象が、都市部の医療を静かに蝕んでいます。
病院が語る本音「必要な医療を届けたいのに経営がもたない」
都市部の病院で働く医師たちは、患者の命を守りたいという強い思いを持ちながらも、経営の壁に直面している現実に苦しんでいます。番組では、そうした現場の医師たちの声が取り上げられる予定です。
「救急車はなるべく断りたくない」「地域の高齢者を最後まで診てあげたい」——そうした良心からの医療の提供が、結果として赤字を増やしてしまうという矛盾が、現場に重くのしかかっています。
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医療機器の更新には何百万、時には何千万円という費用が必要になります。
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建物の老朽化が進んだ病院では、耐震工事や配管の全面交換なども求められ、その資金を保険診療のみでまかなうのはほぼ不可能です。
さらに、都市部特有のコスト構造も病院を追い詰めています。
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優秀な医師や看護師を雇用するためには、他の医療機関と競り合うように高額な給与が必要になります。
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一方で、診療報酬は全国一律のため、地域の実情に合っておらず、収益を確保しづらいのが実情です。
このように、病院は医療の使命感と経営の現実のはざまで常に揺れ続けています。
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「救える命があるなら助けたい」
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「必要な治療を断りたくない」
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「最後まで診る責任がある」
こうした思いがあっても、「実際にできる医療」は限られ、現場では選択を迫られることもあります。
やりたい医療と、できる医療がどんどん離れていく——その乖離は、都市部でも広がりつつあり、医療の理想と現実のギャップが医師やスタッフを精神的にも追い詰めています。現場が声を上げ始めた今こそ、持続可能な医療のあり方を真剣に見直す時に来ています。
経営だけでは語れない医療の使命
医療はもともと、利益のためではなく人の命と健康を守ることを目的とした社会の基盤です。ですが今、病院の運営には経営の視点が強く求められ、採算が合わないと必要な医療でさえ縮小される状況が広がっています。
たとえば、診療報酬制度は医療機関の収益を左右する重要な仕組みですが、実際には
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重労働で高度な専門性が求められる医療行為でも、報酬が非常に低く設定されていることがあります。
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地域ごとの患者層や医療ニーズに合わせた柔軟な評価がされにくく、病院の努力が数字に結びつかないケースが多いのです。
加えて、人材確保の困難さも医療の質に直結しています。
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医師や看護師が足りず、診療体制を維持できない科が出てくることもあり、患者の受け入れ制限につながることがあります。
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若手医療従事者の離職や長時間労働の見直しが進まない限り、医療の質を安定して保つのは難しくなります。
このように、経営的な条件で医療の提供可否が決まってしまう現状は、本来あるべき姿から離れつつあります。
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住民の命を守るという医療の本質的な使命と、
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収益を確保しなければ維持できないという経営現実の間に、大きなねじれが生じています。
番組では、こうした構造的な問題に対して「医療を守る新しい仕組みをどう作るか」という視点が投げかけられるでしょう。医療が経営論だけで語られるのではなく、地域社会の安心を支える基盤としてどう支えていくか——その問いに私たちも向き合う必要があります。
命を守る医療を未来につなげるために必要なこと
番組では、どうすれば医療を維持できるのかについて、専門家たちが意見を交わす場面も設けられています。
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かかりつけ医の充実や地域医療の分散化により、大病院の負担を軽減する取り組みが必要とされています。
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医療従事者の労働環境の改善や働き方改革も避けて通れません。
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遠隔診療や電子カルテの導入といったデジタル化も、効率化と質の向上につながると期待されています。
さらに、予防医療の推進によって、病気を未然に防ぎ、病院への過度な負担を軽減することも重要です。健康教育や地域での取り組みが、その鍵を握ります。
このように、命を守る医療を未来へつなぐには、病院だけでなく、社会全体の意識改革と支援が不可欠です。私たち一人ひとりも、医療に依存するだけでなく、理解し、支える立場になっていく必要があります。
病院が消える社会をどう食い止めるか。私たち全員が問われている時代です。
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