転倒予防と体力改善
年齢を重ねると「つまずきやすい」「歩くと疲れる」などの悩みが増えてきます。今回のあしたが変わるトリセツショーは、そうした不安を解消してくれる内容でした。テーマは2本立てで、1つ目は転倒を防ぐ「足の握力」を鍛える方法、2つ目はフレイル(加齢による心身の衰え)を改善するエクササイズです。どちらもすぐに実践できて効果が期待できる内容で、「もう年だから」とあきらめずに元気に動ける体を作るヒントが詰まっていました。
足の握力が転倒予防のカギ
番組でまず紹介されたのは、足の握力の重要性についてでした。私たちは普段、手の握力については耳にする機会が多いですが、実は足の指の力、つまり足の握力も健康や日常生活に大きく関わっていることが、最新の研究で明らかになってきています。特に高齢になると転倒のリスクが増えるため、足の握力の強さが「つまずきにくさ」や「安定した歩行」に直結しているのです。
この研究を行ったのは、畿央大学の瓜谷大輔准教授です。准教授によると、転倒を経験したことがある人は、そうでない人に比べて足の握力が約20%低いことが分かっています。具体的には、例えば50代女性の平均値はおよそ8.9キロとされていますが、転倒経験のある人では6キロ台まで落ち込んでしまっていました。数字で示されると、その差がどれほど大きいかがよく分かります。
さらに番組では、実際の歩行実験の様子も紹介されました。でこぼこ道や不安定な地面を歩くとき、人は無意識に足の指を使って地面をしっかり掴み、バランスを取っています。このとき足の握力が強ければ、踏ん張る力が増し、体の安定性が高まることが確認されました。
そして驚くべきことに、足の握力が強い人は、ただ転倒しにくいだけでなく、歩行スピードが平均で約10%アップするというデータも示されました。つまり足の握力は安全のためだけでなく、日常生活をスムーズに送るためにも重要な役割を果たしているのです。買い物や外出、旅行など、毎日の暮らしの中で「疲れにくく歩ける」ことは大きなメリットです。
このように、足の握力は見落とされがちな要素ですが、転倒防止はもちろん、生活の質を高めるために欠かせない存在であることが番組を通して強調されていました。
改訂版トリセツ流足指体操
では、どうすれば足の握力を効果的に鍛えることができるのでしょうか。番組で取り上げられたのが、改訂版トリセツ流足指体操です。この体操は特別な器具を必要とせず、誰でもすぐに取り入れられるのが魅力です。やり方はシンプルで、足指を大きく「グー」「パー」と動かすだけ。これによって、長母趾屈筋や長趾屈筋といった足指を動かす細かな筋肉に直接刺激が加わり、普段あまり使われていない部分をしっかり鍛えることができます。
体操の際には、もし足指がうまく曲がらない場合でも心配はいりません。手で軽く補助をしてあげることで同じ効果が得られると紹介されていました。無理なく続けるためには、寝る前やお風呂の中など、リラックスできるタイミングで行うのがおすすめです。
さらに、慣れてきた段階では、小さなものを足指で掴んで移動させるといったゲーム感覚の工夫も有効です。楽しく続けられることで習慣化しやすくなり、飽きずにトレーニングを続けることができます。また、上級者向けとしては、親指と他の4本の指を交互に動かすという高度な動きも紹介されました。より繊細に足指を使うため、さらなる筋力アップが期待できます。
実際に、この足指体操を会社員8人が1か月間実践したところ、なんと全員の足の握力が向上するという結果が得られました。年齢や体力に関係なく取り入れやすく、効果がきちんと数字で示されたことで、この体操の信頼性と実用性が改めて証明されたといえます。
このように、改訂版トリセツ流足指体操は手軽に始められて確かな効果がある、まさに日常生活に取り入れる価値のある健康法なのです。
フレイルとは何か?
続いて番組で紹介されたのが、フレイルという状態です。フレイルとは、健康と要介護のちょうど中間にあたる段階を指す言葉で、加齢や生活習慣の影響によって心身が少しずつ衰えていく状態を表しています。見た目には元気そうに見えても、筋力や体力、気力が少しずつ落ち始めており、そのまま放置してしまうと深刻な問題につながる可能性があります。
特に注意すべきなのは、フレイルを放っておくと10年後に要介護になる確率が2.7倍に上がるという点です。これは単なる「歳のせい」では済まされない深刻なリスクであり、日常生活の質を大きく左右する重要な分岐点といえます。
しかし、希望がないわけではありません。東京大学の飯島勝矢教授によると、生活習慣の改善や適度な運動を取り入れることで、衰え始めた体を健康な状態に戻すことも十分可能だそうです。つまり、フレイルは避けられない老化現象ではなく、気づいて行動すれば改善できる状態なのです。
番組では「早めに気づいて対策すること」が強調されていました。小さな変化を見逃さず、生活の中に少しずつ運動や工夫を取り入れることで、体と心の元気を再び取り戻すことができるという前向きなメッセージが伝えられていました。
高齢者の実践例とチェック方法
番組では、高知県仁淀川町で行われているフレイル対策の取り組みも紹介されました。この町は人口の半数以上、なんと56%が65歳以上という超高齢地域です。しかし、その中で住民が「仲間と一緒に体操を続ける」というシンプルな習慣を取り入れた結果、大きな成果を上げていることが明らかになりました。
特に印象的だったのは、92歳の片岡賢一郎さんの例です。片岡さんは週2回、1回あたり3時間もの運動を3か月間継続しました。その結果、歩くスピードが向上し、日常生活での動きも軽やかになったといいます。本人も「楽しく続けられた」と語っており、単なる運動ではなく、仲間と一緒に取り組むことが大きな支えになっていることが伝わってきました。仲間がいることで無理せず続けられ、結果的に長期的な健康維持につながっているのです。
さらに番組では、フレイルを早めに発見するための自己チェック方法も紹介されました。ひとつは「指輪っかテスト」です。これは座った姿勢で利き足ではない方の足を前に出し、ふくらはぎの一番太い部分を親指と人さし指で輪を作って囲むというもの。指がぴったり届けば筋肉量は十分、逆に隙間ができてしまう場合は筋肉が不足している可能性があります。
もうひとつは「イレブン・チェック」と呼ばれる方法です。これは生活習慣や体調に関する質問に「はい・いいえ」で答えていく形式で、自分がどの程度フレイルに近づいているのかを把握するのに役立ちます。簡単に取り組める上、危険度がわかりやすいため、日々のセルフチェックにおすすめとされていました。
イレブン・チェック(11の質問)
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バスや電車で1人で外出していますか?
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日用品の買い物をしていますか?
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預貯金の出し入れをしていますか?
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友人の家を訪ねていますか?
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家族や友人の相談にのっていますか?
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1日3食きちんと食べていますか?
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昨年に比べて体重が2kg以上減りましたか?
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身長や体重の低下に気づいていますか?
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ウォーキングなどの運動を週に1回以上していますか?
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転びやすいと感じますか?
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記憶に不安を感じますか?
このように仁淀川町の事例は、フレイル予防において「仲間との継続」と「自己チェック」が大きなカギになることを示していました。
フレイル対策エクササイズの効果
番組では山田実教授とともに考案されたフレイル対策エクササイズも披露されました。椅子を使った安全な運動を毎日15分、2か月続けるプログラムで、参加者はすべての体力テスト項目で向上を確認。歩行スピードの改善、ふらつきの減少、足腰の安定など、具体的な変化が見られました。最高齢97歳の参加者を含む160人が継続していることも紹介され、運動は年齢に関係なく効果があることが示されました。
フレイル対策エクササイズのやり方
① 足踏み運動(40秒)
床をしっかり踏み込み、できるだけ太ももを高く上げることを意識しましょう。リズムは「1秒に1歩」程度。
② 足ぐるぐる運動
片手は必ず椅子などに添えて転倒に注意します。
左足をゆっくり時計回りに5周(1周4秒目安)、次に反時計回りに5周。
身体の向きを変え、左右交互に行いましょう。
③ 空気イス筋トレ
椅子に浅く腰かけ、立ち上がるようにお尻を浮かせてその位置で32秒キープ。
→ 終わったら16秒休憩。
→ もう一度、32秒キープを行います。
最後に太ももやふくらはぎを軽く叩いてほぐすのを忘れずに。
④ 口の体操(発声トレーニング)
・「パパパ」とできるだけ速く8秒間
・「タタタ」と8秒間
・「カカカ」と8秒間
口周りの筋肉を動かすことで飲み込み力や発声機能にも効果があります。
⑤ 体+認知機能トレーニング
・「1、2」で前へ1歩
・「3、4」で後ろへ1歩
この動きを繰り返しながら、前に出る時に頭を使います。
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加算タイプ:今日の日付に3を足していく
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減算タイプ:100から3を引き算していく
体を動かしながら脳も鍛えられる一石二鳥の運動です。
⑥ 深呼吸
鼻から吸う:4秒
口から吐く:4秒
これを2セット行い、心身を落ち着かせます。
続けるコツ
・無理をせず、自分のペースで
・毎日少しずつ取り入れることが大切
・転倒防止のため、椅子や壁を活用しながら安全第一で行いましょう
👉 このエクササイズは、足腰の筋力アップ・ふらつき改善・認知機能の活性化に効果的で、番組の実践者も2か月後には歩行スピードが向上するなど、はっきりと成果が出ていました。
続けるための秘訣
運動を長く続けていくためには、仲間との交流が欠かせないことも番組で強調されていました。高知県の仁淀川町で行われているフレイル対策の教室では、ただ体操をするだけでなく、先輩が新しく参加した人に測定方法を教えたり、みんなで食事を楽しんだりと、自然に交流の輪が広がっていました。
このように人と関わり合うことは、筋力や体力の向上といった身体面の効果に加えて、気持ちが前向きになったり孤独感が減ったりする心理的な効果も期待できます。さらに、地域で支え合うことで社会的なつながりも保たれ、生活全体にプラスの循環をもたらしていました。
番組では、「フレイル予防は単なる筋トレではなく、人とのつながりが健康を支える大事な要素」であることが繰り返し語られていました。体を動かすことと同じくらい、誰かと一緒に続けることが、元気な毎日につながるのだと実感させられる内容でした。
まとめ
今回のトリセツショーは、転倒予防に欠かせない足の握力アップ体操と、加齢による衰えを防ぐフレイル対策エクササイズをわかりやすく紹介しました。どちらも毎日少しずつ続けることで効果が現れ、年齢を問わず取り組める内容です。転倒やフレイルは「年だから仕方ない」ではなく、正しい知識と工夫で改善できます。健康で自立した生活を続けたい方にとって、非常に役立つ内容でした。
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