銀座線でたどる東京の街と記憶
2025年4月29日、NHK総合で放送された『時空鉄道〜あの頃に途中下車〜』は、時空を越えて東京の街を旅する人気番組。今回取り上げられたのは、東洋初の地下鉄であり、日本初の本格的地下鉄でもある「銀座線」です。浅草と渋谷を結ぶ約14kmの路線を、遠藤憲一さんといとうあさこさんが案内人となり、懐かしい映像とともに巡りました。車掌役は番組の語り手としておなじみの八嶋智人さん。今回は地下鉄路線ならではの歴史と、沿線各地に息づく街の記憶をじっくりと振り返る旅になりました。
東洋初の地下鉄・銀座線の誕生
銀座線は、昭和2年(1927年)に浅草~上野間で開業した日本初の地下鉄です。トンネルを掘り、地中にレールを敷くという前代未聞の工事は約2年の歳月をかけて行われ、当初は「東京地下鉄道」と呼ばれていました。地下を走る電車に不安の声もありましたが、銀座線はその便利さと快適さからすぐに多くの人々の支持を集め、後に東京メトロの礎を築いていきました。
今回の番組では、その誕生の背景や発展の流れを丁寧に追いながら、駅ごとの歴史・文化を、時代ごとの映像と共にたどっていきました。
下町情緒と専門店の街・浅草〜上野周辺
スタート地点は浅草駅。すぐ隣の田原町駅は、寺院が多く立ち並ぶ下町の雰囲気を残す住宅街です。この街の名所のひとつがかっぱ橋道具街。調理器具をはじめ、食に関するあらゆる道具がそろう専門街として全国から料理人が集まります。入口に立つジャンボコック像は、初代社長の新實善一さんがモデルで、街のシンボル的存在となっています。
次に紹介されたのは稲荷町駅。ここは**「寄席発祥の地」下谷神社**があることで知られ、落語の文化が息づく地域です。
そして上野駅。東日本の交通の要として、観光・商業・芸術の中心でもあります。番組では1972年にやってきたジャイアントパンダのランランとカンカンの来日シーンが紹介されました。これは日中国交正常化を象徴する歴史的な出来事であり、当時の上野動物園は連日大混雑となったそうです。
さらに隣接する上野広小路駅では、駅間距離が銀座線最短の約500mであることや、1970年にデパートの屋上で潮干狩り大会が開催されていたという驚きのエピソードも紹介されました。都心の真ん中に海を再現するという発想に、昭和の遊び心が感じられます。
商業と再開発が交差する街々へ
銀座線は、文化や伝統だけでなく、経済や流行の最前線を通り抜けます。
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末広町駅:秋葉原電気街の入口。電気製品・オタク文化の発信地。
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神田駅:老舗商店と再開発ビルが混在するにぎやかな街。
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三越前駅:日本最古の百貨店三越が建つ歴史的な駅。建物自体が国の重要文化財です。
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日本橋駅:商業と金融の中心。日本国道路元標があり、現在は高速道路の地下化と水辺再生計画が進行中。
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京橋駅:オフィスビルが立ち並ぶ落ち着いたビジネス街。
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銀座駅:高級ブランドが集まる東京屈指の繁華街。
このあたりでは、百貨店と地下鉄が連携し、駅名や地下通路を使って相互に集客する工夫も紹介されました。創業者早川徳次の発想によって、銀座線の延伸資金をデパートから調達する仕組みが生まれ、1934年に新橋駅までの延伸が実現したのです。
近代化と政治の中心をつなぐエリア
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新橋駅:オフィス街と飲食店が混在する“サラリーマンの街”。SL広場の街頭テレビ前には1954年、多くの人が集まりました。
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虎ノ門駅:ビジネス街として進化を続ける都市型エリア。
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溜池山王駅:永田町・霞が関エリアと直結し、総理官邸や国会議事堂にも近いオフィス街。
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赤坂見附駅:複数の地下鉄が乗り入れる重要な乗換駅。
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青山一丁目駅:赤坂御所や迎賓館が近く、国際的な行事の舞台にもなる品格あるエリア。
ここでは、1966年に来日したザ・ビートルズが宿泊した「東京ヒルトンホテル」(現・ザ・キャピトルホテル東急)にも注目。ジョン・レノン、マイケル・ジャクソン、力道山なども宿泊したという、まさに「伝説のホテル」となっています。
表参道〜渋谷:文化と若者の街へ
外苑前駅からは、スポーツと文化の拠点へと向かいます。明治神宮外苑いちょう並木、国立競技場、明治神宮野球場などがあり、東京オリンピックでも注目されたスポットです。
その先、表参道駅は、ハイブランドや個性派ショップが並ぶおしゃれの聖地として紹介されました。ここはかつて陸軍の練兵場であり、戦後は米軍の家族用住宅地として整備されました。さらに、若者文化の発信地となったセントラルアパートが神宮前交差点に誕生し、ファッションやカルチャーが花開いていきます。
終点の渋谷駅では、周辺の地形が谷状であることから、ホームの設計も特殊になっています。勾配を避けるため、電車がスムーズに停車できるよう上階構造が取り入れられたとのこと。現在はホームの位置も移動され、よりスムーズな乗降が可能となっています。
まとめ
『時空鉄道〜あの頃に途中下車〜』銀座線編は、ただの鉄道旅ではありません。一本の路線に込められた東京の記憶と物語を、懐かしい映像と共にたどる貴重な時間旅行でした。寺町や商店街、電気街から百貨店文化、政治の中枢、おしゃれの最先端まで、東京という都市の多層的な顔をつなぐ一本の“線”として、銀座線の存在がどれだけ重要だったかが伝わる内容でした。
遠藤憲一さん、いとうあさこさん、八嶋智人さんの落ち着いたナビゲートで、誰もが心地よく学びながら楽しめる45分間でした。見逃した方は、再放送やNHKプラスでの視聴をおすすめします。そして次回の「時空鉄道」がどの路線をめぐるのかも、今から楽しみです。
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