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【NHKスペシャル 人体Ⅲ 最終回】山中伸弥×タモリが迫る命の核心とダークプロテイン|2025年6月15日放送

NHKスペシャル

「人体III 第4集 果てしなき命の探求」

2025年6月15日に放送されたNHKスペシャル「人体III 第4集 果てしなき命の探求」は、シリーズ最終回として、「命とは何か」に迫る深いテーマを描きました。番組にはタモリさんと京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥さんが出演し、最先端の研究や哲学的な問いを交えながら、命の本質を見つめ直しました。

命の単位「細胞」と“細胞内キャラクター”たちのはたらき

人間の体は、およそ40兆個もの細胞でできています。これらの細胞はそれぞれが生きており、自分の中でさまざまな物質が動きながら役割を果たしています。番組では、こうした細胞の中で動く物質たちを「細胞内キャラクター」と呼び、アニメーションを交えてわかりやすく紹介していました。

とくに注目されたのが、ミトコンドリアのはたらきです。ミトコンドリアは、細胞の中でエネルギーを生み出す部分で、人が生きるために必要な力の源をつくっています。

  • ミトコンドリアは細胞内の「発電所」とも言われ、ブドウ糖などの栄養を使ってエネルギーを作ります

  • このエネルギーがないと、筋肉も脳も働くことができません

  • すべての細胞にミトコンドリアがあり、数も場所によって異なります

また、シャペロンと呼ばれる分子も登場しました。シャペロンとは、本来「介添役」という意味があり、昔の貴族社会では若い女性の付き添い役として存在していました。細胞内のシャペロンも、まさにそのような役割を果たしています。

細胞の中では、キャラクターたちは最初「ひも状」の状態で生まれます。このままでは正しく働くことができません。そこで必要なのがシャペロンです。

  • シャペロンは、ひも状のキャラクターを正しい形(立体構造)に整える役目を持っています

  • 間違った形になると、病気の原因になることもあります

  • たとえば、神経系の病気やがんにも関わることが知られています

さらに、シャペロンには100種類以上あることが分かっています。それぞれが担当するキャラクターの種類や状況が違っていて、細胞が元気に働けるように常に見守っています。

細胞の中では、たくさんのキャラクターがタイミングを合わせて働いています。その調整役としてシャペロンが存在することで、体のあらゆるはたらきがスムーズに進んでいるのです。

このようにして、見た目には見えない細胞の中でも、多くの物質たちが連携しながら命を支えていることが紹介されました。細胞1つ1つの中に広がる世界の存在が、番組を通して強く伝わってきました。

生命のはじまりは偶然の積み重ね

番組では、生命がどのようにして誕生したのかというテーマにも丁寧に触れていました。最初の生命のもととなる「細胞内キャラクター」は、特別な設計によって作られたのではなく、自然界の中で起きた偶然の重なりによって生まれたと考えられています。

はじめに登場するキャラクターは、化学反応によって偶然生じた単純な物質です。それらが何度もぶつかり、つながり、分かれ、再び組み合わさるといった現象が繰り返される中で、自然と機能を持った分子ができあがっていったと説明されました。

  • 初期の生命のもとは、タンパク質や核酸のような複雑なものではなく、もっと単純な構造の物質でした

  • それらは水の中で動き、ぶつかるたびに新しい組み合わせをつくりました

  • 組み合わさった物質の中には、まれに「自分をコピーする力」を持つものも現れ、それが生命のはじまりにつながったとされます

こうした偶然の現象はすべて、物理や化学の法則にしたがって自然に起きたものです。つまり、何かの目的があったわけではなく、結果として命が始まったという見方です。

また、番組では模型やCG映像を使って、こうした生命の始まりの過程を視覚的に表現していました。例えば、泡のような構造体の中に物質が取り込まれ、それが簡単な細胞のようなかたちを持ちはじめる様子が描かれていました。視聴者にとっても、見て理解できる構成となっており、生命がどのように始まったのかをイメージしやすくなっていました。

そして、時間がたつにつれて、遺伝子の働きがこの中に加わり、コピーや変化が起きることで進化が始まります。最初は単純だった細胞も、やがて複雑な仕組みを持ち、多細胞生物や人間のような存在へとつながっていくことになります。

このように、何億年にもわたる変化と積み重ねの結果、現在の私たちの生命があることが、科学的に紹介されました。自然の力によって生まれた命の奇跡をあらためて感じる内容でした。

見つかりはじめた“ダークプロテイン”という未知の領域

2003年、人間の全遺伝子が解読されたとされ、多くの人が「これで生命の設計図はすべて明らかになった」と考えていました。しかし、その後の研究によって、まだ存在が明らかになっていないタンパク質があることが分かり、それが「ダークプロテイン」と呼ばれています。

このダークプロテインは、従来の研究手法では検出できなかったもので、目に見える形では現れず、通常のタンパク質分析では見逃されてきた可能性があります。存在そのものがあいまいで、しかし体の働きに関わっている可能性が高く、病気との関係も指摘されています。

  • ダークプロテインは、遺伝子の中でも「意味がない」とされていた領域から生まれていると考えられています

  • 病気を引き起こす原因や、治療の手がかりになる可能性があり、多くの研究機関が注目しています

  • 特にがんや神経疾患との関連が疑われており、これまで説明できなかった症状とのつながりが解明されるかもしれません

この分野で新たな発見をしたのが、山中伸弥さんです。彼が見つけた細胞内キャラクター「NAT1」は、ダークプロテインを生み出す元になる存在だと考えられています。NAT1は、細胞の中で起きる情報の流れに関わっていて、遺伝情報を読み取る働きを助ける役割があるとされます。

  • NAT1は、DNAの情報がタンパク質に変わる過程で登場し、必要な指示を出している可能性があります

  • これまで無視されていた部分に、実は重要な制御機能があることを示す存在です

番組では、アメリカ・サンフランシスコにあるグラッドストーン研究所での最先端研究の様子も紹介されました。この研究所では、NAT1を含む未知のキャラクターの動きを観察し、ダークプロテインがどのように作られ、どんな影響を体に与えるのかを探っています。

ダークプロテインは、これまでの生命科学の常識をくつがえす存在です。まだ見ぬ領域に光を当てることで、新たな治療法や体のしくみの理解につながる可能性があり、今後の研究に大きな期待が寄せられています。

医療への応用が進む命の研究

番組では、命のしくみを解明する研究が、私たちの生活や健康にどのようにつながっているのかが具体的に紹介されました。細胞の中で起こる現象や分子の働きを理解することで、新しい治療法や薬の開発が進んでいます。

たとえば、抗インフルエンザ薬分子標的薬は、こうした分子レベルでの探求の成果のひとつです。分子標的薬とは、がん細胞などに特有の分子を狙い撃ちにして作用する薬で、副作用をできるだけ少なくしながら高い効果を出すことが期待されています。

  • インフルエンザウイルスの増殖を防ぐ薬は、ウイルスの中の特定の酵素のはたらきを止めることで効果を発揮します

  • 分子標的薬は、がん細胞だけを狙い、正常な細胞への影響を抑える仕組みになっています

さらに注目されたのは、iPS細胞を使った再生医療の話題です。番組では、iPS細胞から作られた人工の肝臓を使った治療の研究が進んでいることが紹介されました。この技術が実用化されれば、これまで治すことが難しかった病気にも新たな希望が生まれます。

  • iPS細胞は、皮膚や血液などから採取された細胞を変化させ、さまざまな臓器の細胞に育てることができます

  • 移植用の臓器を人工的につくれる可能性があり、ドナー不足の解決にもつながると期待されています

また、研究者のひとりとして西村智さんの取り組みも番組内で紹介されました。彼は、細胞の動きを細かく観察し、どのような働きが病気の発症につながるのかを探る研究を続けています。彼のような研究者たちが、毎日のように試行錯誤を重ねながら、未来の医療につながる知識を積み上げている様子が映し出されました。

こうした地道な努力の積み重ねが、やがて私たちの暮らしの中で大きな力となり、これまで助けられなかった命をつなぐ道を開いていきます。命をめぐる研究は、科学と医療の最前線で今も進み続けていることが、番組を通じて深く伝わってきました。

最後に語られた“命の意味”

番組の終盤では、シリーズの締めくくりとしてタモリさんと山中伸弥さんが「命の意味」について語り合う場面が放送されました。科学的な視点にとどまらず、哲学的な問いかけとして「命とは何か」「人間とは何か」に向き合う構成でした。

タモリさんは、これまでの放送や研究内容をふまえ、「人間だけが特別だという考えは違うかもしれない」という感想を述べました。命の営みは人間に限らず、あらゆる生物が等しく持っているものであり、人間にだけ優位性があるという見方には疑問を感じたと伝えました。

一方で、山中伸弥さんは、「命の意味を問い、考え、研究しようとするのは人間だけ」であり、そこに人間らしさがあると話しました。命のしくみはまだ完全に分かっていない部分も多く、それを理解しようとする努力こそが、人間らしい営みだと強調しました。

さらに山中さんは、「地球上のすべての技術と資金を投入しても、人体そのものはつくれない」と語り、生命の仕組みの複雑さや奥深さに改めて触れました。そのうえで、「生きていること自体が奇跡のようなこと」と述べ、研究を重ねるほどその思いは強くなると話していました。

タモリさんも「この奇跡を普通に生きましょう」と応じ、壮大な問いに対するひとつの答えとして、日々を丁寧に生きることの大切さを静かに示していました。科学と人間の心が交差するこのシーンは、シリーズ全体を包み込むような、やさしく深い締めくくりとなっていました。

命とは何かを考えるきっかけとなる最終回

全20回にわたる「人体」シリーズの最終回となった今回の放送では、細胞の仕組みから始まり、命の起源、そして未来の医療まで、幅広い視点で命の探求が描かれました。難しいテーマながらも、視覚的な演出やわかりやすい説明によって、多くの視聴者にとって親しみやすい内容となっていました。

iPS細胞、ダークプロテイン、NAT1など最新の研究成果を知るだけでなく、命という目に見えない価値をあらためて考える貴重な時間になったと感じられます。科学と哲学が交差するこのシリーズは、多くの人にとって記憶に残る放送となりました。

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