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【NHKスペシャル】医療限界社会とは?病院の現場から届いた“命の警告”|2025年6月1日放送

NHKスペシャル

医療限界社会・追いつめられた病院の現実

2025年6月1日に放送されたNHKスペシャル『ドキュメント 医療限界社会 追いつめられた病院で』では、医師の偏在によって地方の病院が抱える深刻な問題に光を当てていました。特に島根県の済生会江津総合病院を軸に、全国の医療現場で起こっている“限界”が次々に明らかになり、患者や地域にどれほどの影響が及んでいるのかが詳しく描かれました。人手不足によって医療の安全性が損なわれ、経営悪化も加速し、病院そのものの存続すら危うくなっている現実が伝えられました。

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減り続ける医師、頼るしかない問題のある人材

済生会江津総合病院は、島根県西部で重要な役割を担う中核病院です。19の診療科と240床を有し、年間およそ4万7000人の患者を受け入れています。しかし今、常勤医が28人から12人にまで激減し、明らかに問題のある医師にも頼らざるを得ないほど追い込まれています。

院内では、注射針の使い回しといった医療ミスも報告され、幸い感染は確認されませんでしたが、病院側は検査や謝罪対応に追われました。さらに、高齢の医師による不注意なミスも増加しており、現場では日常的に緊張が続いています。ある日、救急搬送された高齢男性の付き添いの女性は、「医師によっては不安なので本当はこの病院に来たくなかった」と話していました。

中津院長は、「昔から問題を起こす医師はいたが、人が多ければフォローできた」と語り、人手不足が医師個人の力量をあらわにしてしまう現状を嘆いていました。大学病院も医師不足で、地方への派遣の余力はないといいます。

医師偏在を加速させた制度改革の副作用

医師確保が難しくなった背景には、2004年に導入された新臨床研修制度があります。これにより、研修医は大学病院に縛られず、都市部の民間病院も自由に選べるようになりました。その結果、勤務が過酷とされる地方病院は避けられる傾向が強まりました。

2008年以降、国は医師数の増加を図り、5万人以上が新たに誕生しましたが、問題の本質は解消されていません。増えた医師の多くが大都市やその周辺地域に集中し、地方は今も人手不足に苦しんでいます。済生会江津総合病院では、特に救急医療が危機的な状況にあり、2次救急の機能を維持することが極めて困難になっていました。

若手医師の過重負担と将来への不安

現場で奮闘する若手医師の山口さんは、夜通し救急対応を行った翌朝も通常勤務を続けていました。彼は地域医療に一定期間携わる制度を利用していましたが、ここで専門性を高めるのは難しいと判断し、春には松江市の病院へ移る決断をしました。これにより、地域の救急体制はさらに厳しい状況に陥ることになります。

一方、看護師の池内さんは、神経難病の患者の喉に内出血があるのを発見。医師が器具を交換した際に生じた可能性があるとし、「これはおかしい」と声を上げる必要性を感じていました。安全な医療には、看護師も含めたチーム全体の目が不可欠だと改めて実感させられる場面でした。

院内の改革と連鎖する退職の波

2月、看護師たちは危機感を院長に直接訴えました。その結果、対応が難しいとされた一部の医師が救急医療から外されることになりました。しかし、その分の人手を埋めるために佐々木医局長が救急業務に入らざるを得ず、彼の負担も大きくなっていきます。

佐々木さんは3年前、家族とともにふるさとに戻り、地域医療を支えたいという思いで赴任してきました。中学生の頃の社会科見学でこの病院を訪れた経験が医師を志すきっかけでしたが、15年ぶりに見た病院は大きく様変わりしており、理想の医療を実現するのが難しくなっていると感じていました。

経営面でも問題は深刻です。非常勤医を活用して診療科を維持してきましたが、物価高騰と人件費上昇の影響で赤字は拡大。常勤外科医がいなくなったことで、手術ができず、昨年度の赤字は4億7000万円に達しました。さらに、3月末には看護師の1割にあたる15人が一斉に退職し、現場の危機感は一気に現実のものとなりました。

都市部でも進む“収益優先”による質の低下

医療の限界は地方だけでなく、都市部の大病院でも起きています。ある病院で働いていた元看護師は、「患者をどんどん受け入れ、数をこなすことが目的になっていた」と語りました。医師の対応が追いつかず、患者は長時間待たされるだけでなく、必要な説明すら受けられないケースもあります。

ある女性の母親は脳梗塞でその病院に入院しましたが、3日後には急激に状態が悪化。医師に会えず不信感から転院したところ、新型コロナに感染し、誤嚥性肺炎も併発していたことが判明しました。さらに、内部資料からは診療科ごとに手術件数のノルマが設定されていることが明らかになり、現場が利益優先で動かされていた実態が浮かび上がりました。

診療報酬が20年以上据え置かれていることが背景にあり、都市部の病院は地方の1.6倍の赤字を抱えているとの報告もありました。

地域で支える新しい医療のかたちへ

済生会江津総合病院は、専門家と協議のうえで病院の規模を計画的に縮小する方針を決定。ベッド数を約30床減らし、19あった診療科も整理し、専門的な治療は隣市の3次救急病院へ委ねる体制を整え始めました。

その代わりに、総合診療医による初期対応を強化することで、患者を適切な医療につなげることを重視しています。今後は停止していた小児救急の再開も目指しています。

厚生労働省も過去の施策の限界を認め、今後は医療資源を地域単位で集約する体制構築に舵を切る方針を示しています。地域医療計画課の中田課長は、「医師数を増やすだけでは地域格差は埋まらない」とし、連携を重視した新たな医療体制を整える必要性を訴えました。

医療事故で娘を亡くした経験を持つ勝村さんは、「患者のためのグランドデザインを後回しにしてはいけない」とし、すべてを誰か一人に押しつけるのではなく、社会全体で支える医療の姿勢が大切だと強調していました。

4月には、新たに3人の総合診療医が病院に加わり、再生への一歩が踏み出されました。医療の限界を越えるためには、現場の声に耳を傾け、地域と社会が一体となって支える覚悟が求められています。

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