ミスターラグビーがつないだ魂のパス|2025年6月28日放送
2025年6月28日に放送されたNHK総合「新プロジェクトX〜挑戦者たち〜」では、「ミスターラグビーがつないだ魂のパス」と題して、日本ラグビー界の軌跡と挑戦が紹介されました。2019年のラグビーワールドカップで日本代表が成し遂げた歴史的快挙。その舞台裏には、ミスターラグビーと呼ばれた平尾誠二さんや、多くの関係者の努力と情熱がありました。
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平尾誠二がつないだラグビーの未来
1980年代、日本ではラグビー人気が高まり、多くの人が試合を楽しんでいました。その中心にいたのが平尾誠二さんです。平尾さんは中学生のときにラグビーと出会い、伏見工業高校、大学、社会人とすべてのカテゴリーで日本一を達成。カリスマ性と実力で「ミスターラグビー」と呼ばれ、日本ラグビー界の象徴的な存在でした。
しかし1995年、ラグビーワールドカップで日本代表は世界最強といわれるオールブラックス(ニュージーランド代表)と対戦し、17対145の大敗を喫します。この試合は世界中に衝撃を与え、日本国内でもラグビー人気が急落。スタジアムから観客の姿が消え、暗い時代が始まりました。同時に、日本経済もバブル崩壊の影響で多くの人が自信を失っていました。
そんな中、平尾さんと、日本ラグビー協会の職員徳増浩司さんは、日本ラグビーを変えたいという強い思いを抱きます。1997年、平尾さんはわずか34歳で日本代表の監督に就任。世界で勝つためには変化が必要だと考え、オールブラックス出身のジェイミー・ジョセフさんに協力を依頼します。また、外国人選手の積極的な招集も始めました。
ですが、これらの改革は大きな反発を呼びます。社会人チームは日本代表に主力選手を出し渋り、「チェリーブラックス」と揶揄されることもありました。迎えた1999年のワールドカップでは、日本代表は一次リーグ全敗という悔しい結果に終わります。その後、海外での試合でも連敗が続き、2000年に平尾さんは監督を辞任しました。
ラグビーW杯日本開催への長い道のり
2002年、日本はサッカーワールドカップで盛り上がりを見せていましたが、徳増浩司さんは「ラグビーでも世界を呼びたい」と決意。学生時代にラグビーに魅せられた徳増さんは新聞社を辞め、ウェールズへ留学。住み込みで掃除人をしながら、本場のラグビー文化を学び、日本に戻ります。
その後、茨城県の茗溪学園で監督として活躍し、チームを日本一に導きました。そして次の目標は、ラグビーワールドカップの日本開催でした。協会の仲間とともにオールジャパン体制を築き、国際ラグビー評議会への働きかけを開始。しかし、「100点差で負ける国にW杯は無理」と厳しい言葉を投げかけられます。
それでも日本の高校生たちが泥だらけで練習する姿を伝え続け、2009年、ついに2019年ラグビーワールドカップ日本大会の開催が決まりました。
この頃、日本ラグビーは平尾さんの構想をもとに、トップリーグを発足。試合数が増え、世界のトップ選手も続々と日本にやってきます。その中で注目されたのが、田中史朗さんです。
日本ラグビー協会は、エディー・ジョーンズさんをヘッドコーチに迎え、2015年イングランド大会での南アフリカ戦では、世界中が驚く日本代表の勝利をつかみました。この試合を平尾さんは、末期がんを告げられた病院のベッドで見守っていたのです。日本代表は1次リーグ3勝をあげるものの、スコットランドに敗れ、またも決勝トーナメント進出は叶いませんでした。
平尾誠二が最後に託した願い
次期監督選びが進む中、病床の平尾さんは迷わずジェイミー・ジョセフさんを推薦します。かつて日本を叩きのめしたオールブラックス出身のジェイミーさんは、2016年に日本代表の指揮官となります。
ジェイミーさんは国籍を問わず、国内リーグで活躍する選手たちを集め、選手自身が考えて判断するラグビーを目指しました。その一つが、タックルを受けた瞬間にボールを繋ぐオフロードパスです。成功すればビッグプレーにつながりますが、リスクも高く、選手たちは戸惑い、チーム内に溝が生まれます。
そんな時、協会の土田雅人さんが平尾さんの病室を訪ね、相談しました。平尾さんは「ジェイミーを信じて、選手が自ら考えないと、世界では勝てない」と語り続け、2016年10月20日、亡くなりました。
その後、田中史朗さんたちベテラン選手が中心となり、選手同士の対話を重ね、ワンチームとして一丸となっていきます。
日本中が熱狂したW杯2019日本大会
2019年、いよいよ日本でのラグビーワールドカップが開幕。日本代表は3連勝し、決勝トーナメント進出に王手をかけます。しかし最後の相手は、前回、日本の夢を断ったスコットランド。しかも台風19号が直撃し、試合中止の可能性も浮上します。中止になれば日本は自動的にトーナメント進出ですが、選手たちは「戦って勝ちたい」と強く望みました。
懸命な復旧作業の末、試合実施が決定。前半26分、守備の要である稲垣啓太選手が、オフロードパスを繋ぎ、自ら判断して攻撃参加し代表初トライを決めます。このプレーが試合の流れを変え、日本は勝利。ついに悲願の決勝トーナメント進出を果たしました。
また、岩手県釜石市でも大会が開催され、震災から立ち上がった街に笑顔と歓声が広がりました。この開催は、阪神・淡路大震災を経験した平尾さんの強い願いでもありました。
現在、田中史朗さんは現役を引退し、ラグビーの楽しさを伝える活動を続けています。徳増浩司さんは、日本人と外国人が一緒にラグビーを楽しめるインターナショナルクラブを立ち上げ、平尾さんの思いを次の世代につないでいます。
これを知ればもっと楽しめる!ラグビーの基礎知識
ラグビーは難しそうに見えますが、基本を知ると試合がぐっと面白くなります。ここでは初心者向けに、ラグビーのルールや見どころをわかりやすく紹介します。
トライとは?
ラグビーで一番大事な得点方法が「トライ」です。相手チームの一番奥にある「インゴール」というエリアにボールを持ち込んで、地面にしっかり置くことで5点が入ります。サッカーのゴールに似ていますが、ただラインを超えるだけでなく、地面に置くのがポイントです。
オフロードパスってなに?
「オフロードパス」は、タックルを受けながらも、味方にボールをつなぐテクニックです。普通、タックルされたら動きが止まってしまいますが、うまくオフロードパスを出せると、流れが止まらずチャンスを広げることができます。日本代表がスコットランド戦で見せたように、オフロードパスはピンチから一気にビッグプレーにつながるので、試合の大きな見どころの一つです。
スクラムとは?
「スクラム」は、試合中に反則などがあった時に、両チームの選手が8人ずつ組み合ってボールを奪い合う場面です。大きな体の選手たちが力いっぱい押し合う、ラグビーらしい迫力のあるシーンです。日本代表は小柄ながらも素早い動きで、スクラムの場面でも世界に挑んできました。
ワンチームの意味
「ワンチーム」は、ラグビー日本代表の合言葉です。国籍や体格に関係なく、仲間を信じて助け合い、一つのチームとして戦うことを意味しています。2019年の日本大会では、この精神が日本中に広がり、多くの人の心を動かしました。試合中も選手たちがお互いに声をかけ合い、支え合っている姿は、まさにワンチームの象徴です。
ラグビーは力強さだけでなく、仲間を信じてつなぐパスや、一人ひとりの判断が大切なスポーツです。基本を知ることで、もっと楽しく試合が見られるようになります。ぜひ次の試合では、これらのポイントに注目してみてください。
【関連情報】
https://www2.myjcom.jp/special/user/sports/rugby/hirao_seiji.shtml
https://hanazono-rugby-hos.com/archives/1322
https://rugby-japan.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/pdf/impact-beyond-2019-japan-summary-report.pdf
https://world.rugby/news/503857
https://japan-rugby-players.com/interview/hirao_seiji
https://www.rugby-rp.com/2021/09/20/japan/72834
https://english.kyodonews.net/news/2019/11/00fefc344244-japans-rugby-world-cup-legacy-to-continue-after-tournament-ends.html
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