ゴジラと35人の海賊〜アカデミー賞への道 特別編
2024年、映画『ゴジラ−1.0(Godzilla Minus One)』が世界中の注目を浴びました。この作品は、第96回アカデミー賞で日本映画として初めて「視覚効果賞」を受賞するという、歴史的な快挙を成し遂げました。その裏には、わずか35人の精鋭チームによる情熱と工夫がありました。今回の『新プロジェクトX』では、「会社じゃない、海賊船だった」とも言われた自由で強いチームが、どのようにして世界最高峰の賞をつかんだのかが紹介されます。
“ハリウッドの20年遅れ”と言われた日本の反転攻勢
かつて日本のVFX業界は、「ハリウッドより20年遅れている」と評価されていました。その理由は、使える技術や予算、スタッフ数の違いにありました。アメリカの大作では1000人規模でVFXを作り込むのに対し、日本では人材や資源が限られ、少人数で多くを担うしかないという現実がありました。
しかし『ゴジラ−1.0』の挑戦は、この常識を覆すものでした。監督の山崎貴さんを中心に、東京都調布市の白組スタジオに集まった35人のチームが、最新技術とアナログ手法を融合し、610カットのVFXを8か月で完成させたのです。これは大作映画の水準を、日本独自の形で実現した証しでした。
「海賊船」のような自由な現場で生まれた創造力
この制作チームの特長は、単なる少人数ではなく、役割の壁を超えて自由に意見を出し合える環境にありました。若手のひとりは、「会社ではなく海賊船のようだった」と語っています。その言葉通り、上下関係に縛られず、誰でもアイデアを出しやすい空気があったことで、さまざまな工夫が実現できました。
-
全員が同じフロアで作業し、監督の指示が即座に反映される
-
担当を超えて協力しながら進める柔軟な体制
-
ミニチュアや実写のアナログ撮影とCGを組み合わせる発想
たとえば、水しぶきの表現では、当時25歳の野島達司さんが担当。彼の発案により、予想以上にリアルな海上シーンが生まれました。使用したソフトはHoudiniやMaya、Nuke、Redshiftなど。それらを35人が多役割で使いこなし、効率的に進めたのです。
アカデミー賞での受賞とそのインパクト
『ゴジラ−1.0』は2024年、第96回アカデミー賞で視覚効果賞にノミネートされ、見事に受賞。これは日本映画、そしてアジアの実写映画としても初の快挙となりました。授賞式では、山崎監督が「We did it!(やったぞ!)」と叫び、スタッフがゴジラのフィギュアを手に祝福する姿が世界中に報道されました。
この賞のライバルには『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー Vol.3』や『ミッション:インポッシブル』といった名だたる大作が並んでいました。その中での勝利は、少人数でも世界に通じる力があることを証明しました。
さらにこの作品は、第47回日本アカデミー賞で最多8部門を受賞。国内外からの評価が一致した結果となり、日本の映画業界にとって大きな励みとなりました。
メンバーが語る自由なチームの強さ
今回の番組では、監督や主要スタッフの証言も多数紹介される予定です。山崎貴監督、渋谷紀世子VFXスーパーバイザー、高橋正紀CGディレクター、野島達司エフェクトアーティストなど、現場を支えた人物たちが、どのように考え、どう動いたのかが明かされます。
特に渋谷さんは、アジアの女性技術者として初のVFX賞受賞という点でも注目されています。その姿は、世界中の若いクリエイターたちにとって新しい目標となるでしょう。
ゴジラが示した未来と希望
『ゴジラ−1.0』の成功は、映画の話題にとどまりません。日本の映像制作現場に、「少人数でも世界に届く」という新たな自信を与えました。若手クリエイターたちがのびのびと意見を出し、一丸となって作品を完成させた姿は、これからの映像業界のモデルケースとも言えます。
番組では、制作現場での熱気、予算や時間の制約の中でも諦めずに挑戦し続けた姿勢、そして世界に認められたその成果が、余すところなく紹介される見込みです。
2025年6月21日放送のこの特別編は、映画ファンだけでなく、ものづくりに携わるすべての人に勇気を与える内容となるはずです。小さな「海賊船」が起こした奇跡の航海を、ぜひ目に焼き付けてください。
コメント