亡き白石誠に託された未来──2030年へ向かう“理想の渋谷駅”への道筋
渋谷駅の工事が「100年に1度」と呼ばれる理由は、古い駅の作り直しではなく、“渋谷という街の未来”を大規模に組み替える計画だからです。この巨大プロジェクトを動かしたのが、東急の技術者 白石誠。番組では、彼の信念と、その思いを受け継いだ仲間たちが2030年の完成を見すえる姿が描かれました。この記事では、白石が残した道筋と、渋谷駅が未来へ向かう核心部分をまとめます。
JR・東京メトロとの交渉──1人の技術者が起こした空気の変化
番組では、3社が初期の段階でまとまらず、議論が空転していた様子が紹介されました。
特に壁になっていたのは 東京メトロ銀座線のホーム移設問題。移設には巨額の費用がかかり、渋谷の再編に不可欠であるにもかかわらず、誰も動こうとしませんでした。
そんな場で、白石は静かに口を開きました。
「東急百貨店を解体して、工事スペースを確保します。だから3社で一緒に渋谷駅をつくりませんか」
会議室に沈んでいた空気が変わり、JRの 新関信、東京メトロの 伊藤聡 も前向きに議論を始めます。
番組内の証言で語られたように、この瞬間が「渋谷駅が動き出した分岐点」でした。
白石はその後、JR新関を繰り返し飲みに誘い、個人的な関係性を築きながら、3社協力体制の土台を整えていきます。
ただ単に技術的な調整をするのではなく、「人を動かす」ことから始めた点が、番組でも強調されていました。
計画策定に8年──“理想の渋谷駅”の設計図が完成
番組では、8年もの時間をかけて作られた完成形の“設計図”が紹介されました。
・銀座線ホームを現在地から130m東へ移動
・埼京線ホームを山手線の隣に移し、乗り換え距離を大幅に短縮
・東横線は副都心線と直通し地下ホームへ
・地上と地下をつなぐ歩行者ネットワークを立体的に整備
・東急百貨店中央館を解体し、駅と街を結び直す新しい動線を創出
この計画は、世界のターミナルでも例がないほどの規模と言われ、各社の判断と覚悟が詰まっていました。
“絶対に壊せない建物”をどう解体するか──吊り橋の発想
渋谷駅のど真ん中に立ちはだかったのが 東急百貨店中央館。
駅構造と密接に連結し、柱を1本抜いただけで駅に重大な影響を与える恐れがある建物でした。
番組で印象的だったのは、若手技術者 真原聖二郎 がふと口にした案でした。
「建物を両側から吊ってしまえばいいんじゃないか」
まるで吊り橋のように中央館を浮かせた状態にし、その下で安全に解体を進めるという大胆な発想。
先輩技術者 山根高志 は当初「本気か?」と思ったと言いますが、チームで解析を重ね、前例のない工法を実現させていきました。
2015年、中央館はついに姿を消し、渋谷駅再編の道が大きく開けました。
夜間2時間の極限作業──5mmの世界で進む工事
番組中盤の核心が、線路上で行われている夜間工事の実態でした。
終電後
0:33 作業開始
4:37 始発前には完全撤収
実質 2時間だけ という極限の世界で、作業員たちは線路のボルトを1本ずつ締め直し、わずか 5mmの誤差 も許されない作業を繰り返していました。
重機は線路に入れず、ほぼすべてが人の手によるもの。
真冬の深夜でも汗だくになりながら作業する姿が、番組では丁寧に映し出されていました。
「2時間でも、100日積み重ねれば200時間になる。その積み重ねで未来ができる」
現場責任者のこの言葉は、渋谷駅工事の本質を象徴しています。
14か月封鎖案を覆した白石の“最後の願い”
番組後半では、白石が病に倒れながらも現場に立ち続けた様子が語られました。
JRは、ある重要な工事で「通路14か月全面封鎖」が避けられないと判断。
渋谷駅の膨大な利用者を考えれば、影響は甚大です。
白石は、新関に静かにこう伝えました。
「なんとか、別のやり方を探してほしい」
その思いを受け、JRは通路部分を“取り外し式”にするという極めて特殊な方法を採用。
線路の上に仮設の通路を設け、工事の進行に合わせて位置を付け替えるという手法で、乗客の動きを守りながら工事を前に進めました。
白石の願いは、確かに仲間たちへ受け継がれていました。
白石誠が亡くなった日──仲間が誓ったこと
2017年、白石は静かにこの世を去りました。
番組では、葬儀に訪れた3社の技術者たちが、口々に語っていた言葉が紹介されました。
「白石さんの渋谷を必ず完成させる」
彼の存在は、ただの“担当者”ではありませんでした。
渋谷駅という巨大な難題に立ち向かう仲間たちの“軸”であり、方向を示し続けた存在でした。
2030年へ──渋谷駅の未来図が動き出す
番組終盤では、2030年までに完成する渋谷駅のイメージが紹介されました。
・地上・地下・デッキを一本の流れでつなぐ歩行者ネットワーク
・JR・メトロ・東急の境界が消える“ひとつの渋谷駅”
・大きな吹き抜けと広い通路で、人が直感的に動ける空間
・街と駅がシームレスにつながる新しい都市構造
特に、谷の地形を生かした「立体交差の駅空間」は、世界的にも注目されています。
鉄道会社の担当者が語った、番組の印象的な一言があります。
「白石さんの描いた渋谷駅が、ようやく本物になっていく」
まとめ:白石誠の“渋谷駅の未来”は今も生き続けている
この番組は、巨大ターミナルの再開発を紹介するだけではありませんでした。
1人の技術者の信念が、何万人も利用する駅の未来を動かした物語でした。
渋谷駅はまだ工事の途中ですが、2030年に向かって確実に前へ進んでいます。
夜間わずか2時間の作業を積み重ねながら、白石が思い描いた「わかりやすい渋谷駅」が現実になろうとしています。
2030年以降の渋谷駅──乗り換え動線の未来像を紹介します

2030年ごろの渋谷駅は、駅と街がひとつながりになった立体交通ハブへと変わっていきます。これまで複雑で分かりにくかった乗り換え動線が整理され、駅の中と街の外の動きがなめらかにつながる未来が見えてきました。ここでは、その姿をより具体的に紹介します。
空中・地上・地下をつなぐ多層歩行者ネットワーク
渋谷駅のまわりには線路や大通り、坂道が入り組んでいて、行きたい方向に向かうのに遠回りや階段の上り下りが必要でした。この問題に向き合うため、空中通路やデッキ、地下通路を組み合わせた多層の歩行者ネットワークがつくられる予定です。このネットワークができることで、宮益坂方面と道玄坂方面の行き来がひと息で進めるようになると考えられています。
これまで別々のエリアに感じられた街が、立体的にひとつにつながり、駅前の広がりをそのまま歩ける場所へ変わっていきます。階段の負担が減り、小さな子どもや高齢の方でも安心して歩ける空間が広がります。
銀座線〜JR・埼京線・副都心線・東横線の乗り換え改善
銀座線のホームが東側へ移動したことで、JR線や埼京線との距離が縮まりました。この変化に合わせ、東横線や副都心線の地下ホームともつながる新しい動線が生まれます。
これにより、銀座線からJRへの乗り換えがこれまでより短く、段差も少なく進めるようになると見込まれています。また、副都心線や東横線からJR・銀座線への行き方も整理され、迷いやすかったルートがわかりやすく変わっていきます。
電車を乗り換えるために長い通路を歩いたり、階段を上下したりする負担が減ることで、駅全体をより快適に使える未来が見えてきます。
改札・通路・広場の再配置で生まれるスムーズな流れ
渋谷駅の東口と西口は線路や道路で分断されていて、移動がしにくい場所でした。再配置された改札や広い通路により、駅の東西を行き来する流れが自然につながります。
さらに、駅を出た先でそのまま商業施設や広場に進めるような構造になることで、駅から街への動きがそのまま続くような感覚が生まれます。
ピーク時間でも通路が混みすぎないように広くつくられ、迷いやすかった場所が減り、利用する人の動きがすっきりとまとまります。
駅と街が一体化する「移動+滞在」の場
これからの渋谷駅は、電車に乗るためだけの場所ではなく、街の入り口そのものとして役割を持っていきます。デッキや広場から直接お店や施設へつながり、買い物や待ち合わせ、休憩などがスムーズにできるように計画されています。
駅の外を歩いているのか、中にいるのかが自然と曖昧になるような空間がつくられていき、渋谷らしい活気が立体的に広がる未来が描かれています。
渋谷の谷地形を活かした立体空間の活用
渋谷は谷と坂が多い地域ですが、その特徴を活かした立体的な動線づくりが進められています。地下と地上、デッキをつなぐ段差の少ない道が生まれることで、これまで負担に感じられていた坂道の移動がやわらぎます。
荷物が多い日や、歩くのが不安な人でも安心して利用できる駅へと変わっていくことが期待されます。
この立体空間を使った動線は、渋谷の街をよりやさしく、より歩きやすくする大きな力になります。
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