シルクロードのキャラバンが語る失われた遺産と歴史の教訓
2025年4月25日(金)夜10時30分からNHK総合で放送された『時をかけるテレビ』では、池上彰さんがナビゲーターを務め、1980年代に放送された「NHK特集 シルクロード」の名作回「キャラバンは西へ~再現・古代隊商の旅~」を紹介しました。ゲストとして登場したのは、当時ナレーションを担当した俳優の石坂浩二さん。スタジオでは、撮影の舞台裏や映像に込められた制作者たちの思いについても語られました。
この回では、イラクのバグダッドからシリアを横断し、最終的に地中海へと向かう古代のキャラバン(隊商)の旅を、ラクダ212頭とともに再現。当時の取材チームが約200kmの砂漠を8日間かけて横断し、その道中の様子や人々の暮らし、そして破壊される前の貴重な遺跡・パルミラの姿を記録に残しました。現地の自然環境や歴史のリアルを、テレビの枠を超えたスケールで伝えたドキュメンタリーの記録です。
再現・キャラバンの旅の全貌とその目的
・再現されたキャラバンの旅は、バグダッドから地中海へ向かう古代の交易路をたどるものでした
このルートには、ユーフラテス川流域にある古代都市ドゥラ・エウロポス、そして東西交易の要衝であったパルミラ遺跡が含まれており、文化や文明が交錯する重要な道でした。
・ラクダを所有し、旅を率いたのはベドウィン族のラマダンさん
ラマダンさんは200頭以上のラクダを持つキャラバン経験者で、隊長として実際にキャラバンを牽引。このような本格的な再現に協力してもらうため、制作チームは何度も交渉を重ねて承諾を得たとのことです。
・番組には歴史考古学者も同行し、学問的な視点も交えながら調査を実施
シルクロードをただ歩くだけでなく、当時の生活文化・移動手段・環境との向き合い方などを実証的に記録するという、テレビと学問の融合が実現された貴重な旅となりました。
・道中では、燃料として使われるラクダのフンを集める女性たちの姿も紹介
また、サソリ退治の知恵、井戸の発見術、ラクダの乳搾りや草食文化など、現地の知恵や伝統的な暮らしにも焦点が当てられました。
・1日平均5時間の歩行で8日目に到着したのが、シリア砂漠にある隊商都市パルミラ
この都市はローマとペルシャという2大国に挟まれ、常に戦禍にさらされながらも繁栄を極めた交易都市で、ナツメヤシが茂るオアシスでもあります。
パルミラ遺跡に息づいていた文明と崩壊の歴史
・パルミラには壮麗な石造建築が残っており、ベル大神殿や墓塔、劇場などが紹介されました
街の中心となる神殿には、人々の功績を刻んだ柱が並び、ローマ文化の影響を色濃く受けた都市構造が今も残っています。
・「エラベールの塔」と呼ばれる墓塔には、当時の上流階級である神官の彫刻やミイラも発見されました
そのミイラを包んでいた布は、なんと中国・漢代のものであり、約2000年前に1万km以上の道のりを経て運ばれてきたという驚くべき事実が語られました。
・しかしそのパルミラも、栄華の裏に滅亡の影が
紀元270年、自国の力を過信したパルミラがローマに戦いを挑み、街はローマ軍によって包囲され、ベル大神殿を残してほぼすべてが破壊されてしまいます。こうして豊かな文化都市は突如として消え、現在に残されたのは一部の遺構と、当時の映像記録だけとなりました。
奈良から世界へ―現代の研究と記録の継承
・番組の後半では、日本・奈良県立橿原考古学研究所の西藤清秀さんが登場
西藤さんは1990年から現地調査に参加しており、2015年にパルミラが過激派「IS」によって破壊された後も、過去の計測データをもとに3D映像による復元に取り組んでいます。
・その技術は、現在シリアで遺跡の修復に携わる若手研究者たちの教育にも活用されています
破壊されてしまった遺跡を“記憶”として残す努力が、国を超えて続けられているという点も、今回の番組の大きなメッセージでした。
・また、シルクロードの終着地とされる日本・奈良と、パルミラをつなぐ視点も紹介
日本とシリアが、古代から現代までつながっているという壮大な歴史の流れを実感できる内容になっていました。
歴史は過去ではなく「今」とつながっている
池上彰さんの解説では、このような番組の映像が単なる過去の記録ではなく、現代に生きる私たちが直面する課題―戦争、文化遺産の保護、記録の意義―としっかりつながっていることが強調されました。かつて栄えた都市がなぜ消えたのか、私たちはそこから何を学び、どう未来につなげていくのか。それを考えるきっかけがこの1時間に詰まっていました。
石坂浩二さんも、ナレーションを通して「時代を伝える使命」の重みを振り返り、当時の番組スタッフたちの熱意が今も視聴者に届いていることに深い感謝を表していました。
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