みやま市で受け継がれる国産線香花火の技
夏の夜に何気なく楽しんでいる線香花火には、火薬を包む量や紙の縒り方、火花が枝分かれする科学まで、驚くほど繊細な技術が詰まっています。『探検ファクトリー(夏の風物詩・線香花火工場 意外に知らない花火の不思議)(2026年8月29日)』の舞台となる福岡県みやま市の工場では、途絶えかけた国産線香花火の技が守られてきました。2026年にはその製作技術が文化財にも指定されています。
この記事でわかること
- 福岡・みやま市の線香花火工場と筒井良太さん
- 2026年に無形民俗文化財となった製作技術
- スボ手牡丹と長手牡丹、火花4段階の違い
- 線香花火を長持ちさせるコツと購入・体験方法
線香花火工場は筒井時正玩具花火製造所

福岡県みやま市で国産線香花火を作り続けているのが、筒井時正玩具花火製造所です。
所在地は福岡県みやま市高田町竹飯1950-1。1929年に筒井時正が創業し、現在は3代目の筒井良太さんが代表を務めています。
見た目は小さくシンプルな線香花火ですが、美しい火花を最後まで咲かせるには、火薬の量、和紙、縒り方、火玉を受け止める「首」の強さまで細かな調整が必要です。
その技術は単に昔の作り方を残しているだけではありません。職人を育てながら品質のばらつきを抑え、伝統的な線香花火を今の時代につないでいる製造所です。
2026年に線香花火製作技術が福岡県無形民俗文化財になった
この工場を今あらためて知っておきたい大きな理由が、2026年3月27日の福岡県無形民俗文化財指定です。
筒井良太さんが会長を務める線香花火製作技術保存会の「線香花火製作技術」が、花火の歴史と技術を継承する貴重な民俗技術として指定されました。
しかも福岡県では、「民俗技術」という区分では初めての指定です。
みやま市竹飯地区には古くから花火製造の歴史があり、筒井家にも長い花火づくりの系譜があります。現在、紙を使った長手牡丹を国内で製作する事業所は3事業所。さらに、わらを使う昔ながらのスボ手牡丹を守っているのは、この保存会だけです。
つまり線香花火は「懐かしい夏の遊び」というだけでなく、残していかなければ途絶える可能性のある伝統技術でもあるのです。
筒井良太が1999年に途絶えかけた線香花火を受け継いだ
現在まで技術が残った背景には、大きな転機がありました。
かつて福岡県八女市には、国内で線香花火を作っていた製造所がありましたが、1999年に廃業することになります。
そこで製造技術を学んだのが3代目の筒井良太さんでした。
良太さんは国産線香花火の技術を残すためにその製造所で修業し、廃業と同時に技術を引き継ぎました。その後、みやま市高田町で製造を続けています。
現在の色鮮やかな線香花火を見ると華やかな商品づくりに目が向きますが、その前には「作れる人がいなくなる」という危機がありました。
だからこそ、2026年の文化財指定は突然生まれた評価ではなく、途絶えかけた技術を受け取り、20年以上つないできた結果と見ると、その重みがよく分かります。
スボ手牡丹と長手牡丹は同じ線香花火でも姿が違う

(出典:筒井時正玩具花火製造所「西の線香花火 スボ手牡丹」)
線香花火には大きく分けて、スボ手牡丹と長手牡丹があります。
スボ手牡丹は、わらの芯である「ワラスボ」の先に火薬を付ける昔ながらのタイプです。米作りが盛んな西日本で親しまれ、線香花火の原形ともいえる存在です。
一方の長手牡丹は、火薬を紙で包んだタイプ。関東ではわらの代わりに紙が使われるようになり、やがて全国へ広がりました。
普段スーパーなどで「線香花火」と聞いて思い浮かべやすい、細長い紙縒りの形が長手牡丹です。
筒井時正玩具花火製造所の「東の線香花火 長手牡丹」と「西の線香花火 スボ手牡丹」は、公式オンラインショップでそれぞれ15本入り1,100円(税込)で販売されています。
そして遊び方にも違いがあります。スボ手牡丹は商品説明で、ワラスボを持ち、先端を斜め上にして風下へ向けて着火する方法が案内されています。
同じ「線香花火」だからと全部同じ向きで持つのではなく、購入した商品の説明に合わせることが大切です。
火花は「蕾・牡丹・松葉・散り菊」の4段階に変化する
線香花火のおもしろさは、火をつけて終わるまで火花の姿が次々と変わることです。
最初に火の玉が大きくなる「蕾」、力強い火花が1本ずつ現れる「牡丹」、勢いを増して細かく枝分かれする「松葉」、最後に静かな火花へ変わっていく「散り菊」という4段階があります。
なぜ1種類の小さな花火から、これほど違った模様が生まれるのでしょうか。
線香花火に使われる黒色火薬には、硝酸カリウム、硫黄、炭素などが使われます。燃焼によってできた高温の液体部分では気泡が成長し、それが破裂することで小さな液滴が飛び出します。
さらに液滴が連鎖的に分裂していくことで、あの細かく枝分かれした「松葉」のような火花が生まれます。
この現象を研究してきたのが、九州大学大学院工学研究院の井上智博准教授です。航空機や宇宙機のエンジンを研究する一方、高速度カメラなどを使って線香花火の火花が分岐する仕組みを明らかにしてきました。
小さな火玉の中では、化学反応、気泡、液滴の形成と分裂が連続して起きています。
昔から見慣れている線香花火ですが、実はかなり複雑な現象を手のひらほどの範囲で観察できる花火なのです。
火薬0.08gと職人の「縒り」が燃え方を左右する
線香花火づくりで特にシビアなのが火薬の量です。
筒井時正玩具花火製造所では、1本に使う火薬を0.08gに調整しています。わずか0.01gの違いでも燃え方が大きく変わるとされ、一つずつ専用の道具を使って火薬を盛ります。
さらに重要なのが、火薬を包んだ紙を指先で縒る工程です。
特に火玉のすぐ上にある細い部分は「首」と呼ばれます。この部分が火玉を支えるため、緩すぎれば途中で落ちやすくなります。
単に強くねじればいいわけでもありません。職人は親指と人差し指の感覚を使い、強弱を付けながら縒っていきます。
火薬そのものはわずか0.08g。その小さな量を安定して最後まで燃やすために、手作業の精度が必要になるところが国産線香花火のおもしろさです。
線香花火を長持ちさせるコツは「首」と斜め45度
せっかく火をつけたのに、大きな火玉ができたところでポトンと落ちてしまう。線香花火ではよくある失敗です。
紙縒りタイプの線香花火なら、まず火をつける前に火薬のすぐ上にあるくびれを軽くねじるのがポイントです。緩くなっている首を締めることで火玉を支えやすくなります。
着火するときは炎の中心へ深く入れず、火薬の先端へ静かに火を移します。
そして火玉ができた後は、真下へ垂直に下げるより、斜め45度ほどに傾ける方法があります。火玉と紙が触れる面積が増えるため、火玉が安定しやすくなります。
ただし、先ほどのスボ手牡丹のように商品によって推奨される向きは異なります。
「45度ならすべての線香花火が長持ちする」と覚えるより、紙縒りタイプで試せるコツとして覚え、商品の遊び方を優先するのが安心です。
火玉が落ちなければ、「蕾」だけで終わらず、「牡丹」「松葉」「散り菊」まで変化していく様子をじっくり楽しめます。
「線香花火 筒井時正」は和紙や松煙まで素材にこだわる
筒井時正玩具花火製造所には、昔ながらの東西の線香花火だけでなく、素材そのものを見直した「線香花火 筒井時正」シリーズがあります。
火薬に使う松煙は宮崎県産。紙には福岡県八女市の手すき和紙が使われ、和紙はえんじゅ、くちなし、蘇芳などの天然素材を使って草木染めされています。
紙は単なる飾りではありません。厚さや目の細かさによって火の回り方が変化するため、燃焼にも関係する重要な材料です。
さらに興味深いのが、線香花火を保存して翌年楽しむという考え方です。
同製造所では、湿気のない場所で適切に保存した線香花火は、時間がたつことで火花の印象が変わるとして「熟成」という楽しみ方も提案しています。
夏に使い切る消耗品というイメージとは少し違い、線香花火そのものを工芸品のように楽しめるシリーズになっています。
製造所では購入だけでなく線香花火づくりも体験できる
筒井時正玩具花火製造所にはギャラリーがあり、線香花火などの商品を購入できます。
所在地は福岡県みやま市高田町竹飯1950-1。
7月・8月は11:00〜17:00で水曜日休み、それ以外の時期は営業日・営業時間が変わります。季節によって営業形態が異なるため、訪れる日が決まったら営業日を確認しておくと安心です。
さらに予約制で、職人と同じ材料を使って長手牡丹を縒るワークショップも行われています。
火薬量を測る専用のさじを使い、実際の商品と同じ和紙を使って線香花火を作る内容です。
完成品を買うだけでは見えにくい「0.08gの火薬」「紙の縒り」「首の強さ」を自分の手で体験できるため、線香花火の見方そのものが変わりそうです。
小さな火花が数十秒咲くだけの線香花火ですが、その裏には、途絶えかけた技術を引き継いだ職人、地域で守られてきた花火文化、そして現代科学でも研究される複雑な燃焼現象があります。
2026年の無形民俗文化財指定によって、筒井時正玩具花火製造所の線香花火は「夏の風物詩」だけではなく、次の世代へ残していく日本のものづくりとしても知っておきたい存在になりました。
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