南部鉄器工場が描く伝統と革新
料理好きや伝統工芸に関心がある人なら、一度は耳にしたことがある南部鉄器。しかし、「重くて扱いにくいのでは?」「本当に料理が美味しくなるの?」と疑問に思う人も多いのではないでしょうか。2025年9月5日に放送されたNHK総合「探検ファクトリー」では、漫才コンビ・中川家の礼二さんと剛さん、さらにすっちーさんが、岩手県奥州市にある南部鉄器の工場を訪問。900年以上の歴史を持つ水沢地区の町工場で、南部鉄器がどのように作られ、どんな工夫がされているのかを深掘りしました。この記事では番組のすべてのエピソードを振り返りながら、南部鉄器の魅力や最新の挑戦を詳しくご紹介します。
奥州市・水沢地区は900年以上続く鋳物の町
番組の舞台は、岩手県奥州市の水沢地区。ここは900年以上も前から鉄器を作り続けてきた伝統ある地域で、現在も約30軒の工場が軒を連ねています。訪問したのは、社長の及川さんが率いる南部鉄器工場。この工場では、鉄瓶や急須など古くから親しまれてきた製品に加え、現代の生活に合わせた調理器具を製造しており、ラインナップは約400種類にも及びます。伝統を守るだけではなく、新しい需要を開拓する姿勢が地域全体の活気につながっていました。
鉄瓶づくりに欠かせない鋳型の技術
工場見学では、まず鉄瓶の製造工程に注目。南部鉄器は鋳型に溶かした鉄を流し込むことで作られます。鉄瓶を作る際には粘土で型を形成し、専用の道具を使ってあられ文様を押し込みます。この文様は見た目の美しさだけでなく、表面積を増やすことで保温性を高める役割もあります。粘土で作った型は高温で焼いて固め、3つの型を組み合わせて鉄を注ぎ込みます。冷えて固まると鉄瓶が姿を現しますが、この焼型は数回しか使えないため、一つひとつが大変貴重です。
一方でフライパンなどを作る場合には、粘土ではなく砂で作った型を使用。砂型は繰り返し使えるため、生産性が高く、現代のニーズに合った量産にも対応できます。
命がけの作業・注湯
製造過程で最も緊張感が漂ったのが注湯(ちゅうとう)です。砂型の中にドロドロに溶けた鉄を流し込むのですが、鉄は冷めやすいため素早く作業する必要がある一方、勢いよく注ぐと砂型が壊れてしまう危険があります。この一瞬の判断と緻密な作業が求められる工程は、熟練した職人の技術に支えられています。作業中の火花や高温の鉄の映像は迫力満点で、観る側も息をのむほどでした。
仕上げ作業で美しい製品に
鋳型から取り出したばかりの鉄器には、まだ余分な部分や砂が付着しています。まずは金づちで型を落とし、付着した砂を払い落とします。その後、湯道と呼ばれる鉄の通り道を切り取り、さらにグラインダーでバリを削る仕上げ作業を行います。細部を丁寧に整えることで、南部鉄器は手に持ったときに滑らかで安心感のある仕上がりとなります。
そして最後に行われるのが金気止め(かなけどめ)と呼ばれる防錆処理。表面に酸化被膜を作ることで錆を防ぎ、見た目にも美しい黒い光沢を生み出します。こうしてようやく完成品が出来上がり、家庭に届けられるのです。
南部鉄器フライパンの実力を実食
工場見学のあとは、南部鉄器のフライパンを使ってチキンソテーや野菜炒めを調理。南部鉄器のフライパンは熱をじっくりため込み、温度が下がりにくいのが特徴です。通常のフライパンだと食材を入れると温度が下がってしまいますが、南部鉄器なら均一に加熱が続きます。そのため、肉は外はカリッと中はジューシーに、野菜はシャキッと歯ごたえを残したまま炒めることができます。料理人だけでなく、家庭でも活躍する理由がはっきりとわかる実演でした。
社長の思い・南部鉄器の未来
社長の及川さんは、「鉄瓶のイメージを変えたい」という思いから、多様な調理器具を製造する決断をしました。従来は「重くて扱いにくい」「お湯を沸かす専用」という印象が強かった南部鉄器を、もっと日常的に、幅広い料理に使えるようにと工夫しています。この挑戦は国内だけでなく海外からも注目されており、南部鉄器が世界的に愛される理由のひとつとなっています。
南部鉄器が選ばれる理由
南部鉄器は単なる伝統工芸品ではありません。調理効果と健康効果が評価されているのです。鉄器でお湯を沸かすと鉄分やカルシウムなどのミネラルが少しずつ溶け出し、日常的に不足しがちな栄養を補うことができます。さらに、耐久性が高く、手入れをすれば数十年単位で使えることから、サステナブルな生活にもつながります。
まとめ:南部鉄器は生活を豊かにする相棒
今回の「探検ファクトリー」では、900年以上続く伝統と現代的な挑戦が融合する南部鉄器工場の姿が紹介されました。注湯や仕上げといった危険で繊細な工程を経て、ようやく完成する製品には、職人の情熱と技術が込められています。約400種類もの調理器具を展開することで、南部鉄器は「昔ながら」から「毎日の暮らしを支える道具」へと進化を遂げています。もし「重いから大変そう」と敬遠している人も、小さなフライパンや鍋から試してみると、その便利さに驚くはずです。南部鉄器は、料理をもっと楽しく、もっと美味しくしてくれる頼もしい相棒なのです。
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