「風呂はロボットが掃除してくれる」は本当に実現するのか?
お風呂掃除は、トイレ掃除と並んで「嫌いな家事ランキング」の常連です。ぬめり、アカ、黒カビなどの汚れと向き合うあの作業に、誰しも一度はため息をついたことがあるのではないでしょうか。2025年5月5日放送のNHK『未来予測反省会』では、「1984年には家事をロボットが担うようになる」とした1964年の未来予測を振り返りながら、風呂掃除ロボットがなぜ普及しなかったのか、そして今どこまで進化しているのかを特集します。番組の放送後にさらに詳しい内容が判明し次第、記事を更新予定です。
1964年に描かれた夢と、今なお続く現実
1964年の未来予測では、「1984年にはロボットが風呂掃除を含めた家庭のほとんどの家事を担ってくれる」と信じられていました。当時は高度経済成長の真っ只中で、人々の暮らしも大きく変わろうとしていた時代です。科学技術の進歩に対する期待が高く、家庭内での労働が機械に置き換わることが当たり前のように思われていたのです。特に風呂掃除は、濡れたり腰をかがめたりと身体的負担が大きいため、「自動化されるはずの家事」としてその代表格に挙げられていました。
しかし、2025年の現在でも、ほとんどの家庭ではスポンジやブラシを手に持ち、人の手で風呂をこする作業が続いています。技術の進歩は確かにありましたが、風呂掃除ロボットだけはなぜか夢のまま。では、その理由は何だったのでしょうか。
まず挙げられるのは、「風呂汚れの多様性と複雑さ」です。風呂場にはさまざまな種類の汚れが同時に存在し、それぞれに違った性質があります。
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黒カビ:湿度が高い場所に生えやすく、タイルの目地やゴムパッキンの奥深くまで根を張るため、ただ表面をこするだけでは取れません。除菌と根本除去が必要なため、単純な掃除では対応が難しいのです。
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ピンク汚れ:正確には細菌の一種で、見た目は薄い赤やピンク色。シャワーホースや床の隅に発生しやすく、ヌルヌルとした手触りが特徴的です。掃除をさぼるとすぐに増え、再発も早いのが特徴です。
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水アカ:お湯の中に含まれるカルシウムやマグネシウムなどのミネラル成分が乾いて残ったものです。鏡や蛇口のまわりに白くうろこ状にこびりつき、普通のスポンジではなかなか落ちません。
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皮脂汚れや石けんカス:入浴中に出た体からの脂分や使用した石けんが壁や床、浴槽に付着し、時間とともに固まっていきます。これらが混ざり合うことで、より落ちにくい汚れになります。
これらの汚れは、それぞれに適した洗浄方法や洗剤、力加減が必要です。黒カビは漂白剤、ピンク汚れは中性洗剤、水アカはクエン酸や酸性洗剤など、対応がすべて異なるため、1台のロボットで自動的にすべてを解決するのは極めて難しかったのです。
さらに、汚れのつく場所も多様です。壁、床、天井、浴槽の縁、シャワーヘッド、排水口など、材質や高さがバラバラで、掃除するには立体的な動きと細かな制御が必要になります。たとえ風呂掃除ロボットを作っても、その複雑な構造のすべてに対応させるには高度なセンサーと精密な動作が求められ、コストも跳ね上がってしまいます。
このように、「お風呂掃除を一気に全自動化する」には、汚れの種類・掃除場所の構造・掃除方法のすべてに対応できる総合力が必要で、それが今までの技術ではカバーしきれなかったというのが現実です。
夢に見た「ボタン一つで風呂がピカピカになる世界」は、まだ完全には訪れていません。ですが、近年のAIやロボティクスの進化によって、再びその夢が現実に近づいていることも事実です。人の手で磨き続けてきたこの風呂掃除が、どこまで機械に任せられる日が来るのか。その未来を見守りたくなります。
なぜ風呂掃除ロボットだけ実現しなかったのか?
洗濯機や食洗機、掃除ロボットなどは、すでに多くの家庭で当たり前のように使われています。ボタンひとつで衣類が洗え、食器も自動でピカピカになる時代です。それなのに、なぜ風呂掃除だけは「人の手」に頼ったままなのでしょうか。その理由には、いくつかの技術的なハードルが存在します。
まず、浴室そのものの構造が非常に複雑であるという点が挙げられます。例えば床は滑り止めのためにザラザラしていたり、壁はつるつるのタイルだったりと、場所ごとに素材や仕上げが異なります。これは、清掃方法も部分ごとに変えなければならないということを意味します。
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壁には水滴や皮脂汚れ、カビが付きやすく、優しく洗わないと素材を傷つけてしまう可能性があります。
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床は凹凸が多く、ピンク汚れや黒カビが入り込むため、ブラシの毛の形状や動き方に工夫が必要です。
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天井は掃除しにくく、ロボットが届くためには可動域が広くなければなりません。
次に、湿気と高温の影響が大きい点も見逃せません。浴室は使用中に高温多湿になり、さらにシャワーや湯船からの水が電子機器に直接当たる可能性もあります。普通のロボットでは、すぐに水で壊れてしまうおそれがあります。
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電子基板やモーターを完全に防水するためには、密閉構造にする必要があり、コストが大きく上がってしまいます。
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万が一漏電やショートが起きた場合には、安全性に大きく関わるため、厳しい基準をクリアする必要があります。
そしてもうひとつの大きな壁が、清掃対象が非常に広く、かつ細かい隙間や段差が多いことです。たとえば浴槽のフチ、ドアの下、排水溝のまわりなど、掃除がしづらい場所ほど汚れやすいのです。
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狭い空間に入り込んでゴミを取り除くには、高度なセンサーや柔軟なアームが必要です。
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ロボットが動くには十分なスペースが必要ですが、家庭の浴室はそこまで広くないため、動作範囲の制約も大きいです。
これらの要素が重なり合った結果、風呂掃除ロボットの開発は「理想はあるけど、実用化が難しい」という状況が続いてきました。メーカーが挑戦を重ねてきたものの、家庭で使える価格帯・サイズ・安全性をすべて満たす商品は、なかなか誕生しなかったのです。
しかし、近年ではAIやIoT、ロボティクス技術の進化により、こうした壁を乗り越える動きも見られます。過去には乗り越えられなかった課題も、今なら新しい技術で解決できるかもしれません。風呂掃除ロボットが本格的に登場する日も、そう遠くはないのかもしれません。
日本メーカーの挑戦と進化の歴史
風呂掃除の自動化は、日本のメーカーにとっても長年の課題でした。特に「風呂文化」が深く根付いた日本では、清潔で快適な浴室環境を保つことが重視されており、そのニーズに応えるため、さまざまな技術開発が行われてきました。番組でも、その挑戦の歴史に注目しています。
たとえば、1990年代から一部の住宅メーカーや住宅設備企業では、風呂掃除を簡略化するためのユニットバスの改良や、部分的な自動洗浄システムの開発が進められてきました。中でも注目されたのが、以下のような技術です。
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高圧水流を使って壁や床の汚れを吹き飛ばす装置:勢いのある水流で、ヌメリや皮脂汚れを洗い流す方式。しかし、水はねや飛散を防ぐための設計が必要で、家庭の浴室には向かないケースが多くありました。
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洗剤入りの泡で汚れを浮かせるクリーニングシステム:浴室全体に泡を充満させ、浮かび上がった汚れを水で流すという方法。これは業務用としてホテルやスパで導入されることもありましたが、家庭用としてはランニングコストや泡の残留リスクが課題でした。
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高温のスチームによって除菌・汚れを軟化させる方式:カビの抑制や黒ずみの除去に効果がありますが、高温スチームは設備への負荷も大きく、安全性や電力消費量とのバランスが難しかったとされています。
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回転ブラシを使った壁面や床の自動清掃装置:床や壁を自走するタイプのブラシ付きロボットが試作されたこともありますが、段差への対応や隅の清掃精度に課題が残り、実用化には至りませんでした。
これらの技術はいずれも「掃除効果は高いが、導入コストや維持管理がネック」という評価を受け、家庭向けの商品としては広く流通することはありませんでした。とくに浴室は高温・高湿・水回りという過酷な環境のため、防水性や耐久性、そして安全性の確保が重要なハードルとなっていました。
また、音や振動も課題でした。たとえばモーターを使ったブラシ式の装置では、「夜間に使用すると音が気になる」「部屋全体に振動が伝わる」といった声もあり、マンションや集合住宅では使いづらいという現実的な制約もあったのです。
その結果、これまでの風呂掃除自動化の試みは、主に商業施設や医療福祉施設、高級マンションなどの一部限定された空間にとどまってきました。一般家庭での導入には、価格、設置の簡易さ、メンテナンス性、掃除精度と静音性という複数の条件を同時に満たすことが求められたため、普及には至らなかったのです。
それでも日本のメーカーは、長年にわたって改良と研究を続けてきました。今ではその技術が、AIやセンシング技術と融合し始めており、再び風呂掃除ロボットの可能性が注目されています。こうした過去の蓄積があったからこそ、今の進化があるといえるでしょう。
そして今、風呂掃除ロボットに新たな希望が
ここ数年で急速に進化しているのが、AI(人工知能)とロボティクス技術の融合による新しい風呂掃除の自動化です。これまで難しいとされてきた「汚れの判別」や「掃除範囲の制御」といった課題に対し、技術が現実的な解決策を示し始めています。
特に注目されているのが、AI画像解析の導入です。これにより、浴室内に取り付けられたカメラやセンサーが汚れの種類を自動で識別し、それぞれに合った掃除方法を判断することが可能になりました。
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黒カビのように根が深い汚れには、塩素系の洗剤とブラシの動きを組み合わせる
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水アカが確認された場合は、酸性の洗浄成分とスチーム処理を行う
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ピンク汚れには軽めの中性洗剤と広範囲洗浄で対応する
このように、“どこに・どのような汚れがあるか”をAIが判断し、最適なアクションを選択することで、従来の一律な自動洗浄とは一線を画す高精度な清掃が可能になっています。
さらに、センサー搭載型のクリーニングアームの開発も進んでいます。これは、浴室の壁や床の形状を立体的に読み取りながら、回転ブラシやスプレーノズルを自動制御して清掃を行う装置です。
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曲線状の壁面やコーナー部分にも柔軟に対応
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狭い隙間にも入り込んで汚れを取り除く
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必要以上に力をかけず、素材を傷めずに清掃できる
このように、人間の手の動きに近い制御が実現されつつあり、複雑な構造の浴室でも高い清掃性能を発揮できる見込みです。
また、IoT(モノのインターネット)との連携によって、浴室の使用履歴や湿度・気温・時間帯などのデータを蓄積し、「いつ・どこを・どれくらい掃除すべきか」を自動で判断する仕組みも注目されています。
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毎日の入浴後に軽めの掃除を提案する「予防清掃モード」
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湿度が高い日には、カビの発生を見越して集中的に換気と洗浄を行う
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入浴者が多かった日は、皮脂汚れを中心に掃除するよう調整
これにより、「汚れてから掃除する」から「汚れる前に最適なケアを行う」という発想の転換が進み、浴室の美観と衛生が長く保たれるようになります。
さらに、洗剤を使わずに泡やナノスチームで汚れを浮かせる新しい洗浄技術も登場しています。微細な泡や水蒸気が汚れの隙間に入り込み、こすらずに汚れを剥がすことが可能となり、素材を傷つける心配もありません。
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ミスト状の洗浄液が壁や床にまんべんなく広がり、均一に作用
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自然乾燥と組み合わせることで、カビの再発を抑制
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小さな子どもや高齢者がいる家庭でも、安全性の高い掃除環境が実現
これらのテクノロジーは、すでに一部のハウスメーカーや研究機関のモデル住宅で導入が進んでおり、実験段階を超えて、家庭向け製品として実用化に向けた動きが本格化しています。
今後数年以内には、価格やサイズ、設置のしやすさなどの課題が解決され、一般家庭でも“風呂掃除ロボット”を当たり前に導入する時代が訪れる可能性が高いと見られています。まさに「未来予測」が、いよいよ現実に近づいてきているのです。
番組が描く“これからの風呂掃除”
『未来予測反省会』では、過去の夢がなぜ叶わなかったのかを検証しながらも、「今こそ実現できるかもしれない」という希望を伝えてくれます。司会を務める影山優佳さんと、出演の長谷川忍さんが、技術の進歩や開発者たちの努力を紹介しながら、未来に向けて何が必要なのかを探っていく構成です。
さらに、番組の中では「今あるお風呂掃除サポートグッズ」や「導入事例」なども登場する可能性があります。“風呂好き大国・日本”だからこそ生まれるこだわりの開発にも注目です。
今や夢物語だった未来が、AIとロボットの進化によって現実に近づきつつあります。私たちが日々感じてきた「めんどうな風呂掃除」から解放される日は、そう遠くないのかもしれません。
放送後、さらに詳しい内容が分かり次第、この記事を最新情報に更新してまいります。
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