“ええかげん”でいい 土井善晴 自由を感じる家庭料理の提案
2025年7月8日(火)に放送されたNHK総合「クローズアップ現代」では、料理研究家の土井善晴さんが登場し、「“ええかげん”でいい」というユニークであたたかい視点から家庭料理の魅力を語りました。今回の番組は、忙しい現代の中で多くの人が抱える「料理へのプレッシャー」や「完璧さへのこだわり」から自由になるヒントが詰まった内容でした。家庭料理をもっと楽しく、もっと自由に、自分らしくするためのヒントが満載です。
家庭料理の一番の魅力は“ええかげん”にある
番組の冒頭では、土井善晴さんが「家庭料理には正解がない」というテーマを掲げながら、味噌汁作りを通してその思いを伝えていました。具材をきれいに切り揃える必要もなく、出汁をとるために難しい手順を踏まなくてもいい。野菜や具材から自然においしい出汁が出るから、それだけで十分だという考え方は、多くの人の肩の力を抜いてくれるものでした。
例えば、「味噌汁はこう作るべき」という固定観念を外し、そのとき家にある材料を使い、五感で調整しながら作る。その“適当さ”こそが、家庭料理ならではの自由さと楽しさだというのです。土井さんは、家庭料理に「いつも同じであること」や「完璧な出来」を求めない姿勢こそが、毎日を心地よく暮らす知恵であると語っていました。
土井流が広く支持される理由とは?
番組では、家庭料理に悩みながらも向き合ってきた人たちの体験談も紹介されました。3人の子どもを育てながら共働きしてきた塚本さんは、土井さんの「ええかげんでいい」という言葉に救われた一人です。以前はレシピ通りに分量を測り、手順を守り、ちゃんと作らなきゃという思いでいっぱいだったそうです。
しかし、土井さんの考え方に出会い、「ちゃんとやらなくても大丈夫、自分が心地よく作れるのが一番」という気づきを得て、料理に対する気持ちがガラッと変わったそうです。「味つけも、自分が食べる人のことを思いながら調整すればいいし、うまくいかない日があってもそれでいい」と思えるようになったことが、大きな変化だったと語っていました。
さらに、料理動画を見て土井さんの料理に興味を持った棚橋さんも登場。「失敗しても、それも料理の一部」という土井さんの言葉に勇気をもらい、決まりきったやり方ではなく、自分で工夫しながら料理する楽しさを知ったそうです。自由な発想と“自分らしいやり方”が尊重されるスタイルに、多くの共感が集まっている理由がよくわかりました。
自分の“ええかげん”は五感で見つける
土井さんは、「自分にとっての“ええかげん”は五感で探すもの」と語ります。レシピ本の数字に頼るよりも、実際に見て、触って、においを感じて、音を聞いて、味を確かめながら作ることが大切。料理は理屈ではなく、体験の中で感覚を育てるものだというのです。
番組では、「朝ごはんにカステラを出した」というちょっと変わった例も紹介されました。普通の朝食とは違っても、それがその日の自分の“ちょうどいい”であれば、それでいい。誰かの基準に合わせる必要はなく、自分の感覚を信じて料理すれば、それは立派な家庭料理になるという考え方が紹介されました。
料理という行為を、「作業」や「ノルマ」ではなく、「素材との会話」「感覚の冒険」としてとらえる土井さんの言葉には、料理への見方が変わるような力がありました。
フランス料理から家庭料理へ 大きな転機となった民藝との出会い
土井さんの料理人生は、最初から家庭料理が中心だったわけではありません。若い頃はフランスに渡って料理の修業を積み、帰国後も和食の名店でプロの料理人として腕をふるっていました。当時は、材料をきっちりそろえ、美しく盛り付けることこそが料理の完成形だと信じていたといいます。
そんな土井さんの考え方が変わったのは、父である料理研究家・土井勝さんを手伝い、家庭料理を教えるようになったことがきっかけでした。そしてその転機の背景には、「民藝(みんげい)」という考え方との出会いがありました。民藝とは、名もなき職人たちが生活の中で使うために作った道具のこと。飾りすぎず、実用的で素朴な美しさをもつ品々が多く、その「作為のなさ」に心を打たれたと語ります。
この出会いが、家庭料理にも通じる感覚を育て、土井さんが「手間をかけず、あるものを生かす料理こそ美しい」という考え方に変わる大きなきっかけとなりました。
忙しい時代だからこそ、料理は“自分を大切にする時間”になる
現代では、忙しさの中で料理をする時間が減ってきています。でも土井さんは、「料理することは、自分を大事にする行為」だと強く語ります。ごはんを作ることは、自分のため、そして誰かのために時間を使うこと。それは、単に食べ物を用意するというだけではなく、「相手と時間を共有すること=“とき”を一緒に過ごすこと」でもあるのです。
「時間は“とき”であり、“溶けあうこと”」という土井さんの言葉には、料理を通じて人とのつながりを感じるあたたかさがあります。料理が“めんどう”なものではなく、自分や大切な人を思う小さなやさしさの時間だと考えることで、家庭料理はもっと自由で、もっと楽しくなるのかもしれません。
【放送概要】
番組名 | クローズアップ現代 |
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放送日 | 2025年7月8日(火) |
放送時間 | 19:30~19:57 |
放送局 | NHK総合 |
テーマ | “ええかげん”でいい 土井善晴 自由を感じる家庭料理の提案 |
出演者 | 土井善晴、桑子真帆(キャスター) |
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