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NHK【クローズアップ現代】若者にも広がる孤立死の現実と社会が果たすべき責任|5月13日放送

クローズアップ現代

小さな“孤独”が命を奪う…若者にも広がる孤立死の現実とは

2025年5月13日に放送されたNHK『クローズアップ現代』では、「小さな“孤独”が命を… 初の全国推計 孤独死・孤立死の実相」と題して、これまで高齢者の問題と思われがちだった「孤独死」が、実は若い世代にも広がっている現実を明らかにしました。国が初めて公表した推計データ、現場の声、専門家の意見などを通じて、今社会で何が起きているのか、そして私たちは何をすべきかを考える放送となりました。

初の全国推計で見えた“孤独死”の実数

2025年4月、国が初めて「孤立死」に関する全国推計を公表しました。その結果、「死後8日以上経って発見された一人暮らしの人」は全国で2万1856人にのぼることが明らかになりました。これは、誰にも気づかれずに亡くなる人が1年間に約2万人以上いるという、社会として見過ごせない深刻な数字です。年齢層で見ると、最も多かったのは70代であり、高齢者の孤立死がいまだ中心的な課題であることも示されました。

しかし、さらに注目すべきは、「死後4日以上経過して発見された一人暮らしの人」という別の指標です。こちらでは、割合で見たときに20代・30代の若年層が高齢者をやや上回っていることがわかりました。つまり、人数では高齢者が多いものの、孤立死に至る割合としては若い世代の方が危険な状況にあるという事実が浮き彫りになったのです。

この推計値から読み取れる主なポイントは以下の通りです:

  • 死後8日以上放置されたケースが2万件以上

  • 70代が最も多く、高齢者の問題が顕著

  • 20代・30代の割合が高齢者を上回る結果に

  • 孤立死はすでに全年代共通の課題となっている

これまで「孤独死=高齢者」というイメージが強くありましたが、実際には若者も同じように社会の中で孤立し、助けを求められずに命を落としていることが、初めて数値として裏づけられたのです。SNSや仕事を通じて外部と接点があるように見えても、それは表面的なものであり、本質的なつながりが失われている人は少なくありません。

このデータは、社会に対して新たな視点と責任を突きつけるものであり、孤独を「個人の問題」ではなく、「社会全体の課題」として捉える必要性をはっきりと示しています。特に、若年層の孤独死という見えにくい問題を今後どのように防いでいくのかが、これからの重要な課題となります。

若者にも広がる“孤立死”の現場と変化

孤独死の現場に関わる遺品整理や特殊清掃の業界でも、明らかな変化が現れています。番組に登場した井岡さんは、かつては依頼の多くが高齢者のケースだったと語ります。しかし2019年以降、20代・30代の若者の孤立死に関する依頼が増加し、昨年には35件に達したという事実が紹介されました。これは、若者の間でも孤独死が確実に広がっていることを示しています。

実際の事例として紹介されたのは、28歳の女性がワンルームのアパートで1人亡くなっていた現場です。彼女の部屋には、仕事関係の書籍や友人からの手紙などが残されており、人とのつながりが全くなかったわけではありません。しかし、誰も彼女の変化や異変に気づかないまま、死後に発見されるという事態になってしまいました。これが意味するのは、「人付き合いがあるように見えても、心の中では誰にも頼れずにいた可能性がある」ということです。

このような状況は、次のような形で現れています:

  • 若者の孤独死が年々増加している

  • 外見では判断できない深い孤独が背景にある

  • 仕事や交友関係があるように見える人でも孤立しているケースがある

  • 誰にも本音を言えないまま亡くなってしまう若者が存在する

表面的には明るく社交的に見える若者でも、心の中に抱えている孤独は他人には見えにくく、察知しづらいのが現代の特徴です。SNSの普及やリモート社会の影響により、コミュニケーションの機会が増えたように見えても、深い信頼関係や心の支えになる存在を持たないまま、孤独を感じている人は少なくありません。

この現象は、いわば“見えない孤立”であり、従来の福祉や見守り体制では対応が難しい領域に踏み込んでいます。孤立死は、すでに年齢を問わない「すぐそばにある現実」になっていることを、私たちは受け止める必要があります。

ごみ屋敷とセルフ・ネグレクトの関係

若者の孤独死が発見される現場には、ある共通した特徴があります。それが「ごみ屋敷」状態です。床一面にごみが積もり、生活スペースがほとんど失われた状態は、単に掃除ができないということではなく、自分の健康や生活を保つこと自体をあきらめてしまう「セルフ・ネグレクト(自己放棄)」という深刻な状態を表しています。

番組で紹介されたのは、30代前半の美咲さん(仮名)です。彼女は都内のマンションで一人暮らしをしており、6年前からごみが捨てられなくなり、床から1m近くごみが積もる生活を続けていました。日々の生活もままならず、食事は1日1回、シャワーは週に2回程度という極めて不安定な状態に陥っていました。

しかし、彼女は外に出るときにはきちんと化粧をして明るく振る舞い、数人の友人とも交流がありました。経済的にも安定しており、フリーライターとして働いていたため、見た目や職業生活からは異常が見えづらかったのです。

このような状態に陥った背景として、美咲さん自身が語っていたのは次のような内容です:

  • 大学4年生のときに就職活動がうまくいかなかった

  • 恋人との別れを経験し、そのことを誰にも相談できなかった

  • 「本音を話すと関係が壊れてしまうのでは」という不安から誰にも打ち明けなかった

  • SNSで楽しそうな同年代の投稿を見るたびに孤独感が深まった

表面的には人とつながっているように見えても、心の内側では深い孤独と無力感に押しつぶされそうになっていたことがうかがえます。このような“見えない孤立”が、日々の生活機能の崩壊という形で現れ、やがて命に関わる危機へとつながっていくのです。

専門家は、ごみ屋敷状態とセルフ・ネグレクト、そして孤独死との関連性に注目しています。ごみを捨てる気力が失われることは、心のエネルギーが尽きている証拠であり、支援が届かないまま時間だけが経過すると、誰にも気づかれずに命が尽きてしまう可能性があります。

このケースは、孤独が必ずしも「完全な一人きりの生活」に限らないという事実を示しています。人との関係があっても、本音を話せなければ孤立してしまう。そして、それが行動や環境に表れ、最終的には生死に関わる問題へと発展してしまうことがあるのです。

若者が感じる“支援のにおい”と共感の場の重要性

内閣府の調査によると、「孤独感がしばしばある・常にある」と感じている人の割合は20代・30代で特に高いことが明らかになっています。若い世代ほど孤独を感じているというデータが示されている一方で、そうした人々に支援を届けることの難しさも浮き彫りになっています。なぜなら、多くの若者は「支援っぽさ」を敏感に感じ取り、「重たい」「距離を詰めすぎている」「支援されていると感じたくない」といった心理的抵抗を抱く傾向があるからです。

こうした背景から、今求められているのは「支援」ではなく「共感」です。形式的なサポートよりも、「わかってくれる」「同じ気持ちの人がいる」と感じられる場や関係性が、若者の心を支える大きな柱になっています。

具体的な事例として番組で紹介されたのが、SNSを活用した匿名のチャットグループです。20代のひかさん(仮名)は、同じような悩みを抱える人とつながれるこの場所で、はじめて心が軽くなったと語っています。このSNSでは、テーマ別に部屋が分かれており、匿名で自由にチャットをしたり、話を聞いたりしてもらえる仕組みになっています。誰かとつながりたいけれど、顔を見せるのは怖いという人にも安心して使える設計が好評で、現在の利用者の約6割が20代・30代の若者であるという事実からも、そのニーズの高さがうかがえます。

さらに、都内のIT企業では「コミューン」という社内活動を導入し、若手社員の孤独感軽減に取り組んでいます。ここでは、管理職は参加せず、若手社員同士が自発的に交流できるグループを作ることで、仕事以外の人間関係が築かれるよう工夫されています。活動内容は釣りやゲームなど自由に選べるほか、費用は会社が補助し、「会社の仕組みだから参加しやすい」という心理的ハードルの低さも重要なポイントとされています。

こうした取り組みに共通するのは、「あなたのために用意しました」といった押しつけがましさを避け、自分の意思で“関わってもいい”と思える柔らかいつながりを作っている点です。若者が孤独を感じる背景には、「人に迷惑をかけたくない」「弱さを見せたくない」という思いが根底にあることも多く、自分のタイミングで関われる仕組みが必要とされています。

社会が本当に若者の孤独に寄り添うには、「こうすべき」という正論よりも、“わかるよ”と寄り添う共感の姿勢が求められているのです。支援という言葉が届かない時代だからこそ、共感という“場”の力が試されているのかもしれません。

孤独と向き合うには「場」の提供と選択の自由がカギ

番組に出演した石田教授は、「現代は“人と出会う場”が失われている」ことを指摘しました。職場や地域社会での自然な出会いの場が減ったことが、孤立を深める原因の一つとなっているのです。一方で、「さびしくても自由が大事」という考えを持つ人も多く、“誰かと関わる自由”と“関わらない自由”のバランスをどう保つかが課題です。

奥村さんは「支援のにおいがしないよう気をつけている」と語り、声をかけることの大切さも訴えました。SNSで病んでいる様子の投稿を見たときには、おせっかいかもしれないけれど「大丈夫?」と声をかけるようにしているという姿勢は、私たちにもできる行動のヒントとなります。

孤独から一歩踏み出す勇気

美咲さんは、近所からの苦情を受けて退去を求められ、清掃会社が入りました。彼女は家族に事情を打ち明け、実家に戻るという選択をしました。「申し訳ないけど、この部屋が片付いたことで少し前向きになれた」と語る彼女の姿は、孤独から抜け出す小さな一歩が、次の一歩につながることを教えてくれます。

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