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【クローズアップ現代】やっぱりモノが届かない!?物流の限界と“負のスパイラル”〜ドライバー規制の影響と暮らしへの影響を徹底検証|2025年4月7日放送

社会

やっぱり「モノが届かない!?」〜2025 高まる物流危機〜|2025年4月7日放送回まとめ

2025年4月7日にNHK総合で放送された『クローズアップ現代』では、トラックドライバーの労働時間規制から1年が経過したいま、物流業界で何が起きているのかが詳しく取り上げられました。タイトルは「やっぱり『モノが届かない!?』〜2025 高まる物流危機〜」。暮らしを支える物流にどんな異変が起きているのか、番組では実際の現場を丁寧に取材していました。

“荷物が届かない”現実の始まり

番組の冒頭では、仙台に住む男性の転勤エピソードが紹介されました。4月の異動で首都圏へ移動する予定でしたが、引っ越し荷物の運送が間に合わず、期日を過ぎても荷物が届かないという異常事態が発生しています。これまでは「すぐ届いて当然」だった引っ越し荷物が、いまはそう簡単には運ばれなくなっているのです。

背景には、2024年から本格的に始まったトラックドライバーの労働時間規制があります。ドライバーの健康を守るために定められたこの制度では、年間の拘束時間が原則3300時間とされています。番組で取材された関西のある運送会社では、1月末の時点ですでに2800時間を超えるドライバーが複数名いることが明らかになりました。

  • 拘束時間とは、運転時間だけでなく待機・準備・積み下ろしなどを含む業務全体の時間

  • 制限を超えてしまうと、それ以上の運行ができず業務から一時的に外れざるを得ない

  • これにより、繁忙期であっても運送可能な人員が足りなくなるという問題が発生

取材された運送会社では、毎日の運行スケジュールを管理する業務が想像以上に煩雑になっており、ドライバーごとの拘束時間の把握と調整に追われていました。担当者は、誰が何時間残っているかを把握しながら仕事を振り分ける必要があり、配車そのものが難しくなっているといいます。

このような制度の導入によって、無理な労働を防ぐという目的は果たされつつありますが、その一方で、モノが予定通りに届かない事態が現実に起きているという矛盾した状況が生まれています。

  • 転勤、就職、入学など春の引っ越しが集中する時期に合わせて配送が間に合わない事例が全国で報告

  • トラックを確保できずに引っ越しが延期される世帯もあり、生活立ち上げに支障が出ている

一見、個人の困りごとのように見える引っ越しの遅れですが、これは物流全体の供給力が限界を迎えていることを示す象徴的なエピソードです。今後、このような“届かない”事例は引っ越しに限らず、日常のさまざまな場面に波及していく可能性があります。物流のひずみは、すでに私たちの暮らしのすぐそばに迫っているのです。

“荷待ち”が労働時間を圧迫

ドライバーの労働時間を長くしている原因のひとつに、「荷待ち」という問題があります。これは、運送先に到着してから荷物を積み込んだり、降ろしたりするまでの時間にドライバーが待たされることです。番組で紹介された加藤さん(仮名)は、朝5時に仕事を始め、午後1時47分に現場へ到着しました。しかし、荷主からの受け取り時間が指定されていなかったため、その場で3時間16分も待つことになったのです。

  • このような荷待ちは毎日のように発生しており、年間では600時間以上にのぼる

  • 拘束時間の上限(年間3300時間)のうち、およそ5分の1が“待つだけの時間”に使われている

  • 荷待ち時間中もドライバーは“仕事中”として扱われ、休憩としてカウントされないため、労働時間の調整が難しくなっている

このような状況が日常的に続けば、いくら運行ルートを調整しても労働時間の削減にはつながりません。加えて、現場では荷主側の準備の遅れや、受け入れ体制の不備も問題になっています。トラックが次々と集まる時間帯になると、限られた人員での対応に追われ、ドライバーが外で何時間も待つという構図ができてしまっているのです。

  • 荷主側の都合で積み込みが遅れたり、先に到着した他の車両の作業が終わるまで待機が続く

  • 一部の現場では、待機時間中にトイレも自由に使えず、車内で何時間も過ごすドライバーもいる

  • デジタル化が進んでいない現場では、手書きの台帳による管理のため、トラックの待ち状況が見えにくい

こうした課題に対して、国はモーダルシフト(鉄道や船に切り替える)やリレー輸送(複数人で分担する方式)を推進しています。けれども、現実の現場ではまだ改善が進まず、平均して1運行あたり約3時間も荷待ちや積み下ろしにかかっているのが現状です。

国の目標では「1運行につき荷待ちや積み下ろしを含めて2時間以内におさめる」ことを掲げていますが、その理想には遠く及ばない結果となっています。

つまり、ドライバーの労働時間削減を実現するには、トラックが走っていない時間、つまり“待っている時間”をどれだけ減らせるかが鍵になります。この見えにくい時間の使い方こそが、いま物流現場で最も大きな課題として浮き彫りになっているのです。

給料が減る現実とジレンマ

ドライバーの労働時間規制は、健康や安全を守るために必要な制度ですが、その一方で歩合制で働くドライバーの収入に深刻な影響を及ぼしています。番組で紹介された男性ドライバーは、10年近く長距離輸送に携わり、3人の娘を養う一家の大黒柱です。これまで長時間働くことで生活費を確保してきましたが、規制により労働時間を減らさざるを得なくなり、月の手取りが約7万円も下がる見通しだといいます。

  • ドライバーの多くは走行距離や運行回数に応じて給料が決まる歩合制

  • 時間外労働を制限されることで、物理的に稼げる上限が下がってしまう

  • 単価の引き上げが必要だが、運送会社自体が赤字になっており、給与アップは難しい

このような背景から、走らなければ稼げないというジレンマに直面し、無理をしてでも長時間運転を続けるという選択をするドライバーが後を絶ちません。

さらに問題なのは、会社側の努力が報われにくいという現実です。関東のある運送会社では、労働時間の規制を守りながらもドライバーの賃金を維持しようと工夫を重ねていました。荷主に対して運賃の値上げを何度も交渉しましたが、応じてもらえず、結果的に他社に仕事を奪われてしまう状況に陥っています。

  • 荷主からは「他にもっと安く請け負う会社がある」として交渉を拒否されることが続出

  • 法令遵守にコストがかかる一方で、規制を守らない会社に依頼が流れる現象が起きている

  • この会社では、1年間で約1700万円もの売上が減少しており、経営が大きく傾いている

このような状況が続くと、まじめに取り組む企業ほど経営が難しくなる“負のスパイラル”が加速してしまいます。長時間労働を減らしても、運賃が据え置きのままでは、事業者も働く人も共倒れになりかねません。

制度を守ることが正しいのに、それによって生活が苦しくなり、会社も潰れてしまうような矛盾が、いまの物流現場で起きているのです。これは単なる業界内の問題ではなく、持続可能な社会の仕組みとしての物流のあり方を問われる深刻な課題といえます。

トラック・物流Gメンの働きかけ

トラックドライバーの労働環境を守るため、国は新たな取り組みとして「トラック・物流Gメン」を設置しました。Gメンの役割は、運送会社やドライバーから現場の声を集め、荷主に対して適正な取引を促すよう働きかけることです。制度としては以前から荷主への勧告はありましたが、Gメンの導入により行政指導の件数が大幅に増加しています。

番組では、トラック・物流Gメンがある大手飲料メーカーに対して抜き打ちで訪問する様子が紹介されました。現場での調査を通じて、ドライバーの拘束時間や荷待ちの状況を確認し、改善が必要な場合は企業側に直接要請を行います。

  • 調査対象となった飲料メーカーでは、運賃を引き上げると製品価格の値上げにつながるため、小売業者が受け入れてくれないという理由で交渉が難航

  • 製品の価格を据え置きたいという小売店の要望が、物流費の適正化を妨げる大きな壁になっている

こうした背景により、運送会社に正当な対価が支払われず、過酷な条件での輸送が温存される構図が見えてきます。しかし、その一方で物流の効率化に前向きに取り組んでいる企業の例も紹介されました。

  • あるスーパーでは、これまで別々に輸送していた冷蔵と常温の商品を一括で運ぶ仕組みに変更

  • 積み込みの手間を減らし、トラックの回転率を上げることで、効率的な配送を実現

  • 浮いたコストを運賃に反映させ、5〜8%の運賃引き上げが可能になった

このように、運送会社だけでなく荷主側も物流効率を見直すことで、持続可能な関係が築ける可能性があります。物流Gメンの働きかけにより、企業が変わるきっかけが生まれているのです。ただし、現在全国にいるGメンは約360人。対象となる運送会社は6万社を超えており、すべてに目を行き届かせるのは難しいのが現実です。

今後は、Gメンの活動を拡充するだけでなく、荷主・小売・運送が一体となった改善努力が求められます。物流という社会の基盤が崩れないようにするために、すべての関係者の意識と行動が試されている段階にあるといえるでしょう。

デジタル化と業界全体の意識改革

物流業界の改善に向けて、国土交通省は新たに「荷待ち時間2時間以内」を努力義務とする方針を打ち出しました。これは長時間の待機によるドライバーの負担軽減と、業務全体の効率化を狙った取り組みです。制度の対象となった企業では、現場の体制見直しが急ピッチで進んでいます。

たとえば、勧告を受けた家電納入企業では、朝に荷物が集中しすぎる問題を解消するため、複数の倉庫に荷物を分散する工夫を始めました。また、これまで荷待ち状況を把握する手段がなかったため、紙の台帳で手作業管理していた入出庫記録を、デジタルシステムに切り替える対応も進行中です。

  • 各倉庫での出入り状況をリアルタイムで把握できるようにし、トラックの到着や待機時間を可視化

  • 2025年度中に、全国400社とのデータ連携による一元管理体制を構築予定

  • 運送会社の声も反映しながら、実用的な仕組みを現場に根付かせる試みが進められている

このように、現場単位での改善は始まっているものの、物流業界全体としてはまだ課題が山積しています。物流問題に詳しい首藤若菜氏は、**「ドライバーの労働時間の状況は二極化している」**と述べ、大手企業では制度対応が進んでいる一方で、中小企業では人手・資金不足のため対応が追いつかない状況を指摘しました。

  • 大手ではデジタル化や業務分担が進んでいるが、中小では紙管理が当たり前という現場も多い

  • 運行計画の立案や配車システムの導入にも高額なコストがかかるため、小規模事業者には導入が難しい

さらに、業界が抱えるもうひとつの深刻な問題は、過当競争による運賃の低迷です。調査では、運送事業者の半数以上が「標準運賃の7割以下」で契約していると答えており、これが労働環境の改善を阻む大きな壁となっています。

  • 本来支払われるべき運賃よりも大幅に安い金額で契約せざるを得ない会社が多い

  • 正当な報酬が支払われなければ、設備投資や人材確保にもつながらず、業界全体の体力が失われていく

さらに将来についても、心配な見通しが示されています。首藤氏によれば、日本の輸送能力は2030年までに34%減少すると予想されており、高齢化や担い手不足が拍車をかけています。このままでは、運びたくても運べない“物流の限界”が当たり前の時代が来る可能性も否定できません。

つまり、物流のデジタル化や制度改革は避けて通れない道ですが、それと同時に、業界全体が協力し合う意識の改革がなければ根本的な解決にはなりません。国・企業・消費者、それぞれが物流の価値と現状を正しく理解し、持続可能な仕組みづくりに参加する姿勢が問われているのです。

物流の未来と私たちができること

国は今後、荷主への監視と対話をさらに強化し、物流の持続可能性の確保を目指しています。調査では、物流コスト増による商品価格の上昇について、「約8割の人が受け入れられる」と回答しており、消費者の理解も鍵となっています。

番組は、物流を単なる“運ぶ仕組み”ではなく、社会インフラの一部として捉え直すべきだと強調しました。今後は消費者も含めた全体の意識改革が求められていることを、力強く訴える内容でした。

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