人体III 第3集「命のつながり 細胞40億年の旅」
2025年5月25日(日)よる9時から放送されるNHKスペシャル『人体III 第3集「命のつながり 細胞40億年の旅」』は、私たちの命がいつ、どこから始まったのかという壮大な問いに迫る特別番組です。司会はタモリさんと山中伸弥さん。ゲストには女優の米倉涼子さん、競泳選手の池江璃花子さんを迎え、命の始まりと生命のつながりについて考えていきます。腎臓病の最先端医療を出発点に、地球上すべての生きものがつながっているという驚きの科学的事実を解き明かす構成です。放送後、より詳しい内容が分かり次第、最新情報を追加いたします。
腎臓病の常識をくつがえす最前線の治療法
番組では、まず「重度の腎臓病をどう改善していくか」という切実なテーマからスタートします。これまで腎臓病の治療といえば、食事制限や透析療法が中心でしたが、近年では病気の進行を食い止める新たな治療法が次々と登場し、治療の常識が変わりつつあります。中でも注目されているのが、以下のような4つのアプローチです。
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SGLT2阻害薬
この薬はもともと糖尿病の治療薬として開発されました。体内で余分な糖を尿と一緒に排出することで、血糖値を下げる働きがあります。ところが、最近の研究で、糖尿病がない人でも腎機能の悪化を防ぐ効果があることが分かり、慢性腎臓病(CKD)への適応が広がっています。今では、透析を回避する手段の一つとして期待されています。 -
アルドステロン拮抗薬の再評価
体内の塩分や水分のバランスを調整する役割を持つこの薬は、従来から高血圧や心不全の治療に使われてきました。最近では、腎臓病の進行抑制にも効果があるとして再注目されています。とくに、腎臓の線維化(かたくなること)を防ぐ働きがあることがわかり、腎臓機能を守るうえで重要な選択肢とされています。ただし、副作用として高カリウム血症などのリスクがあるため、医師の細かな管理が必要です。 -
幹細胞を使った再生医療
名古屋大学では、脂肪から採取した間葉系幹細胞を活用し、腎臓の修復をめざす研究が進められています。この細胞は、傷ついた組織を修復する力を持っており、動物実験では炎症の軽減や腎臓の機能回復に効果が見られました。再生医療という分野は、まだ人への適用は研究段階ではあるものの、将来的には透析に頼らない治療として大きな希望となっています。 -
HIF-PH阻害薬(腎性貧血の新しい飲み薬)
慢性腎臓病が進行すると、赤血球を作る力が低下して「腎性貧血」が起こります。これまでの治療は注射が中心でしたが、このHIF-PH阻害薬は経口投与できるという点で、患者にとって大きな負担軽減になります。血中の酸素濃度を感知して、体が赤血球を増やすように働きかけるため、貧血の改善と生活の質の向上が期待されています。
このように、腎臓病の治療は「もう治らない」「透析は避けられない」という従来のイメージを大きく変えようとしています。一つの臓器の進化が、命そのものを支える科学の進歩と直結していることが、このテーマを通じて伝わってくるのです。未来の医療は、臓器を守ることから命をつなぐことへと、大きく踏み出そうとしています。
命の始まりと地球上のすべての生命のつながり
今回の番組が掘り下げるのは、「命はいつ、どこで、どのようにして生まれたのか?」という根源的な問いです。私たち人間の体を作る細胞の起源をたどると、約40億年前の冥王代にまでさかのぼります。この時代、地球はまだ灼熱のマグマと厚い雲に覆われたような環境でしたが、その中で、最初の生命が誕生したと考えられています。
その生命体こそが、すべての生きものの共通の祖先、「LUCA(Last Universal Common Ancestor)」です。LUCAはたった1つの原始的な細胞だったとされ、そこから微生物や菌類、植物、動物、そして私たち人間に至るまで、分岐と進化を繰り返して現在の生命の多様性が形づくられてきたのです。
生命がどのようにして誕生したのかについては、いくつかの有力な仮説が提唱されています。
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地球起源説
原始の地球では、火山の噴火や激しい雷、紫外線などが活発に起きており、それらのエネルギーが無機物に作用して有機物が自然にできたと考えられています。1953年に行われた「ミラーの実験」では、この環境を人工的に再現することでアミノ酸が合成され、生命誕生のヒントが示されました。これは今も教科書で紹介される代表的な実験です。 -
深海熱水噴出孔説
地球の深海には、海底から熱水が噴き出す「熱水噴出孔」と呼ばれる場所があります。この極限環境では、太陽の光が届かないにもかかわらず、多様な微生物が生息しており、生命活動が確認されています。そのため、こうした環境で有機物が安定的に生まれ、生命が始まった可能性があるという考えが生まれました。現在でも多くの研究チームがこの説に注目しています。 -
パンスペルミア説
一風変わったこの説では、生命のもとは地球外から運ばれてきたとされています。たとえば、微生物を含んだ隕石が地球に衝突したり、宇宙空間を漂う有機物が地球の環境に取り込まれたりした可能性があると考えられています。この説を支持する研究では、宇宙空間でも生き延びることができる「クマムシ」のような生物の存在や、隕石から検出されたアミノ酸などが根拠として挙げられています。
これらの仮説はいずれもまだ決定的な証拠は得られていませんが、いずれも興味深い視点を提供してくれます。世界中の科学者たちは、今もさまざまな実験や観測を通じて、生命の起源に迫ろうとしています。なぜなら、それは私たちがなぜここに存在するのか、という問いに対する答えに直結しているからです。
つまり、この番組が伝えようとしているのは、私たちが生きていること自体が40億年の連なりの中にある奇跡であり、同時に地球上のすべての生命が「家族」のようにつながっているという事実です。この壮大な視点に立ったとき、私たちは「命」をより深く見つめ直すことができるのです。
細胞という共通点から見える“私たちはきょうだい”
番組の中で語られる「地球上すべての生きものは“細胞きょうだい”」という表現は、いま私たちが当たり前に持っている命の正体を、壮大でやさしい視点で教えてくれるキーワードです。人間の体には、約37兆個もの細胞が存在しており、それぞれが分担して働きながら私たちの命を支えています。その一つひとつの細胞は、実は約40億年前に誕生した原始の生命体とつながっているのです。
細胞というのは、生物が生きていくうえでの最小単位であり、すべての生き物がこの細胞からできています。細菌やカビ、魚や動物、そして私たち人間まで、構造も仕組みも異なるように見えて、もとをたどればすべて「細胞から生まれた命」であり、まさに“きょうだい”のような関係なのです。
中でも注目すべきなのが、「細胞内共生説」という進化の過程に関する考え方です。私たちの細胞の中には、「ミトコンドリア」という小さな器官があります。これは、食べ物から得た栄養と酸素を使ってエネルギーを生み出す働きをしている重要な存在です。そして植物の細胞には、光合成を行う「葉緑体」があります。
このミトコンドリアや葉緑体は、実は昔は独立した生物だったと考えられています。それが、他の細胞に取り込まれて、共に暮らす「共生関係」を築くことで、いまのような複雑で高度な細胞ができあがったのです。この過程があったからこそ、私たちのような動物や植物が誕生したとされており、この共生こそが進化の原動力になったといわれています。
つまり、私たちは「一人の人間」として生きているようでいて、その中にはかつて別の命だった存在が溶け込んでいて、細胞レベルで他の生物とつながっているのです。どんなに姿かたちが違っていても、命の基本のしくみは同じ。だからこそ、すべての生きものが“細胞のきょうだい”だと言えるのです。
この事実を知ることは、私たち自身の存在に対する見方を変えるきっかけになります。人間だけが特別ではなく、あらゆる生きものが支え合いながら命をつないできた仲間であり、細胞を通じてつながっている命の物語に、私たちはいまも生きているという実感を与えてくれます。
地球全体を一つの命と見る「ガイア理論」
命のつながりをさらに大きな視点から見たとき、私たちは「ガイア理論」という考え方に出会います。これは、地球そのものを一つの巨大な生命体と見なす理論で、すべての生命と環境が互いに影響を与え合いながら、地球全体のバランスを保っているというものです。1970年代にイギリスの科学者ジェームズ・ラブロック氏によって提唱され、地球と命の関係を見直す視点として注目されてきました。
たとえば、植物は光合成によって酸素を生み出し、動物は呼吸によって二酸化炭素を放出します。この二つの働きが循環して、地球の空気が安定しています。また、落ち葉や動物の排せつ物を微生物が分解して土に戻すことで、植物が育ち、食物連鎖が成り立ちます。このように、自然界では無駄がなく、すべてが連動して命を支えているのです。
しかし、現在の地球では、その絶妙なバランスが人間の活動によって崩れつつあるという現実があります。
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森林の大規模な伐採によって、酸素の供給源である樹木が減少し、温暖化や砂漠化が進行しています
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プラスチックや化学物質による海洋汚染が広がり、海の生態系に大きな影響を与えています
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開発や環境破壊によって、多くの野生動物が絶滅の危機に追い込まれ、生物多様性が失われています
こうした状況に対し、番組では「人間もまたガイア(地球)の一部である」という視点から、私たちに何ができるのかを問いかける構成になると考えられます。つまり、人間が自然の支配者ではなく、あくまでその循環の中の一員であるという認識が求められているのです。
このガイア理論を通じて見えてくるのは、地球に生きるすべての命が“協力し合うしくみ”の中で共に存在しているという真実です。そして、私たち一人ひとりがその命のネットワークを支える役割を担っていることに、あらためて気づかされます。
私たちが自然と調和して暮らす未来を目指すには、このガイアの視点がとても大切になります。番組では、命の起源や細胞の話だけでなく、このように地球という「命の星」とどう向き合うかも、大きなテーマとして語られることが期待されます。
まとめ
NHKスペシャル『人体III 第3集』は、腎臓病の医療からスタートし、生命の起源、細胞の共生、地球全体のつながりという壮大なテーマへと広がっていく内容です。科学と人間をめぐる深い問いに触れながら、私たち自身の命をどう生きるかを考える貴重な機会となるでしょう。
放送後、詳しい内容がわかり次第、最新の情報を反映して更新いたします。
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