食中毒予防の落とし穴を大調査SP
2025年6月5日放送の『あしたが変わるトリセツショー』(NHK総合)では、「食中毒」をテーマに、日常生活で見逃されがちなリスクや、正しい予防法が特集されました。番組では、細菌による食中毒の実態や、調理中に広がる菌の恐ろしさ、そして給食センターの徹底した対策などが紹介され、私たちの暮らしに直結する内容が満載でした。
細菌が原因の食中毒とは?
番組の冒頭では、「食中毒」の中でも細菌による食中毒が大きなテーマとして取り上げられました。日本国内では毎年およそ4000件の細菌性食中毒が報告されていますが、実はこれだけではありません。医療機関にかからずに自然回復するケースや、そもそも症状が軽くて食中毒と気づかれないケースも多く、報告に含まれていない“隠れ食中毒”が多数存在すると考えられています。
細菌による主な食中毒の原因菌には、以下のようなものがあります。
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O157(病原性大腸菌):少量でも発症しやすく、重症化することもある危険な菌
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サルモネラ菌:卵や鶏肉などに付着していることが多く、発熱や腹痛、下痢を引き起こす
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カンピロバクター:日本での食中毒件数が最も多く、鶏肉に付着していることが多い菌
これらの菌は、どれも目に見えず、においも味も変わらないため、気づかないまま体に取り込んでしまうリスクがあるのです。
こうした細菌による食中毒を防ぐために、厚生労働省では「つけない・増やさない・やっつける」という3つの予防原則を広く呼びかけています。
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「つけない」:菌を食品に付けないための工夫。生肉や魚を扱ったまな板や包丁を使い回さず、使ったらすぐ洗う。調理前やトイレ後は必ず手洗いを徹底
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「増やさない」:菌は高温多湿で急速に増えるため、調理後の食品は室温で長時間放置せず、すぐに冷蔵・冷凍保存をする
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「やっつける」:加熱によってほとんどの菌は死滅します。中心温度が75℃以上で1分以上の加熱が基本。特に肉類や卵料理は念入りに火を通す
また、調理の順番も大切です。先にサラダなどの生食用のものを調理してから、加熱が必要な肉類や魚介類を扱うようにすると交差汚染のリスクが下がります。
番組では、この3つのポイントを守るだけでも、食中毒のリスクは大きく減らせると強調されていました。毎日の食事の中で、特別なことをするのではなく、「基本を確実に守る」ことこそが一番の対策になるということを、わかりやすく示していました。家庭でのちょっとした気のゆるみが、大きな健康被害につながることもあるため、あらためて意識することが大切です。
生肉に潜む菌の広がりを実験で可視化
今回のトリセツショーでは、鶏肉を使った調理中に菌がどのように広がるのかを、実際に目で見て確認できる実験が行われました。使われたのは「蛍光クリーム」で、これは菌の代わりとして鶏肉に塗り込まれ、光を当てると発光するようになっています。これによって、目に見えない菌の広がり方を可視化できるようにしていました。
調理では、鶏肉を切ったあと、手や器具を通してどこまで菌が飛び散るのかを丁寧に観察。すると、以下のような場所にまで蛍光クリームが付着していたことが確認されました。
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まな板や包丁など、鶏肉に直接触れた器具
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フライパンの持ち手など、料理を進める中で触れた部分
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ハンドソープのポンプや水道の蛇口、ふきん
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さらには、同じキッチン内で作った付け合わせのサラダにも付着していた
この結果から、菌は手や器具を介して、想像以上に広い範囲へと移動していることがわかりました。とくにサラダのように加熱せずに食べる料理に菌が付着した場合、そのまま体内に取り込んでしまうリスクが高まります。
また、番組で紹介された調査によると、市販の鶏肉の約40%にカンピロバクターが存在するとされており、鶏肉はとくに注意が必要な食材です。カンピロバクターは、食中毒を引き起こす原因菌の中でも発症率が高く、少量の菌でも腹痛や下痢などの症状が出る可能性があります。
鶏肉を調理する際には、以下のような対策が必要です。
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生肉を扱った器具(まな板、包丁など)はすぐに洗い、別の用途に使わない
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加熱調理とサラダなどの生食の工程は完全に分けて作業する
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手を洗うタイミングを見極め、食材を扱うたびに石けんでしっかり洗う
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調理中に触れることが多い調味料の容器や調理器具の持ち手にも注意を払う
このように、菌の広がりを可視化したことで、調理中の油断がどれほど大きなリスクにつながるかが改めて明らかになりました。私たちが普段何気なくやっている調理の動作が、食中毒を防ぐうえで重要な分かれ道になることを、この実験は具体的に示していました。注意深い調理と清潔な手順の徹底が、家庭内の安全を守る第一歩です。
給食センターの徹底した対策
番組では、食中毒を防ぐ最前線の現場として「中部学校給食センター」の取り組みが紹介されました。毎日多くの子どもたちに安全な食事を届けるために、細菌の混入や交差汚染を防ぐための対策が非常に厳密に行われている様子が映し出されていました。
まず印象的だったのは、調理スタッフの服装チェックです。出勤時には必ず白衣の乱れや手袋の破損がないかを二人一組で確認し合い、不備があればすぐに着替え直す決まりがあります。衛生管理の第一歩は身だしなみからという意識が、現場の基本として徹底されています。
次に行われるのが、食材の受け入れと確認作業です。特に野菜は、ひとつずつ丁寧に手に取り、傷みや異物の混入がないかをすべて目視で確認します。大量の食材であっても機械任せにはせず、人の目で確認することで安全性を高めているのが特徴です。
また、細菌による交差汚染を防ぐために、肉と野菜の調理ルートは完全に分離されています。
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肉類は専用ルートで搬入・保管・下処理を行い、野菜とは一切接触しない
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使用する調理器具や作業スペースも厳格に区別され、作業エリアが重なることがありません
さらに、調理の際には、加熱温度を複数の箇所で確認します。一つの鍋に対しても中心と周辺部の温度を個別に測定し、基準に達しない場合は再加熱。一部だけが生煮えになってしまうようなリスクを徹底的に排除しているのです。
そして何よりも重要視されていたのが、作業のたびの手洗いです。食材を切る、器具を触る、次の工程に移る――この一つひとつの動作ごとに、必ず手洗いを行うルールが徹底されていました。水洗いだけでなく石けんを使い、一定時間以上かけて決められた手順で手を清潔に保つことが求められます。
こうした対策を一つでも怠れば、多くの子どもたちの健康が脅かされることになるため、すべての工程において高い意識と責任感を持って対応している様子が伝わってきました。家庭では見落とされがちなリスクも、こうした給食センターでは想定した上で一つずつ丁寧に管理されていることがよくわかる内容でした。私たちも日々の調理において、少しでもその姿勢を取り入れることが、食中毒を防ぐ大切な一歩となります。
菌はあっという間に増える!
番組では、細菌の増殖スピードの恐ろしさについても詳しく取り上げられました。特に驚きだったのは、「黄色ブドウ球菌」の増殖力です。この菌は、目に見えないほど小さな1個の状態からでも、7時間後には100万個にまで増えるというデータが紹介されました。人体に悪影響を及ぼす目安はおよそ10万個とされているため、たった1個が数時間で危険レベルに達してしまうことになります。
このような細菌の増殖にはいくつかの条件がありますが、特に重要なのが温度と時間です。暖かい場所で食品を放置すればするほど、菌の数は爆発的に増えます。例えば、夏場の室温に置かれたお弁当などは、数時間で食中毒のリスクが高まる可能性があります。
番組ではさらに、「リステリア」という菌にも注目が集まりました。この菌は冷蔵庫のような低温環境でも増殖するという、ほかの菌とは異なる性質を持っています。普通、冷蔵保存をすれば菌の増殖はほぼ止まると考えられていますが、リステリアは4℃程度でも活動を続けるため、冷蔵庫に入れていても油断できません。
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リステリアは、ハムやナチュラルチーズ、スモークサーモンなどから検出されることがある
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一度発症すると、高齢者や妊婦、免疫力の低い人では重症化するケースが多く、致死率は約20%とされています
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特に妊婦が感染すると、胎児への影響が大きいため、注意が必要です
こうした細菌に対抗するには、やはり基本に立ち返り、食品を常温に長く置かないこと、しっかり加熱すること、清潔な環境を保つことが大切です。「ちょっとくらい大丈夫」と思って放置してしまう習慣が、大きな健康リスクに直結することを、この特集は具体的に伝えていました。普段の生活で見逃しがちな「時間と温度の管理」が、食中毒予防の要となります。
キッチンで菌が多い場所ベスト3
番組では、家庭内のキッチンで菌が多く存在する場所についての調査結果も紹介されました。普段きれいにしているつもりでも、見落としがちなポイントに多くの菌が潜んでいることが明らかになりました。とくに多かったのが次の3か所です。
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排水口
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スポンジ
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シンク
まず最も菌が多かったのが排水口です。食材のカスや水分、ぬめりが溜まりやすく、湿気と栄養が豊富なこの場所は、細菌にとって絶好の繁殖場所になります。掃除の頻度が少ない家庭では、排水口だけでキッチン全体の菌の大部分を占めることもあるとされ、放置は非常に危険です。
次に多かったのがスポンジです。これは意外に思うかもしれませんが、スポンジは1日中湿った状態で使用され、食材の残りや汚れがついたままになりがちです。水分と温度、栄養がそろっているため、菌がどんどん増えていきます。しかもそのスポンジで食器や調理器具を洗うと、菌を広げる結果になることもあります。
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使用後にしっかり水けを絞る
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十分な量の洗剤を含ませてから保管する
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数日ごとに交換する、または熱湯や電子レンジで除菌する
こうしたケアをすることで、スポンジの菌は大幅に減らすことができるとされています。
3つ目はシンクです。水や食材のかけら、手からの菌が集まりやすく、掃除が後回しになりがちな場所でもあります。特に調理中に肉や魚を扱った後の洗い物で、シンク全体に菌が広がることがあります。
家庭では清潔に見えても、実は菌の温床になっている場所が意外と多くあります。定期的な掃除と乾燥、そして使い方の工夫で、こうした菌のリスクを大きく減らすことが可能です。今回の特集は、改めてキッチンの衛生環境を見直すよいきっかけとなる内容でした。
食中毒かな?と思ったときの対応
番組では、食中毒が疑われるときにどう行動すればよいかについても、具体的な説明がありました。まず注意すべきなのが、体に現れる初期症状です。以下のような症状がある場合、食中毒の可能性があります。
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腹痛
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下痢
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嘔吐
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吐き気
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血便
これらの症状は、食べたものに含まれていた細菌やウイルスによって腸内が炎症を起こしているサインです。特に、血便や激しい嘔吐がある場合は、重症化の可能性があるため、早急な対応が必要になります。
対応の基本は次の通りです。
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できるだけ早く医療機関を受診する
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脱水症状を防ぐために、こまめな水分補給を行う
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水分は少しずつ何回にも分けて飲むのがポイント(一度にたくさん飲むと嘔吐を誘発することがあります)
特に注意すべきなのが「下痢止めの使用」です。自己判断で市販の下痢止めを飲むと、体内にあるはずの有害な菌を無理に腸内に留めてしまう危険があります。これは症状を悪化させるおそれがあるため、自己判断での服用は絶対に避けるべきとされていました。
また、以下のような人は特に重症化のリスクが高いとされています。
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幼児(乳幼児を含む)
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高齢者
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妊娠中の方
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持病のある方(糖尿病、腎臓病、免疫疾患など)
こうした方々は免疫力が弱かったり、脱水症状になりやすいため、ほんのわずかな食中毒菌でも重篤な症状に至るケースがあります。症状が軽く見えても油断せず、早めの受診が大切です。
番組では、食中毒かな?と思ったときは、すぐに行動を起こすことが自分や家族の命を守る第一歩になると呼びかけていました。無理をせず、正しい判断をすることが何より大事です。
まとめ
今回の放送では、普段見落としがちな家庭内の食中毒リスクにスポットを当て、私たちがすぐにできる予防法をわかりやすく紹介してくれました。特別な道具を使わなくても、手洗いや食材の扱いを正しくすることで、多くの食中毒は防ぐことができます。日々の習慣を少し見直すだけで、家族の健康を守ることができることを、番組を通して学ぶことができました。
放送の内容と異なる場合があります。
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