バカリズムが語る“僕の冒険”と『MOTHER2』の魅力
ゲームを文化として見つめ直す番組「ゲームゲノム」。今回のテーマは、スーパーファミコンの名作RPG『MOTHER2 ギーグの逆襲』です。平成初期に登場し、今もなお語り継がれるこのゲームの魅力を、MCの三浦大知さんとバカリズムさんが、制作者の糸井重里さんを交えて語り合いました。放送は未公開トークを含めた拡大版。ゲームを単なる娯楽ではなく「人生と重なる体験」として捉える視点が光る内容でした。
糸井重里が生んだ“日常と非日常”の絶妙な融合
『MOTHER2』は、どこにでもいそうな少年・ネスが主人公。野球帽とバットを持ち、ごく普通の町から世界の終末を止める旅に出るというストーリーです。特別な力ではなく、身近なアイテムを使って戦う点が特徴的で、プレイヤーの共感を呼びます。
現実のようで現実でない、不思議でやさしい世界観
町の名前も「オネット」「ツーソン」など数字にちなんでいて、日常に少しの非現実を混ぜたような舞台設定です。敵として現れるのは、UFOやヒッピー、ゾンビにどせいさん。どれもユーモラスで親しみやすく、子どもから大人まで楽しめるバランスが保たれています。
言葉の力で伝える“敵”との関係性
糸井さんは言葉に強いこだわりを持ち、ゲーム内の表現にも工夫をこらしました。敵を倒したときのメッセージは、「ゾンビは土にかえった」「動物はおとなしくなった」「ロボットは破壊された」など、敵の正体ごとに細かく変えられています。これにより、プレイヤーが罪悪感を覚えずに戦えるようになっています。小さな子どもにも安心してプレイできる、配慮ある設計です。
操作やマップにも込められた遊び心と発想の転換
『MOTHER2』は見下ろし型のRPGですが、視点を斜めにしているため、移動が独特で「慣れるとクセになる」と感じる人が多い設計です。これも糸井さんたちの“自由な発想”のひとつです。
フィールドと街がつながった、のびやかな世界設計
ゲームのマップには「街」「フィールド」といった明確な区分がなく、町もそのまま大きな世界の一部になっています。このことで、「どこまでも続く冒険」を実感しやすくなっています。街の建物に入ったり、森に進んだり、すべてが同じ“冒険の延長”になっているのです。
明るさの裏に潜む“少し怖い”瞬間
『MOTHER2』は全体的にポップな見た目や音楽で彩られていますが、ところどころに不安や恐怖を感じさせるシーンもあります。たとえば、突然暗闇に包まれる停電中のデパートや、現実味を感じるホラー演出のある町「ムーンサイド」など。こうした“ギャップ”が、プレイヤーの心を引き込む要素になっています。
糸井重里の“素人視点”が生んだ新しいRPGの形
糸井さんは「ゲーム業界のプロではない」という立場からスタートしています。その“素人ならでは”の視点が、逆に自由な発想を生み出しました。
RPGの“当たり前”を疑う視点
戦闘に必ずしも意味があるのか、という問いから始まりました。「戦わずに避ける」「勝てる相手はすぐ逃げていく」「体力表示をドラム式で変動させる」といった要素は、どれも「プレイヤーが気持ちよく遊べるには?」という視点から考えられたものです。
小さな町や村人にも“命”を与える設計
村人一人ひとりに、しっかりとしたセリフや生活があるように見えるよう設計されています。単なる通行人ではなく、「この町に住んでいる人」と感じられるような表現が随所にあり、世界に厚みを与えています。
「遊び」を本気で信じた開発チームの力
糸井さんは、「ぼくらは天才じゃないかもしれないけど、天才的なゲームは作れる」とチームに語ったそうです。完璧さを求めるより、プレイヤーにとって「面白いかどうか」を大切にする姿勢が、作品全体にあたたかく表れています。
バカリズムが感じた『MOTHER2』との“重なり”
バカリズムさんは『MOTHER2』と長年向き合ってきたプレイヤーの一人。放送では、作品との深いつながりを率直に語りました。
プレイし続けて30年、変わらぬ思い
バカリズムさんは19歳のころに初めて『MOTHER2』を遊び、30年近くファンを続けています。作中に登場する町並みや家族構成が、自分の地元や暮らしと重なるようで、「この世界は自分の人生とリンクしている」と感じたそうです。
まだ冒険の途中にいる感覚
彼が語った「冒険はまだ終わっていない」という言葉は、ゲームの持つ“時間を越えた力”を象徴しています。ゲーム内の物語が、現実の人生と並行して続いているように感じる――それが『MOTHER2』の持つ力なのです。
なぜ今、『MOTHER2』が再び注目されるのか?
懐かしさだけでは語れない『MOTHER2』の魅力には、時代を越えて人の心に届く理由があります。
誰もが共感できる“身近な冒険”
現代のゲームでは、非現実的な力や派手な演出が主流ですが、『MOTHER2』はあえて“身近なもの”で世界を描いています。学校、家、スーパー、警察など、プレイヤーが知っている空間で起こる冒険だからこそ、感情移入しやすいのです。
世界中のファンによる再発見と発信
北米ではStarmen.netなどのファンコミュニティが活動を続け、翻訳や署名運動がNintendoの再販を後押ししました。日本でもSNSを中心に再評価の声が高まり、若い世代にも浸透しています。
インディーゲームへの影響力
『MOTHER2』に影響を受けた作品として、インディーゲームの名作『Undertale』がよく知られています。作者Toby Foxさんも公言しており、その作風には確かな影響が感じられます。つまり『MOTHER2』はゲーム開発者にも“先生”のような存在なのです。
笑いと切なさが共存するストーリー構成
敵のセリフや街の人々のやりとりに笑っていたかと思えば、終盤では不思議な切なさに胸を打たれる。こうした感情の起伏が、プレイヤーに強い印象を残します。子どものころに感じた気持ちが、大人になっても色褪せない。それが『MOTHER2』の物語の力です。
『MOTHER2』はこれからも心の中で続いていく
『MOTHER2』は、ただのゲームではありません。プレイヤー自身の人生とつながる、「記憶の中の冒険」です。糸井さんの発想、言葉の力、そしてバカリズムさんの30年にわたる想いを通して、番組では『MOTHER2』の本質が丁寧に描き出されました。
これからもこの作品は、時代や言語を越えて、多くの人に語り継がれていくでしょう。冒険は終わらず、プレイヤーの心の中でずっと続いているのです。
【出典・参考】
NHK『ゲームゲノム』2025年7月27日放送回
ほぼ日刊イトイ新聞
BEEP/退屈ブレイキング/4Gamer/アメーバブログ
Starmen.net/The Strong National Museum of Play
Nintendo Everything/Catholic Game Reviews
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