日本でヨーグルトが広がった理由を探る:外国人博士の視点から
日本の冷蔵棚にずらりと並ぶヨーグルト。プレーン、フルーツ入り、飲むタイプ、大容量パウチ、ご当地限定品まで種類は本当に豊富です。けれど、そもそも米食文化が中心の日本で、なぜここまでヨーグルトが定着したのでしょうか。この記事では、ブルガリア出身の経営人類学者・ヨトヴァ・マリア准教授が出演するNHK番組「最深日本研究〜外国人博士の目〜ヨーグルトを知りたい」(2025年9月16日放送予定)を手がかりに、その歴史と秘密を掘り下げます。放送前のまとめですので、オンエア後にはさらに最新情報を追記予定です。
ヨーグルトの歴史的導入と日本での第一歩
日本に乳製品が入ってきたのは奈良時代とされます。当時は「酪(らく)」と呼ばれる発酵乳に近いものが宮廷や貴族で珍重されましたが、庶民には遠い存在でした。明治維新以降、西洋化の流れで牛乳やバターが導入され、やがてヨーグルトの原型といえる「凝乳」も登場します。
戦後、1950年代から明治乳業や森永乳業といった大手メーカーが本格的にヨーグルト製造を開始しました。当時は酸味の強い瓶入りが多く、まだ「健康のために我慢して食べる食品」という位置づけでした。しかし徐々に甘味を加えたり、果物を混ぜたりする工夫が加わり、次第に親しみやすい食品へと変化していきました。
味の工夫と消費者の受容
初期のプレーンヨーグルトは酸っぱさが強く、日本人の舌にはなじみにくい面がありました。そこでメーカーは加糖タイプを販売し、「食べやすさ」を優先しました。1970年代にはフルーツソース入り、飲むヨーグルト、大容量ファミリーサイズなどが登場。これにより「健康のため」だけでなく「美味しいから選ぶ」存在へと変化しました。
さらに1980年代から90年代にかけては低脂肪・無脂肪タイプ、近年ではギリシャヨーグルトのように高たんぱく・濃厚タイプなど、時代ごとの健康ニーズに応じた商品が続々と登場。味と機能性の両立が消費者の心をつかんだといえます。
ブランド戦略とマーケティングの成功
ヨーグルトが全国的に広まった最大の契機は、1970年の大阪万博です。ブルガリア館で提供された本場のプレーンヨーグルトが大きな話題となり、翌年に「明治プレーンヨーグルト」、そして1972年に「明治ブルガリアヨーグルト」が誕生しました。ここで「ブルガリア」という国名の使用許可を正式に得てブランド化したことは画期的でした。
「ブルガリア=本場」「正統派」というイメージは消費者に強く響き、明治ブルガリアヨーグルトは国民的ブランドに成長。その後は「LG21乳酸菌」「R-1乳酸菌」といった機能性株を前面に打ち出し、トクホや機能性表示食品の取得を通して信頼感を築きました。マーケティングの巧みさが、ヨーグルトを単なる乳製品から「健康と安心の象徴」へと格上げしたのです。
社会の変化と生活習慣との結びつき
戦後の高度経済成長で冷蔵技術や物流網が整備され、乳製品を安定供給できるようになりました。スーパーやコンビニが普及すると、ヨーグルトは日常的に手に入る食品に。加えて、生活習慣病予防や「腸活」など健康志向が高まり、朝食や小腹満たしに手軽に摂れるヨーグルトはニーズに合致しました。
特に1990年代以降は「飲むヨーグルト」「小分けパック」が増え、忙しい現代人にフィット。子どもから高齢者まで幅広い層が日常的にヨーグルトを取り入れるようになりました。
ヨトヴァ・マリア准教授の研究と視点
今回番組で紹介されるヨトヴァ・マリア准教授は、ブルガリア出身で立命館大学食マネジメント学部に所属。専門は文化人類学・経営人類学です。彼女は日本とブルガリアの乳製品文化を比較し、なぜ日本のような米食中心の社会でヨーグルトがここまで普及したのかを研究しています。
マリア准教授はこれまでに1000種類以上の日本のヨーグルトを実際に食べて調査し、パッケージも全て保存。乳酸菌の種類や機能性、開発背景を丹念に分析しています。著書『ヨーグルトとブルガリア ―生成された言説とその展開―』(東方出版, 2012)では、ブルガリアと日本それぞれで「ヨーグルトに込められた物語」がどう変化してきたのかを論じています。
番組では、彼女が開発者に直接取材する様子や、全国のご当地ヨーグルトを訪ね歩く姿が描かれる予定です。「乳酸菌」「パッケージ」「ご当地ブランド化」という切り口は、ヨーグルトを単なる食品から文化現象として捉える試みといえます。
まとめ:日本独自のヨーグルト文化
ここまでを整理すると、日本でヨーグルトが広がった要因は以下の通りです。
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歴史的導入:奈良時代からの乳文化の芽と、戦後の製造体制確立
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味の工夫:酸味を抑え、甘みやフルーツを加えて食べやすく進化
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ブランド戦略:明治ブルガリアヨーグルトを筆頭とする「正統性」の訴求
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社会の変化:流通・冷蔵網の発展と健康志向の高まり
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文化的視点:外国人研究者から見ても驚くほど多様なヨーグルト文化が形成
2025年の現在、日本のヨーグルトは健康食品でありながら、地域性や文化性を語れる存在になりました。番組放送後には「ご当地ヨーグルト探訪」「乳酸菌と機能性の最新研究」などの追加記事を展開すると、SEO的にも幅広い流入が期待できます。
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