人と動物が語り合う未来へ “耳を傾ける科学”が始まった
「犬と話してみたい」「猫の気持ちがわかればいいのに」――そんな願いを抱いたことがある人は多いでしょう。
10月7日放送のNHK新番組『未来予測反省会』では、明治時代に新聞で発表された“未来予測”のひとつ「獣語科(じゅうごか)」をテーマに、人と動物の“言葉”をめぐる研究を掘り下げます。この記事では、番組の背景や登場する研究内容、さらに現代の科学がどこまで動物の“声”を理解できるようになったのかを詳しく紹介します。放送後には、番組で取り上げられた実験やコメントを追記予定です。
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明治の人々が夢見た「獣語科」とは?
明治34年(1901年)に『報知新聞』が掲載した未来予測記事『二十世紀の予言』の中に、「獣語の研究進歩して小学校に獣語科あり。人と犬猫猿は自由に対話することを得るに至る」という一文があります。
当時の日本は、電話・電気・鉄道などの文明が次々に生活を変えた激動の時代。科学への信頼が高まり、「どんなことでも技術が解決できる」という空気が社会に広がっていました。
その中で“獣語科”という発想は、未来への憧れと、人間中心の社会を見つめ直す思考の象徴でもあったのです。
教育の場で動物の言葉を学ぶ――この発想には、「人と動物が平等に理解し合える世界を」という願いが込められていました。単なる空想ではなく、人間が“自然との調和”を模索し始めた証ともいえます。
この予言は現代でも実現していませんが、AI技術や神経科学の進歩によって、「動物の声に意味を見出す」段階まで研究は進んでいます。つまり、明治の夢は今、科学の手で再び息を吹き返しているのです。
人と鳥が語り合ってきた?150万年の“対話”の痕跡
番組の中で特に注目されるのが、「150万年前から人と鳥は“会話”していたのでは」という仮説。これは比喩的な表現ですが、実際に鳥と人間が情報を交換する行動は、世界各地で確認されています。
アフリカのミツオシエという鳥は、独特な鳴き声で人間をハチの巣へと案内します。人は巣を壊して蜂蜜を取り、残った蜜蝋を鳥に分け与える――そんな協力関係が古代から続いてきたといわれています。
また、古代人は鳥の鳴き声を聞き分け、危険の察知や狩猟の手がかりにしていました。鳥の警戒音や求愛の声は、環境の変化を知らせる“自然の言葉”として利用されていたのです。
近年の研究では、鳥のさえずりには「文法的構造」がある可能性も示されています。たとえば、ベンガルスズメは前後の音節の関係性によって鳴き方を変えるとされ、人間の言語のような“文脈依存性”を持っていると考えられています。
こうした研究は、「人と鳥が完全に対話した」というよりも、「互いの行動を理解し合っていた」という意味での“対話”だったと理解するのが自然でしょう。
類人猿の“言葉”が示す、人間の原点
次に取り上げられるのが、類人猿の“言語能力”。チンパンジーやボノボなどの類人猿は、記号や手話を使って意思を伝えることができます。
特に有名なのは、ボノボのカンジ。彼は「レキシグラム」と呼ばれる図形記号を数百個覚え、要求や感情を表現することができました。また、ゴリラのココは手話を習得し、人とのやりとりを通して“悲しみ”や“喜び”といった感情を伝えたといわれています。
しかし、人間のように文法を持つ「言語」を構築できるわけではありません。研究では、類人猿の“会話”は模倣や条件反射に近く、抽象的な概念を自発的に組み合わせることは難しいとされています。
それでも、これらの研究は「言葉は人間だけの能力ではない」という事実を明らかにしました。発声や記号を使う行為の“原型”が類人猿にも存在することが、人間の言語進化を理解するうえで重要な手掛かりになっています。
AIが解き明かす「動物の声の意味」
現代の研究は、言語学とAIの融合によってさらに進化しています。
クジラの歌を解析するProject CETI(クジラ翻訳プロジェクト)では、クジラが発するクリック音をAIが解析し、音の並びやリズムから“意味のあるパターン”を抽出しようとしています。
また、Earth Species Project(ESP)は、AIを使ってあらゆる動物の発声データを学習させ、鳴き声の「文法」や「意図」を読み取ろうとする壮大な試みを進めています。
動物の“音”を単なる鳴き声ではなく“情報”として扱う発想は、すでにペット分野にも広がっています。
たとえば、犬や猫の鳴き声をAIが解析し、「不安」「喜び」「空腹」などの感情を可視化するアプリや機器も登場しています。
さらに、野生動物の声をリアルタイムで解析して、異常行動を検知する技術も研究されています。こうした動きは、人間が動物の世界を“理解する側”に回り始めたことを意味しています。
“耳を傾ける科学”が導く新しい共生のかたち
これまでの科学は、動物を「観察の対象」として見てきました。しかし今の研究は、動物を「語りかける相手」として扱い始めています。
ゾウが仲間の名前を呼び合う、イルカが仲間の声を模倣して応答する、カラスが個体ごとに異なる声を使い分けるなど、動物社会にも“音のコミュニケーション”があることがわかっています。
人間がその声を「聞き取り」「理解し」「反応する」ことができれば、動物との関係は“支配”から“共生”へと変わっていくでしょう。
研究者たちは、動物の感情やストレスをAIで解析し、痛みや不安を早期に察知する技術も開発しています。
こうした“傾聴の科学”が進めば、動物の福祉だけでなく、人間の暮らしや心の豊かさにもつながっていくのです。
まとめ:明治の夢は、AIが現実に変える
この記事のポイントは次の3つです。
・明治時代の“獣語科”という未来予測は、科学と共生への願いの象徴だった
・鳥や類人猿の研究から、すでに“対話の原型”が見えてきている
・AIが動物の声を読み解き、“耳を傾ける科学”が共生社会の鍵となる
私たち人間が動物の声に耳を傾けるようになったとき、初めて“共に生きる”という意味が本当の形を持ち始めるのかもしれません。
100年前の人々が夢見た「獣語科」は、AIと科学の進化によって、いよいよ現実の教科書に近づきつつあります。
この番組では、その夢と現実の交差点がどのように描かれるのか——放送後、最新の研究や反響を追記していきます。
ソース:NHK『未来予測反省会』公式番組情報(https://www.nhk.jp/)
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