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Eテレ【心おどる 茶の湯 表千家】待庵とにじり口に宿る“利休の設計哲学” わび茶が教える静けさのデザイン|2025年10月7日

心おどる 茶の湯 表千家 利休のこころと形

心おどる 茶の湯 表千家 利休のこころと形

忙しさに流され、心が休まる時間が減っていませんか?スマホやSNSが常に情報を届けてくれる現代では、ほんの数分の静けさでさえ貴重な時間です。そんな時代にこそ、千利休が生んだ「わび茶」の精神が新しい価値を放っています。
NHK Eテレの新シリーズ『心おどる 茶の湯 表千家 利休のこころと形』は、利休の思想を、表千家がどのように受け継ぎ、現代へと伝えているかを探る番組です。初回となる第1回のテーマは「茶室」。建築史家桐浴邦夫さんの案内で、利休が設計した国宝の茶室「待庵(たいあん)」など、名茶室を巡ります。

「わび茶」とは何か——心の豊かさを見つめ直す道

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茶の湯はもともと、客をもてなし、美しい道具を愛でる遊びの一種として広まりました。しかし、千利休はそこに“精神の修養”というまったく新しい価値を見出しました。彼が確立したのが「わび茶」。
「わび」とは、ものが不足していることを受け入れ、その中に静けさと美を見出す心。「さび」は、古びたものに宿る時間の深みを尊ぶ心。この二つが融合した「わび・さび」の美意識こそ、日本文化の根幹をなす考え方です。
利休は、金銀の器や絢爛な掛け物を排し、土の香りのする素朴な茶碗や竹の花入れを選びました。派手さではなく、余白や静けさにこそ美があると信じたのです。

茶の湯は、単なるもてなしではなく、「心を映す鏡」。亭主と客が互いに心を澄まし、茶を通じてひとつの調和を生む——それが「わび茶」の真髄です。

「待庵」に宿る利休の設計哲学

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第1回の見どころは、千利休が手がけた現存唯一の茶室「待庵(たいあん)」です。京都府大山崎町にあるこの茶室は、国宝に指定されており、わずか二畳という極限までそぎ落とされた空間。けれど、その小ささの中にこそ、利休の哲学が凝縮されています。

まず注目すべきは、茶室の入り口であるにじり口。人がかがまないと入れないほど小さな戸口です。これは、武士であっても身分を超えて頭を下げ、心を整えて入るための仕掛け。茶室は身分も肩書きも置いていく「平等の場」なのです。

また、室内の壁は荒壁(あらかべ)と呼ばれる土の質感をそのまま残した仕上げで、木の節や割れ、漆喰のむらがそのまま活かされています。利休は、自然の“粗さ”や“不完全さ”の中にこそ本当の美があると考えました。

光の使い方にも工夫があります。天窓や地窓から差し込むわずかな光が、時間とともに角度を変え、室内に柔らかな陰影を生みます。小さな空間でありながら、光と影の呼吸によって“無限の広がり”を感じさせる。これこそ、空間と心が共鳴する建築の極致といえるでしょう。

表千家に受け継がれる利休のこころ

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表千家は、利休の教えを受け継ぎ、「茶の湯の本質は心の交わりにある」と考えています。
歴代の家元は「宗左」の名を継ぎ、京都の不審庵(ふしんあん)を本拠として、茶の湯の精神と作法を代々伝承してきました。
家元である千宗左
は、利休の言葉「茶の湯とは、ただ湯をわかし茶を点てて、のむばかりなることと知るべし」を重んじています。これは、形式よりも本質を見つめよという教えです。

番組では、表千家講師の木村雅基氏が、所作・道具・設えに宿る“心”を丁寧に解説します。たとえば、掛け軸の言葉には季節や客への思いやりが込められ、花は控えめで自然のままの姿が尊ばれます。茶碗は見た目よりも「手にしたときの温もり」「口当たりの柔らかさ」が大切にされます。
それらすべてが、利休の掲げた和敬清寂(わけいせいじゃく)の精神につながっているのです。

和=調和を尊ぶ
敬=相手への敬意
清=心と場を清める
寂=静けさを味わう

この四つの理念が、表千家の茶の湯の根幹をなしています。

建築と心がつながる瞬間——茶室が語りかけるもの

茶室は単なる建物ではなく、心の装置です。床の高さ、壁の厚み、窓の位置まですべてが、入る人の心を整えるために設計されています。
光が壁をやわらかく照らすとき、人の呼吸が静まり、茶釜の湯が立てる音に耳が傾く。五感を研ぎ澄ませる体験こそ、茶の湯の核心です。

また、茶室の外には露地(ろじ)と呼ばれる小道があり、庭を通って茶室へと向かいます。この移動の時間は、現実から離れ、心を無にしていく“精神の準備”のプロセスでもあります。
建築と自然、そして人の心が一体となる——それが、利休が目指した「空間の哲学」でした。

現代に生きる「茶の湯」のメッセージ

SNSやAIが日常を支配する今、茶の湯の「静けさ」はまるで異世界のようです。しかし、そこには今だからこそ必要なメッセージがあります。
一つは、“待つこと”の価値。茶を点てる時間、湯が沸く音を聞く時間、人の言葉を待つ時間——この“間”が、心を整える時間になります。
もう一つは、“おもてなし”の誠実さ。客を迎える準備、茶器を拭く手の動き、すべてに「あなたを大切に思う心」が込められています。
効率やスピードでは測れない「人と人のあたたかい関係」が、茶の湯には息づいているのです。

近年では、若い茶人がオフィスやカフェで現代版の茶会を開く動きも広がっています。IT企業の社員が昼休みに一服の抹茶を点てることも珍しくありません。
「わび茶」は、過去の伝統ではなく、今を生きるための知恵として生き続けているのです。

放送への期待と今後の展開

『心おどる 茶の湯 表千家 利休のこころと形』の初回は、利休の空間哲学を入り口に、「茶の湯とは何か」をあらためて問い直す内容になりそうです。
今後のシリーズでは、「茶碗」「掛け軸」「道具」「作法」など、茶の湯を構成するさまざまな“形”に込められた“こころ”が取り上げられていく予定です。
放送後には、番組で紹介された茶室や言葉、家元の語りを追記して、さらに深く解説していきます。


【出演】千宗左(表千家家元)/木村雅基(表千家講師)/桐浴邦夫(建築史家)/岩槻里子(アナウンサー)
【放送日】2025年10月7日(火)21:30〜22:00
【放送局】NHK Eテレ(教育)

出典:
・NHK公式番組表
・表千家公式サイト(https://www.omotesenke.jp)
・和樂web「美の国ニッポンをもっと知る!」
・Nippon.com「茶の湯と建築の美」
・Discover Japan「千利休の建築思想」


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