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Eテレ【ハートネットTV】全国盲学校弁論大会2025岐阜 視覚障害の夢・白杖・“自分を認める勇気”が生んだ言葉たち|2025年11月11日

ハートネットTV

届けたい“わたし”の言葉に込めた想いとは?心で聴く全国盲学校弁論大会の舞台裏

視覚に障害があっても、自分の言葉で「思い」を伝える。そんなまっすぐな声が、岐阜の空に響きました。2025年10月、93回目を迎えた全国盲学校弁論大会岐阜県立岐阜盲学校で開催。全国7地区の予選を勝ち抜いた12歳から36歳までの9人の弁士たちが登壇し、悩みや苦しみ、そして希望を言葉にしました。この記事では、彼らが語った“わたし”の物語を紹介します。読むことで、きっとあなたの心にも届く「勇気の種」が芽生えるはずです。

大会が伝える“生きる力”と“言葉の温度”

この大会を主催するのは、全国盲学校長会毎日新聞社点字毎日、そして毎日新聞東京・大阪・西部社会事業団です。
協賛には住友グループ広報委員会が加わり、長年にわたって多くの生徒たちの成長を支えてきました。
会場となった岐阜県立岐阜盲学校体育館には、家族や先生、地元の人々が集まり、静かな緊張と温かい期待に包まれました。
ステージの上には、目の前の聴衆を見渡すことができなくても、自分の言葉を信じて立つ9人の姿。
一人ひとりの声が響くたび、空気が変わり、誰もが息をのむ瞬間がありました。

弁士たちのテーマは多彩です。
「見えにくさをどう受け止めるか」「家族の支え」「音楽がくれた勇気」「白杖との出会い」「自分を認めること」――
それぞれが日々の生活の中で見つけた“気づき”を語り、聴く人の心を動かしました。
決して派手ではありません。でも、言葉には力がありました。
それは、どんな本やスピーチよりもまっすぐで、リアルな“生きる言葉”だったのです。

優勝者・花村彩乃さん『YUME』が問いかける「夢のかたち」

今年の優勝は、中部地区代表の花村彩乃さん(岐阜県立岐阜盲学校 高等部専攻科理療科1年、18歳)。
彼女の演題は『YUME(ワイ・ユー・エム・イー)』。
タイトルには、英語の「Dream」と違う、自分流の“夢”への思いが込められていました。

花村さんは幼いころに視覚の病気を発症し、左目を失明。15年間、見えない世界の中で生活してきました。
そんな彼女は、見える人と見えない自分の「夢の見え方」が違うことに気づいたといいます。
アニメが大好きで、絵が見えなくても声優の声や音楽を通して感情を感じ取る――それが、彼女にとっての「夢を観る時間」でした。

しかし、日々の中で感じる「無意識の差」も語りました。
「箸を上手に使えるようになった」と褒められたとき、嬉しい気持ちの奥に、
“見えない人がそれだけで偉いと思われているのでは?”という違和感が残ったといいます。
それでも、花村さんはその思いを原動力に変え、「自分自身を認め、尊重することの大切さ」を説きました。

彼女が語ったのは、「できるか、できないか」ではなく、「どう生きるか」。
そして最後に投げかけた言葉――「あなたはどんな夢をみますか?」。
その一言は、聴く人の心を静かに揺さぶり、会場に深い静寂が訪れたといいます。

花村さんにとっての夢は、遠いものではなく、すぐそばにある“自分の可能性”。
「初めての場所でも歩けるようになりたい」「一人で好きな店に行ってみたい」――
そんな素朴な願いが、どんなに美しく、どんなに力強いものかを教えてくれました。

西森冬花さん『私の一部』白杖と歩んだ日々

3位に選ばれたのは、中国地区代表の西森冬花さん(岡山県立岡山盲学校 高等部普通科2年)。
彼女の演題『私の一部』は、白杖(はくじょう)との出会いと成長の物語です。

小学生の頃、初めて白杖を手にしたときは「かっこ悪い」「片手がふさがる」と感じたそうです。
白杖を持って歩けば、人目が気になり、友達の視線も怖かった。
ときには田んぼに落ちたり、段差に気づかず転んだり。
それでも先生の励ましや、家族の支えを受けながら歩き続けた日々の中で、少しずつ変化が訪れました。

「白杖があるから、私は行きたいところに行ける。」
そう気づいた瞬間、白杖は“障害を象徴するもの”ではなく、“自由をくれる相棒”に変わったといいます。
今では「白杖は私の一部です」と笑顔で語れるようになった西森さん。
その言葉には、自分の歩む人生を自分で選ぶ強さがありました。

白杖を通して見えたのは、周囲のやさしさと、自分の中にある勇気。
西森さんの弁論は、聴く人の胸に「支え合うことの大切さ」を刻みました。

稲川祐司さんの“挑戦”と“自信”

準優勝に輝いたのは、近畿地区代表の稲川祐司さん(和歌山県立和歌山盲学校 高等部2年)。
稲川さんの弁論は、自分の弱さと正面から向き合う勇気について語られました。

彼は、人と話すのが苦手で、初めての場所に行くことが怖かったといいます。
しかし、視覚に障害をもっていても、自分の世界を広げることができると気づいた瞬間がありました。
それは、仲間たちとの出会いです。共に学び、共に笑う時間の中で、「自分も誰かの役に立てる」と思えるようになったのです。
その実感が彼を変え、今では後輩たちの相談にも乗るようになったといいます。
「自信とは、人からもらうものではなく、自分の中で育てていくもの」。
そんな言葉で締めくくられた彼の弁論には、静かな力強さがありました。

家族と仲間がくれた“支え”という光

出場者の多くが語ったのは、家族や友人、先生との関わりです。
見えにくさを抱えながらも前に進めたのは、支えてくれた人たちがいたから。
母の声、父の励まし、友達との笑顔――そうした日常の温かさが、彼らの心を支えていました。

ある弁士は「見えないからこそ、家族の表情はわからないけれど、声のトーンで愛情が伝わる」と語りました。
また別の弁士は、「音楽が不安を包み込んでくれた」と、音を頼りに生きる日々を表現しました。
“見えない世界”は暗闇ではなく、音や言葉、感情で満たされた世界なのだと気づかされます。

言葉がくれる“自信”と“未来”

今年の弁論大会で印象的だったのは、「自分を肯定する」言葉の多さです。
花村さんは「誰かと比べずに自分を認めること」を、
稲川さんは「挑戦することで生まれる自信」を、
西森さんは「白杖を通じて見つけた自分らしさ」を語りました。

それぞれの言葉には、違う経験と同じ願いが込められています。
それは「自分らしく生きたい」というまっすぐな願いです。
この大会は、単なるスピーチの場ではなく、彼ら自身が自分の言葉で未来をつくる場所。
そして聴く人にとっても、“生きるとは何か”を改めて考える時間になりました。

まとめ

この記事のポイントは3つです。

  1. 全国盲学校弁論大会は、1928年に始まり、今年で第93回。視覚障害をもつ生徒たちが、自分の思いを言葉で伝える伝統ある大会。

  2. 優勝した花村彩乃さんの『YUME』は、「自分を認めること」「夢を見続ける勇気」をテーマにした心に響く弁論。

  3. 白杖を「私の一部」と語った西森冬花さん、仲間に支えられ挑戦を続けた稲川祐司さんなど、9人それぞれが“生きる力”を届けた。

9人の弁士の言葉は、目に見えないけれど、確かに感じる希望の灯。
「見えない世界」に生きる人たちが見せてくれたのは、“光は外にではなく、心の中にある”という真実でした。

最後に、番組の内容と異なる場合があります。

参考・出典リンク


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