和菓子を育てる森と、人のちから
このページでは『ニッポンの里山 ふるさとの絶景に出会う旅「和菓子作りが育む森 宮崎県串間市」(2026年2月22日放送)』の内容を分かりやすくまとめています。
宮崎県串間市の里山では、森を覆う厄介者とされるクズが、和菓子に欠かせない本葛粉の材料として生まれ変わります。
急な斜面で巨大な根を掘り出す掘り子たちの姿には、自然と向き合い、森の未来を守ろうとする静かな強さがあります。読めばきっと、身近な和菓子の奥にある物語が少し違って見えるはずです。
宮崎県串間市の森で生まれる和菓子の物語
九州の南の端、温かな海風が吹きこむ宮崎県串間市。宮崎県串間市
その山あいの森で、静かに始まるのが今回の『ニッポンの里山 ふるさとの絶景に出会う旅「和菓子作りが育む森 宮崎県串間市」』です。
ここで主役になるのは、きれいな花を咲かせる一方で、森を覆ってしまうつる植物クズ。
放っておくと木をのみ込み、林を暗くしてしまう「厄介者」です。
でも、森の奥で汗を流す人たちは、そのクズの根っこから本葛粉という和菓子の貴重な材料を取り出しています。
番組では、背丈より深く掘り下げた穴から、人の胴体ほどもあるクズの根を引き上げる「掘り子」の姿を追いながら、和菓子と森のどちらも守ろうとする里山の物語が描かれます。
森を覆うつる植物クズとは?厄介者と呼ばれる理由
クズはマメ科のつる性植物で、日本の野山や河川敷など全国に広く生えています。
太いツルは何十メートルも伸び、木に巻き付いたり、地面をはいながら、あたり一面を自分の葉っぱで覆ってしまいます。
葉は大人の手のひらより大きく、重なり合うと下の地面は薄暗くなります。
日光が届かなくなると、他の草や木は光合成ができず、芽が出ても育ちにくくなり、やがて枯れてしまいます。
その結果、そこはほとんどクズだけの場所になり、木も立ち枯れた「緑のマント」に包まれたような景色になります。管理をしないと、耕作放棄地や斜面、防波堤なども一面クズだらけになってしまうことがあるため、「雑草の帝王」「グリーンモンスター」と呼ばれることもあります。
番組が映し出すのは、そんなクズが広がる急斜面の森。
でもそこでは、厄介者のクズが、和菓子の材料を生む「宝の山」に変わる瞬間があるのです。
根っこから生まれる宝物・本葛粉と和菓子の関係
本葛粉は、クズの根からとれるでんぷんだけを使ってつくった、純度の高い葛粉のことです。
透明感があって、ぷるんとした弾力があり、冷やすとつるっとなめらかな口当たりになります。
和菓子屋さんが大切にしているくず餅や葛きり、葛湯などは、この本葛粉があってこその味わいです。葛粉の中でも、奈良県吉野地方でつくられる吉野本葛は、クズの根を厳寒期の地下水で何度もさらす「吉野晒」という製法で有名で、老舗が伝統を守り続けています。
しかし、現在市場に出回る「くず粉」の多くは、さつまいもやとうもろこしのでんぷんを混ぜたものが中心で、クズの根だけでつくる本葛粉はとても貴重になっています。
番組では、串間の山中で掘り出されたクズの根が、本物の葛粉に生まれ変わっていく様子を通して、「和菓子のもちもち感の裏側には、森の中での重労働がある」という事実を静かに伝えていきます。
急斜面の森に挑む掘り子たちの仕事
クズの根を掘り出す職人たちは掘り子と呼ばれます。
番組に登場する掘り子たちは、冬の冷たい空気の中、早朝から山に入り、急な斜面を登っていきます。
まずは地面の上に伸びたツルを目で追い、その先端から根元がありそうな場所を探ります。
見当をつけたら、つるを頼りに地面を掘り始めます。
クズの根は、太いものになると人の胴体ほどの太さになり、長さも1メートル以上に達することがあります。
掘り子は、スコップやクワ、場合によっては小型のツルハシを使い、土を崩しながら少しずつ根の形を確かめていきます。
根は地中で曲がりくねっているため、一度に引き抜くことはできません。
土を落とし、周りの細い根を切り、傷をつけないように慎重に掘り進める作業は、見ているこちらが息をのむほどです。
九州には、クズの寒根を掘り子が山から運び、工場に持ち込んで本葛粉にする老舗もあります。そうした現場でも、掘り子たちは「自分の掘った根が、一流の和菓子になる」という誇りを胸に仕事を続けていると紹介されています。
串間の山でも同じように、掘り子の技と体力が、本物の葛粉づくりを支えているのです。
巨大なクズの根を掘り出す一日の流れ
番組のカメラは、一本のクズの根を掘り出す流れも追っていきます。
掘り子はまず、表面の落ち葉や枯れ枝を払い、ツルが地面に入っていく場所を見つけます。
そこから周囲を大きく掘り広げ、土の中に眠る根の輪郭を少しずつ浮かび上がらせます。
クズの塊根は硬くて重く、ときには数十キロに達します。根の下側まで掘り込んでから、てこの原理を使うようにして持ち上げ、最後は二人がかりで担ぎ上げることもあります。
掘り出した根は、土を落としてから山を下り、加工場へ運ばれます。
そこでは皮をむき、砕き、水で何度も洗い分けて、白くきれいなでんぷんだけを取り出す工程が続きます。奈良の吉野本葛の製法と同じように、冷たい水で何度もさらすことで、透明感のある上質な本葛粉ができあがります。
番組は10分という短い時間の中で、この「一本の根」が長い時間をかけて和菓子に姿を変えていく道のりを、ぎゅっと圧縮して見せてくれます。
葛粉づくりが守る里山の自然環境
クズは放っておくと、木や草を覆ってしまい、もともとあった里山の景色を一色にしてしまいます。
でも、クズの根を掘り取る作業は、森にとっては「手入れ」にもなります。
根を掘り上げることで、クズが一面を覆うのを防ぎ、森の地面に再び光が差し込むようになります。
そうすると、下草や若い木が育ちやすくなり、昆虫や小さな動物たちにとっても住みやすい環境が戻ってきます。
串間市には、里山と草原、海辺がコンパクトに詰まった地域があり、環境省の「重要里地里山」に選ばれている場所もあります。
番組の舞台となる森も、そうした里山環境の一つとして、クズとの付き合い方が問われている場所だと考えられます。
掘り子たちの仕事は、単に和菓子の材料をとるだけでなく、「クズを使いこなしながら、里山のバランスを保つ」という役割も果たしているのだと分かります。
串間市の里山と海がつくる景観の魅力
串間市は、宮崎県の最南端にあり、東側は日南海岸国定公園に含まれる海岸線が広がります。
青い海と白い砂浜、そして背後には濃い緑の山々。まさに「海と里山が隣り合う」町です。
市の南端にある都井岬には、野生の馬「岬馬」が草を食む草原が広がり、日本でも珍しい景観として知られています。
一方、内陸部には、牧草地や水田、雑木林が入り組んだ小さな集落が点在し、「箱庭のような里山」と表現されるエリアもあります。
番組が映し出すクズの森は、そんな串間の里山の一角。
海辺の観光地として知られる一方で、裏側ではこうした地道な森の仕事が続いていることを教えてくれます。
全国に受け継がれる本葛粉文化と代表的な産地
本葛粉の文化は、串間だけのものではありません。
奈良県の吉野地方では、江戸時代から続く本葛粉づくりの伝統があり、老舗が「吉野晒」という方法で今も手間ひまをかけて葛粉を作っています。
また、石川県の能登地方には「宝達葛」と呼ばれる葛粉があり、寒い季節の伏流水を使って精製するなど、地域ごとに独自の技と歴史があります。
串間のクズ掘りの現場を知ることで、視聴者は「本葛粉」と書かれたパッケージを見る目が変わります。
その粉の向こうには、急斜面の森で泥まみれになりながら根を掘り続ける掘り子たちと、何世代にもわたって受け継がれてきた技があることに気づかされます。
くず餅・葛きり・葛湯…本葛粉を味わう和菓子の楽しみ方
本葛粉から生まれる和菓子には、昔から親しまれてきたものがたくさんあります。
くず餅は、本葛粉に水と砂糖を加えて火にかけ、透明になるまで練り上げたものを冷やし固めたお菓子です。ぷるぷるとした口当たりで、黒みつときな粉をかけて食べると、のどごしの良さとやさしい甘さが広がります。
細く切った葛を冷水にさらして楽しむ葛きり、体を温める葛湯なども、どれもシンプルな材料なのに、透明感のある見た目と、ゆっくりとろける口どけが魅力です。
番組を見たあとにこうした和菓子を口にすると、「この一口のために、どれだけ大きな根が掘られたんだろう」と想像してしまいます。
森の景色と掘り子の姿を知ったうえで味わう本葛粉は、きっと今までよりもずっと深い味わいに感じられるはずです。
和菓子作りがつなぐ森と人のこれから
『ニッポンの里山』シリーズは、日本各地の小さな風景の中に、暮らしや文化を支える人の姿を映してきました。今回のテーマは、和菓子と里山とクズ。ニッポンの里山 ふるさとの絶景に出会う旅
森を荒らす厄介者として嫌われがちなクズも、その根を掘り、粉に変え、和菓子として生かせば、地域の誇れる資源になります。
掘り子の働きは、おいしい和菓子の伝統を支えるだけでなく、森の光と多様な命を守ることにもつながっています。
視聴者は、スーパーに並ぶ一袋の葛粉の奥に、串間の森で汗を流す人たちの姿を感じるようになるでしょう。
そして、「里山の恵みを無駄にしない暮らし方って、どんなものだろう?」と、少しだけ自分の生活を見つめ直すきっかけにもなるはずです。
この回は、たった10分ですが、森と和菓子と人の仕事がぎゅっと詰まった、濃い時間になりそうです。
NHK【ニッポンの里山】ふるさとの絶景に出会う旅▽鳥たちとサトウキビ畑 沖縄県多良間島|多良間島サトウキビ野鳥が描くミフウズラ行列と耕起作業とつながる生態ドラマ|2026年2月8日
気になるNHKをもっと見る
購読すると最新の投稿がメールで送信されます。


コメント