管理職は“罰ゲーム”!?令和の最先端人事
2025年5月7日にNHK総合で放送された『クローズアップ現代』では、「管理職は“罰ゲーム”!?」と題し、令和の時代における管理職の現実と、それに対応するための最先端人事の取り組みが紹介されました。かつて憧れの的だった管理職が、今では過重な業務と責任に悩まされ、“罰ゲーム”のように感じられることもあるという現状が浮き彫りになりました。本記事では、番組で紹介された実例や最新のサポートサービス、企業の取り組みなどをわかりやすくまとめます。
平成・令和で変わった管理職の姿
時代の流れとともに、管理職の役割は大きく変化してきました。昭和の終わりから平成にかけては、企業に忠誠を誓い、長時間労働をいとわず働く姿勢が理想とされた時代でした。平成元年に流行した「24時間戦えますか?」というキャッチコピーが象徴するように、体力と根性で乗り切ることが美徳とされていました。
・成果よりも忠誠心や根性が評価されやすい風潮があった
・管理職は部下に対して厳しく接し、上下関係がはっきりした時代だった
・部下のプライベートにはあまり踏み込まず、成果や数字で評価する文化
しかし、平成20年ごろから企業の体質に変化が現れます。コンプライアンスの強化が重視され始め、パワハラやセクハラといった問題への社会的な関心が高まりました。企業の管理職には、法律や社会的モラルを意識した対応が求められるようになります。
・管理職としての責任範囲が「売上」から「人の扱い方」へと広がった
・部下の発言や行動への配慮が必要となり、指導の難易度が増した
・研修や倫理教育の導入も増え、マネジメントスキルだけでは対応できない場面が増加
さらに令和に入り、働き方改革が本格的に進められると、管理職の負担はますます複雑化しました。以前のように「長時間働いてなんとかする」という発想は通用せず、限られた労働時間の中で成果を出すことが求められます。それだけでなく、部下の精神的な健康への気配りや、個々のキャリアビジョンに合わせた育成、ダイバーシティ対応など、求められる役割が格段に増えました。
・「プレイングマネージャー」として、自らも業務をこなしながら部下の育成を担う必要がある
・若手社員の価値観や働き方への理解も求められる
・メンタル不調や退職リスクへの早期対応など、専門知識も求められるようになった
このように、令和の管理職は「一人でなんでも背負う」立場に追い込まれやすくなっており、かつてのように「出世=安泰」とは言い切れない状況です。実際、多くの若手社員が「管理職になりたくない」と感じる理由も、ここにあるのかもしれません。
役割が拡大する一方で、支援体制や制度設計が追いついていない現状がある中、今後の人事制度の進化とともに、管理職というポジション自体の再定義が求められている時代と言えるでしょう。
大手介護用品会社の現場から見える苦悩
番組では、東京都内にある大手介護用品レンタル会社の営業所長・松波雄治郎さんの日常が取り上げられました。3年前に所長となった彼の仕事ぶりからは、令和の管理職が抱える多忙さと孤独感が浮かび上がります。彼は毎朝、部下一人ひとりの売上ノルマを確認し、数字の進捗を細かく把握することから1日が始まります。その一方で、自身もプレイヤーとして営業活動に取り組み、成果を出さなければなりません。
・日々の売上管理、ノルマ進捗のチェックを徹底的に行っている
・自身の営業成績にも責任を持ち、外回りの活動も欠かさない
・管理職でありながらプレイヤー業務もこなす「プレイングマネージャー」状態
部下との人間関係にも神経を使っており、世代の違いや価値観の差を受け止めながら接しています。20代から50代まで多様な年齢層の部下を抱える松波さんは、昼休みなどの時間を使って部下の悩みに耳を傾けるなど、精神的なケアにも尽力しています。ときには部下に同行し、現場での指導や支援も行いますが、こうした「見えない仕事」が増えたことで残業は慢性化し、限界を感じていました。
・部下の相談相手として常に身近な存在でいようと努力している
・休憩中も「管理職」としての責任を感じて行動している
・同行指導や育成活動にも積極的に関わっている
このような中、会社が新たに導入したのが「AI上司」と呼ばれる管理支援サービスです。メール、チャット、会議記録などのデータをAIが自動で分析し、部下の性格や行動傾向、業務状況を「見える化」してくれる仕組みです。この情報はレポートとして所長に共有され、気になる兆候をいち早く把握できるのが特長です。
・AIが業務上の発言や行動パターンを解析し、傾向や注意点を報告
・「退職リスクの高まり」なども推定し、早期対応が可能になる
・定量的に見えづらい「努力」や「意欲」も分析対象になる
実際に松波さんは、AI上司からのレポートである部下の発言に注意を促されました。「行ければ」という曖昧な言葉に着目したAIは、その真意を分析し、ネガティブではなくポジティブな意欲として捉えた内容を報告。松波さんはその情報を参考に、部下との面談を実施。言葉の背景にある心理や状況を共有し、より良い関係づくりにつなげていました。
このように、AI上司は管理職が抱える「時間的・心理的な負担」を軽減するための新たな手段として活用されつつあります。とはいえ、最終的には人と人との信頼関係があってこそ成立する仕事であるため、AIの情報をどのように読み取り、行動につなげるかが管理職の力量にも問われています。管理職支援は技術的進歩と現場感覚の両輪が揃って初めて、効果を発揮するものだといえます。
上司代行という新たな選択肢
AIによるサポートだけでなく、人の力を活かした「上司代行」サービスにも注目が集まっています。これは、管理職不足やマネジメントの負担が大きい企業が、外部の経験豊富な人材と契約し、管理職の業務を一部代行してもらうという仕組みです。番組では、すでに全国で154社が導入しているという実績が紹介され、実際の事例としてウェブ広告マーケティング会社の取り組みが取り上げられました。
この企業では、管理職3年目の中司さんを支援する形で、外部から派遣されたベテランマネージャーの安井さんが活躍しています。安井さんは、IT企業などで多様なマネジメント経験を積んできた人物で、部下14人の育成や新規事業のアドバイス、個別のキャリア相談といった業務を中司さんに代わって担っています。
・部下との1対1のキャリア面談や相談にも丁寧に対応
・新規プロジェクトに必要な視点や準備のしかたを指導
・現場で観察した点をメモにまとめ、中司さんにフィードバック
このように、現場に深く入り込みながらも、外部の中立的な立場でアドバイスを行うことが可能な点が、上司代行の強みです。特に、若手管理職が増える中で「マネジメントの型」が身についていないケースが多く、こうした外部サポートは実践的な学びと精神的な支えの両方の役割を果たします。
さらに、安井さんは単なるアドバイザーにとどまらず、現場での言動や部下とのやりとりの中から課題を発見し、それを共有することで上司本人の成長にもつなげる支援をしています。あくまで補助的な立場ながら、企業のマネジメントの質を高めるための存在として重要な役割を果たしているのです。
このような取り組みは、「上司だからすべて完璧にこなさなくてはいけない」という思い込みを解きほぐし、外部リソースとの協働によるチーム強化という新たな発想を企業にもたらしています。今後、こうした上司代行のニーズはさらに広がっていく可能性があります。
若手社員と管理職の関係を変えるツール
現代の職場では、世代間の価値観の違いや働き方の多様化により、上司と部下の意思疎通が難しくなる場面が増えています。そうした背景を受けて、性格傾向を可視化するオンラインツールが新たなコミュニケーションの手段として導入され始めています。このツールは、簡単な質問に答えることで、個人の性格の傾向や行動パターンを分類し、職場での接し方のヒントとして活用されます。
・会話の糸口が見つからないと感じる上司にとって、ツールは理解の手助けとなる
・部下の価値観や反応の傾向がわかることで、接し方の工夫につながる
・上司と部下の間に共通の話題が生まれやすくなり、関係性がなめらかになる
たとえば、都内の化粧品会社では、若手社員との距離を縮めるための会話のきっかけ作りとして活用されています。業務と直接関係のない話題でも、性格診断の結果を共有することで自然と会話が生まれ、お互いの理解が深まりやすくなる効果が見られます。
また、美容クリニックを運営する企業では、スタッフ間の人間関係の改善や職場の雰囲気づくりにも貢献しており、特に若年層の社員にとってはゲーム感覚で楽しめる点が導入のしやすさにつながっています。
ただし、このようなツールについては専門家からの慎重な意見もあります。診断の精度や心理学的根拠については十分に検証されていない側面もあるため、あくまで参考資料として扱い、「この人はこういう性格だから」と決めつけて使うことのないよう配慮が必要です。
・性格を決めつけるのではなく、あくまで対話の補助的ツールとして使うべき
・職業適性を判断するものではなく、組織づくりの一助とする姿勢が重要
導入企業もこうした注意点を踏まえ、「正確な診断ツールとしてではなく、あくまでコミュニケーションのきっかけとして使っている」としています。ツールはあくまでツールであり、使い方次第で有効にもなるし、逆に誤解を生む恐れもあるという認識を持つことが大切です。
変化する組織の中で、こうした新たな方法を柔軟に取り入れる姿勢こそが、今後の管理職に求められる資質の一つだと言えるでしょう。
管理職がいない会社という選択肢
令和の働き方のなかで、あえて管理職を設けないという新たな組織体制を選んだ企業も登場しています。番組で紹介されたのは、愛知県名古屋市にあるウェブデザイン会社。この会社では、「管理する人・される人」という従来の上下関係を廃止し、社員一人ひとりの自主性とチームの信頼関係を軸にした働き方を実現しています。
社内は5人前後のユニットに分かれており、それぞれが対等な立場で業務を分担し合いながらプロジェクトを進行。業務の進捗や成果はチーム内で共有され、指示を待つのではなく、自ら動くことが求められます。
・各ユニットが自律的に運営され、役割を固定しすぎない柔軟な体制
・日々の意思決定はメンバー間の話し合いによって進められる
・形式的な「上司」がいないことで、相談や提案がしやすくなる雰囲気がある
人事評価については、役員がチーム全体の成果や貢献を見て判断する仕組み。リスク管理などの責任領域は、専門性を持った総務部が担い、社員がマネジメント業務に追われることなく、本来の仕事に集中できる体制が整えられています。
そして最も注目されるのが、「自己申告制の給与制度」です。この会社では、全社員の業績や活動内容を見える化する仕組みがあり、それをもとに自分自身で納得のいく給与額を申告する制度を導入しています。
・社内に開示された実績をもとに、自分の貢献度を自己評価
・申告内容は役員との面談などを経て最終決定
・過大評価や過小評価を避けるよう、透明性と納得感を重視している
この制度は、社員にとって責任も伴う一方で、自分の仕事を正しく見つめ直す習慣や、組織全体への意識の高まりにもつながっています。管理職がいないことで、一人ひとりが「組織の一員として自分で考えて動く」という意識を強く持つようになり、それが自然なリーダーシップにもつながっているのです。
このように、管理職のいない組織体制は、上下関係に縛られない自由な働き方と、自主性を育む環境を両立させる試みとして、今後さらに注目されるかもしれません。
令和の管理職に求められること
パーソル総合研究所の小林祐児さんは、管理職が一番楽になるのは部下が先回りして動けるようになることと指摘します。しかし現実には、上司がすべてに口を出す「マイクロマネジメント」が横行し、部下の成長を妨げることも少なくありません。
すべてを完璧にこなそうとするのではなく、プロジェクトごとにメリハリをつけ、部下に余白を与えることが重要。そうした環境でこそ、部下の自主性が育ち、管理職の負担も軽減されていくのです。
令和時代の管理職には、単なる成果主義だけでなく、人間性と柔軟さを持ち合わせたマネジメントが求められていることを、この番組は明確に伝えていました。
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