赤土が育む奇跡の味、田原いもんこの物語
里芋といえば、日本の食卓で昔から親しまれてきた秋の味覚。煮物や汁物、芋煮会など、家庭の温かさを感じさせる食材です。けれど全国を見渡しても、「一度食べたら忘れられない」と言われるほど独特の粘りと甘みをもつ里芋が、長崎県諫早市小長井町にあります。それが、田原地区で育てられるブランド芋・田原いもんこ(たばるいもんこ)。地元の方言で「いもんこ」とは「里芋」のこと。単なる野菜ではなく、土地の風土と人々の誇りが詰まった逸品です。
土が違う。味が違う。田原の赤土がつくる唯一の里芋
田原いもんこの最大の特徴は、なんといっても赤土(粘土質土壌)です。田原地区は有明海に面し、古くから火山灰や鉄分を多く含んだ赤土が堆積する地形。この土は、ミネラルや鉄分、カリウムが豊富で、里芋の甘みと粘りをぐっと引き立てます。保水性と通気性のバランスも理想的で、芋がじっくり育ち、身が締まりながらもねっとりとした食感に。煮ても崩れにくく、すり鉢でこすとまるでトロのように滑らかになるのが特徴です。
地元では、田原いもんこの粘りを「赤土の力」と呼ぶ人も多く、他の地域では真似できない味わいとして知られています。
4年に1度しか作れない、自然と対話する農業
田原いもんこは、同じ畑で4年に1度しか栽培できないという極めて珍しい作物です。これは、土の栄養を守るためにあえて連作を避け、毎年別の場所で作付けを行う伝統農法を守っているから。里芋は土地の力を大きく消費する植物のため、土を休ませながら育てる必要があります。農家の人たちは、畑の状態を見極め、赤土が再び力を取り戻すのをじっと待ちます。まさに“自然と相談しながら作る芋”なのです。
このため生産量は限られ、秋の出荷時期(10月〜12月)にはすぐに売り切れてしまうことも。スーパーではまず見かけることができず、地元の直売所や予約販売でしか手に入らない“幻の芋”として知られています。
農薬に頼らず、人の手で育てるぬくもりの味
田原いもんこを生産しているのは、地元農家による本場・田原いもんこ特産化研究部会。代表の村岡辰幸さんを中心に、地域の農家が協力し、昔ながらの農法を受け継いでいます。農薬や化学肥料を極力使わず、除草は手作業。赤土を生かした自然栽培を貫くことで、安心・安全な里芋を届けています。
農家の方々は「土の声を聞きながら育てる」と話します。台風が多い土地だからこそ、畑の排水や風よけも一つひとつ工夫し、収穫までの日々を丁寧に積み重ねています。その姿勢は、農産物というより“作品”づくりに近いとさえ言えるでしょう。
「さとる君といも子ちゃんの直売所」で出会う本場の味
田原いもんこが購入できるのは、諫早市小長井町田原・西円寺前にある直売所「さとる君といも子ちゃんの直売所」。名前からして温かみがありますが、ここでは農家の方が直接販売しており、収穫したばかりのいもんこが並びます。1パック約500gで販売され、形が小ぶりでも中までぎゅっと詰まった重みが特徴。適切な保存環境であれば約1か月持つため、贈答品としても人気があります。
直売所では、地元で採れた新鮮な野菜や果物、加工品も販売されており、田原地区の“食のショールーム”のような存在。観光客も多く訪れ、いもんこの試食をきっかけにリピーターになる人も少なくありません。
秋の風物詩「田原いもんこ祭り」で味わう郷土の誇り
地元の誇りとして親しまれる田原いもんこは、秋に開催される「田原いもんこ祭り」でも主役となります。2019年には11月23日に開催され、芋煮の無料試食や野菜販売、地域グルメの出店がずらり。子どもたちが収穫体験をする姿や、地元高校生によるステージ演奏もあり、まち全体が芋の香りと笑顔で包まれます。
この祭りは単なるイベントではなく、「地域の誇りを次世代へつなぐ日」として位置づけられています。農家が一年をかけて育てた芋をみんなで味わい、自然と人の関係を見つめ直す時間でもあるのです。
プロの料理人も認める「旨みの宝庫」
長崎県のテレビ番組『ながさき旬ごよみ』では、田原いもんこを使ったアレンジレシピが紹介されました。登場した料理は「田原いもんこグラタン」と「芋饅頭」。グラタンは、すりつぶした里芋にホワイトソースを合わせることで、なめらかで濃厚な食感に仕上げられています。芋饅頭は、田原いもんこのねっとりした粘りを生かした一品で、冷めてもやわらかいのが特徴。料理人たちは「この芋は旨みが深い」「一度使ったら忘れられない」と語り、プロの現場でも高く評価されています。
また、地元の食堂や旅館では、煮物や田楽にして提供されることも多く、観光客が「この芋を食べに来た」と話すほど人気です。
まとめ
田原いもんこは、長崎県小長井町の赤土と人の手が生んだ“奇跡の里芋”。
ねっとりした粘り、やさしい甘み、そして丁寧に守られてきた農法が一体となり、唯一無二の味を作り出しています。
機械化の波に流されず、自然と向き合いながら丁寧に育てる——その姿勢こそが、地域の誇りであり、日本の農業の原点でもあります。
もし秋に長崎を訪れることがあれば、ぜひ小長井町の直売所を訪れてください。土の香りとともに、温かい人の手が生んだ本物の味に出会えるはずです。
出典・参考:
こなガイド|フルーツバス停・日本一の牡蠣の長崎県諫早市小長井町ポータルサイト
号外NET 諫早市・大村市
諫早市公式サイト
FACE長崎
YouTube『ながさき旬ごよみ』特集回
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