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【午後LIVEニュースーン】教室で共に学ぶ!多文化共生へ向けた日本語教育の最前線|2025年6月9日

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生徒も学校も変わる!新しい日本語教育のカタチ

2025年6月9日放送の「午後LIVE ニュースーン」(NHK総合 17:00〜17:57)では、「トクシュ~ン」コーナーで、急増する外国にルーツを持つ子どもたちへの日本語教育の変化に焦点を当てました。平成26年度には約3万7000人だった日本語指導が必要な児童生徒は、令和5年には約6万9000人とほぼ倍増。その背景にある課題や、新たな取り組みを追いました。放送では、高校中退率が平均の8倍となる8.5%という厳しい現実にも触れ、新しい教育の方法に光が当てられました。

外国ルーツの生徒が多い学校での取り組み

取材で紹介されたのは、愛知県にある県立衣台高等学校です。学校には約450人の生徒が在籍しており、そのうちおよそ3割が外国にルーツを持つ家庭の子どもたちです。学校がある豊田市は、自動車関連の企業が多く集まっている地域で、工場や関連事業で働く外国人が多く住んでいます。そのため、自然と外国ルーツの生徒も増えており、学校はそうした子どもたちの学びを支えるために、特別な教育環境を整えています。

この学校で特徴的なのは、「母語OK」の日本語の授業が行われていることです。通常、日本の学校では日本語だけで授業が進められますが、この学校では、家庭で使っている母語も使えるようになっています。母語を排除せず、むしろ生徒が持っている言葉の力を活かすという方針です。

たとえば授業の中では、

  • 生徒が自分の考えを母語でメモし、日本語に言い換えてまとめる

  • グループディスカッションで母語を使って深く話し合う

  • 日本語と母語の両方で作文を書くことで、考えを整理する

といった活動が行われています。

こうした取り組みにより、生徒が安心して学べる環境が生まれ、自分の力をのびのびと発揮できるようになってきました。文化も言葉も違う中で学ぶ子どもたちにとって、「わかってもらえる」「伝えられる」という実感はとても大切です。この学校では、その気持ちを大事にするために、先生たちも日々工夫を重ねながら授業を組み立てています

母語を許可することで、ただ日本語を「教える」のではなく、生徒の考えや価値観を「引き出す」授業になっているのが特徴です。生徒たちは、自分の持っている力をそのまま活かしながら、自然と日本語の運用力も高めていくことができるようになっています。このような取り組みは、外国にルーツを持つ子どもたちが日本で安心して学ぶための大きな支えとなっています。

マイカさんの変化と成長

授業で紹介されたポスタダン・マイカさんは、ブラジルから4年前に日本へ来ました。現在は6人家族で生活しながら、高校に通っています。来日当初は、日本語がうまく理解できないことで学校生活に困難を感じていました。もともと勉強が得意だったにもかかわらず、教室で先生の話が聞き取れず、教科書の内容もわからず、次第に自信を失っていきました。得意だったはずの学びが、苦痛になってしまったのです。

しかし、衣台高校での「母語OK」の日本語授業に出会ってから、マイカさんの様子は大きく変化しました。授業では、日本語と母語の両方を使うことができます。そのため、わからない言葉があっても母語で補いながら理解でき、自分の思考を止めずに進めることができます。

たとえばこの日の授業では、日本で弁護士として活躍している日系ブラジル人の方の人生を取材し、記事にまとめるという課題が出されていました。マイカさんは、その人物の話を聞きながら、

  • 母語で要点をメモ

  • 日本語で要約

  • 感じたことを2つの言語で整理

といった形で授業に取り組んでいました。ノートには日本語と母語が入り混じったメモがびっしり書かれており、その量と内容の深さから、本人の強い集中力と理解力がうかがえました

こうした授業を通じて、マイカさんは次第に「自分の考えを伝えられる」という手応えを得るようになりました。言葉に頼らずとも自分の思考を尊重される経験は、学ぶ意欲につながり、日本語の上達も加速しました

この変化に驚いたのは担当の大西先生です。先生は、日本語だけでは見えなかったマイカさんの知的な力や豊かな表現に、何度も驚かされたと話しています。生徒が本来持っている力は、日本語力だけでは測れないということを実感する場面が多くあったそうです。

今ではマイカさんは、授業中に積極的に意見を述べることもあり、日本語の理解も深まりつつあります。何よりも、以前に失っていた「自分はできる」という自信を取り戻してきた様子がはっきりと見られるようになりました。母語を大切にしながら日本語を学ぶというスタイルが、マイカさんにとって本来の力を取り戻すきっかけになったのです

なぜ母語OKが効果的なのか

番組のスタジオでは、外国ルーツの子どもたちへの新しい日本語教育の効果について、専門家が具体的に解説していました。とくに注目されたのは、母語を使える環境が子どもたちの力を引き出す大きな理由です。

マイカさんのように、本来の思考力や理解力は学年相当以上にあるにもかかわらず、日本語だけで評価されると「理解していない」と誤解されてしまうケースが多くあります。日本語の表現でつまずいてしまい、内容が伝わらないと、まわりからは「できない」と見られてしまいます。さらに、作文や会話で文法の間違いばかりを指摘されることで、本来の力とは関係のない部分で評価され、自信を失ってしまうのです

こうした状況を変えるのが、「母語OK」という授業スタイルです。

  • 生徒は母語を使って深く考えることができる

  • 自分の言葉で安心して意見を表現できる

  • 自分の考えが認められることで自己肯定感が高まる

このような効果が積み重なり、生徒は「ここにいていい」「学ぶことが楽しい」と感じるようになります。学習意欲が高まるとともに、日本語の習得も自然と進みます

この教育法の背景には、文部科学省が進める「新たな評価のものさし」があります。従来のように一律の日本語能力だけで評価するのではなく、

  • 縦軸:日本語を使いこなす力

  • 横軸:思考力・理解力

という2つの軸で、より多面的に子どもの力を見るという考え方です。これにより、日本語がまだ不十分でも、思考の深さや考えの内容をきちんと評価できるようになります

この「ものさし」は、外国ルーツの子どもたちだけでなく、日本人の中にも学校で生きづらさを感じている子に有効ではないかとも言われています。たとえば、自分の意見を言うのが苦手だったり、言葉で表現するのが難しい子どもたちも、考えている力は十分にある場合が多くあります。そうした力を見逃さずに引き出す方法として、「母語OK」の考え方や2軸の評価法は、今後の教育に大きなヒントを与える可能性があります。

日本の教育全体へのヒント

番組で紹介された「母語OK」の日本語教育は、外国にルーツを持つ子どもたちだけでなく、すべての子どもたちの学びに新たな視点を与えるものとして紹介されました。スタジオの専門家は、このアプローチが日本人の子どもたちにも有効である可能性を指摘していました。

たとえば、教室には「話すのが苦手」「作文が苦手」とされている子どもがいます。でも実際には、

  • 頭の中では深く考えている

  • 伝えたいことがあっても、言葉にするのが難しい

  • 言い間違いや表現不足で「わかっていない」と誤解される

というように、本来の思考力が十分にあるのに、言語面で評価が低くなってしまうケースが多くあります。

こうした子どもたちに対しても、「母語OK」と同じような考え方が役立ちます。たとえば、

  • 絵や図を使って考えを表現する

  • 自由記述にこだわらず、口頭やメモなどさまざまな方法で思考を引き出す

  • 内容の深さを評価軸に含める

など、「言葉の正確さ」だけでなく「考えていることの中身」まで評価する方法に目を向けることで、子どもたちの力をより正しく理解し、育てることができるようになります。

実際に母語OKの授業では、思考の深さに応じた学び方を取り入れており、一人ひとりの理解のペースや表現方法を大切にしています。こうした取り組みは、「みんなが同じやり方で学ばなければならない」という従来の教育の枠組みを見直すきっかけにもなります。

このように、外国ルーツの生徒のために始まった教育の工夫が、日本の教育全体にとっても大きなヒントになることが番組を通じて示されました。子どもたち一人ひとりの持つ力に目を向け、それをどう伸ばしていくかという視点は、これからの教育においてますます重要になると考えられます。

おわりに

「母語OK」という新しい日本語教育の形は、子どもたちの持つ本来の力を引き出し、可能性を大きく広げてくれるものでした。言葉は学ぶための道具であると同時に、自分を表現する大切な手段です。今回紹介されたような取り組みがさらに広がることで、だれもが自分らしく学べる社会に近づいていくのではないでしょうか。

放送の内容と異なる場合があります。

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