函館でかぶりつく幸せ――ラッキーピエロが映す町の笑顔
今回の『ドキュメント72時間』がカメラを向けたのは、北海道函館市のラッキーピエロ。観光客にも地元民にも愛される“ご当地バーガーの聖地”です。
年間500万人が訪れる人気観光地・函館。その中で、観光名所を巡る人々が最後にたどり着く場所の一つがこの店。取材班が72時間を通して見つめたのは、特大サイズのハンバーガーを頬ばる人々の笑顔、そしてその笑顔の奥にある「人生の物語」でした。
この記事では、地域社会学の視点から、函館という街とラッキーピエロという存在が生み出す“幸せの循環”について考えます。
地元に根を張る“函館限定バーガー”の哲学
結論から言えば、ラッキーピエロは単なる人気店ではなく、“地域文化そのもの”です。
創業は1987年。函館市昭和に1号店を開き、現在は道南エリアに17店舗を展開しています。それでも本州や全国への出店は行わず、「函館限定」を守り続けてきました。
創業者の王一郎さんは、中国料理店での修行を経て、「函館の人が誇れる味を作りたい」との思いからこの店を立ち上げました。店名の“ピエロ”には、「食べる人を笑顔にしたい」という願いが込められています。
人気ナンバーワンの『チャイニーズチキンバーガー』は、函館産の鶏肉を使い、注文を受けてから一つずつ揚げて仕上げる。甘辛いタレとマヨネーズが絶妙にからみ、口いっぱいに広がるボリュームと香り。
この「できたて」「手づくり」「地元産」にこだわる姿勢が、ラッキーピエロの真髄です。冷凍食材を一切使わず、全店舗で調理。地産地消の信念が、地域経済の循環にもつながっています。
函館の魅力度ナンバーワン、その裏にある静かな課題
函館は、観光都市としての知名度が高く、夜景・港町・異国文化の香りで“日本のロマン都市”と呼ばれます。
一方で、地域社会が抱える課題も見逃せません。人口減少、若者流出、高い失業率——数字の上では厳しい現実が並びます。観光客が増えても、それが必ずしも地元の安定的な雇用や所得に直結しない現実があるのです。
そうした中で、ラッキーピエロは「地元で働ける場所」「地元で笑顔をつくる場所」としての役割を果たしています。
調理から接客までを地域採用でまかない、店舗装飾や清掃まで地元業者が携わる。まさに“函館で完結するビジネスモデル”。それが地域経済の支えとなり、同時に町の誇りを守っています。
観光客と地元をつなぐ「第三の居場所」
番組では、観光で訪れた人と、毎週通う地元の常連が同じテーブルでハンバーガーを頬ばるシーンも描かれました。
この風景は単なる飲食ではありません。地域コミュニティの再生の象徴です。
社会学では、家庭でも職場でもない人が安心して過ごせる空間を「サードプレイス」と呼びます。ラッキーピエロはまさにその典型。
観光客にとっては「旅の記念になる特別な場所」、地元民にとっては「いつもの居場所」。その2つの価値が同時に存在しているからこそ、店内には穏やかな時間が流れます。
幸せの形は、人の数だけある
取材中、番組スタッフが訪れたお客さんに「あなたにとって幸せとは?」と尋ねると、返ってくる答えはどれも等身大のものでした。
「仕事帰りにここで食べるのが楽しみ」
「夫婦で来る時間がうれしい」
「この味を食べると地元に帰ってきた気がする」
そのどれもが、特別な成功や豪華な出来事ではなく、“日常の中のひととき”です。
ラッキーピエロのハンバーガーは、人の記憶や思い出を呼び起こす「心の味」になっているのです。
この「小さな幸せ」を描くのが、ドキュメント72時間らしい魅力。飾らない語りの中に、人生の深さが滲み出ます。
地域社会が抱える課題と希望のバランス
地域活性化の観点から見ると、ラッキーピエロは“単なるグルメスポット”ではありません。
地域内で経済を循環させ、若者の雇用を生み、観光客の滞在時間を延ばす装置として機能しています。
特に注目すべきは、「地元限定」という戦略。全国展開しないことで“ここに来なければ食べられない価値”を生み、観光経済を持続可能にしています。
また、環境保全や地域清掃、植林活動なども積極的に行い、地元との共生を続けています。これはまさに“地域企業の理想形”です。
観光都市の表と裏、その両方を支える姿勢が、多くの人の共感を呼び続けています。
放送後に追記予定
今回の再放送では、実際の72時間で出会った人々のエピソードが再び登場する見込みです。
どんな思いでハンバーガーを食べているのか、店員の一言がどんな笑顔を生むのか。放送後には、店主やお客さんの実際のコメントをもとに、より具体的な“函館の幸せ論”を追記予定です。
特に、ベイエリア本店で語られる「この店があってよかった」という声は、地域の希望そのものでしょう。
まとめ
この記事のポイントは以下の3つです。
・ラッキーピエロは、函館限定にこだわるご当地バーガーとして、地域文化と誇りを支えている。
・ハンバーガーを頬ばる人々の笑顔から、“日常にある幸せ”の本質が見えてくる。
・観光と地元をつなぐ場として、地域活性化の新しい形を示している。
函館の夜風に包まれながら、大きなバーガーにかぶりつく。その瞬間、人は誰でも「自分の幸せ」を少しだけ確かめているのかもしれません。
派手ではなくても、確かな温もりを持つ“地域の笑顔”——それが、72時間の中に流れる真実です。
(ソース:NHK『ドキュメント72時間 選 函館 ハンバーガーと幸せと』2025年10月17日放送)
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