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NHK【ドキュメント72時間】大宮盆栽村・鉢の中の宇宙と人々の物語|2025年6月20日放送

ドキュメント72時間

「盆栽 鉢の中の小さな宇宙」

2025年6月20日(金)放送の『ドキュメント72時間』では、日本が世界に誇る盆栽文化の中心地「大宮盆栽村」にカメラが入りました。訪れる人々の姿と声を通して、鉢の中に広がる“もうひとつの宇宙”が描かれました。今回は、番組で紹介されたすべてのエピソードをもとに、大宮盆栽村の魅力と人々の思いを紹介します。

盆栽の聖地・大宮盆栽村を訪ねて

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舞台となったのは、埼玉県さいたま市北区の「大宮盆栽村」です。この場所は、日本でも数少ない盆栽専門の地域として知られており、現在も6つの盆栽園が集まる静かな一帯となっています。1925年、関東大震災の影響で東京から移住してきた盆栽職人たちによってこの地は開かれ、その後も長い年月をかけて、盆栽文化の中心地として育まれてきました。

取材が行われたのは新緑の季節。園内は若葉の香りに包まれ、木々の生命力があふれる時期でした。番組スタッフは3日間にわたり、大宮盆栽村を歩き、訪れる人々や園主たちの様子をカメラに収めていきました。そこには盆栽を見つめるだけではなく、木と向き合い、対話するように手を入れる人々の姿が映し出されていました。

・盆栽の枝を丁寧に剪定する年配の男性
・根元の苔を整えながら水をかける女性
・日差しの中、葉の向きを確認している若い職人

それぞれが自分の感性や経験と重ね合わせながら、一鉢一鉢に向き合っている様子が印象的でした。ただ美しさを整えるのではなく、その木がどのように生きてきたか、これからどう成長させていくかを考えながら手を入れるのです。園内には、短く刈り込まれた松や、枝ぶりの美しい楓、白い花をつけた桜など、個性あふれる盆栽たちが並び、それぞれに物語が宿っているようでした

また、訪れた人々の中には、毎年決まってこの時期に来るという常連客や、観光で立ち寄った家族連れの姿もありました。どの人も共通して、静かな時間の中でゆっくりと木を見つめ、自然と心が落ち着くような表情をしていたのが印象的でした。

大宮盆栽村は、観光名所としてだけでなく、人と自然が寄り添う場所、そして時間の流れを感じられる場所として、今も多くの人々に愛されています。取材の中で映された一人ひとりの姿からは、盆栽と向き合うことが日常の一部になっていること、そしてその中に豊かな感情や思い出が込められていることが伝わってきました。

子どもから園主まで、それぞれの「盆栽との物語」

番組には、年齢も立場も異なる人々が登場し、それぞれの盆栽との関わりが丁寧に描かれていました。

初日(5月10日)多彩な来訪者との出会い

撮影初日、スタッフが最初に訪れたのは、大宮盆栽村でも歴史ある盆栽園「芙蓉園」でした。朝の柔らかな光の中、盆栽職人が一鉢ずつ丁寧に枝を整える作業に集中していました。周囲は静まりかえり、聞こえるのは風に揺れる葉の音と、剪定ばさみのかすかな音だけ。園内の空気には、時が止まったかのような落ち着きが広がっていました。

その後、園内にはアメリカから来日したカップルの姿がありました。彼らは盆栽を趣味としており、日本の本場の空気を感じるためにこの地を訪れたとのこと。手にカメラを持ち、じっと鉢の中を見つめながら、それぞれの形や色に魅了されている様子でした。言葉の違いを超えて、盆栽の前では誰もが同じ姿勢で自然と向き合っているのが印象的でした。

この日はさらに、多様な人々への取材が行われました。

  • システムエンジニアとして働く男性は、平日にも関わらず仕事の合間をぬって盆栽園を訪れていました。時間に追われる日常の中で、ほんのひとときでも静かな時間を持ちたいと足を運んでいるようでした。

  • 営業職の男性は、忙しい仕事の合間にも定期的にこの場所を訪れているとのこと。園内を歩きながら、長く育てられた鉢に見入る姿からは、仕事では味わえない穏やかな気持ちが伝わってきました。

  • 印刷業を営む男性は、自分の盆栽を園の一角に預けており、手入れのために通っているそうです。鉢の中にある小さな世界に、日々の疲れを癒やしてもらっていると感じているようでした。

そして、ひときわ異色の経歴として紹介されたのが、元・役者という男性盆栽職人でした。かつて舞台の上で表現していた彼は、今は静かな作業台の前で盆栽と向き合っています。人生に迷いを感じていた時期に盆栽と出会い、今はその世界にすべてを捧げているという背景が紹介され、表現の舞台を変えても「人の心を動かす」という芯は変わっていないように感じられました。

この初日は、園内のさまざまな人々が、それぞれの立場で盆栽と深く向き合っている姿が丁寧に描かれていました。ひとつの植物と向き合う時間が、それぞれの人生に静かな変化をもたらしている。そんな思いが伝わる、穏やかな一日の記録でした。

二日目(5月11日)盆栽との時間を楽しむ人々

日曜日の大宮盆栽村には、朝の早い時間から多くの人々が訪れていました。週末の静かな朝の光の中、園内にはすでに数人の来訪者が盆栽の鉢の前に立ち、静かに枝ぶりを眺めたり、写真を撮ったりする姿がありました。心を落ち着けるように、時間を忘れて鉢の前でたたずむその姿は、まるでひとつの風景の一部になっているかのようでした。

この日最初に取材されたのは、かつて自動車関連の仕事に就いていた男性です。現在は盆栽教室に通う生徒として、自宅で育てた盆栽を持参していました。園内のテーブルに丁寧に鉢を置き、講師から枝の切り方や針金のかけ方などの指導を受けていました。作業の合間には何度も鉢を回し、形のバランスを確かめるその姿には、盆栽へのまっすぐな思いが感じられました。

次に登場したのは、IT企業で働く男性です。仕事では常に画面を見つめ続ける日々の中で、自然と触れ合う時間を持ちたいという思いから、数年前に盆栽を始めたといいます。週末にはこうして園を訪れ、古い鉢の造形や枝の伸ばし方を観察することが、リフレッシュの時間になっているそうです。園内ではスマートフォンを片手に、気になった盆栽の角度を変えながら何枚も写真を撮る姿が印象的でした。

さらに取材されたのは、ウクライナ出身で日本に20年近く暮らしている女性です。もともと日本文化に関心があり、茶道や着物にも触れてきた中で、盆栽に出会ったのは偶然だったといいます。今では自宅の窓辺でいくつかの鉢を育てており、日々の水やりや葉の手入れを通じて、静かな心の時間を持てるようになったと話していました。園内では木漏れ日の下で、小さな松の枝先をじっと見つめる様子が映し出されていました。

この日の園内には、それぞれの生活と盆栽をつなぐ小さな物語がいくつも広がっていました。人々は多くを語るわけではなく、ただ盆栽の前に立ち、枝を見つめ、鉢の中の世界に心を預けていました。

そして、園のすぐ隣にある公園では、元気な子どもたちの声が響いていました。ブランコを押す音、かけ回る足音、楽しげな笑い声が風に乗って園内に届き、静かな盆栽の空間と活気ある生活のリズムが同時に感じられる時間となっていました。

静けさと賑わいが交差するこの日、大宮盆栽村には、それぞれの「今」を生きる人たちが自然と集まり、盆栽という小さな宇宙の中で自分と向き合う特別な時間を過ごしていました。日曜日の穏やかな一日が、盆栽の葉の先からそっと広がるように描かれていたのが印象的でした。

三日目(5月12日)継承と挑戦の物語

三日目(5月12日)継承と挑戦の物語

最終日の月曜日、大宮盆栽村には平日にもかかわらず、ゆっくりとした時間を求めて足を運ぶ人々の姿がありました。この日は特に、次の世代が盆栽の世界を受け継ぎ、育てていく姿が印象的に描かれていました。

取材でまず登場したのは、園を継いだばかりの若い園主。彼は学生時代、何をやっても長続きせず、自分に向いていることがわからなかった時期があったといいます。そんな中で、遠い親戚が営む盆栽園に声をかけられ、アルバイトとして働き始めたのが、盆栽との最初の出会いでした。最初は枝の区別もつかず、作業も手探りだった彼ですが、毎日少しずつ手を動かしながら植物と向き合うことで、少しずつ自身の「場所」がこの世界にあることを感じ始めたそうです。

朝の園内では、そんな彼が黙々と作業をする姿が映し出されていました。剪定ばさみを手に、枝の先を見つめる目は真剣そのもので、若さの中に責任感と覚悟が見え隠れする表情が印象的でした。先代が残した盆栽を手入れしながら、自分の手で新たな形に整えていく様子は、まさに継承と挑戦が交差する時間でした。

続いて紹介されたのは、元看護師の女性で、現在は盆栽歴5年。病院勤務の忙しい日々の中で心身のバランスを崩した経験を持ち、その後、偶然出会った盆栽に癒やしを感じたことが始まりだったそうです。今では小さな鉢をいくつも育てながら、朝の水やりや葉の整理を欠かさず行い、日常のリズムの中に盆栽を取り入れています。自宅で育てている盆栽の成長記録をノートに書き留めていると話しており、植物と向き合うことで日々の心が整っていくと語っていました。

また、この日最後に登場したのは、盆栽歴11年になる理容師の男性でした。理髪店の営業前や仕事終わりに時間を作り、自宅の庭先で鉢を並べて手入れをしているといいます。盆栽は、季節によって葉の色や枝の表情が変化し、その変化を間近で感じられることに大きな魅力を感じているそうです。カメラには、彼が丁寧に根を整え、枝を見直しながら仕立て直している様子が映され、職人としての手の動きの正確さと、植物への深いまなざしが印象的に捉えられていました。

この日の取材からは、それぞれ異なる背景を持つ人たちが、盆栽という共通の存在を通じて、自分の生き方や心のあり方を見つめ直している姿が浮かび上がりました。若い園主が語る未来への不安と希望、看護師だった女性が語る癒しの時間、そして理容師の男性が見つめる季節の移ろい。それらすべてが、鉢の中で静かに続いていく「暮らしの物語」として、丁寧に記録されていました。

継ぐことと育てること。両方の意味を静かに抱えたこの一日は、盆栽村の奥深さと、人と自然の関係のあり方を教えてくれる時間となっていました。

ひとつとして同じ盆栽はない

大宮盆栽村には、初心者向けの1,000円台のミニ盆栽から、値段のつけられない数百年の古木まで、さまざまな鉢が所狭しと並んでいます。それぞれの盆栽が歩んできた時間、手入れしてきた人の思い、育った環境がすべて異なり、同じ形のものは一つとして存在しません

小さな鉢の中に広がるのは、自然そのものではなく、人の手と心が加わって完成するひとつの“作品”です。幹のねじれや枝の流れ、葉の密度、根の張り方まで、長い年月の積み重ねがそのまま形となって表れています。

・1,000円前後のミニサイズの盆栽は、初めて盆栽に触れる人にとっては入りやすい存在で、育てながら自然への関心が深まっていきます。
・数十年〜百年を超える盆栽は、幹が風雪に耐えたかのような深いしわを刻み、その木が生きてきた時間の重みが伝わってくるような姿をしています。
・数百年もの時を重ねた名品は、すでに「自然の美」ではなく、「文化財」と呼べるような存在感を放っていました。

番組では、一枝ずつ剪定しながら作業を続ける年配の男性の姿も紹介されました。彼は言葉少なに枝先を整えていましたが、その表情はとても穏やかで、自分の内面と向き合っているような静けさが漂っていました

盆栽を手入れするという行為は、ただ形を整えるのではなく、自分自身の気持ちと向き合い、整える時間でもあるのだと感じさせられる場面でした。道具を持つ手つきや、枝を切るタイミング、全体のバランスを見る目――すべてが落ち着いたリズムで進み、そこに流れているのは“癒し”というよりも、“自分を取り戻すための時間”なのかもしれません。

それぞれの盆栽に、育てた人の感情や記憶が刻まれていて、盆栽はただの植物ではなく、人生の縮図のように存在している。そんな深さが、訪れる人の心をひきつける理由なのだと、あらためて感じさせられる内容でした。

大宮盆栽村の魅力

現在の大宮盆栽村には、「蔓青園(まんせいえん)」「清香園(せいこうえん)」「芙蓉園(ふようえん)」「九霞園(きゅうかえん)」「松雪園(しょうせつえん)」「藤樹園(とうじゅえん)」の6つの盆栽園が点在しています。それぞれの園には独自の技法と美学があり、展示されている盆栽も形・大きさ・雰囲気がまったく異なります。観賞だけでなく、園によっては購入や教室の参加も可能で、訪れる人の目的に応じて自由に楽しむことができます。

園内では、盆栽の他にも苔や鉢、剪定道具なども販売されており、初心者から愛好家まで、それぞれのレベルに合った楽しみ方ができるのも魅力です。歩いてまわれる範囲に園が集まっているため、ゆっくりと一園ずつ巡るだけでも、一日かけて過ごせるほどの充実度があります。

そして徒歩圏内には、「さいたま市大宮盆栽美術館」があります。この美術館は、世界で初めての公立の盆栽専門美術館として2010年に開館しました。展示室には常時120鉢以上の名品盆栽が並び、浮世絵や古書など、盆栽の歴史と文化を伝える資料も豊富にそろっています。館内には日本庭園や和室もあり、建築空間としても楽しめる設計となっています。

アクセス面でも便利です。東武アーバンパークラインの「大宮公園駅」からは徒歩5分、JR宇都宮線の「土呂駅」からは徒歩10分で、いずれも東京駅・新宿駅から乗り継いでおよそ1時間以内で到着できます。都心からのアクセスが良く、日帰りでの観光にもぴったりです。

毎年5月3日から5日には、恒例の「大盆栽まつり」が開かれ、全国から愛好家や観光客が集まります。この期間中は、園主による即売会や展示、初心者向けの体験コーナーなどが開かれ、普段は見られないような逸品盆栽が公開されることもあります。2025年には、盆栽村誕生から100周年という節目の年を迎える予定で、例年以上の盛り上がりが期待されています。

大宮盆栽村は、静かな町並みの中に豊かな文化と自然の技が詰まった場所であり、ただの観光地ではなく、人と植物が共に生きる時間を味わうことができる特別な空間です。訪れるたびに、異なる発見があるのもこの村ならではの魅力です。

まとめ:鉢の中に広がる宇宙を感じて

今回の『ドキュメント72時間』は、派手な演出やドラマはありませんでしたが、だからこそ盆栽が持つ“静けさの奥の深さ”が丁寧に描かれていました。盆栽とは、ただの園芸ではなく、自然と対話し、自分と向き合う時間を与えてくれるものです。

小さな鉢の中に、長い年月と手間と心が込められていることを知ると、一本の木に対する見方がきっと変わるはずです。これから大宮盆栽村を訪れる人は、自分にとっての“宇宙”を見つける時間を楽しんでみてはいかがでしょうか。放送を見逃した方も、再放送やオンデマンド配信での視聴をおすすめします。

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