現場を変える力はどこにある?介護の未来を支える“新しい風”
介護の仕事に関心があっても、「人手不足が深刻で続かない」「体力的にきつい」という声をよく耳にしますよね。けれど、今の介護現場では“変化の波”が確実に起きています。10月20日放送予定のNHK『あさイチ』では、「密着!介護の仕事 介護する時・される時に役立つヒントいっぱい」と題し、現場で奮闘する介護職員の姿や、課題を乗り越える新たな工夫を紹介します。この記事では、介護福祉士とケアマネジャーの視点から、介護の今と未来をわかりやすくお伝えします。
介護の仕事の現場から見えた“リアル”
介護の現場では、ただ身体を支えるだけではなく、利用者の「生きる力」を引き出す支援が日々行われています。番組では、特別養護老人ホームや訪問介護など、さまざまな現場で働く介護職員の姿に密着。現場ごとに異なる工夫と信念が丁寧に映し出されていました。
たとえば、ベッドから車椅子へ移る移乗介助の場面では、職員たちが「いち、にの、さん」と声を合わせながら、利用者の体を無理なく動かします。力任せではなく、呼吸を合わせることで、皮膚への摩擦や関節への負担を最小限に抑えることができます。スタッフ同士が目を見合わせ、わずかな動きのサインで次の動作を伝える。そのチームワークが、利用者の安全を守り、安心感を生み出していました。
また、番組では「全部やってあげる介護」ではなく、「できることを続けてもらう介護」に重きを置く姿勢も紹介されました。食事や着替え、排せつなどの場面で、職員はあえて手を出しすぎず、利用者の“自分でできる範囲”を見極めながら支えます。たとえば、スプーンを持つ動作や衣服の袖に手を通す動きを、職員がそっと見守ることで、利用者が自分の力で達成できるよう導いていました。
そうした日々の小さな成功体験は、やがて大きな自信につながります。ある高齢女性が「自分で食べられた」「今日は立てた」と笑顔を見せる瞬間に、職員も自然と笑顔になります。介護とは、誰かの生活を“代わりに行う”仕事ではなく、“その人らしく生きる力を支える”仕事であることが伝わってきます。
さらに、食事介助や口腔ケアなどの細やかな作業にも、利用者の尊厳を守る工夫がありました。食事の際には「急がなくて大丈夫ですよ」と優しく声をかけ、噛むペースや飲み込みのリズムに合わせる。口元を拭く動作も、ティッシュやタオルをやさしく当てるなど、相手への敬意を感じる仕草が随所に見られました。
番組では、介護職員たちが「安心して笑ってもらえる瞬間のために働いている」と話す姿も印象的でした。職員一人ひとりが、技術と心を磨きながら現場を支えている。その積み重ねこそが、利用者の“生きる力”を守る礎になっています。
この“日常の積み重ね”が、介護の現場を支える原動力。身体のケアと心のケアが一体になった介護の姿を、番組は静かに、しかし力強く伝えていました。
「介護脱毛」って本当に必要?備えの新しい形
番組では、今注目されている「介護脱毛」というテーマも取り上げられました。これは、将来自分が介護される立場になったときに備えて、あらかじめVIO脱毛(デリケートゾーンの脱毛)を行うというものです。介護の現場では、排泄介助や清拭の際に毛が少ないことで、衛生管理がしやすくなるといった実用的な利点が注目されています。
実際、介護現場では排泄後のケアに時間がかかることが多く、毛に汚れが絡むと肌の炎症や臭いの原因になることがあります。そのため、あらかじめ脱毛しておくことで、清拭がスムーズになり、肌トラブルを減らせるとされています。特に高齢になると皮膚が乾燥しやすく、ちょっとした摩擦でも傷になりやすいことから、衛生面の予防策として関心が高まっています。
一方で、課題も多く挙げられています。脱毛は自由診療(保険適用外)で行われることが多く、費用が数万円から十数万円とかかるケースもあります。また、痛みや施術中の恥ずかしさ、そして年齢を重ねてからの肌の弱さなどへの不安も少なくありません。さらに、脱毛機器は黒いメラニンに反応するため、白髪が増えると効果が出にくくなる点もあり、「始めるタイミング」をどうするかも大きな検討ポイントとされています。
番組内では、ジェーン・スーさんと黒沢かずこさんがこのテーマについて語り合うシーンが印象的でした。二人は「自分が将来介護される立場になったとき、どんな準備をしておきたいか」という視点で率直な意見を交わし、笑いを交えながらも真剣に考える姿がありました。ジェーン・スーさんは「自分の尊厳を保つための準備として選択肢に入れておきたい」と語り、黒沢かずこさんも「親世代の介護を見てきたからこそ、自分の未来を想像してしまう」と話していました。
このテーマは、介護を“する側”だけでなく、“される側の準備”という新しい発想を広げるものとして注目されています。介護と聞くと「支える人」のイメージが強いですが、実は「支えられる準備」も同じくらい大切です。介護脱毛という言葉の裏には、誰もがいつか迎える“老いとの向き合い方”が見えてきます。
最近では、医療脱毛クリニックでも「介護脱毛プラン」や「シニア向け脱毛相談」を掲げる施設が増えています。施術時のプライバシー配慮や、痛みを軽減する機器を導入するなど、利用しやすい環境が整いつつあります。こうした流れからもわかるように、介護脱毛は一時的なブームではなく、自分らしい介護を迎えるための“備え”として社会に広がり始めています。
番組を通して、「介護脱毛」は単なる美容ではなく、“未来の自分を思いやる行為”として多くの視聴者に考えるきっかけを与えていました。
深刻な人手不足と“新しい打開策”
介護現場の最大の課題は、なんといっても人手不足です。高齢化が急速に進む中で、介護を必要とする人の数は年々増え続けています。その一方で、介護職を志す若い世代は減少傾向にあり、現場では深刻な担い手不足が続いています。体力的・精神的な負担の大きさに加えて、賃金格差やキャリア形成の難しさなど、長く働き続けるための環境が十分に整っていないことも課題の一つです。その結果、離職率の高さが慢性的な人手不足をさらに悪化させるという悪循環が起きています。
番組では、こうした現状を打開するための新しいキーワードとして「マッチョ?AI?」というユニークなテーマが紹介されました。まず注目されたのは、「マッチョ職員」という取り組みです。これは、筋力を活かして安全かつ効率的に介助を行うために、職員自身が正しい体の使い方を学ぶ研修を取り入れるもの。単に“力任せに持ち上げる”のではなく、体幹の使い方や姿勢のバランスを意識して動くことで、腰痛やケガを防ぎながら利用者の安全を守る技術を身につけます。こうした取り組みによって、介助中の事故を減らし、職員自身の身体を守ることにもつながっています。
実際、特別養護老人ホームやリハビリ施設では、筋トレやストレッチを日常業務の一部として取り入れる例も増えています。職員が「介護は力仕事ではなく、“体を知る仕事”だ」と語る場面もありました。筋力を維持し、正しいフォームで介助を行うことで、利用者の動きを自然にサポートできる——それが「マッチョ介護」の本当の意味なのです。
さらに、もう一つの柱として紹介されたのが、AI(人工知能)やロボット技術の導入です。介護現場では今、夜間の見守り業務や記録作業を自動化する動きが広がっています。例えば、ベッド周辺に設置されたAIセンサーが体の動きを検知し、転倒や異常行動をリアルタイムで通知。これにより、夜勤職員が一晩中巡回しなくても、必要な時だけ的確に対応できるようになっています。
また、介護ロボットによる移乗補助や、自動排泄支援システムなども普及し始めています。特に移乗介助ロボットは、ベッドから車椅子への移動を支援するもので、介護職員の腰や腕の負担を大幅に軽減します。AI技術を活用した見守りカメラやバイタルセンサーは、利用者の体調変化をデータで可視化し、異常を早期に発見できるようにする役割も果たしています。
こうした“デジタル介護”の進化は、人手不足を補うだけでなく、職員が「人にしかできないケア」に集中できるよう環境を整えることを目的としています。たとえば、AIが記録を自動入力することで、職員はその分、利用者と会話したり、生活の小さな変化に気づいたりする時間を確保できるようになります。つまり、テクノロジーが人を置き換えるのではなく、人を支える存在になるということです。
番組では、こうした技術導入の動きが全国の介護施設に広がり始めていることも紹介されました。パナソニックの「リショーネPlus」や、フランスベッドの「ロボヘルパーSASUKE」など、介護現場で実際に導入されているロボットも登場。操作が簡単で安全性が高く、導入後は職員の腰痛が減ったという声も上がっています。
介護現場の改革は、「人×テクノロジー×チームワーク」の三位一体で進んでいます。AIやロボットが支える“新しい介護”が、これからのスタンダードになろうとしています。人手不足という課題の中で、介護の現場がどのように進化していくのか——その答えが少しずつ見え始めています。
多様な人材で支える新しい介護のかたち
もうひとつの打開策として注目されているのが、多様な人材の活用です。介護の現場は、これまで「専門職が担う仕事」というイメージが強くありましたが、今ではその枠を越えて、さまざまな立場の人が関わる仕組みへと変化しています。
たとえば、仕事を掛け持ちしながら介護に携わる「複業介護職」が増えています。週に数回、数時間だけ介護の現場に入る形で働く人たちで、会社員や自営業、主婦など、これまで介護と縁がなかった層が新たな担い手となっています。自分の本業のスキルを活かして、イベント企画やITサポートなどを行う人もおり、介護現場に新しい風を吹き込んでいます。こうした短時間勤務の形は、人手不足を補うだけでなく、「無理のない関わり方」で多くの人が参加できる点でも注目されています。
また、定年後のシニア人材の活躍も増えています。かつて介護職に携わっていた人はもちろん、まったく別業種から転身した人も多く、豊富な社会経験を生かして“見守り役”や“話し相手”として現場を支えています。利用者にとっても、年齢が近い人がそばにいることで安心感が生まれやすく、自然なコミュニケーションが生まれるのが特徴です。特に、地域の高齢者が地域の高齢者を支える「互助型の介護」の動きは、全国各地で広がりを見せています。
さらに、地域社会全体で支える仕組みとして、地域ボランティアの存在も欠かせません。送迎や買い物の付き添い、レクリエーションのサポートなど、専門資格がなくてもできる活動が増えています。こうしたボランティアの力が、介護施設や在宅介護の現場で大きな支えになっています。特に地方では、「地域包括支援センター」や「民生委員」との連携を通じて、地域ぐるみで見守る体制が強化されています。
また、外国人スタッフの活躍も広がっています。日本語教育を受けた介護技能実習生や特定技能人材が、介護現場に加わることで、多国籍なチームが生まれています。文化や言葉の壁を超えて協力し合う姿は、利用者にも刺激となり、「国境を越えた支え合い」の形を感じさせます。介護を学ぶ外国人の中には、日本の介護技術を自国に持ち帰り、地域の高齢者ケアに生かすことを目指す人も少なくありません。
こうした多様な人材の参入によって、介護の仕事はもはや“特別な人の仕事”ではなくなりつつあります。地域に暮らす誰もが、得意分野や空いた時間を活かして関われる「共助の介護」へと変わり始めているのです。番組では、こうした動きが広がることで、介護が“職業”から“社会全体の活動”へと進化していることが伝えられていました。
介護は、誰か一人が抱えるものではなく、地域全体で支え合うもの。人手不足の時代にこそ、多様な関わり方が介護の未来を支える鍵になっています。
いまオシ!LIVEでは“室内アワビ養殖”も紹介
『いまオシ!LIVE』のコーナーでは、千葉県いすみ市で行われている「室内アワビ養殖」の取り組みが紹介されました。自然の海に頼らず、室内水槽でアワビを育てるという試みは、環境変化に強く、安定した生産を可能にします。
地域に根ざしたこのプロジェクトには、“支える仕組みをつくる”という点で介護との共通点もあります。現場の人々が新しい技術と知恵を融合させて挑戦する姿は、介護の未来を考える上でも示唆に富んでいます。
みんな!ゴハンだよ『カリッもちっ!豆腐めんたいチヂミ』
料理コーナー『みんな!ゴハンだよ』では、料理研究家・ほりえさわこさんが『カリッもちっ!豆腐めんたいチヂミ』を紹介。豆腐のふんわり感と明太子のうまみが絶妙に合わさった一品で、外はカリッ、中はもちもちの食感が楽しめます。
介護食としても取り入れやすく、やわらかい食感と高たんぱくな豆腐は、栄養面でもおすすめ。家庭でも簡単に作れるレシピとして、幅広い世代に人気を集めそうです。
放送後追記予定:現場で働く人たちの“生の声”を
放送後には、実際の取材で登場した介護職員や利用者の声を追記予定です。介護の現場で何が起きているのか、どんなやりがいと課題があるのか、リアルな声をお届けします。
また、AI導入の効果やマッチョ介護職員のトレーニング内容なども、具体的な事例が分かり次第更新します。
まとめ
この記事のポイントは以下の3つです。
・介護の現場では「小さな日常の積み重ね」が尊厳を支える力になっている
・「介護脱毛」など、将来の“される側の準備”が注目を集めている
・AI・筋力トレーニング・多様な人材など“新しい打開策”が動き出している
介護の仕事は、単なる「支援」ではなく、「人生と向き合う仕事」です。人手不足の課題に正面から向き合いながらも、そこには希望があります。支える人と支えられる人、双方が安心して暮らせる社会をつくるために、今、介護の現場で新しい風が吹き始めています。
ソース:
NHK『あさイチ 密着!介護の仕事 介護する時・される時に役立つヒントいっぱい』(2025年10月20日放送予定)
https://www.tvkingdom.jp/sp/schedule/151200202510200815.action
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