身近に迫る危険生物マダニとヒアリ 温暖化が変える生態の脅威とは
近年、私たちの暮らしの中で静かに広がっている“危険生物”の存在をご存じでしょうか。山や森だけの話ではありません。今や住宅街、公園、畑、港といった「人の生活圏」にまでその影響が及び始めています。その代表がマダニとヒアリ。どちらも人間に深刻な被害をもたらす可能性があり、専門家たちは「気候変動によって生息域が急速に拡大している」と警鐘を鳴らしています。
2025年の夏、マダニが媒介する感染症「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」の患者数が過去最多を更新しました。これまで九州や四国を中心に報告されていた感染が、ついに関東地方でも初確認されたのです。同時に、南米原産の外来アリ「ヒアリ」も東京港で1万匹以上が発見され、都や環境省が緊急駆除に乗り出しました。いずれも、温暖化による生態系の変化が背景にあります。
この記事では、マダニとヒアリという“二つの見えない脅威”に焦点を当て、最新の発生状況と対策を詳しく解説します。
マダニがもたらす感染症『SFTS』とは
マダニは、草むらや森林に潜む小さな吸血性の寄生虫で、人や動物の皮膚に噛みつき、数日間血を吸います。その過程でウイルスを媒介することがあり、最も危険とされるのが『重症熱性血小板減少症候群(SFTS)』です。SFTSウイルスはフタトゲチマダニやキチマダニといった大型種が媒介し、感染すると発熱や嘔吐、下痢、全身の倦怠感などを引き起こします。重症化すれば意識障害や多臓器不全を起こすこともあり、致死率はおよそ27%。とくに高齢者や基礎疾患を持つ人では危険性が高まります。
2025年には、全国で報告数が過去最多となり、静岡県だけでも10月中旬までに9人が感染。さらに、茨城県では飼い猫が感染するという事例も発生しました。関東地方でペットへの感染が確認されたのはこれが初めてです。SFTSは人から人への感染例もあり、ペットを介して飼い主が感染するリスクも指摘されています。
なぜこれほど感染が増えているのか。その要因のひとつが「温暖化によるマダニの活動範囲拡大」です。これまで冬に活動が止まっていた地域でも、暖かい日が増えたことで活動期間が延び、生息数も増加。さらに、野生動物であるシカやイノシシ、アライグマなどが人里に下りる機会が増え、マダニを住宅地近くまで運んでしまうのです。
外来生物ヒアリ 港から広がる“赤い脅威”
一方のヒアリは、南米原産の小さなアリ。体長は2〜6mmと小さいものの、刺されたときの痛みは電気ショックのように強烈です。その毒はアレルギー反応を起こし、重度のケースではアナフィラキシーショックにより死亡することもあります。海外では「世界最悪の外来種」として知られており、日本国内でも「特定外来生物」に指定されています。
2025年9月、東京港青海ふ頭で1万匹以上のヒアリが確認されました。働きアリに加え、卵や幼虫、さなぎなど約8,000個体が見つかり、都内での発見数としては過去最多。環境省と東京都はすぐに駆除作業を開始しました。ヒアリは貨物コンテナや木製パレットなどに紛れて海外から運ばれてくるため、港湾や物流拠点が侵入経路となっています。気温の上昇によって越冬可能な地域が増え、定着する危険性が年々高まっています。
このヒアリ問題の怖い点は、「定着してしまうと完全な駆除がほぼ不可能」だということです。すでに中国やオーストラリアでは被害が拡大し、農業やインフラへの影響、さらには人の健康被害まで広がっています。日本でも今が“ギリギリの防衛ライン”だといえるでしょう。
なぜ今、危険生物が増えているのか
マダニとヒアリの共通点は、どちらも「温暖化」と「人間の活動」が引き金になっていることです。都市のヒートアイランド現象により、以前よりも暖かい環境が広がり、冬でも活動できる生物が増加しています。また、宅地開発や物流のグローバル化によって、これまで接点のなかった生物が人間社会の中に入り込みやすくなりました。
さらに、気候変動は“季節のずれ”を引き起こし、生物の繁殖サイクルや行動範囲を変えています。結果として、これまで「山の奥」や「港の外」で起きていたことが、住宅地や公園のすぐそばで発生するようになったのです。
日常でできるマダニ・ヒアリ対策
危険生物と聞くと「怖い」「近寄らない」と思う人も多いですが、完全に避けることは難しい時代になっています。大切なのは“正しく恐れる”ことです。
【マダニ対策】
・草むらや畑に入るときは長袖・長ズボン・帽子を着用し、肌の露出を減らす
・虫除けスプレーを使い、特に足首や腰回りを重点的に
・屋外から戻ったらすぐ入浴し、体や髪の中をチェックする
・マダニが刺さっても自分で取らず、皮膚科や外科で除去してもらう
・ペットは散歩後にブラッシングし、マダニ予防薬を定期的に使用する
【ヒアリ対策】
・見慣れない赤茶色のアリを見つけたら素手で触らない
・自分で殺虫剤をかけず、環境省や自治体に通報(ヒアリ相談ダイヤル0570-046-110)
・屋外の倉庫や港周辺では草刈り・整理整頓を行い、巣の温床をつくらない
・刺された場合は速やかに医療機関へ。呼吸困難やめまいがあれば救急要請を
危険生物と共に生きる時代へ
国立環境研究所の五箇公一特命研究員は、「外来生物との戦いはすでに始まっている。これからは“共生と管理”の視点が必要だ」と指摘しています。つまり、人間が自然環境の変化に適応し、危険生物とうまく距離を保つことが求められているのです。
私たち一人ひとりができることは、知ること・備えること・広めること。自分の暮らす地域でどんな生物が問題になっているのかを知り、家族や子どもたちにも正しい知識を伝えることが、何よりの予防になります。
まとめ
この記事のポイントは次の3つです。
・マダニが媒介する『SFTS』の患者数は過去最多で、関東でも人とペットの感染が確認された
・外来種ヒアリの発見数も過去最多。東京港では1万匹以上が確認され、定着のリスクが高まっている
・温暖化と人間活動の影響で、生息域は住宅地や港湾など私たちの生活圏へ拡大している
マダニもヒアリも、もはや遠い存在ではありません。自然と共に生きる時代だからこそ、危険を正しく理解し、日々の行動に小さな備えを加えることが大切です。知識は最大の防御です。今日からできる対策で、家族や地域の安全を守りましょう。
【ソース】
・東京都感染症情報センター:https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/diseases/sfts/
・環境省 ヒアリ対策ページ:https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/attention/file/20240305_shiryou.pdf
・港区公式サイト:https://www.city.minato.tokyo.jp/kankyouseisaku/20251007hiari.html
・テレ朝NEWS:https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/900167477.html
・毎日新聞:https://mainichi.jp/articles/20250819/k00/00m/040/218000c
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