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Eテレ【NHKアカデミア】五箇公一(前編)未来をひらくのは“生物多様性” 人と自然の境界線が揺らぐ時代に迫る“自然破壊のブーメラン”と『第6の大絶滅』|2025年11月12日

NHKアカデミア

未来をひらくカギは“生物多様性”——ダニ博士・五箇公一が語る人と自然のこれから

ヒアリやマダニ、アライグマといった外来生物の話題を耳にしたことはありますか?どこか遠い国の話のようで、実は私たちの身近な暮らしとも深く関わっている問題です。そんな現代社会の生態リスクに立ち向かっているのが、国立環境研究所の特命研究員・五箇公一(ごかこういち)さん。ダニ博士、外来種バスターという異名を持ち、誰よりも自然と人間の関係を見つめ続けてきた研究者です。この記事では、五箇さんが伝える「人と自然の境界線」「第6の大絶滅」「生物多様性の重要性」「足元の自然との向き合い方」について紹介します。

揺らぐ“人と自然の境界線”

かつて、人間の暮らしと自然の領域は明確に分かれていました。森や山は生きものの世界、街や家は人の世界。しかし、現代ではその線引きが急速にあいまいになっています。五箇さんは、この現象を「人と自然の境界線が揺らいでいる」と表現します。

外来アリのヒアリが輸入コンテナや荷物に紛れて国内に侵入し、各地で防除作業が続いています。マダニは本来、山や草原に生息していましたが、いまでは住宅地の庭やペットの散歩道でも見つかるようになりました。彼はこう語ります。
「外来種はヒトとモノ、そして経済の流れに伴って動いています。つまり、私たちの活動範囲がそのまま自然への影響範囲になっているのです。」

自然との距離が近くなるほど、感染症のリスクも高まります。マダニが媒介するウイルス感染症や、海外から持ち込まれる蚊による感染拡大は、まさに“境界の崩壊”の象徴です。私たちが便利さを追求するほど、知らず知らずのうちに自然界へ干渉し、その反作用として問題が自分たちに返ってくる——これを五箇さんは「自然破壊のブーメラン」と呼びます。

「人間は自然の一部である」という当たり前の原則を忘れたとき、自然は必ず形を変えてその影響を返してくる。五箇さんは、私たちがその現実に気づくことを強く求めています。

恐竜の絶滅以来の危機、“第6の大絶滅”とは

五箇さんは講演やインタビューで、「人類はいま、恐竜の絶滅以来の“第6の大絶滅”を迎えようとしている」と警鐘を鳴らしています。地球の歴史上、これまでに5回の大絶滅が起きました。火山の噴火や隕石の衝突、気候の急変など、地球規模の変化が多くの生きものを消してきました。しかし今回の主因は“人間”です。

地球温暖化による環境変化、森林伐採、乱獲、そして外来生物の侵入。これらが複雑に絡み合い、今までの自然の秩序を壊しています。すでに年間2万〜3万種の生物が絶滅しているという推計もあります。五箇さんはこう語ります。
「生物多様性が失われれば、自然の機能が弱まる。つまり、私たちが生きていくための基盤が失われるということです。」

花粉を運ぶハチが減れば農作物が実らず、森林が衰えれば水の浄化機能が落ち、土壌が痩せていく。生きものの多様性が崩れると、人間の経済や健康、食料までもが影響を受けます。
さらに、遺伝子レベルの多様性が減少すれば、病原体やウイルスへの抵抗力も下がり、新たな感染症が広がりやすくなります。つまり、生物多様性の喪失は「自然界だけの問題」ではなく、人間社会そのもののリスクなのです。

未来をひらくのは“生物多様性”

では、この危機にどう向き合えばよいのでしょうか。五箇さんが強調するのは“生物多様性”という考え方です。これは単に「たくさんの生きものがいる」という意味ではありません。彼によれば、生物多様性は三つの柱で成り立っています。

・種の多様性…さまざまな動植物が存在すること
・遺伝的多様性…同じ種の中でも個体ごとに異なる遺伝情報を持つこと
・生態系の多様性…森、川、海、湿地など多様な環境があること

この三つがそろってこそ、自然は健康に機能します。酸素を生み、水を循環させ、栄養を循環させる仕組みも、多様な命の連携によって支えられているのです。五箇さんはこう言います。
「自然の多様性は、地球の生命維持装置です。これが壊れれば、人間の文明も長くは続きません。」

たとえば、外来種が一気に増えると、生態系の中のバランスが崩れます。ヒアリが定着すれば、在来のアリや昆虫が駆逐され、食物連鎖全体に影響が出ます。結果として、農業害虫が増えるなど、経済的損失も生まれます。
一方で、多様な生物が存在する環境では、ある種が増えすぎるのを自然が自ら抑える仕組みが働きます。つまり、生物多様性を守ることは、感染症や災害に対して「自然の防御力」を維持することにもつながるのです。

足元の自然に目を向けよう

五箇さんが特に大切にしているのは、「遠い地球規模の問題に目を向ける前に、まず足元の自然を見つめよう」という考え方です。彼はこう語ります。
「巨大な環境問題だからといって、遠くの熱帯雨林ばかりを見てはいけません。自分の暮らしのそばにある草むら、公園、庭の一角にも、命の営みがあります。」

たとえば、庭に咲く花に来るハチやチョウ。そこには小さな食物連鎖があり、地域の生態系を支える役割があります。地域の固有種や昔からいる生きものたちを知り、守ることが、生物多様性を支える第一歩です。
また、外来植物を安易に植えたり、外来生物をペットとして放したりすることは、地域の生態系を壊す原因になります。身近な行動が未来の環境を左右するのです。

たとえば、地域の自然観察会に参加したり、川や海岸の清掃に関わったりするのも効果的です。環境問題は専門家だけのものではなく、誰もが日常から取り組めるテーマなのだと、五箇さんは教えてくれます。

まとめ

この記事のポイントは以下の3つです。
・人と自然の境界が崩れ、感染症や外来種被害など“自然からのブーメラン”が増えている。
・恐竜の時代に匹敵する“第6の大絶滅”が進行しており、生物多様性の喪失が人間社会の存続を脅かしている。
・未来をひらくカギは、生物多様性を守り、足元の自然と向き合うことにある。

五箇さんの言葉は、科学者としての警告であると同時に、未来への希望でもあります。多様な命のつながりを守ることは、私たち自身の命を守ること。大きな変化は、小さな気づきから始まります。自分の住むまちの自然を見つめること——それが、地球の未来をひらく第一歩になるのかもしれません。

※番組の内容と異なる場合があります。

参考・出典リンク

・国立環境研究所「研究者紹介:五箇公一」
https://www.nies.go.jp/researchers/100183.html

・Science Portal(サイエンスポータル)インタビュー「生物多様性を守るために何ができるか」
https://scienceportal.jst.go.jp/explore/interview/20230905_e01/

・国立環境研究所 社会対話・協働推進オフィス「ヒアリはどこから来たのか」
https://taiwa.nies.go.jp/colum/hiari2.html

・中央公論.jp「生物多様性の危機をどう防ぐか」
https://chuokoron.jp/science/116863.html

・VIDEO NEWS ニュース専門ネット局「ビデオニュース・ドットコム 生物多様性とは」
https://www.videonews.com/saveearth/2

・ソフトバンクニュース「生物多様性を守ることが未来を守ること」
https://www.softbank.jp/sbnews/entry/20240219_01

・TBS NEWS DIG「マダニ感染症のリスクに注意」
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/2007282

・note「身近な自然と生物多様性」
https://note.com/biotop_kawakita/n/n650d6dfa4999

・ディモーラ「NHKアカデミア 五箇公一(前編)未来をひらくのは“生物多様性”」
https://www.dimora.jp/digital-program/720269-BE08/5011/


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