赤字鉄道が生んだ“世界一の豪華列車”
九州を走る「ななつ星in九州」は、ただの豪華列車ではありません。地域の食、文化、職人技、人の温かさまで乗せて走る“九州そのもの”を味わう列車として、世界中から注目を集めています。
『新プロジェクトX 世界が認めた豪華列車〜赤字鉄道が起こした奇跡〜(2026年5月16日放送)』でも取り上げられ注目されています 。赤字続きだった鉄道会社が、なぜ世界一と呼ばれる列車を生み出せたのか。その背景には、地域を巻き込んだ壮大な挑戦と、「住民が誇れる列車を作りたい」という強い思いがありました。
この記事でわかること
・「ななつ星in九州」が世界一と評価された本当の理由
・赤字鉄道が観光列車で大逆転できた背景
・九州の食や文化を生かした“地域一体型”の旅の魅力
・豪華客室や絶景ルートに込められた細かな工夫と開発秘話
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「ななつ星in九州」はなぜ世界一の豪華列車になれたのか
ななつ星in九州が世界的に高く評価された理由は、ただ車内が豪華だからではありません。大きなポイントは、「列車に乗ること」そのものを旅の目的に変えたことです。
ふつう列車は、どこかへ行くための移動手段です。けれど、ななつ星in九州は違います。窓の外に広がる景色、車内で味わう料理、客室のしつらえ、沿線で出会う人や文化まで、すべてをひとつの旅として組み立てています。
つまり、目的地だけでなく、移動する時間そのものが特別な体験になっているのです。
ななつ星in九州は、海外の旅行誌の読者投票でトレイン部門の1位に選ばれ、2021年・2022年・2023年と3年連続で世界一の評価を受けました。高級ホテルや豪華客船のような考え方を鉄道に取り入れた「クルーズトレイン」という形が、世界の旅行好きに強く響いたと考えられます。
注目された背景には、旅行の楽しみ方の変化もあります。
昔は「有名な観光地に行く」「たくさんの場所を回る」ことが旅の中心でした。しかし今は、そこにしかない体験、地元の人との出会い、ゆっくり味わう時間を大切にする人が増えています。ななつ星in九州は、まさにその流れに合った列車です。
豪華さだけなら、世界にはもっと派手な列車もあります。けれど、ななつ星in九州は、九州の自然、食、工芸、歴史、人の温かさをまとめて体験できる点が強みです。そこが「高級な列車」ではなく、九州をまるごと味わう旅として評価された理由です。
赤字続きだった鉄道会社が挑んだ大逆転プロジェクト
ななつ星in九州の物語が多くの人の心を動かすのは、出発点が決して順調ではなかったからです。
JR九州は、国鉄が分割民営化されたあと、北海道や四国と同じように、経営が難しい地域の鉄道会社として見られていました。九州は広く、山や海も多く、人口が少ない地域もあります。路線を維持するにはお金がかかりますが、利用者が少なければ赤字になりやすいのです。
そこで考えられたのが、ただ列車を走らせるのではなく、乗りたくなる列車を作ることでした。
この考え方は、ななつ星in九州だけで突然生まれたものではありません。JR九州は以前から、観光列車を使って地域に人を呼び込む取り組みを続けてきました。たとえば「ゆふいんの森」のように、デザインや物語性を持つ列車を走らせることで、赤字路線にも新しい価値を作ろうとしてきたのです。
ななつ星in九州は、その考え方をさらに大きく進化させた存在です。
単に「列車に高級な座席を付ける」のではなく、九州の各地を巡りながら、その土地の文化や食材、歴史にふれる旅にしました。鉄道会社だけで完結するのではなく、地域全体を巻き込んだことが大きな特徴です。
ここには、赤字を埋めるためだけの発想ではなく、「地域の価値を見つけ直す」という意味があります。
赤字路線は、数字だけを見ると厳しい存在です。しかし、そこには景色があります。町があります。食があります。人の暮らしがあります。それらを旅の魅力として見せることができれば、鉄道は単なる交通手段ではなく、地域の未来を支える入口になります。
新プロジェクトX 世界が認めた豪華列車〜赤字鉄道が起こした奇跡〜で取り上げられる背景にも、この「不利な条件を価値に変えた」という大きな意味があります。
九州の食と文化を乗せた3泊4日の豪華列車の旅
ななつ星in九州の旅で大切なのは、車内の豪華さだけではありません。むしろ本当の魅力は、九州の土地そのものを深く味わえるところにあります。
3泊4日のコースでは、九州各地をめぐりながら、自然、焼き物、地酒、歴史ある地域などにふれる旅が組まれています。コースによって訪れる場所は変わりますが、ただ観光地を回るのではなく、その土地に根づいた文化や暮らしを感じられるように作られています。
たとえば、旅の中で大切にされるのは次のような体験です。
・その土地で育った食材を味わう
・地元の料理人や生産者の思いにふれる
・焼き物や工芸など、受け継がれてきた技を知る
・九州ならではの山、海、田園風景を楽しむ
・列車の中でも地域の空気を感じる
こうした体験が重なることで、乗客は「九州を旅行した」というだけでなく、「九州の人や文化に出会った」と感じやすくなります。
ここが、ふつうの豪華列車との違いです。
高級な料理を出すだけなら、都会のレストランでもできます。美しい客室に泊まるだけなら、高級ホテルでもできます。けれど、ななつ星in九州は、列車で移動しながら土地ごとの空気を味わえるため、食事や景色がその場限りの特別な思い出になります。
さらに、列車の旅には「ゆっくり流れる時間」があります。
飛行機や新幹線は速く移動できますが、速いぶん、途中の景色や土地の変化を感じにくいこともあります。一方で、観光列車は窓の外を眺める時間そのものが楽しみになります。田んぼ、山、川、海、町並みが少しずつ変わっていく様子を見ながら旅をすることで、九州の広さや豊かさが体にしみ込むように伝わります。
つまり、ななつ星in九州は、速さではなく深さを楽しむ旅なのです。
職人と農家が支えた“地域一体型”の列車づくり
ななつ星in九州が特別なのは、鉄道会社だけで作った列車ではないことです。車両のデザイン、内装、食事、工芸品、沿線での体験など、さまざまな分野の人たちが関わっています。
この列車には、デザイナーの水戸岡鋭治さんをはじめ、工芸にたずさわる職人、料理人、生産者、地域の人々の力が集められました。なかでも有田焼の名工が客室の洗面鉢づくりに関わったエピソードは、列車に「本物」を入れようとした強い思いを感じさせます。
ここで大事なのは、豪華さの意味です。
ただ高い素材を使えば豪華になるわけではありません。ななつ星in九州の豪華さは、ひとつひとつの物に「誰が、どんな思いで作ったのか」が込められている点にあります。
たとえば、車内で使われる工芸品は、ただ飾りとして置かれているだけではありません。乗客が実際に見たり、触れたり、使ったりすることで、九州の技術や美意識を体験できます。
食事も同じです。
地元の食材は、単なる材料ではありません。そこには、農家や漁師、生産者の毎日の仕事があります。料理として出されたとき、乗客は九州の土地の力を味わうことになります。
このように、ななつ星in九州は、列車そのものが地域のショーケースのような役割を持っています。
地域にとっても意味があります。自分たちの食材や技が世界中の人に認められることは、地元の誇りになります。観光客が訪れることで、地域の店や宿、工房にも関心が広がります。
つまり、ななつ星in九州は「お金を払える人だけが楽しむ豪華列車」ではなく、地域の価値を外に伝える装置でもあるのです。
この仕組みは、観光列車を考えるうえでとても重要です。車両だけを豪華にしても、地域とのつながりが弱ければ、旅は薄くなります。逆に、地域の人たちが本気で関わると、列車は単なる乗り物ではなく、土地の物語を運ぶ存在になります。
豪華客室と絶景ルートに込められた細部へのこだわり
ななつ星in九州の客室や車内空間には、細かい部分まで強いこだわりがあります。豪華列車と聞くと、広い部屋や高級な家具を思い浮かべがちですが、本当の魅力は「長く過ごしても心地よい空間」にあります。
列車の中は、ホテルとは違います。揺れますし、限られた空間しかありません。その中でくつろげるようにするには、素材、照明、家具の配置、窓から見える景色との関係まで考える必要があります。
ななつ星in九州の車内は、木のぬくもりや工芸の美しさが感じられる空間になっています。豪華さを見せびらかすのではなく、落ち着きや安心感を大切にしている点が印象的です。
この考え方は、日本らしい豪華さとも言えます。
金色で派手に飾るだけではなく、手仕事の細かさ、素材の良さ、静かな美しさ、余白のある空間で特別感を出す。そうした感覚が、海外の旅行者にも新鮮に伝わったと考えられます。
絶景ルートにも意味があります。
九州には、阿蘇の雄大な風景、海沿いの景色、温泉地、焼き物の里、歴史ある町など、多様な魅力があります。ななつ星in九州は、それらを列車の窓から見せるだけでなく、旅の流れの中で体験できるようにしています。
ここで大切なのは、景色を「ただ眺めるもの」にしないことです。
美しい山を見たあとに、その土地の食材を味わう。歴史ある地域を訪れたあとに、車内で工芸品にふれる。こうしたつながりがあるから、ひとつひとつの体験が深く残ります。
また、豪華列車は高価格な旅であるため、乗客は「特別な時間」を期待します。その期待に応えるには、わかりやすい豪華さだけでなく、見えにくい部分の丁寧さが必要です。
・乗客を迎えるときの空気感
・食事を出すタイミング
・景色が美しく見える時間帯
・客室でくつろげる照明
・旅の記憶に残る音や香り
・地元の人との自然な交流
こうした小さな積み重ねが、世界一という評価につながっていきます。
ななつ星in九州のすごさは、ひとつの目立つ特徴だけでは語れません。車両、食、景色、人、地域文化が全部つながっていることが、大きな価値になっているのです。
「住民が誇れる列車」を目指した感動の開発秘話
ななつ星in九州が多くの人を引きつけるのは、乗客のためだけに作られた列車ではないからです。そこには、九州に住む人たちが「自分たちの地域はすごい」と感じられる列車にしたいという思いがあります。
鉄道会社にとって、赤字路線は悩みの種です。利用者が少ない、維持費が高い、将来が見えにくい。そうした問題は、全国の地方鉄道にも共通しています。
しかし、ななつ星in九州は、赤字をただマイナスとして見るのではなく、「まだ知られていない地域の魅力がある」と考え直しました。
この発想の転換がとても大きいです。
地方には、都会ほど人が多くない場所もあります。交通の便がよくない地域もあります。けれど、そこには豊かな自然や食文化、歴史、職人技、人の温かさがあります。それらをどう見せるかで、地域の価値は変わります。
ななつ星in九州は、その価値を列車という形でまとめました。
だからこそ、地元の人にとっても意味があります。自分たちの町を通る列車が世界で評価される。自分たちの地域の食材や技が旅の中心になる。これは、地域の誇りにつながります。
さらに、ななつ星in九州の成功は、全国の観光列車や地域活性化にも影響を与えました。
「鉄道は移動手段だけではない」
「地方の魅力は、見せ方しだいで世界に届く」
「地域の人と一緒に作る旅には強い力がある」
こうした考え方は、今の観光にとても大切です。
人口が減る地域では、ただ観光客を増やすだけでは長続きしません。大事なのは、外から来る人と地元の人の両方がうれしくなる形を作ることです。
ななつ星in九州は、まさにその見本のひとつです。
乗客は特別な旅を楽しむ。地元の人は地域の魅力を再発見する。職人や生産者は自分たちの仕事を誇れる。鉄道会社は列車を通じて地域とつながる。
このように、ひとつの列車がいくつもの価値を生み出しているからこそ、ななつ星in九州はただの豪華列車ではなく、赤字鉄道が地域の未来を変えようとした象徴として語られるのです。
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