ふわふわの一皿に人生をのせて——パンケーキが語る幸せのかたち
パンケーキって、食べる人の数だけ物語がありますよね。
「休日のごほうびに」「家族とのおやつ時間に」「心を癒やしたいときに」。
そんな誰にとっても身近なスイーツが、人生そのものを語る舞台になるとしたら——気になりませんか？
2025年10月8日放送のNHK総合『激突メシあがれ〜自作グルメ頂上決戦〜』では、「人生を豊かに！飽きのこないパンケーキ」をテーマに、3人の挑戦者が登場。
素材の選び方、焼き方、盛り付け方のすべてに“生き方”が映し出されていました。
この記事では、パンケーキという小さな円の中に込められた人の想いと地域の物語を、食文化の視点から紐解いていきます。
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ゆず香るブリュレパンケーキ——甘さの奥にある強さとやさしさ
先攻は、刑部美咲さん（埼玉県）。彼女が目指したのは、外は香ばしく中はしっとりとした「ふわふわ×ジューシー」の贅沢な二重奏。まず、市販のパンケーキミックスを2種類ブレンドして生地を作り、一度焼き上げたあと、フレンチ液にじっくり浸してから再び焼くという、丁寧で手間のかかる工程を選びました。この二度焼きによって、外側はこんがり香ばしく、内側はまるでプリンのようなやわらかさに仕上がります。
焼きあがったパンケーキの表面には、無塩の焦がしバターをたっぷり塗り、最後に岩塩をひとふり。塩気のアクセントが甘さを引き立て、口に入れるたびに香ばしさとまろやかさが交互に広がります。上の段には、くぼませた部分にゆず茶をのせ、全体にグラニュー糖をまぶしてバーナーでキャラメリゼ。表面がパリッと香ばしく、スプーンを入れると中からほのかに香るゆずの酸味がふわりと立ちのぼります。
仕上げには、冷たいバニラアイスをのせて温冷の対比を楽しめるようにし、仕上げにほうじ茶パウダーとハーブ、アーモンドスライスを散らして完成。香ばしさ・甘さ・酸味・苦みのバランスが一皿の中で見事に共存しています。見た目は華やかでありながら、どこかやさしく、ほっとする家庭的な雰囲気も感じられる一品です。
この『ゆず香る しあわせ運ぶたのしいブリュレパンケーキ』の開発には、過去にチーズケーキ回で優勝したなおさんのアドバイスも大きく影響しました。「味の層を重ねて完成させること」「最後にひとつ驚きを加えること」。その言葉を胸に、刑部さんは焼き方や香りの出し方を何度も試したといいます。
試食審査では、料理評論家の樋口直哉さんが「甘さと塩気、香ばしさが心地よく溶け合う完成度の高いパンケーキ」と称賛。口に入れた瞬間の焦がしバターの香り、ゆずの酸味がほどよく広がる余韻、そして岩塩の粒がもたらす軽やかな刺激。そのすべてが調和し、一口ごとに新しい表情を見せてくれます。
このパンケーキには、刑部さん自身の人生観が投影されています。忙しい日々の中でも、少しの工夫や手間を惜しまないことで、毎日を豊かにできるという思い。焦がしバターの深い香りやゆずの爽やかさには、「努力を重ねながらも、日常の中にある小さな幸福を大切にしたい」という彼女の願いがしっかりと息づいていました。
埼玉県は、実はゆずや小麦粉の産地としても知られています。地域の恵みを取り入れたこの一皿は、地元の食材に敬意を払いながら、自分らしい味を追求した刑部さんの“食文化へのまなざし”そのもの。見た目も香りも、まるで「幸せを届ける一枚の絵画」のようなパンケーキでした。
米粉が紡ぐ“ふわ軽っ”の哲学——関口由香里さんの3種プレート
後攻は、関口由香里さん（愛知県）。彼女は米粉マイスターとして知られ、グルテンを使わずに軽やかな食感を出す研究を長年続けてきました。今回のテーマ「飽きのこないパンケーキ」に向けて、関口さんが選んだのは、素材の力を最大限に引き出す“シンプルな調和”。牛乳も卵も使わず、代わりに甘酒・メープルシロップ・米油・塩を組み合わせ、誰もが安心して食べられる生地を作り上げました。米粉特有のもっちり感を活かしつつ、ふんわりとした口どけを実現するため、ブレンドした米粉はなんと2種類。それぞれの粒子の細かさや吸水性を計算し、焼き加減にも細心の注意を払いました。
こうして完成したのが、3種の個性豊かなパンケーキです。
- 『レモンメープル米粉パンケーキ』
レモンの皮と果汁を生地に練り込み、焼き上げたあとにメープルシロップをたっぷりとかけた一枚。口に入れると、まずレモンの爽やかな香りが広がり、そのあとにやさしい甘みが追いかけてきます。さっぱりとした味わいで、どんな時間帯にも食べやすい軽やかさが特徴です。 - 『揚げ米粉パンケーキ』
米粉の生地を少量の油で揚げることで、外はカリッと香ばしく、中はもちっとした食感に。揚げたことで香りが立ち、ほんのりとした甘酒の風味が際立ちます。おやつとしてもおかずとしても楽しめる、ひと口ごとに変化を感じる新しいスタイルのパンケーキです。 - 『大葉と豆乳チーズの和風米粉パンケーキ』
生地に大葉を刻み込み、豆乳チーズを加えて焼き上げた、食事系の一皿。焼き立てから立ちのぼる香りが食欲をそそり、塩気の中にほんのりとしたコクとやさしさが広がります。米粉のやわらかい甘みと大葉の清涼感が調和し、最後まで飽きずに楽しめる仕上がりです。
この3枚をプレートに並べると、甘・香ば・塩のバランスが見事にととのい、一つの“食の世界観”が完成します。彩りも美しく、白い皿の上に広がる3色のトーンが、見る者の心をも温かく包み込みます。
試食した辻口博啓さんは、「3つを食べ進めるうちに飽きがこない、全体の調和を計算したすばらしいプレート」と評価しました。そのコメントどおり、ひと皿ごとに違う顔を見せながら、全体として一つの物語を紡いでいるのがこのレシピの魅力です。
関口さんのレシピ『みんなで食べたい！3種の“ふわ軽っ”米粉パンケーキ』は、米文化の豊かさと食のやさしさを両立させた一皿です。米粉という日本の伝統素材を使いながらも、レモンやメープルといった洋のテイストを見事に融合。まるで“和と洋の架け橋”のような味わいで、食べる人すべてに安心と驚きを与えました。
愛知県は米どころでもあり、西三河地域では古くから米粉を使った菓子づくりの文化が息づいています。関口さんのパンケーキには、その土地の知恵と現代的なアレンジが見事に息づいており、「伝統と革新をつなぐ一皿」として、多くの視聴者の心に残る作品となりました。
出場辞退者・今井智海さんが残した“歩む”という願い
そして、新潟県の今井智海さん（37）。今回の対決にエントリーしていましたが、腎臓の持病が悪化し、急きょ入院のため出場を辞退しました。それでも番組内では、彼が事前に考案していたレシピ『いっしょに歩くパンケーキ』が紹介され、その温かい人柄と想いがしっかりと伝わりました。
このパンケーキには、今井さんの人生観が色濃く反映されています。主な材料はバナナ。完熟バナナの自然な甘みを活かし、砂糖は最小限に。やさしい甘さとしっとりした食感が特徴で、食べると心が落ち着くような安心感に包まれます。焦げ目がつくまでゆっくりと焼かれた生地は、表面は香ばしく、中はとろりと柔らかい。仕上げに蜂蜜を少し垂らし、シナモンをひと振りして香りを添えています。派手さはなくても、一口ごとに人のあたたかさを感じる味わいでした。
『いっしょに歩くパンケーキ』という名前には、「どんな状況でも、誰かと支え合いながら生きていきたい」という今井さんの願いが込められています。腎臓の持病と向き合いながらも、彼は食の力を信じてきました。料理を通して人の心をつなぎ、元気や希望を届けたい——その想いが、このパンケーキのやわらかい甘さの奥に静かに息づいています。
放送では、退院後に無事回復されたというナレーションが流れ、スタジオに安堵の笑みが広がりました。司会の高瀬耕造さんやアンミカさん、そして審査員たちも一様に表情をゆるめ、まるで遠く離れた場所にいる今井さんへ“おかえり”と声をかけるような空気に包まれました。短い時間の紹介ながら、その一皿には“生きることのあたたかさ”が詰まっていたのです。
新潟は古くから米と果物の産地として知られ、特にバナナを使ったお菓子文化も根強い地域。今井さんのパンケーキは、そんな土地の恵みを背景に、自然な甘さと人のやさしさを重ね合わせた一品でした。シンプルだけれど心に残る——そんな彼の作品は、料理というより“想いを形にしたメッセージ”のように感じられました。
そして勝者は、米粉の魔術師・関口由香里さん
結果発表で勝利をつかんだのは関口由香里さん。
「米粉を使ったオリジナリティ」「多様な人が食べられるやさしさ」「食べ飽きない軽さと調和」が評価されました。
パンケーキという家庭的な料理が、地域の農産物や健康志向とつながる瞬間を見せてくれたのです。
関口さんのレシピは、単なるスイーツではなく、“お米文化の再発見”でもありました。
愛知の土地で育った米粉が、彼女の手の中で“未来の主食スイーツ”へと進化していく。
その過程こそが、番組のテーマ「人生を豊かに」を象徴していたように思います。
まとめ：パンケーキは、人生の縮図
この記事のポイントは次の3つです。
・パンケーキの作り方には、作り手の人生観と地域文化が映る
・刑部さんは「甘さと塩気」で日常の幸せを表現
・関口さんは「米粉」で多様性と優しさを形にした
パンケーキは、ただのスイーツではありません。
その一枚一枚に、作り手の想い、土地の味、食べる人の笑顔が重なっていく。
2025年の『激突メシあがれ』は、そんな“食を通じた人生の物語”を見せてくれました。
私たちも、明日の朝少しだけ丁寧にパンケーキを焼いてみたら、
そこに自分の人生の味が見えてくるかもしれません。
番組情報
放送日：2025年10月8日（水）20:00〜20:45
放送局：NHK総合
番組名：激突メシあがれ〜自作グルメ頂上決戦〜
出演：高瀬耕造、アンミカ、嶋田ココ、鈴木杏
勝者：関口由香里（米粉マイスター）
出典：
NHK公式番組ページ
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