放置してはいけない心房細動とは?進化する最新治療
最近、健康診断や人間ドックで「不整脈の疑いがあります」と言われた人が増えています。特に注意が必要なのが『心房細動』という不整脈。軽い動悸や息切れを感じても「年のせい」「疲れかな」と見過ごしてしまう人も多いのですが、放置すると脳梗塞や心不全の原因になることがあります。番組『きょうの健康』では、小倉記念病院 循環器内科部長 福永真人先生が、最新の治療法を紹介します。今回はその内容を専門的な視点で詳しく解説します。
【きょうの健康】放置してはいけない 不整脈「最新デバイスも活用 早期発見法」|検診だけではわからない“隠れ不整脈”とは?|2025年11月3日
心房細動とはどんな不整脈か
心臓には、血液を一定のリズムで全身に送り出すポンプのような働きがあります。そのリズムを作るのが「心房」と「心室」の連携です。ところが、心房がバラバラに震えるような動きをすると、全身に流れる血液が乱れます。これが『心房細動(AF)』です。心房が細かく震えると、心臓の中で血液がよどみ、血栓(血のかたまり)ができやすくなります。その血栓が脳に流れてしまうと、脳梗塞を引き起こすリスクが高まるのです。
さらに、心臓に負担がかかり続けることで、心不全や認知機能の低下を招くケースもあります。特に70歳以上では発症率が高く、日本全体で100万人以上の患者がいると推定されています。心房細動は初期症状が軽いため、「放っておいても大丈夫」と誤解されやすいのが大きな問題です。
最新のカテーテルアブレーション治療
番組で福永先生が解説する『カテーテルアブレーション』は、現在もっとも広く行われている心房細動の根治的治療法です。足の付け根などからカテーテルと呼ばれる細い管を心臓に通し、不整脈の原因となる異常な電気信号の発生部分を焼き切る(または凍らせる)ことで、正常なリズムを取り戻します。
特に心房細動の多くは、肺静脈から流れ込む異常な電気刺激が引き金になります。そのため、カテーテルで肺静脈の周囲を焼灼し、電気の通り道を遮断する『肺静脈隔離』という手技が中心です。入院期間は3〜5日程度。全身麻酔ではなく局所麻酔で行われることが多く、体への負担も軽いとされています。
カテーテルアブレーションの成功率は1回で約8割、2回実施すれば約9割に達すると報告されています。薬で抑えきれなかった不整脈が安定し、日常生活を取り戻す患者も多いのが特徴です。
ただし、血管損傷や肺静脈の狭窄など、手技に伴うリスクもゼロではありません。そのため、熟練した医師による施術が極めて重要になります。福永先生はこの分野のエキスパートとして、年間数百例に及ぶアブレーションを担当し、安全性と再発防止の両立を追求しています。
出血リスクが高い人の新たな希望「左心耳閉鎖術」
心房細動になると、脳梗塞予防のために『抗凝固薬(血液をさらさらにする薬)』が必要になります。しかし、高齢者や胃潰瘍などの持病がある人では、出血の副作用が問題になることがあります。そうした患者の新たな選択肢となっているのが、『左心耳閉鎖術(LAA閉鎖)』です。
左心耳とは、心臓の左心房の奥にある小さな袋のような部分。この中に血液がたまりやすく、血栓の発生源になりやすいとされています。左心耳閉鎖術では、カテーテルを使ってここに特殊な器具を挿入し、袋の入り口をふさいでしまいます。これにより、血栓ができる場所そのものを閉鎖し、脳梗塞のリスクを大幅に下げられるのです。
小倉記念病院では、福永先生を中心にこの治療を毎週火曜日に行っており、豊富な経験を積んでいます。治療後はしばらく抗血小板薬を服用しますが、長期的には薬を減らせるケースもあります。特に、出血の心配から薬が使えなかった患者にとって、生活の自由度が大きく広がる治療といえるでしょう。
2つの治療法の違いと選び方
| 治療法 | 対象となる人 | 主な目的 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| カテーテルアブレーション | 不整脈の発作を繰り返す人 | 不整脈を根本的に治す | 高い成功率、再発を防ぐ | 再手技が必要な場合あり |
| 左心耳閉鎖術 | 抗凝固薬が使えない人 | 血栓の発生を防ぐ | 出血リスクを抑えられる | カテーテル治療のため出血や合併症に注意 |
このように、どちらの治療も「命を守る」ことが目的ですが、患者の状態によって最適な選択は異なります。番組では、実際に治療を受けた人の経過や、福永先生がどのように治療方針を決めているのかが紹介される見込みです。
心房細動の早期発見と生活改善
最新治療も大切ですが、まずは早期発見が鍵です。健康診断の心電図検査で異常を指摘されたら、そのままにせず専門医を受診しましょう。また、生活習慣も予防の一歩です。塩分やアルコールを控え、睡眠不足を避けること。ストレスや肥満も不整脈を誘発しやすいため、軽い運動やバランスの良い食事が推奨されています。
放送で注目したいポイント
今回の『きょうの健康』では、カテーテル治療の進化に加え、出血リスクを回避する新技術まで幅広く紹介される予定です。福永真人先生がこれまでの臨床経験をもとに語る、「命を守る不整脈治療の最前線」は見逃せません。治療の適応、手術の流れ、そして患者の生活改善まで、15分という短い番組ながら濃密な内容が期待されます。
まとめ
この記事のポイントは3つです。
・『心房細動』は放置すると脳梗塞を招く可能性がある。
・『カテーテルアブレーション』は不整脈を根本から治す有効な治療。
・『左心耳閉鎖術』は抗凝固薬が使えない人の新しい選択肢。
心臓のわずかな乱れが、人生を左右することがあります。胸の違和感を「たいしたことない」と放置せず、専門医に相談してみる勇気が何よりの予防です。
※放送内容と異なる場合があります。
気になるNHKをもっと見る
購読すると最新の投稿がメールで送信されます。


コメント