NHK 【新プロジェクトX】肌着革命〜発熱で常識を変えろ〜 吸湿発熱繊維の仕組みと日本発技術者の挑戦｜2025年12月13日

発熱で常識を変えた肌着革命の物語

「このページでは『新プロジェクトX〜挑戦者たち〜　肌着革命〜発熱で常識を変えろ〜（2025年12月13日放送）』の内容を分かりやすくまとめています。」
冬になると、寒さ対策として厚手の服を重ね着するのが当たり前でした。ところが今では、薄い肌着一枚で驚くほど暖かく感じる人も少なくありません。その背景にあるのが『吸湿発熱繊維』です。何気なく身につけているこの素材は、日本のものづくりが大きな転換点を迎えた時代に、技術者たちの執念と挑戦から生まれました。この記事では、吸湿発熱という仕組みがどのように生まれ、なぜ平成の大ヒット商品へと成長したのか、番組内容に沿って詳しく掘り下げていきます。なお、この記事は放送前の情報をもとに構成しており、放送後に内容を書き直します。

吸湿発熱繊維が持つ不思議な力

吸湿発熱繊維とは、体から自然に出る汗や水蒸気を吸い込むことで熱を生み出す繊維です。水分が繊維の表面や内部に吸着する際に発生する『吸着熱』が、その正体です。この仕組みはとてもシンプルですが、従来の防寒の考え方とは大きく異なります。外から熱を加えるのではなく、人の体そのものを熱源として活用する点が画期的でした。寒い環境でも体はわずかに湿気を放出しており、その見えないエネルギーを逃さず暖かさに変えることで、衣類の中の温度を保ちます。スポーツウェアや肌着に多く使われてきたのは、こうした機能が実用的だったからです。

素材選びと技術が生んだ進化

吸湿発熱繊維には、ウールやレーヨンのような吸湿性の高い素材がベースとして使われてきました。さらに、化学繊維の分野では、繊維の表面積を広げたり、特殊な化学処理を施したりすることで、より多くの水分を素早く吸収できるよう改良が重ねられました。単に水分を吸うだけでなく、発生した熱を逃がしにくくする構造も重要です。こうした細かな工夫の積み重ねによって、薄くても暖かいという今の肌着が完成しました。目に見えないレベルでの改良が、着心地の違いとして現れています。

スポーツメーカーが最初に見た可能性

吸湿発熱繊維にいち早く注目したのは、スポーツメーカーでした。スキーやアウトドアの世界では、寒さの中で体を動かすため、汗による冷えが大きな課題でした。従来は、汗を外に逃がすことが重視されていましたが、そこで発想を転換します。湿気を敵にするのではなく、味方にできないか。こうして、汗や水蒸気を熱に変えるという考え方が生まれました。冬山やゲレンデといった厳しい環境で培われた技術だからこそ、実用性の高さが求められ、吸湿発熱という仕組みは現実的な選択肢となりました。

日常使いへの挑戦が始まった瞬間

スポーツウェアとしての成功を受け、この技術を日常生活にも広げられないかという声が上がります。毎日着る肌着に応用できれば、多くの人の冬の暮らしが変わる。そう考えた開発者たちは、競技用とは異なる課題に向き合うことになります。洗濯への強さ、長時間着用したときの快適さ、価格とのバランス。これらをすべて満たす必要がありました。それでも、薄手で暖かい肌着が実現すれば、重ね着に頼らない新しい防寒の形が生まれると信じ、挑戦は続けられました。

スキーウェア開発者が疑った当たり前

スキーウェアを開発してきた技術者たちは、「暖かい服は重くて厚い」という当たり前に疑問を持ちました。動きやすさを重視する現場では、軽さは大きな価値です。そこで、体から出る湿気をエネルギーとして使う発想が、さらに磨かれていきます。後にファーストリテイリングと東レが共同で開発した『ヒートテック』では、極細繊維を使うことで、吸湿発熱と保温性、そして着心地の良さを両立しました。これは一つのひらめきではなく、長年の現場経験と研究の延長線上にあった決断でした。

バブル崩壊後に突きつけられた現実

1990年代、バブル経済が崩壊すると、日本の製造業やアパレル産業は厳しい状況に追い込まれます。安価な海外製品が市場にあふれ、価格競争では太刀打ちできなくなっていました。その中で、日本のものづくりが生き残るためには、他にはない価値を示す必要がありました。機能性素材への注目は、こうした背景から生まれた流れでもあります。吸湿発熱繊維は、価格ではなく技術で勝負する象徴的な存在でした。

技術に込められた日本の誇り

技術者たちは、国内で積み重ねてきた繊維技術を信じていました。簡単には真似できない素材を作り、世界に通用する商品に育てる。その思いが、細部へのこだわりにつながります。繊維の太さ、編み方、加工方法。その一つひとつが、着る人の体感に直結します。大量生産を前提としながらも、品質を落とさない。その難しさに向き合い続けたことが、後の成功につながりました。

平成を代表する大ヒット商品の誕生

2003年に登場した『ヒートテック』は、吸湿発熱という技術を一気に身近なものにしました。肌着という誰もが使うアイテムに落とし込んだことで、冬の定番として定着します。薄くて軽いのに暖かいという実感は、多くの人の生活を変えました。この成功を受け、他のアパレルブランドも吸湿発熱素材を取り入れた商品を次々と展開し、冬の衣類市場全体に革命が広がっていきます。

世界へ広がった日本発の技術

吸湿発熱繊維は、日本国内にとどまらず、海外でも注目される存在になりました。寒冷地だけでなく、室内外の温度差が大きい地域でも、その機能は評価されています。日本で生まれた技術が、世界の冬の暮らしを支える存在になったことは、ものづくりの大きな成果と言えます。

技術者たちが抱き続けた夢

吸湿発熱繊維の歩みは、単なる素材開発の話ではありません。逆境の中でも、「まだできることがある」と信じ、常識を疑い続けた人たちの物語です。目立たない肌着という分野だからこそ、本当に役立つものを作りたい。その思いが、長い年月をかけて形になりました。世界を変えるという夢は、日々の地道な研究と挑戦の先にありました。

まとめ

『吸湿発熱繊維』は、体の湿気を熱に変えるという発想で、冬の常識を大きく変えました。スポーツメーカーの挑戦、スキーウェア開発者の決断、バブル崩壊後の日本が直面した現実。そのすべてが重なり、平成を代表する大ヒット商品へとつながっています。放送後には、番組で描かれた具体的なエピソードを反映し、内容を更新します。