秋の実りが輝く山梨へ “八つの宝”が紡ぐスイーツ物語
秋になると、山梨の風景は果実の香りで満たされます。ぶどう、もも、なし、かき——色とりどりの果物が並ぶ光景に、思わず笑顔になる人も多いでしょう。今回の『グレーテルのかまど』では、そんな山梨の地に伝わる特別な言葉「甲州八珍果」に注目。ヘンゼルがキッチンを飛び出し、歴史と味わいの詰まった“フルーツの旅”へと出発します。
この記事では、番組の舞台となった山梨の果物文化と、「ぶどう寺」として知られる柏尾山大善寺の深い物語を紹介します。読めばきっと、スコップケーキの一口がより特別に感じられるはずです。
Eテレ【グレーテルのかまど】おしりたんていのスイートポテトに隠された“やさしさの文化史”とおしり型レシピの秘密|2025年10月13日
山梨が誇る“八つの宝”とは?
「甲州八珍果」は、江戸時代以前から甲斐国(現在の山梨県)で親しまれてきた八つの果実を指す言葉です。果樹栽培が盛んな山梨を象徴する存在で、以下の果物がその“八珍果”に数えられます。
-
ぶどう
-
なし
-
もも
-
かき
-
くり
-
りんご
-
ざくろ
-
くるみ(またはぎんなん)
この言葉がいつ誕生したかは明確ではありませんが、江戸時代中期にはすでに地域の人々に知られていました。嘉永4年(1851年)には、画家吉田柳蹊が『甲斐叢記』の挿絵に「甲州八珍果」と題をつけ、これが後に文化的な象徴となったといわれています。山梨の人々にとって、それは“土地の恵みへの感謝”の象徴でもありました。
どうして山梨は果物が豊かになったの?
山梨県の中心に広がる甲府盆地は、水はけのよい扇状地が多く、果物づくりに最適な土地。昼夜の寒暖差が大きいことも、果実の甘みや香りを強く育てます。さらに、江戸時代以降は甲州街道が発達し、都心への流通が活発に。これが果樹産業の発展を大きく後押ししました。
ももやぶどうは山梨の代名詞とも言えますが、柿やくり、ざくろも昔から家庭の庭先で育てられ、保存食や菓子として愛されてきました。『甲州八珍果』という言葉は、そんな人々の生活と自然の調和を表す、美しい文化の結晶なのです。
伝統と信仰が息づく“ぶどう寺”
ヘンゼルが訪れたのは、山梨県甲州市にある柏尾山大善寺(かしおさん だいぜんじ)。この寺は奈良時代の養老2年(718年)に、僧の行基が修行中に見た夢がきっかけで創建されたと伝わっています。夢の中で、薬師如来が左手にぶどうを持って現れ、その姿を刻んだのが寺の始まりとされています。
このことから、大善寺の本尊である薬師如来像は“ぶどうを持つ仏様”として知られ、全国でも極めて珍しい存在。以来、この寺は“ぶどう寺”の愛称で親しまれています。
お寺のブドウ畑で味わう自然の恵み
寺の境内や周辺には、今も広いブドウ畑が広がっています。参拝者は境内から見下ろすぶどう棚の美しさに心を奪われ、秋には収穫体験を楽しむ人々でにぎわいます。
この地では住職や檀家が中心となってぶどうを育てており、寺が手がける『大善寺ワイン』も存在します。ぶどうを通して信仰と地域をつなげる取り組みが続いており、山梨の“果物文化”を今に伝える貴重な場になっています。
ぶどうは“薬”であり“祈り”の象徴
奈良時代、ぶどうは「滋養の果実」「薬の果」として珍重されました。行基が夢でぶどうを見たという逸話も、当時の人々が自然の恵みに神聖な力を感じていた証拠です。ぶどうの房は“繁栄”や“結びつき”の象徴でもあり、大善寺の薬師如来が左手にぶどうを持つ姿は、人々の健康と豊穣への祈りを表しています。
山梨の人々にとってぶどうは単なる作物ではなく、“心の糧”として受け継がれてきたのです。
スコップケーキの魅力と仕上がり
瀬戸康史さんが番組で紹介したスコップケーキは、古くから山梨に伝わる甲州八珍果を贅沢に使ったデザートです。八珍果とは、ぶどう・桃・梨・ざくろ・りんご・栗・柿・くるみの8種の果物のこと。すべてを使ったケーキは、まさに秋の恵みをひとつに閉じ込めたような贅沢な一品です。器にすくって食べるスコップケーキならではのカジュアルさと、見た目の華やかさが両立したデザートになっています。半分にはぶどうジャムとホイップクリームを重ね、もう半分にはモンブランクリームをたっぷり絞って、異なる味を一度に楽しめる構成です。炭火で焼いた香ばしいスポンジがベースになり、果実とクリームの層が織りなす奥行きのある味わいが特徴です。
材料(21cmパイレックス1台分)
| 材料 | 分量 |
|---|---|
| 卵 | 200g(Mサイズ4個) |
| グラニュー糖 | 120g |
| 薄力粉 | 120g |
| 無塩バター | 40g |
| ぶどう | 100g |
| グラニュー糖(ジャム用) | 70g |
| 栗(殻付き) | 600g(正味400g) |
| 塩 | ひとつまみ |
| グラニュー糖(クリーム用) | 75g |
| 無塩バター | 80g |
| 牛乳 | 150ml |
| 生クリーム(乳脂肪分40%) | 500ml |
| 粉砂糖 | 40g |
| 水(シロップ用) | 60ml |
| グラニュー糖(シロップ用) | 30g |
| ブランデー | 40ml |
| フルーツ(ぶどう・白桃・梨・ざくろ・りんご・栗の渋皮煮・柿・くるみ) | 各適量 |
| レモン水(レモン1個+水500ml) | 適量 |
作り方
・薄力粉はふるい、バターは湯せんで溶かしておきます。オーブンペーパーを湿らせてダッチオーブンに敷きます。
・卵とグラニュー糖をボウルに入れ、湯せんで人肌に温めたら泡立て器でよく泡立てます。薄力粉を加え、溶かしバターを混ぜます。型に流し、炭火で約50分焼き、冷まして2枚にスライスします。
・ぶどうをミキサーにかけ、こして種と皮を除き、グラニュー糖を加えて煮詰めてジャムを作ります。
・栗は塩をふって1時間蒸し、中身を取り出します。バター・グラニュー糖と合わせてペースト状にし、牛乳でのばして裏ごしし、モンブラン口金をつけた絞り袋に入れます。
・生クリームと粉砂糖を泡立ててホイップクリームを作り、冷やしておきます。
・水とグラニュー糖を煮てブランデーを加え、冷ましてシロップを作ります。
・桃・梨・りんご・柿は皮と種を取り、レモン水に1分ほどつけてから水気を切ります。ざくろは粒を取り出し、くるみはローストします。
・器にスポンジ生地を1枚敷き、半分にぶどうジャム、半分にブランデーシロップを塗ります。ホイップクリームを全体に絞り、ジャム側には桃・梨・ぶどうを、シロップ側にはりんご・柿・栗の渋皮煮をのせます。
・もう1枚のスポンジを重ね、再び2種類のソースを塗り、ホイップクリームをならします。ジャム側にはホイップと果物を、シロップ側にはモンブランクリームとくるみを飾ります。
・全体を冷蔵庫でしっかり冷やし、スプーンですくって盛りつけます。
果物の彩りとクリームのコントラストが美しく、見た目も香りも華やか。当日中に食べきるのがおすすめで、ラップをして冷蔵保存すれば風味が長持ちします。秋の果実と栗の香ばしさが調和したこのスコップケーキは、瀬戸さんのこだわりと季節の美味しさが詰まった、特別な一皿です。
まとめ
この記事のポイントは次の3つです。
・「甲州八珍果」は江戸時代から続く山梨の果実文化を象徴する言葉
・柏尾山大善寺は“ぶどう寺”として信仰と果樹栽培をつなぐ特別な存在
・番組では八つの果実を使った『スコップケーキ』登場
果物と信仰、歴史と味覚——その全てが融合した今回のテーマは、まさに“秋の恵みの物語”。自然と文化が交わる山梨の物語を、どうぞお楽しみに。
気になるNHKをもっと見る
購読すると最新の投稿がメールで送信されます。


コメント