“老い”を怖がらないで。心を軽くするヒントとは
「最近、体の変化を感じるようになった」「親の介護を考えると不安になる」――そう感じていませんか?
“老い”という言葉を聞くと、どこか怖さや寂しさを覚える人も多いはずです。でも、老いることは「失うこと」ではなく、「新しい自分と出会うこと」。
この記事では、2025年11月12日放送予定の【クローズアップ現代『“老いへの抵抗”を和らげる 老い上手・介護上手の秘けつ』】の内容をもとに、放送前の段階で見えているテーマを整理しながら、誰にでも訪れる“老い”をどう受け止め、どう支えていけるかを一緒に考えます。
放送後には、番組で紹介された具体例や専門家のコメントを追記予定です。
NHK 【あさイチ】密着!介護の仕事 介護する時・される時に役立つヒントいっぱい ケアマネが見つからない現実と備えのコツ|2025年10月20日
老いと直面する局面
日本はすでに超高齢社会に突入しています。長寿科学振興財団によると、65歳以上の人口は全体の約3割に達し、今後も増加傾向にあります。
平均寿命が延びる一方で、「健康寿命」との差が課題になっています。つまり、長く生きられる時代になっても、“自分らしく生活できる期間”をどう延ばすかが問われているのです。
具体的に老いと直面する場面として多いのが、次のような生活の変化です。
・運転免許証の返納:長年の習慣を手放す不安。移動手段を失うことで外出機会が減り、社会とのつながりが薄れるケースもあります。
・車いすや歩行器の利用:自分の足で歩くことを誇りにしていた人ほど、受け入れるまでに時間がかかります。
・施設入居:家を離れ、集団生活に入ることで「自分の居場所がなくなる」と感じる人も少なくありません。
こうした変化は、「以前できていたことをやめる」選択を伴います。そのため、「自立」や「誇り」を保ちながら変化に向き合うことが難しくなるのです。
ドクターメイト株式会社の調査では、介護を受ける高齢者の多くが「人に迷惑をかけたくない」という心理的抵抗を感じていることがわかっています。
老いと向き合う過程では、「身体的な変化」だけでなく、「環境」「社会との関係」も同時に変化します。
自分の体の声を聴きながら、気づき→選択→受容のステップを経ていくことが、“老い上手”の第一歩です。
排せつ・おむつという“見えにくい課題”の重み
老いを考えるうえで、最も避けられがちなのが排せつの問題です。
尊厳死協会の調査によると、高齢期において「おむつを使うのは恥ずかしい」と感じる人は全体の8割以上に上ります。排せつは人間の尊厳に直結する行為であり、自分の意思でコントロールできなくなることは、「自分でなくなる感覚」に近いと言われます。
介護の現場でも、この問題は深刻です。厚生労働省の報告では、排せつ介助は介護者にとって最も負担が大きい作業のひとつとされています。中腰姿勢での介助、深夜の見守り、臭いや衛生管理など、身体的にも心理的にも疲労が蓄積しやすいのです。
一方、介護を受ける側も強いストレスを感じています。自分の身体の変化を受け入れきれず、「恥ずかしい」「家族に迷惑をかけたくない」と思いながら我慢してしまう。特に在宅介護では、「相談しにくい」「隠したい」と感じる傾向が強く、孤立が進むケースも報告されています。
セコム株式会社の調査では、「排せつに関する悩みを誰にも言えなかった」と答えた高齢者が7割近くにのぼりました。これは身体の問題というより、“心の壁”の問題です。
こうした課題に対し、施設や医療現場では新しいアプローチが広がっています。
社会福祉法人 大石ケ原会では、「本人の自立を尊重する排せつ支援」を重視。ズボンを下ろす、パッドを取り替えるなど“自分でできる部分”はあえて本人に任せ、自尊心を保つ工夫を行っています。
また、大正製薬『健康の森』が紹介するように、タイミングを把握して介助を最小限にする「トイレ誘導」や「環境調整(ベッドの高さ、手すりの配置など)」も有効です。
さらに、テクノロジーの進歩も注目されています。高吸収パッドや自動通知型おむつ、排せつセンサー、IoT見守り機器など、技術と人の優しさを組み合わせたケアが広がっているのです。
排せつケアは単なる介護作業ではなく、「尊厳を守るケア」。そこに“老いを受け入れる勇気”と“支える技術”の両方が必要とされています。
専門家が提唱する「老い上手」「介護上手」の具体的工夫
“老い上手”とは、年齢を重ねることを前向きに受け止め、自分の生活を上手に調整していく生き方です。
大阪大学大学院 権藤恭之教授は、「老いを否定するのではなく、老いの中に自分の新しい役割を見つけることが大切」と語っています。
また、皮膚・排せつケア特定認定看護師 浦田克美さんは、介護の現場で「介護され上手」になることを提案しています。これは「助けを受け入れる力」を持つということ。支援を拒むのではなく、感謝をもって受け入れることが、介護をより穏やかな関係に変える第一歩だといいます。
マイナビ医療福祉キャリアの調査によると、「介護上手な人」は、介助を“作業”ではなく“会話”として行っています。たとえば、介助しながら「寒くないですか?」「この高さで大丈夫ですか?」と声をかける。それだけで利用者の不安は軽くなるのです。
一方で、テクノロジーの導入も“介護上手”の大きな要素。ケアナビでは、ロボット介助、トイレ誘導センサー、見守りカメラなどの導入が進み、介護者の身体的負担を減らしています。夜間の見守りや排せつ確認を自動化することで、介護者の休息時間を確保し、ケアの質を保つ工夫が広がっています。
さらに、ビジネスジャーナルでは、高齢者が地域の活動やボランティアに参加する“社会資源化”の動きを紹介。老いを「終わり」ではなく、「経験を分かち合う時期」として捉える流れが強まっています。
つまり、「老い上手」「介護上手」とは、単に知識や技術の話ではなく、心の姿勢と社会の関係性を整えることでもあるのです。
社会制度・地域支援の枠組みから見た、これからの生き方
国や自治体も、老いと介護を“地域全体で支える”方向にシフトしています。
その柱となるのが『地域包括ケアシステム』と『地域共生社会』です。
これらは、高齢者が住み慣れた地域で最期まで暮らせる社会を目指し、医療・介護・生活支援・見守りを一体で提供する仕組みです。
中心的な役割を担うのは、地域包括支援センター。介護予防・生活相談・権利擁護などをワンストップで支援しています。
また、訪問介護・訪問看護のサービスも充実しており、特に「コンチネンスケア(排せつケア)」専門の看護師による在宅支援が注目されています。
セコム株式会社など民間企業も、見守りセンサーや在宅ケアシステムの提供を通じて、在宅介護の安全性を高めています。
さらに、ビジネスジャーナルが紹介するように、「高齢者=支えられる存在」という考え方から、「共に支え合う存在」へと社会が変わりつつあります。
退職後も地域の活動に関わり、ボランティアや子ども食堂の手伝いをする高齢者が増えています。これは“老いを恐れず、社会の一員として生きる”という意識の表れです。
これからの時代に求められるのは、「老い支度」を早くから始めること。
・免許返納のタイミングを自分で決める
・住まいをバリアフリー化する
・介護用品や制度を知る
・家族と将来を話し合う
・地域とつながり続ける
こうした準備をすることで、老いは恐れではなく「生活の新しい段階」として迎えられるようになります。
まとめ
この記事のポイントは以下の3つです。
・老いとは「衰え」ではなく「次の自分を生きる」こと。
・排せつケアは“身体と心の尊厳”を守る行為であり、技術と心の両輪が必要。
・社会全体で老いを支え合う仕組みが進化している。
“老い上手”とは、自分の変化を否定せず、自然に受け止めて暮らす力。
“介護上手”とは、相手の心に寄り添いながら、支える技術を学び続ける姿勢です。
放送後には、権藤恭之教授や浦田克美さんの発言、実際のケア現場の映像・データをもとに、さらに詳しい解説を追記します。
老いを怖れず、理解することから始めましょう。
それが、「長く、優しく、生きる」ための第一歩です。
参考・出典リンク
・長寿科学振興財団:「日本は超高齢社会に突入」統計データと高齢化の現状
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/tyojyu-shakai/nihon.html
・ドクターメイト株式会社:「高齢者の心理と介護負担に関する調査」
https://doctormate.co.jp/blog/blog-14163
・尊厳死協会:「排せつに関する高齢者の意識調査と尊厳の課題」
https://songenshi-kyokai.or.jp/lighthouse/archives/2535
・厚生労働省:「介護現場における排せつ支援・介助の現状」報告書
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/31.pdf
・セコム株式会社:「在宅介護における排せつ支援と家族ケアの実態調査」
https://www.secom.co.jp/kaigo/viewpoint/20190514.html
・社会福祉法人 大石ケ原会:「利用者の尊厳を守る排せつケアの取り組み」
https://oishigaharakai.or.jp/kaigowiki/omutsu_change
・大正製薬『健康の森』:「排せつケアの工夫と自尊心を守る支援方法」
https://www.taisho-kenko.com/column/146
・マイナビ医療福祉キャリア:「介護上手な人に共通する“関わり方”とは」
https://mynavi-iryofukushi.jp/media/articles/134
・ケアナビ(carenavi.jp):「排せつケアの最新技術と介護支援の進化」
https://www.carenavi.jp/ja/researchdata/special03.html
・ビジネスジャーナル:「老いを肯定的にとらえる社会へ 高齢者の社会参加が進む」
https://biz-journal.jp/company/post_391299.html
・地域包括ケアシステム(厚生労働省):「地域包括ケアと共生社会の推進」
https://www.mhlw.go.jp/kyouseisyakaiportal
・セコム株式会社(再掲):「在宅介護と地域見守り支援の連携」
https://www.secom.co.jp/kaigo/viewpoint/
これらの資料をもとに、放送後には番組内で紹介された実例・専門家コメントを追加予定です。
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