Eテレ【趣味どきっ！】開運！神秘のちから 縁起物（3）福をあつめる熊手｜江戸時代の熊手文化と日本人の心｜2025年12月16日

熊手という縁起物から見えてくる日本人の感覚

このページでは『趣味どきっ！開運！神秘のちから　縁起物（3）福をあつめる熊手（2025年12月16日放送予定）』の内容を分かりやすくまとめています。
熊手は年末の風景として見慣れた存在ですが、その形や意味を知ると、日本人がどのように福や運を考えてきたのかが見えてきます。道具や植物に願いを重ね、暮らしの中に取り入れてきた背景を、熊手と福笹を軸にたどります。

日本に縁起物が多い理由と、その成り立ち

日本では古くから、自然や身の回りの物事に特別な力が宿ると考えられてきました。山や川、木や石だけでなく、日常で使う道具や動作にも意味を見いだす感覚があります。
こうした考え方の中で、「良い出来事が続いてほしい」「災いを遠ざけたい」という思いが、形あるものに託されてきました。それが縁起物の始まりです。

縁起物は、五穀豊穣や商売繁盛、無病息災といった願いと結びつき、神社や寺で授与されるものだけでなく、年中行事や季節の習慣の中にも広がっていきました。正月飾りや節分の豆、七五三のお守りなども、その延長線上にあります。
特別な信仰だけでなく、日々の暮らしの中で自然に使われてきた点が、日本の縁起物文化の大きな特徴です。

熊手の起源と「かき集める」意味の変化

熊手はもともと、落ち葉や穀物、不要なものを集めるための実用的な道具でした。農作業や掃除の場面で使われ、「散らばったものを一か所に集める」役割を果たしてきました。
この動作そのものが、人の想像力と結びつきます。

落ちているものを残さず集める姿から、「魂を集める」「運を集める」という考え方が生まれ、やがて『福を集める』象徴として受け止められるようになります。熊手の形は変わらなくても、そこに重ねられる意味が少しずつ広がっていったのです。
道具の機能が、そのまま願いの形に置き換わっていく流れは、日本の縁起物らしい特徴といえます。

江戸時代に広がった飾り熊手と商売繁盛の願い

江戸時代に入ると、町人文化と商業が大きく発展します。人や物、お金が活発に動く中で、商売の成功を願う気持ちも強まっていきました。
この時代には、現在とほぼ同じような飾り付きの熊手がすでに人気を集めていたとされています。

熊手には、小判や宝船、大黒天など、富や繁栄を連想させる意匠が取り付けられました。福を「かき集める」だけでなく、「さらに増やす」という意味も込められ、商人たちにとって欠かせない存在になります。
年の終わりに新しい熊手を手に入れる行為は、これまでの感謝と、次の年への期待を同時に表す習慣として定着していきました。

関西の福笹に見る地域ごとの縁起文化

番組では、熊手と並んで関西地方で親しまれてきた福笹も紹介されます。笹は一年を通して青々とし、まっすぐ伸びる姿から、生命力や成長、清らかさの象徴と考えられてきました。
この笹に目を向け、「福を呼び込む力がある」と感じた人々の感覚が、福笹という縁起物につながっています。

関西では『十日戎』の祭りで福笹が授与され、小判や鯛などの飾りを付けることで商売繁盛を願います。関東の熊手と目的は同じでも、使われる素材や形が異なる点に地域文化の違いが表れています。
同じ願いが、それぞれの土地の風土や信仰に合わせて形を変えてきたことが分かります。

熊手と福笹に込められた祈りと現代へのつながり

熊手や福笹に共通しているのは、「目に見えない福を、手に取れる形で感じたい」という思いです。ただ飾るための物ではなく、一年の区切りで気持ちを整え、新しい時間へ向かうための存在として受け継がれてきました。
縁起物を手にすることで、願いを意識し、前向きな気持ちを持つ。その行為自体が大切にされてきたのです。

現代でも年末の市や祭りでは、多くの人が熊手や福笹を求めます。形や飾りは時代とともに変化しながらも、「福を集めたい」という根本の思いは変わっていません。
熊手という縁起物を通して、日本人が暮らしの中で大切にしてきた感覚が、今も静かに息づいています。

実際に熊手を買い替える理由と「毎年新しくする」習慣の意味

しげゆき

ここでは、熊手を毎年買い替える習慣について、背景にある考え方や意味を、追加情報として紹介します。熊手は見た目の華やかさだけでなく、長い時間をかけて形づくられてきた役割があります。

熊手は「福をかき集める」役目を持つ縁起物

熊手は単なる飾り物ではなく、「福をかき集める」縁起物として扱われてきました。酉の市などで授かった熊手は、1年間、玄関や商売場に飾られ、家や店に福運を招く存在として役目を果たします。この期間は、熊手がその家や商いを支えるお守りのような存在になると考えられています。1年が過ぎると役目を終え、次の年に向けて新しい熊手を迎えるという流れが、昔から続いてきました。

「毎年新しくする」に込められた意味

熊手を毎年新しくする習慣には、「富と福を集める力を更新する」という考え方があります。前年の熊手は、1年分の願いを受け止め、その役割を果たした存在とされます。そのため、新しい年を迎える際には、新しい熊手を手にし、改めて福を迎え入れる気持ちを整えます。前年より少し大きめの熊手を選ぶ人が多いのは、「来年はさらに多くの福をかき寄せたい」という願いを形にする行為として受け止められてきたからです。

「熊手を育てる」と呼ばれる楽しみ方

毎年熊手を買い替える文化は、「熊手を育てる」と表現されることもあります。サイズを少しずつ大きくしていくことで、これまでの福運が実を結んだ証と考えたり、次の一年への飛躍を願ったりします。必ず毎年買い替えなければならないわけではありませんが、この変化を楽しむ人は多く、年末の行事として自然に根付いています。役目を終えた古い熊手は、神社でお焚き上げなどを行い、感謝とともに送り出すことで、次の福運を迎える準備が整うと考えられています。