神を迎えるための正月飾りに込められた日本人の心
このページでは『趣味どきっ! 選 開運! 神秘のちから 縁起物(4)神を迎える正月飾り(2025年12月23日放送)』の内容を分かりやすくまとめています。日本にはなぜ縁起物があり、なぜ今の形に落ち着いたのか。その背景には、目に見えない存在と共に生きてきた日本人の暮らしがあります。今回のテーマである正月飾りは、新年の始まりに年神様を迎えるために考え抜かれてきた仕組みであり、家族と一年の無事を結ぶ大切な存在です。
日本に縁起物が生まれ、形が定着してきた理由
日本の縁起物は、偶然生まれたものではなく、自然と向き合う生活の中で必要とされてきたものです。昔の人々にとって、天候や作物の出来、不意の災いは人の力だけでは左右できないものでした。そこで、新しい年の始まりという節目に神を迎え、加護を願うという考え方が生まれます。その際、神を迎えるための目印や供え物が必要となり、形あるものとして縁起物が作られていきました。
こうした考えは各地に広がりながらも共通点を持ち、門松・鏡餅・しめ飾りといった正月飾りへと整理されていきます。形が定着した背景には、毎年くり返し使われ、意味が語り継がれてきたことで、人々の生活に深く根づいていった流れがあります。
正月飾りは神様を迎えるための装置
番組の大きな軸となるのが、正月飾りは単なる装飾ではなく、神を迎えるための装置だという考え方です。年神様は、何の準備もない場所に突然現れる存在ではなく、迎える側が整えた空間に降りてくると信じられてきました。そのため、家の外から内へ、意味を持つ飾りを順に配置する必要がありました。
正月飾りを整えることは、家を清め、新しい年を受け入れる心の準備でもあります。家族全員が同じ意識で年を迎えるための合図となり、神と人の距離を縮める役割を果たしてきました。
門松が神を呼ぶ目印になる理由
門松は、家の入り口に立てられる正月飾りで、神を迎える最初の目印です。番組では、門松が神を呼ぶアンテナのような存在だと紹介されます。松は一年中緑を保つことから、強い生命力を象徴する木とされ、神が降りる場所にふさわしいと考えられてきました。
門松があることで、ここが年神様を迎える家であることが外からも分かります。神に向けた合図であると同時に、家族が一年の健康や実りを願う気持ちを外に示す役割も担っています。
鏡餅に神がやどるとされる意味
鏡餅は、家の中に置かれる正月飾りの中心的な存在です。丸い形は古い鏡を表し、鏡は神聖なものとして扱われてきました。番組では、鏡餅は年神様が一時的に宿る依り代として考えられてきたことが示されます。
正月の間、神は鏡餅にやどり、家と家族を見守る存在になります。そのため、鏡餅は正月中は動かさず大切に扱われます。正月が終わった後に行われる『鏡開き』は、神の力を分け合い、日々の暮らしへとつなげていく大切な行いです。
しめ飾りが持つ結界と供え物の意味
しめ飾りは、玄関に飾られる正月飾りで、家の内と外を分ける結界の役割を持っています。ここから先は、神を迎える清められた空間であることを示す印です。番組では、この結界の意味に加え、しめ飾りに付けられる供え物の意味も紹介されます。
ミカンやこんぶ、炭といった品は、神と一緒にやって来た存在に渡し、静かに帰ってもらうためのものとされています。悪いものを力で追い払うのではなく、穏やかに送り返すという発想に、日本人の信仰の特徴が表れています。
正月飾りから見える信仰と暮らしの知恵
正月飾りを通して見えてくるのは、自然や神と共に生きてきた日本人の暮らし方です。神を迎えるために家を整え、感謝と願いを形にする。その積み重ねが、今に続く文化となっています。
番組では、関西学院大学教授 島村恭則が、こうした正月飾りの意味を民俗学の視点から解説します。縁起物に込められた意味を知ることで、毎年何気なく見ていた正月の風景が、違ったものとして感じられる内容です。
Eテレ【趣味どきっ!】開運!神秘のちから 縁起物(1)ふしぎな招き猫 猫はなぜ神格化された? 養蚕と猫の関係から読み解く招き猫の学術的起源|2025年12月2日
正月飾りを出す・片付けるタイミングには意味があります

ここでは、筆者からの追加情報として、正月飾りを実際に出す時期と片付ける時期、その一つひとつに込められてきた意味について紹介します。正月飾りは、思い立ったときに出して、正月が終わったら外すものではありません。そこには、神を迎え、神を送るという日本人の感覚がはっきりと息づいています。
正月飾りを出すタイミングと意味
正月飾りを出し始める目安とされているのは、12月13日以降です。この日は「正月事始め」と呼ばれ、昔から正月準備を始める日とされてきました。家を掃除し、身の回りを整え、神を迎える準備に入る節目です。
実際に飾る時期として多いのは、12月13日から28日頃までです。特に28日は「末広がり」の八に通じることから、縁起が良い日とされてきました。一方で、29日は「二重苦」、31日は「一夜飾り」と連想されるため、避ける考え方が広く知られています。正月飾りは、年神様を迎えるための装置と考えられてきたため、直前に慌てて用意するのではなく、余裕をもって整えることが大切とされてきました。
正月飾りを片付けるタイミングと意味
正月飾りを片付ける時期は、「松の内」が終わるタイミングが目安になります。松の内とは、年神様が家に滞在すると考えられている期間のことです。
関東や九州など多くの地域では、1月7日頃までを松の内とし、この日を過ぎると正月飾りを外します。一方、関西の一部や昔ながらの習慣が残る地域では、1月15日頃まで飾る場合もあります。地域差はありますが、共通しているのは、年神様が帰るとされる時期に合わせて飾りを下げるという考え方です。神が滞在している間はそのままにし、役目を終えたら丁寧に片付けるという流れが大切にされてきました。
鏡餅とお焚き上げに込められた意味
鏡餅は、正月飾りの中でも少し扱いが異なります。多くの地域では、1月11日頃の『鏡開き』の日に下げ、割って食べる習わしがあります。これは、神が宿っていた鏡餅の力を分けてもらい、日々の暮らしへつなげるという意味を持っています。
門松やしめ飾りなどは、外したあとに神社で行われるお焚き上げに納めるのが伝統的な形です。火によって清め、神を空へ送り返す行為とされてきました。燃やすことは処分ではなく、役目を終えた正月飾りを神のもとへ返す行いとして受け止められてきたのです。正月飾りを出すことも片付けることも、神と共に新しい年を迎え、送り出すための大切な一連の流れだといえます。
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