山口・岩国の山間部にある学校が84年の歴史に幕|3月21日(金)放送
2025年3月1日、山口県岩国市錦町にある山口県立岩国高校広瀬分校が、84年の長い歴史に幕を下ろしました。それに先立ち、NHK総合では2025年3月21日(金)23:00〜23:30に「最後の卒業式 岩国高校広瀬分校の12人」という番組が放送されました。この番組は、最後の卒業式を迎える12人の生徒たちの1か月に密着し、彼らが過ごしたかけがえのない日々と、地域との深い関わり、そして閉校の裏側にある想いを丁寧に伝えていました。広瀬分校は、大自然に囲まれた山間部にあり、生徒数が少ないことから、静かであたたかな学校生活が特徴の学校でした。そんな特別な場所での最後の卒業式は、地域の人々や卒業生にとっても大切な節目となりました。
錦町の自然とともに歩んだ広瀬分校の歴史と日常
広瀬分校は、1941年に「広瀬農林学校」として開校して以来、地元の教育と農業振興に大きく貢献してきました。その後の学制改革で「広瀬高等学校」、さらに1983年からは「岩国高校広瀬分校」となり、これまで数多くの卒業生を送り出してきました。場所は岩国市錦町、豊かな自然と静かな空気に囲まれた山あいの町で、地元住民の多くが学校に深い愛着を持っていました。最後の卒業生となった12人は、2022年に入学しましたが、その直後に学校の閉校が知らされました。初めは戸惑いや不安もあったと思いますが、生徒たちは「今ここで過ごせる時間を大切にしよう」と気持ちを切り替え、3年間の学校生活を懸命に生きてきました。
日々の通学は、地域を走る「錦川鉄道」を使っていました。地元の人々にも親しまれているローカル線で、南桑駅、根笠駅、柳瀬駅、河山駅、清流新岩国駅などを通り、山間部の風景の中を走る列車は、彼らの通学の思い出の一部となっています。車窓から見える四季折々の自然や、毎朝挨拶を交わす駅員さんたちとのふれあいも、生徒にとって大切な日常でした。
学校では、1クラス12人という少人数だからこそ、先生と生徒、生徒同士の距離がとても近く、温かい空気に包まれていました。教室の雰囲気も穏やかで、授業が終わるとすぐに笑い声が聞こえてくるような、まるで家族のような関係が築かれていました。広瀬分校の最大の魅力は、このアットホームな環境にあります。
担任の村上先生と、生徒たちの特別な時間
12人の担任を務めたのは、村上聖仁先生。彼にとって、この12人は教員人生で初めての担任クラスでした。初めてのことばかりで戸惑いもあったはずですが、先生は常に生徒たちと向き合い、成長をそばで見守り続けました。生徒の悩みに耳を傾け、一緒に笑い、一緒に涙を流しながら歩んできた3年間。先生と生徒の信頼関係はとても深く、番組では、教室で交わされる言葉のひとつひとつに、強い絆を感じさせる場面が多くありました。
卒業式が近づくにつれ、先生も生徒もお互いのことをより大切に思うようになっていきます。最後の授業、最後の給食、最後の帰りの挨拶。「これが最後なんだ」という実感が、胸にじんわりと広がっていく様子が番組からもよく伝わってきました。
卒業式の前に集まった卒業生と地域の思い
卒業式の1週間前には、かつての広瀬分校の卒業生たちが校舎に集まりました。廊下や教室を歩きながら「ここで授業を受けたな」「この黒板に書いた言葉、まだ残ってる」などと懐かしむ様子が映し出されました。校舎を見つめる彼らの表情からは、学校がただの学び舎ではなく、自分の原点であることがよくわかります。
さらに、地元の飲食店でも卒業生たちが集まり、先生や友人との思い出を語り合い、笑い声が響き渡る時間を過ごしました。学校という場所が、世代を越えて人をつなぐ存在であることを、あらためて感じさせる場面でした。
地域の側でも、学校の閉校に対して強い思いがありました。同窓会会長の内山正則さんは、学校がなくなることで、さらに地域が過疎化し、活気を失ってしまうのではと危機感を抱いていました。そこで、地域おこし協力隊の木村雄一さんと一緒に、閉校後も地域を元気に保つ取り組みを話し合い、未来に向けた準備も進めていたのです。
卒業式直前、12人が過ごしたかけがえのない日々
卒業式の2日前、答辞を読む鮎川樹来さんが散髪に行く様子が紹介されました。気持ちを整え、式に臨む姿勢に、彼の責任感と成長が感じられました。そして、卒業式前日には教室での昼食も最後の1回となりました。お弁当を広げて、いつも通りの会話を交わしながらも、心のどこかで「この時間がもう戻ってこない」ことを皆が感じていたようです。
この日が錦川鉄道での最後の通学にもなりました。乗り慣れた車両、何度も見た風景、乗客との挨拶…そのひとつひとつが、卒業という節目を強く意識させます。
3月1日、最後の卒業式で見届けた別れと希望
迎えた卒業式当日。会場には、生徒の家族、在校生、教職員、地域住民、そして多くの卒業生が集まりました。生徒たちは制服を着て、凛とした表情で式に臨みます。答辞を担当した鮎川さんは、堂々とした声で、3年間の思い出と感謝の気持ちを語りました。涙を流す生徒もいれば、笑顔で仲間を見つめる生徒もいました。
卒業式の後、教室では生徒たちがそれぞれの進路について語り合い、抱き合い、別れを惜しむ姿がありました。誰かがポツリと「また会おうね」とつぶやき、それに静かにうなずく仲間たち。言葉にならない想いが、教室の空気をやさしく包み込んでいました。
広瀬分校は、学びの場であると同時に、人と人のつながりを育てる大切な場所でした。閉校という現実は悲しいことですが、そこに流れた時間と思い出は、確かに残り続けるものです。
この番組は、ただのドキュメンタリーではなく、地域と人の絆、そして教育の本質を教えてくれる貴重な30分となりました。小さな学校の最後の物語が、全国の多くの人の心に届いたはずです。これからも、広瀬分校の想いと記憶が、静かに、けれど確かに受け継がれていくことを願います。
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