北九州市南部の里山に息づく自然と暮らしの宝
福岡県北九州市南部には、平尾台のカルスト台地や合馬たけのこなど、自然と人の手で守られてきた里山の宝があります。草原を守る野焼き、竹林整備、マウンテンバイクを活用した新しい取り組みなど、地域の知恵が今も息づいています。『小さな旅「里に宝あれ 〜福岡県 北九州市〜」(5月24日)』でも取り上げられ注目されています 。
この記事でわかること
・平尾台の野焼きが草原と景観を守る理由
・合馬たけのこが高級品として評価される背景
・竹林整備と人手不足が里山に与える影響
・マウンテンバイクコースで竹林を守る新しい工夫
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平尾台の野焼きが守るカルスト台地の美しい草原
福岡県北九州市の南部に広がる平尾台は、日本有数のカルスト台地として知られています。
カルスト台地とは、石灰岩が長い年月をかけて雨水などに溶け、独特の地形をつくった場所のことです。平尾台では、白い石灰岩が草原の中に点々と現れ、まるで羊の群れが草原にいるように見える景色が広がります。
この美しい風景は、自然に任せているだけで保たれているわけではありません。大きな役割を果たしているのが、毎年行われる野焼きです。
野焼きは、冬の間に枯れた草を焼き払う作業です。火を入れると一見、自然を壊しているように見えるかもしれません。しかし実際には、草原を草原のまま保つために欠かせない営みです。
もし野焼きをやめると、枯れ草が積もり、低木や雑木が増え、少しずつ草原は林へと変わっていきます。すると、平尾台らしい石灰岩と草原の景色が見えにくくなり、草原をすみかにする植物や昆虫も暮らしにくくなります。
野焼きには、次のような意味があります。
・枯れ草を取り除き、新しい草が伸びやすくなる
・草原に日光が届きやすくなる
・害虫を減らし、植物の成長を助ける
・山火事の燃え広がりを防ぐ
・カルスト台地らしい景観を守る
・草原にすむ生きものの環境を保つ
つまり平尾台の野焼きは、ただ草を焼く行事ではなく、草原を守るための管理作業なのです。
特に平尾台のような草原は、人の手が入らないと維持が難しい場所です。自然豊かな場所と聞くと「人が何もしない方がいい」と思われがちですが、里山や草原ではそうとは限りません。人が適度に関わることで、自然のバランスが保たれてきた場所もあります。
平尾台の美しさは、石灰岩がつくる地形だけではありません。そこに草原を守る人たちの手間と知恵が重なっているからこそ、あの開放的な景色が続いています。
江戸時代から続く野焼きと地域の人たちの役割
平尾台の野焼きは、古くから続いてきた地域の営みです。江戸時代から行われてきたとされ、今では春の訪れを感じさせる風物詩にもなっています。
ただし、野焼きは簡単な作業ではありません。広い草原に火を入れるため、風向きや天気、空気の乾燥具合を見ながら慎重に進める必要があります。火は便利な道具であると同時に、扱いを間違えれば危険にもなります。
そのため、野焼きは地域の人たちや関係者が協力しながら行います。火をつける人、燃え広がりを見守る人、周囲の安全を確認する人、残り火を処理する人など、多くの役割があります。
ここで大切なのは、野焼きが「昔からあるから続けている」だけではないという点です。今も必要とされている理由があります。
平尾台の草原は、観光のためだけに守られているのではありません。そこには、草原にしか生きられない植物や昆虫がいます。ススキやネザサが広がる環境、石灰岩のすき間に根を張る植物、明るい草地を好む生きものたちにとって、野焼きはすみかを保つための大切な仕組みです。
一方で、昔と比べて地域の人口構成や暮らし方は変わっています。農作業や里山作業に関わる人が減り、地域の行事を支える人手も簡単には集まりにくくなっています。
だからこそ、野焼きは単なる伝統行事ではなく、地域で自然をどう守っていくかを考える象徴でもあります。
火を使って草原を守るという方法は、今の感覚では少し意外に思えるかもしれません。しかし、草を刈るだけでは広大な面積を管理しきれない場合があります。野焼きは、広い草原を効率よく整え、次の季節の芽吹きを助ける方法として受け継がれてきました。
ただし、野焼きはどこでも自由にできるものではありません。安全管理、地域の理解、自然環境への配慮が必要です。平尾台の野焼きが今も続いている背景には、長い経験と地域の協力があります。
この点を知ると、黒く焼けた大地の見え方も変わります。焼け跡は終わりではなく、新しい草原が始まる準備です。春になると、黒い地面から若草が芽を出し、平尾台はまた明るい緑へと変わっていきます。
合馬たけのこが高級品として評価される理由
北九州市小倉南区の合馬地区は、合馬たけのこの産地として知られています。合馬たけのこは、やわらかく、えぐみが少なく、香りや歯ざわりがよいことで高く評価されています。
たけのこは、どこで育っても同じ味になるわけではありません。味を大きく左右するのは、土、竹林の手入れ、収穫のタイミングです。
合馬地区には、たけのこづくりに向いた土壌があります。たけのこは土の中で育つため、土の状態がとても重要です。やわらかく、適度に水分を含み、空気を通す土で育つと、たけのこもやわらかく育ちやすくなります。
さらに、良いたけのこを作るには、竹林をきちんと整える必要があります。
竹が密集しすぎると、日当たりや風通しが悪くなります。すると土の状態が悪くなり、質のよいたけのこが育ちにくくなります。反対に、古い竹を切り、竹の間隔を整え、落ち葉や土の状態を管理すると、地下茎に栄養がまわりやすくなります。
高品質なたけのこは、地面から大きく顔を出す前に掘り出すことも大切です。たけのこは空気に触れると皮が黒ずみ、かたくなりやすくなります。だから、土の盛り上がりやわずかな割れ目を見て、ちょうどよい時期を見極める技術が必要です。
合馬たけのこが高級品とされる理由をまとめると、次のようになります。
・たけのこに合った土壌がある
・竹林の手入れに手間がかかっている
・収穫のタイミングを見極める技術がある
・えぐみが少なく、やわらかい
・香り、味、歯ざわりのバランスがよい
・料理店からも評価される品質がある
たけのこは春の味覚として身近な食材ですが、良いものを安定して作るには、見えない部分に大きな手間がかかっています。
つまり合馬たけのこの価値は、単に「名産だから高い」というものではありません。土づくり、竹林整備、収穫技術、地域の経験が重なって生まれる価値です。
ここを知ると、たけのこ料理の見方も変わります。煮物や炊き込みご飯、若竹煮として食べる時、そのやわらかさや香りの奥には、竹林を守る人たちの毎日の作業があります。
『小さな旅「里に宝あれ 〜福岡県 北九州市〜」』で描かれる地域の宝とは、特別な観光名所だけでなく、こうした地道な手入れによって守られている食文化そのものだといえます。
竹林整備と人手不足が生む里山の課題
竹林は、きちんと手入れされていると美しく、たけのこや竹材を生み出す大切な資源になります。しかし、手入れが行き届かなくなると、放置竹林という問題につながります。
竹は成長が早く、地下茎を伸ばして広がります。手入れされない竹林では、竹が密集し、日光が地面に届きにくくなります。すると、ほかの植物が育ちにくくなり、森の中が暗くなります。
さらに、竹が広がりすぎると、周囲の山林や畑に入り込むこともあります。竹は根を浅く広げるため、斜面では土をしっかり支えにくい場合もあり、場所によっては倒木や土砂の流出が心配されることもあります。
竹林の問題は、竹そのものが悪いのではありません。問題は、人の手が入らなくなった竹林が増えることです。
昔は、竹は暮らしの中でよく使われていました。かご、ざる、農具、建材、生活道具など、竹は身近な材料でした。たけのこも食べられ、竹林は地域の資源として管理されていました。
しかし、生活道具が変わり、竹を使う機会が減ると、竹林を整える理由も少なくなります。さらに高齢化や人手不足が重なると、手入れをしたくてもできない竹林が増えていきます。
竹林整備には、想像以上に体力と時間が必要です。古い竹を切る、運び出す、密度を調整する、道を確保する、足場を整える。どれも一人で簡単にできる作業ではありません。
里山の課題は、自然の問題であると同時に、人の暮らしの問題でもあります。
たとえば、次のような変化が重なると、竹林は荒れやすくなります。
・竹を使う生活道具が減る
・農林業に関わる人が減る
・地域の高齢化が進む
・山や竹林の所有者が管理しきれない
・整備しても収入につながりにくい
・若い世代が里山作業に関わる機会が少ない
ここで重要なのは、竹林を「邪魔なもの」とだけ見ないことです。手入れすれば、たけのこ、竹材、景観、体験観光、教育の場として価値を持ちます。荒れた竹林をどう活かすかが、これからの里山保全の大きなテーマです。
合馬地区の竹林整備は、まさにその課題と向き合う取り組みです。高品質なたけのこを守るには竹林の手入れが必要ですが、人手不足の中で、従来のやり方だけでは限界があります。
だからこそ、地域には新しい発想が求められています。
マウンテンバイクコースで竹林を守る新しい取り組み
竹林を守る方法として注目されるのが、マウンテンバイクコースを活用する取り組みです。
一見すると、たけのこや竹林整備とマウンテンバイクは関係がないように思えます。しかし、竹林の中に人が通る道をつくり、継続的に人が入る仕組みをつくることは、竹林が荒れるのを防ぐきっかけになります。
放置された竹林は、人が入りにくくなります。道がなくなり、竹が倒れ、草木が茂ると、ますます整備が難しくなります。反対に、人が安全に通れる道があれば、竹林の状態を確認しやすくなります。
マウンテンバイクコースをつくることで、竹林に次のような変化が生まれます。
・人が竹林に入る理由ができる
・道の周辺を整える必要が生まれる
・倒れた竹や危険な場所に気づきやすくなる
・地域外の人が里山に関心を持つ
・若い世代やアウトドア層が関わりやすくなる
・竹林を「負担」ではなく「楽しめる場所」として見直せる
もちろん、自然の中にコースをつくるには配慮が必要です。どこでも走ってよいわけではなく、地形や植生、所有者、安全管理、利用ルールを考えなければなりません。
それでも、この発想が面白いのは、竹林整備を「つらい作業」だけで終わらせず、楽しみながら守る仕組みに変えようとしている点です。
これまでの里山保全は、地域の人の善意や努力に頼る部分が大きくありました。しかし、人手不足が進む中では、守る人を増やす工夫が必要です。マウンテンバイクのような体験型の活用は、その一つの可能性です。
里山に人が来ると、地域の魅力を知る人も増えます。たけのこ、景色、自然、農業、地域の歴史。これらは別々のものではなく、すべてつながっています。
竹林を走る人が、合馬たけのこの価値を知るかもしれません。地域を訪れた人が、里山の手入れの大変さに気づくかもしれません。そうした小さな関心が、次の保全活動につながることもあります。
大切なのは、自然を守ることと地域を楽しむことを対立させないことです。ルールを守り、地域の人と協力しながら活用すれば、里山は「見る場所」から「関わる場所」へ変わっていきます。
北九州市南部に残る里山の宝と暮らしのつながり
北九州市というと、工業都市のイメージを持つ人も多いかもしれません。製鉄、港、ものづくりの町として発展してきた歴史があります。
しかし南部には、平尾台の草原や合馬の竹林のように、自然豊かな里山が広がっています。このギャップこそ、北九州市の大きな魅力です。
里山とは、人の暮らしと自然が近い場所のことです。山、田畑、竹林、草原、集落がつながり、人が手を入れながら自然とともに暮らしてきた地域を指します。
里山の宝は、目に見える美しい景色だけではありません。
平尾台の草原を守る野焼き、合馬たけのこを育てる竹林整備、荒れた竹林を活用する新しいアイデア、地域の人たちの知恵や経験。これらすべてが、里山の宝です。
ここで大事なのは、「宝」は最初から輝いているものばかりではないということです。人が見つけ、手をかけ、次の世代へ渡そうとして、初めて宝として残ります。
平尾台の草原も、野焼きがなければ今の姿を保つのは難しくなります。合馬たけのこも、竹林整備がなければ品質を守ることはできません。竹林も、放っておけば問題になりますが、活かし方を考えれば地域の魅力になります。
つまり北九州市南部の里山では、自然と人の関係がはっきり見えます。
自然は、ただ眺めるだけのものではありません。守る、使う、整える、楽しむ、食べる、学ぶ。そうした暮らしの中の関わりがあって、地域の風景は受け継がれていきます。
これからの里山に必要なのは、昔ながらの方法を大切にしながら、新しい関わり方も取り入れることです。
野焼きのような伝統的な保全。
合馬たけのこのような食文化。
竹林整備のような地道な作業。
マウンテンバイクコースのような新しい活用。
これらは別々の話ではなく、すべて「地域の宝をどう守るか」という一つのテーマにつながっています。
北九州市南部の里山が教えてくれるのは、自然の価値は人の手間と結びついているということです。美しい草原も、おいしいたけのこも、心地よい竹林も、誰かが守ろうとしているから残っています。
だからこそ、平尾台や合馬地区を知ることは、単なる観光情報を知ることではありません。地域の自然を未来へ残すために、どんな工夫や努力が必要なのかを考えるきっかけになります。
里に宝あれ。
その言葉は、特別なものを探しに行くという意味だけではなく、足元にある自然や暮らしの価値に気づくことでもあります。北九州市南部の里山には、その気づきを与えてくれる宝が、今も静かに息づいています。
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