“復興のシンボル”パンダを守れ〜神戸の動物園が起こした奇跡
阪神・淡路大震災の被災地・神戸に、希望の光としてやってきた1頭のジャイアントパンダ「タンタン(旦旦)」。神戸市立王子動物園で長年暮らし、多くの市民に癒しと勇気を与えてきました。今回の『新プロジェクトX』では、そんなタンタンを支え続けた動物園スタッフたちの挑戦と絆、そして本場・中国の専門家も驚いた世界初の治療法に迫ります。番組は2024年4月26日(土)20:00から放送予定です。放送後、詳しい内容が分かり次第、最新の情報を更新します。
阪神・淡路大震災とタンタンの来園
1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災は、多くの命と街の風景を一瞬で奪いました。そんな傷ついた神戸に、2000年7月、中国・四川省生まれのジャイアントパンダ「タンタン」がやってきます。目的は、市民の心の復興を支えることでした。
・来園当初はオスのパンダ「コウコウ(興興)」とともに登場
・神戸市立王子動物園での公開初年度、入園者数は約2倍の約200万人に
・タンタンは「神戸のお嬢さま」と呼ばれ、街の象徴的存在に
この愛らしいパンダの登場は、悲しみの中にいた市民にとってまさに希望の星となり、タンタンの存在は単なる動物ではなく、街の復興を象徴する命そのものでした。
繁殖に挑んだパンダとスタッフの奮闘
タンタンは中国から日本にやってきた当初、繁殖研究の一環として大きな期待を背負っていました。パートナーとして迎えられたオスのコウコウと共に、神戸市立王子動物園での新たな暮らしが始まります。
・最初のパートナー・コウコウには生殖機能がないことが判明し、やむを得ず中国へ返還されました。タンタンにとっては相手を失う寂しさと、周囲の期待に応えられなかったという無言の重圧がのしかかりました。
・次に迎えられたのが、2代目のコウコウです。2頭は一緒に過ごしながら、人工授精による繁殖が何度も試みられました。スタッフは排卵のタイミングを見逃さないよう、日々の観察に力を入れ、専門機器を使ったデータの記録も欠かしませんでした。
・そして2008年、ついにタンタンは妊娠に成功し、赤ちゃんが誕生します。これは動物園のスタッフはもちろん、全国のファンにとっても待ちに待った喜びの瞬間でした。
しかし、その喜びはすぐに悲しみに変わります。
・生まれた赤ちゃんは、わずか4日後に命を落とします。死因は詳しく明かされていませんが、極めて繊細なパンダの新生児に起こりやすい体調不良や免疫の弱さが原因とみられています。
・タンタンは母として初めての出産を経験したものの、子育てをする前に我が子を失うという大きな喪失感に直面しました。彼女の様子は明らかに落ち着かず、ケージの中を歩き回ったり、鳴くような仕草を見せたりと、心の不安定さがにじんでいたと記録されています。
この出来事のわずか2年後、さらなる悲劇が起こります。
・2010年、2代目のコウコウが急死。健康に見えていた矢先のことでした。原因は急性の消化器系の病気とされており、動物園側も予想できなかった突然の出来事でした。
・タンタンは再び一頭での生活に戻り、繁殖という大きな使命を果たすことができないまま、その役割を終えることになります。
この頃のタンタンは、心にも体にも大きな負担を抱えていました。
・スタッフたちは、タンタンの精神的ケアにも注力し、これまで以上に接する時間を増やしました。無理に繁殖を再開させることなく、タンタンが安心して過ごせる環境を整える方向へとシフトします。
・担当飼育員たちは、タンタンの食欲や行動の変化を記録しながら、彼女の気持ちを理解しようと努力しました。毎日の餌の内容も少しずつ変え、タンタンが好む笹の種類や硬さを選んで提供するなどの工夫が続けられました。
このように、繁殖という使命の中で大きな試練に見舞われたタンタンと、それを支え続けたスタッフたちの姿には、動物と人との深い絆と、命に向き合う誠実な姿勢があらわれています。決して派手な成果ではなくとも、一つひとつの対応に真心がこもっていたことが、のちの長寿や市民の共感につながっていったのです。
晩年を支えた静かな努力
タンタンは長い年月を神戸で過ごす中で、年齢を重ねていくにつれ、少しずつ体調に不安が見られるようになっていきました。特に高齢となった2020年以降は、飼育スタッフにとっても一層注意深い対応が求められる時期となります。
・2020年には中国への返還が計画されていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大やタンタン自身の健康状態の悪化により延期されました。当時の移送は慎重な環境管理が必要なため、タンタンの体調を最優先して判断が下されました。
・翌年の2021年には、心臓疾患が見つかり、精密な検査の結果、長期療養が必要であることがわかります。この時点で、王子動物園は一般公開を中止し、タンタンの負担を軽減するための飼育に切り替えました。
この頃から飼育体制も大きく変わります。
・飼育スタッフは24時間交代制の態勢を整え、夜間の緊急対応にも備えるようになります。一日の体調変化を細かく記録し、気になるサインがあればすぐに獣医師に相談できるように準備されました。
・健康診断の頻度は週2回から毎日に増加。血圧や心拍、歩行の様子、食欲などの細かい数値が専用の記録表に残されていました。タンタン自身が診察を受けやすいよう、日々のルーティンの中で自然と検査ができるような訓練も続けられていました。
・タンタンが好むやわらかめの笹や甘みのある竹を厳選して与え、好きな香りのする場所に寝床を設けるなど、ストレスの少ない環境づくりが徹底されました。
そのような日々の努力は、SNSを通じて広く市民にも伝えられました。
・王子動物園の公式SNSでは、「今日は落ち着いて寝ていました」「新しい竹を気に入ったようです」といった日常の記録が紹介され、多くの人がタンタンを応援し、見守りました。
・タンタンの様子に一喜一憂しながら、「もう一度会いたい」「元気になってほしい」と願う声が全国から寄せられました。
そして2024年3月31日、タンタンは28歳という高齢で静かに息を引き取りました。ジャイアントパンダとしては非常に長寿であり、人間に換算すればおよそ100歳にあたる年齢です。
・最期まで飼育員と目を合わせ、落ち着いた様子だったと記録されており、静かで安らかな旅立ちだったことがうかがえます。
・死後にはタンタンの記録や写真が園内に掲示され、訪れた人たちが花を手向け、「ありがとう」の思いを込めた言葉をそっと残していきました。
この晩年のタンタンを支えたのは、決して特別な治療法や最新の技術だけではありません。日々そばにいて様子を見守り、わずかな変化にも気づいてあげること。それを何年も続けた飼育スタッフの努力とまごころが、タンタンの長寿を支えていたのです。
異色の経歴を持つスタッフが起こした奇跡
タンタンを支え続けたのは、王子動物園の梅元良次さんや吉田憲一さんをはじめとする飼育チームでした。梅元さんは元々他の動物の飼育をしていた異色の経歴の持ち主で、タンタンの担当に抜擢された後は日々試行錯誤を重ねました。
・タンタンの健康状態や性格を深く理解し、個別に応じた飼育方法を確立
・段差を緩やかにするなど、年老いたタンタンに優しい環境づくりを推進
・夜中でもすぐ駆けつけられるよう、24時間の交代制を徹底
ただ飼うのではなく、「タンタンの一生を支えるために、できることを全部やる」という覚悟で取り組んできた姿勢は、多くの関係者や来園者の心を動かしました。
世界初の治療法「ハズバンダリートレーニング」
梅元さんたちが導入したのが、ハズバンダリートレーニング(HT)という特別な手法です。これは、パンダ自身が進んで検査や治療に協力できるよう訓練するもので、国内では初めての試みでした。
・タンタンはこの訓練により、自ら診察台に座ったり、背を向けて聴診を受けることができるように
・2017年には左目の病気(角膜炎)を早期発見
・心臓病の進行にあわせて投薬・観察もスムーズに実施
この治療法は、パンダを専門とする中国の研究機関の専門家たちも驚いたほどの効果を発揮し、「タンタンの命をつないだ最先端のケア」として世界に広がる可能性もあると注目されています。
市民とともに歩んだ24年
タンタンの死後、神戸では多くの市民がその死を悼みました。王子動物園では追悼式や献花台が設けられ、その姿を偲ぶ人であふれました。
・2025年3月には一周忌イベントが開催され、約300人が参加
・来場者には「ありがとうタンタン記念誌」やメモリアルボードが配布されるなど、温かな時間が流れました
タンタンはもういませんが、その存在は神戸の人々の心の中に今も生き続けています。
『新プロジェクトX』では、こうしたタンタンとスタッフの24年にわたる物語が、丁寧に描かれる予定です。放送後、すべての内容を反映し、さらに詳しいレポートをお届けします。
放送日時:2024年4月26日(土)20:00〜20:50/NHK総合
タイトル:新プロジェクトX “復興のシンボル”パンダを守れ〜神戸の動物園が起こした奇跡
※放送の内容と異なる場合があります。ご了承ください。
コメント