富士山麓“穴”を巡る生きものたちの攻防!驚きの共生と危機の記録
2025年5月4日にNHK総合で放送された『ダーウィンが来た!』では、富士山麓に広がるアカマツ林や神社の森を舞台に、生きものたちが「穴」をめぐって繰り広げる壮絶な攻防と驚きの共生の記録が紹介されました。番組の案内役は動物カメラマンの平野伸明さん。国内外の生態撮影のプロフェッショナルが見つめた、富士山の“穴”と生きものの世界とは?
富士山麓のアカマツ林で始まる「巣穴バトル」アカゲラとコムクドリ
富士山のふもとに広がるアカマツ林。この場所は、約1000年前の噴火でできた溶岩台地に広がっていて、東京ドームおよそ20個分の広さを誇ります。この地域の特徴は、地中に土が少ないため根を張りやすいアカマツが多く育っていること。そして、枯れた木々には無数の穴が存在しており、多くの鳥たちがそれを利用して暮らしています。そんな場所で、今回注目されたのが、アカゲラとコムクドリによる巣穴をめぐる攻防戦でした。
アカゲラは自らの力で巣穴を作ることができる鳥で、毎年春になると枯れ木にくちばしを使って、直径約12cm・深さ30cmの穴を2週間ほどかけて丁寧に掘ります。この巣穴は、丈夫で壊れにくく、外敵から身を守るためにも非常に安全です。子育てをするための最高の場所といえます。
しかし、その巣穴に目をつけたのが、自分では穴を掘れないコムクドリ。この鳥は、アカゲラが掘ったばかりの新しい穴を乗っ取ろうと、巣穴の前に現れました。コムクドリは侵入を試みますが、アカゲラはすぐに威嚇し、激しいにらみ合いの末、巣を守りきります。この攻防は短い時間では終わらず、何度も繰り返されました。
・アカゲラの攻防姿勢は素早く、大きな声と動きで相手を遠ざけようとする
・コムクドリは隙を見て近づくが、直接巣穴に入ることはできなかった
・木の周囲を飛び回りながら、タイミングを見計らっていた
このようなやり取りが続いた結果、コムクドリは新しい巣穴を諦め、やむなく古い巣穴を利用することになります。しかし、この選択にはリスクがありました。古い穴は、出入り口が広がっているため、テンなどの天敵に見つかりやすく、侵入される危険性が高いのです。また、木の老朽化により巣が崩れたり、木ごと倒れてしまう恐れもあります。
それでもコムクドリは、その古い穴を使って子育てを始めました。驚くべきことに、アカゲラの巣穴からはわずか2mほど下にある場所での生活が始まったのです。この不思議な関係は、その後も続きます。
・アカゲラの巣にはヒナが誕生し、親鳥は1日に約206回も餌を運んでいた
・ヒナがいる間、夫婦で交代しながら休むことなく巣に出入りしていた
・コムクドリも古い穴で子育てを続けており、同じ木の上下で暮らす形に
さらに物語は続きます。ある日、巣穴にアオダイショウ(大型のヘビ)が接近。これは、巣にとって最大の脅威です。ここで予想外の展開がありました。アカゲラとコムクドリは互いに巣を守るために共に行動したのです。
・アカゲラは高い位置から威嚇行動を行い、アオダイショウを追い払おうとした
・コムクドリも飛び回りながら警戒音を発し、近づかせまいとした
・その結果、ヘビは木から離れ、2つの巣は無事に守られた
このエピソードは、単なる巣穴の奪い合いではなく、自然界における競争と共存のバランスを教えてくれるものでした。争いながらも共に生きる道を見出す、そんな生きものたちの柔軟な知恵と行動が、富士山麓の森の中で静かに展開されていたのです。
建物にも“穴”を発見!その正体は夜の寝床を求めるアオゲラ
富士山麓の取材中、動物カメラマンの平野さんが目を留めたのは、人の暮らす建物の壁にぽっかりと空いた不思議な穴でした。場所は自然に囲まれた山麓の住宅地。よく見ると、木材で作られた外壁の一部に、まるで丸いトンネルのような穴が開いていました。
その穴に出入りしていたのは、アオゲラという日本固有種のキツツキの仲間です。アオゲラは鮮やかな緑色の羽毛と赤い頭が特徴で、森に生きる生きものとして知られています。普段は木の幹に巣穴を掘る鳥ですが、今回のケースでは人間の建てた建物を利用していました。
・穴の大きさはアオゲラの体がちょうど通れるほどの直径
・木製の外壁を数日かけて掘り進め、内部に空間を作っていた
・出入りは主に夕方から夜にかけて行われていた
この穴は子育てのための巣ではなく、夜の間だけ身を隠す「寝床」として使われていたことが明らかになりました。日が暮れるとアオゲラは静かにやってきて穴に入り、明け方に飛び立つ姿が確認されています。
なぜ森の木ではなく建物を選んだのか、その理由は明確ではありませんが、住宅地の建物は天敵に見つかりにくく、安全な場所と判断した可能性があります。また、木材の壁は柔らかくて掘りやすく、キツツキにとっては格好の素材だったとも考えられます。
・巣ではないため、餌の運搬などの行動は見られなかった
・穴の中は暗く静かで、外敵から身を守るのに適していた
・建物の持ち主もアオゲラの存在を受け入れていた
住人によると、「しばらく使っているが、そのうち飽きていなくなったら修理する予定」とのこと。人と野鳥が同じ空間を共有する、やさしい共生の一例として紹介されました。
このように、富士山麓では自然と人間の境界が曖昧な場所が多く、野生動物が柔軟に環境に適応している姿を見ることができます。アオゲラの寝床のような“穴”は、ただの空間ではなく、命を守るための賢い選択として存在しているのです。
神社の森に集まる夜行性動物たち〜フクロウとムササビの子育てとねぐら
舞台は、富士山の北口にある北口本宮冨士浅間神社の森。この場所は、長い年月をかけて成長したスギの巨木が何本も立ち並び、その中には直径1m以上にもなる幹の裂け目や、自然にできた大きな穴が数多く見られます。こうした巨木の穴は、昼間は静かな空間ですが、夜になると動き出す生きものたちにとって、かけがえのない住処や子育ての場になっていました。
その中でまず現れたのがムササビです。ムササビはリスの仲間で、森に暮らす夜行性の動物。自分では穴を掘ることができませんが、アオゲラが作った巣穴をさらにかじって広げ、夜のねぐらとして利用していました。
・穴は木の高い場所にあり、ムササビは木の幹を登って出入りしていた
・昼間は穴の奥で丸くなって眠り、日没後に活動を始めていた
・外敵に見つかりにくく、風や雨を防げるため、ねぐらとして最適だった
ムササビの姿は木々の間を滑空するように移動する場面も撮影され、アオゲラが残した“資産”を有効活用する、自然界のリレーのような関係が浮かび上がりました。
次に紹介されたのがフクロウの親子です。神社のご神木にできた大きな裂け目を巣にし、親フクロウがヒナを育てていました。裂け目は人の目線ではほとんど見えない高さと位置にあり、外敵からも視認されにくく、子育てには理想的な環境となっていました。
・ヒナは巣穴の奥にじっと座り、親が餌を運んでくるのを待っていた
・親フクロウは日没後すぐに狩りに出かけ、ねずみなどを運んでいた
・一日に数回、羽音も立てずに木陰に戻ってくる姿が確認された
しかし、ある日トラブルが発生します。ヒナの1羽が巣穴から地面に落下してしまったのです。これは「巣立ち」の一種とされる自然な行動であるものの、ヒナはまだ飛ぶ力が弱く、地上に降りてからの行動には危険が伴います。
落ちたヒナはしばらく周囲を歩きまわったあと、近くの道路に迷い込み、そこに現れた野良ネコに襲われる危機に直面しました。ネコはヒナに近づいていきますが、ヒナは羽を広げて威嚇し、なんとかその場をしのぐことができました。
・ネコとの距離は数メートル以内に迫っていた
・道路の明かりに照らされながら、ヒナは身を低くして気配を消していた
・最終的にネコはその場を離れ、ヒナは木の陰に隠れて夜明けを待った
このような危機は、自然の中では珍しくありません。アカマツ林にはフクロウが巣作りできるような大きな穴は少ないため、スギの巨木の割れ目が貴重な子育て拠点になっているのです。
人の手が入らず静かに保たれた神社の森は、多くの夜行性の動物たちにとって、昼間の隠れ家や子育ての拠点として重要な場所となっています。フクロウもムササビも、そこに生きる生きものたちは、それぞれが工夫をこらし、与えられた環境の中で命をつなぐために必死に生きているのです。
命をつなぐ“穴”を守るための工夫と適応
北口本宮冨士浅間神社の巨木で育てられていたフクロウのヒナは、その後も無事に成長を続け、約1か月後に再び姿を現しました。ヒナはすでにふわふわの産毛から少しずつ羽毛へと変わりはじめ、動きも活発に。とはいえ、まだ狩りはできず、親鳥から餌を受け取りながら、森の中でひっそりと学びの時間を過ごしていました。
・ヒナは木の影や低い枝にとまりながら、親鳥の動きをじっと観察していた
・親は毎晩、ねずみや昆虫をとらえ、ヒナのもとに運び続けていた
・飛ぶ練習や木を登る行動も徐々に始めていた
このような期間は「巣立ち後学習期」と呼ばれ、親鳥の存在がヒナの生存にとって欠かせない時期です。安全な穴から外の世界に出たヒナにとって、森の中は未知の環境。そこには天敵も多く、間違った動きをすれば命の危険もあります。そんな中でも、穴のそばで親と過ごすことで、少しずつ自立に向かっていきます。
一方、富士山麓のアカマツ林にあるアカゲラの巣穴でもヒナたちが順調に成長していました。この時期、親鳥は以前よりも明らかに餌の回数を減らし始めます。これは決して餌が少なくなったわけではなく、親鳥がヒナに「巣から出るように促すための行動」なのです。
・1日数百回あった餌運びは、日に日に回数が減っていった
・ヒナは穴の入り口近くまで身を乗り出し、外の様子をうかがうようになった
・時折、親鳥がすぐそばの枝に止まり、わざと餌を見せつけるしぐさもあった
こうした行動は、自然界で多くの鳥に見られる“巣立ちの儀式”とも言えます。安全な穴の中に長く留まりすぎると、飛ぶチャンスを逃し、天敵に狙われるリスクが高まるため、親鳥はあえて厳しく接して巣立ちをうながすのです。
このように、穴は命を守る拠点でありながら、いずれはそこを離れなければならない「通過点」でもあります。親鳥の判断、環境の条件、ヒナ自身の成長——それらが重なり、次の命への一歩が生まれていくのです。
富士山麓の森で観察されたこれらの行動は、どれも偶然ではなく、生きものたちが代々受け継いできた生きるための知恵です。穴を拠点にしながらも、常にその先を見すえた柔軟な適応と選択が、命をつなぐ鍵になっていることを、今回の番組は教えてくれました。
まとめ〜穴は命を守る「家」であり「戦場」でもある
今回の『ダーウィンが来た!』では、アカゲラとコムクドリの攻防、フクロウ親子の危機と成長、アオゲラとムササビの共存など、富士山麓に広がる「穴」をめぐる生きものたちのリアルな生存戦略が描かれました。
どの生きものも、限られた資源をめぐって争い、時には譲り合い、そして知恵を働かせながら命をつないでいます。人目につかない森の中で繰り広げられる、静かで熱いドラマ。次回の放送も、自然の神秘を教えてくれるはずです。
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