秋田でクマが例年の30倍出没!なぜ町へ?ツキノワグマの本当の理由とは|2025年3月30日放送回
2023年、秋田県ではこれまでにないほどツキノワグマが町に出没しました。その数は例年の30倍。住宅街や通学路でも姿を現し、70人がケガをするという深刻な事態に。なぜ森の奥にいたはずのクマが町にやって来たのでしょうか?2025年3月30日放送の『ダーウィンが来た!』では、クマにGPSと首輪型カメラをつけてその行動を詳しく追跡。そこから見えてきたのは、賢くて繊細なクマたちの意外な素顔と、町に現れざるを得なかった“苦しい事情”でした。
秋田県で始まった初の本格調査
調査の舞台は秋田県鹿角市。かつてクマたちは深い森の中で、季節ごとの木の実や植物を食べながら暮らしてきました。しかし2023年の秋、クマたちは町に次々と出没。人に見られることを極端に嫌うツキノワグマが、あろうことか町の中で授乳する母グマの姿まで目撃されました。特に子グマを連れた親子グマの行動が目立ち、母グマはより警戒心が強く、慎重な行動を取っていたことがわかりました。
町の中での出没状況を正しく知るため、研究チームはクマの行動範囲を3つのゾーンに分けました。自然が残る「グリーンゾーン」、住宅地のある「レッドゾーン」、その中間で人とクマの接点が多い「イエローゾーン」です。2023年5月、イエローゾーンに罠と無人カメラを設置し、出没の様子を観察。10日目には5頭以上のクマが現れましたが、罠に警戒して入らず、扉が閉まらないよう倒して中のハチミツだけを取るという知恵も見せました。
7月になってようやく、若いオスグマ1頭が捕獲されました。麻酔で眠らせ、GPSとカメラ付きの首輪を装着。無事に山へ返され、行動の記録が始まります。3週間後、記録からわかったのは、町のすぐ近く、約4kmの範囲内で日中と夜を使い分けながら移動していたこと。昼は森の中にとどまり、日没後になると決まったイエローゾーンに現れ、その場所にはかつて人が植えたスモモの木がありました。
クマにとって夏はとても厳しい季節です。春に食べていたやわらかい葉が固くなり、食べられる植物が激減します。だからこそ、クマは民家の近くへも近づいていました。無人カメラには首輪をつけたクマがスモモの木の下に現れた様子も記録され、さらにその木の上には別のメスグマがいたことも確認されました。夏は、クマにとって交尾の季節でもあります。冬眠中はもちろん、春は体力を回復するのに必死で余裕がないため、夏しか結婚相手を探すチャンスがないのです。
2023年秋、町に大量出没した本当の理由
2023年の8月、秋田県の住宅地で、クマがミズキの木に登って実を食べている姿が発見されました。しかも、そのまま木の上で昼寝までしてしまったのです。これは、クマがその場所を「安全な場所」と判断していた証拠でもあります。このときは爆竹を使って追い払うことができましたが、これ以降もクマの行動は止まらず、蕎麦畑や町中などでの目撃が相次ぎました。
こうした異常な行動の背景には、山の中での深刻な食料不足がありました。クマの主な食べ物であるドングリ類(ブナ・ミズナラ・コナラなど)の実が、2023年は東北各地でほとんど実らなかったのです。
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ドングリの実が少なかったため、クマは十分な栄養がとれない
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秋は冬眠前に体重を増やす大事な時期だが、それが難しい状況
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山にいても飢えてしまうため、やむを得ず町へ移動するしかなかった
実際、GPSをつけたクマの1頭は、秋になると10kmも離れた岩手県側の森へ移動していたことがわかっています。これは、まわりに強いクマがいて、エサを奪われてしまうのを避けたためと見られています。クマの世界にも上下関係があり、弱いクマは場所を移さないと生き残れないという厳しい現実があるのです。
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強いオスがいる場所は避けて別の山へ移動
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GPSのデータでは、クマがまっすぐ目的地に向かっているように動いていた
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それだけでなく、途中の民家や農地を夜間に通過していたケースも多い
一時は山の中で落ち着いていたクマたちも、2024年12月には再び町へ現れるようになりました。この時期は本来なら冬眠しているはずですが、それが起きなかったのです。
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通常、冬眠に入るはずの時期にクマの出没が相次いだ
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食料が十分でなかったか、人間の食べ物の味を覚えて戻ってきた可能性
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一度人里の味を知ったクマは、再び町を目指す傾向がある
つまり、クマが町に出てくるのは、生きるために仕方なく行っている行動であり、ただの気まぐれではありません。そして、その背景には山の実りの少なさ、食料の取り合い、冬眠に必要なエネルギー不足といった複数の厳しい事情が重なっているのです。こうした事実を知ることが、クマとの適切な距離感を考えるきっかけになります。
変わる人とクマの関係
昔の人にとって、クマは特別な存在でした。力強さや自然の神秘を象徴する動物として、神様のように大切にされていたのです。岩手県では、縄文時代の土偶の中にツキノワグマをかたどったとされるものも発見されています。それほどまでに、クマは人間の暮らしと深く結びついていた存在でした。
しかし現代では、その関係が大きく変わってきています。今の私たちにとってクマは、日常の暮らしを脅かす“身近な脅威”として認識されるようになっています。山から町へ出てくるクマの存在は、怖いもの、危ないものとして扱われることが増えてきました。
それでもクマは、人間に危害を加えたくて町へ来ているのではありません。食べ物がなく、生きるためにしかたなく町に来ているだけだということが、今回の調査ではっきりとわかりました。人間の出すゴミ、生ゴミ、果物の匂いなどがクマを引き寄せてしまっているのです。
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山の中に放置された果樹や、管理ができなくなった果物の木がクマを呼び寄せている
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人の暮らしとクマの暮らしの境界が、少しずつ曖昧になっている
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こうした状況に対応するために、自治体では木の伐採や環境整備が進められている
秋田県では、これまでに約400本近い放置木が伐採されました。これは、クマとの不要な接点を減らし、町と山の境界をはっきりさせるための対策です。人間の生活圏にクマが近づかないようにすることで、お互いが安全に暮らせる環境を守ろうとしています。
クマは人間の世界に興味があるわけではなく、ただ静かに山で暮らしたいと思っている動物です。それでも生きるために町に出てきてしまう——そんな姿を映像で見せてくれた今回の番組は、私たちに大切なメッセージを届けてくれました。
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クマは私たちが思っているよりも、ずっと賢く、繊細で慎重
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無駄に人間と関わろうとはせず、なるべく避けようとしている
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それでも町に来るのは、生きるための苦渋の選択
私たちがこれからすべきことは、クマを怖がるだけでなく、自然との距離や関わり方をもう一度見つめ直すことではないでしょうか。山や森の恵みに支えられている私たちの暮らしは、動物たちと地続きでつながっています。クマとの距離を考えることは、人間の暮らしそのものを考えることにもつながるのです。
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