「戦争を歌う」人気ラッパーZORNとZeebraの挑戦
2025年8月18日に放送されたNHKスペシャル「“戦争を歌う”人気絶大ラッパーZORNとZeebra」は、音楽と社会問題を結びつけた特集でした。これまで日本のヒップホップシーンを牽引してきたZeebraと、若い世代に圧倒的な支持を持つZORNが、それぞれ「戦争」をテーマに楽曲を制作する姿に密着。なぜ今「戦争を歌う」のか、そしてラップという表現が持つ力は何なのかを考えさせられる内容でした。この記事では番組の流れとエピソードを整理しながら紹介します。
Zeebra 戦争を歌う意味と葛藤
番組は、まずZeebraが戦争についての楽曲を作る依頼を受ける場面から始まりました。彼は「自分のことのように考えることが、明日の戦争を一つでも少なくすることにつながる」と語りました。単なる平和メッセージではなく、現実の戦争にどう向き合うかが課題でした。
Zeebraはマイクリレーの形式を考えていました。戦争に直面する海外のラッパーと共に歌う構想でしたが、特定の国と組むことに対しては厳しい反応がありました。その結果、ガザ出身のラッパーGHUと話し合い、それぞれが別々に歌詞を書き、同じ楽曲を共有する方法を選びました。政治や立場を越えて「音楽でつながる」道を探した試みでした。
ZORN 空襲体験を聴き「戦争と少女」を書くまで
一方、ZORNは「自分のこととして戦争を捉えられるのか不安だった」と語ります。そこで彼は、二瓶治代さんや鈴木賀子さんといった空襲体験者の話を直接聞きました。戦争で孤児となった人々の言葉は、ZORNに大きな影響を与えました。
特に賀子さんの体験は深く心に刻まれましたが、制作中に彼女は亡くなり、息子の鈴木昭彦さんから証言を受け継ぎました。こうして完成した楽曲が「戦争と少女」です。ZORNは「自分も無関心だったことが弱みだが、それを武器にするのがラップだ」と語り、言葉に真剣に向き合う姿を見せました。
海外の戦争とヒップホップ
Zeebraはさらにポーランドを訪問し、ウクライナのヒップホップバンドTNMKと出会いました。メンバーの半数が実際に戦闘に参加しており、その言葉に触れたZeebraは「リアルタイムで戦争をしている人との感覚の違いに自信を失った」と打ち明けました。
音楽は平和のメッセージを届ける力がありますが、現実の戦争を生きる人々と比べると、日本から発信する立場の難しさも浮き彫りになりました。番組ではImagine(Ukraine Remix)やガザのラップ作品など、各地の音楽シーンを通じて「戦争とヒップホップの関係」が紹介されました。
Nujabesの楽曲がつなぐ思い
番組の中で注目されたのは、伝説のトラックメーカーNujabesの楽曲が使用されたことです。ZORNが取り組む「戦争を歌う」作品には、My LifeやReflection EternalといったNujabesの楽曲が許可を得て使われました。世代を超えて支持されるビートが、戦争体験と現代のラップを結びつける重要な役割を果たしました。
戦争を歌うことの意味
Zeebraは「戦争を歌うことは未来を考えること」と繰り返し強調しました。ZORNは「弱さをさらけ出すことが強さになる」と語りました。二人のアプローチは違っても、共通していたのは「無関心でいることの危うさ」を伝えることでした。
番組を通じて、ラップは単なる娯楽ではなく、社会や歴史と向き合う強力な手段であることが示されました。
まとめ
今回のNHKスペシャルでは、ZORNとZeebraという世代を代表する二人のラッパーが「戦争」をテーマに挑んだ姿が描かれました。空襲体験者の証言、ガザやウクライナのアーティストとの交流、Nujabesの音楽――それらが交差しながら生まれた楽曲は、単なるメッセージソングではなく「今を生きる自分ごと」としての戦争の物語でした。
視聴者にとっても、遠い出来事のように思える戦争を「自分の生活とつながるテーマ」として考えるきっかけを与えてくれたのではないでしょうか。
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