人生の最期に“希望”を見つけられるのか?―NHKスペシャル『未完のバトン・最終回』
2025年9月28日(日)に放送されるNHKスペシャル『未完のバトン・最終回 人生の最期と“希望”』は、長寿社会の光と影に焦点をあてます。食生活の改善や医療技術の進化により、日本は世界で最も長生きできる国となりました。しかし、誰もが幸せな最期を迎えられているわけではありません。「もう長生きは望まない」と語る高齢者の声は決して少なくなく、寿命の延びと引き換えに、私たちは人生の最期の過ごし方という重い問いを突きつけられています。この番組は、その問いに真正面から向き合う試みです。
高齢者の孤独死や医療依存の問題、家族に過剰な負担がかかる現状など、長寿社会には多くの課題があります。単に「寿命を延ばす」ことではなく、「どのように生き切るか」「最期に何を望むか」に焦点を当てる必要があるのです。
【NHKスペシャル】命を診る 心を診る 〜小児集中治療室の日々〜|国立成育医療研究センターの最前線 2025年7月13日放送
在宅医・市橋亮一さんの“命をめぐる旅”
番組の中心人物は、これまで1000人以上を看取ってきた在宅医 市橋亮一さんです。彼は病院ではなく患者の住み慣れた自宅に足を運び、人生の最期に寄り添う医療を続けています。その姿勢は、「医師が治療を主導する」のではなく、「患者本人の希望を最大限に尊重する」ことに重きを置いているのが特徴です。
例えば、「最後に好物を口にしたい」「家族と一緒に季節の行事を楽しみたい」といった小さな望みをどう叶えるかが、在宅医療の現場では大切になります。たとえ誤嚥のリスクがあっても、工夫を凝らして患者の希望を実現する姿は、延命だけではない“生きる力”を映し出しています。市橋さんにとって在宅医療とは、医学的な安全と患者の希望をどう両立させるかという“命をめぐる旅”そのものなのです。
また、家族へのサポートも欠かせません。在宅医療では、介護する側の心身の負担や不安に寄り添いながら、最期を共に乗り越える体制を整えることも大きな役割となっています。
世界に広がる“安楽死”制度化の流れ
番組は日本だけでなく、世界の動きにも目を向けます。オランダやベルギーではすでに積極的安楽死が合法化され、スイスでは医師の処方を受けて本人が命を絶つ自殺幇助が認められています。2021年にはスペインが、2025年にはスロベニアが新たに安楽死を合法化しました。カナダでは「MAID(Medical Assistance in Dying)」という制度が拡大し、終末期でなくても強い苦痛を抱える患者が対象となることもあります。
こうした制度化は「最期の自己決定権を尊重する」という意義がある一方で、社会的・倫理的な課題も抱えています。判断能力のない患者の場合、誰が意思を代弁するのか。経済的・社会的な理由で「死を選ばざるを得ない」状況に追い込まれるリスクはないのか。番組は世界の事例を紹介しつつ、日本にとっての未来の選択肢を考えさせます。
終末期の“希望”とは何か
寿命が延びた時代に問われるのは、「最期に希望を持てるか」ということです。終末期に人々が望む希望は実に多様であり、必ずしも「治ること」だけではありません。
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苦痛や不安をできる限り軽くしてほしい
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家族や友人と穏やかに過ごしたい
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自分の人生を振り返り、達成感や感謝を伝えたい
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信仰や価値観に沿った形で最期を迎えたい
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病院ではなく、自宅やホスピスで最期を迎えたい
こうした希望は医療や介護だけでなく、心理的・社会的なサポートによって支えられます。緩和ケアやホスピスは、身体的な痛みの緩和に加えて、心の安らぎを守ることを目的としています。「死ぬ時まで希望を持って生きられるのか」という問いに答えるための重要な役割を担っているのです。
日本社会への問いかけ
超高齢社会を迎える日本では、医療・介護制度の持続可能性も大きな課題です。高齢化が進む中で、誰もが「どこで、どう最期を迎えるか」を考える必要があります。延命治療を選ぶか、それとも生活の質を重視するか。あるいは制度として安楽死の選択肢を設けるのか。社会全体で真剣に向き合う時期に来ています。
番組は視聴者に対し、自分自身や家族がどのように生き、どのように最期を迎えたいかを問いかけてきます。寿命が延びたからこそ、その“終わり方”をどう描くかが私たちの人生設計の一部になっているのです。
まとめ
この記事のポイントは以下の3つです。
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日本は世界一の長寿社会となり、「長生き=幸せか」という根源的な問いに直面している
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市橋亮一さんの在宅医療が示すのは、患者一人ひとりの“希望ある最期”の形
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世界に広がる“安楽死”制度化の流れと、日本社会が考えるべき選択肢
人生の最期に必要なのは「ただ長生きすること」ではなく、「その人らしく希望を持って生ききること」です。NHKスペシャル『未完のバトン・最終回』は、その核心に迫る内容となるでしょう。放送後には具体的なエピソードや患者の声を追記し、より鮮明に紹介します。
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